捨てたはずの過去を誰かに見透かされているような気がして怖くなった私は、少し小さな旅をして見知らぬ駅で降りると聞いたことのない名前のファーストフード店の中に逃げ込みました。店内はお昼時でもないのにいっぱいで、治安の悪い宇宙酒場のようにごった返していました。注文カウンターは横に広々と伸びて幾人ものスタッフが大きな声で手を伸ばしながら、客を誘っているのが見えました。その手は、皆宇宙人のように長く、少々の栗や柿ならば道具を使わず素手で掴み取ることができるように見えました。
「こちらへどうぞ!」
「いいえ。こちらへどうぞ!」
「こちらにもどうぞ!」
「いえいえ。こちらへこそどうぞ!」
「ようこそ。こちらへどうぞ!」
「いいえ。こちらにもどうぞ!」
こちらと思えば、こちら、またこちらかと思えば、こちら、という風に、あちらこちらから手が伸びる様は、この店の特色なのか、非常に活気にあふれ、まるでゾンビ酒場のように魅惑的に思えました。
「こちらへどうぞ!」
「いえいえ。こちらにもどうぞ!」
私は白く伸びた指先に導かれて、カウンターの前に立っていました。
「秋の青空バーガーはいかがでしょうか?」
空は、もう捨てたのに……。
「お客様へのおすすめになっております」
「いいえ。それは昔の話です」
「ご一緒に翼のポテトはいかがでしょうか?」
空は、もう捨てたのだ……。
「あなたにお似合いの……」
1階には空席がなく、私は24番の番号札を持ったまま半乾きのセメントの上を恐る恐る歩いて、2階お化け座敷に上がりました。
私以外はみんなお化けで、お化けたちはそれぞれにバーガーを頬張ったり、ストローをくわえたりしながら、夏の催しについて会談をしているのでした。
ここでは私は見えない存在かもしれないと思いながら、私はただ彼らの話を聞いていました。
「化けられるのは今の内だよ」
突然、お化けの1人が私の方を向いて言いました。私は驚いて何も言い返せませんでした。
「いつになったら話が煮詰まるのですか!」
風格のあるお化けが言いました。けれども、お化け共のアイデアは出尽くすどころか、ますます斬新なますます人間離れした、あたかも未知の惑星、未知の種を探すように果てしなく広がって行くようでした。声が声に被さり、被さった声にまた別の声が噛み付いて賑やかなことこの上ないのでした。
ようやくセメント臭を漂わせながら店の人が上がってきて、私の番号を探し当てました。
「お待たせいたしました。秋の青空バーガーと翼のポテトでございます」
身に覚えのない注文を、男は大きな声で読み上げました。
「違う! 私はもう足を洗ったんだ!」
その瞬間、固まった沈黙と共に一斉にお化けたちが私の方を振り返りました。
テイクアウトすればよかった……。静寂の中に生まれた後悔の中から、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。
靴付けた
領土はほんの
数分間
まるでドライブ
スルーのように
クリスマスになってしまうよとお化けの1人が言いました。
「こちらへどうぞ!」
「いいえ。こちらへどうぞ!」
「こちらにもどうぞ!」
「いえいえ。こちらへこそどうぞ!」
「ようこそ。こちらへどうぞ!」
「いいえ。こちらにもどうぞ!」
こちらと思えば、こちら、またこちらかと思えば、こちら、という風に、あちらこちらから手が伸びる様は、この店の特色なのか、非常に活気にあふれ、まるでゾンビ酒場のように魅惑的に思えました。
「こちらへどうぞ!」
「いえいえ。こちらにもどうぞ!」
私は白く伸びた指先に導かれて、カウンターの前に立っていました。
「秋の青空バーガーはいかがでしょうか?」
空は、もう捨てたのに……。
「お客様へのおすすめになっております」
「いいえ。それは昔の話です」
「ご一緒に翼のポテトはいかがでしょうか?」
空は、もう捨てたのだ……。
「あなたにお似合いの……」
1階には空席がなく、私は24番の番号札を持ったまま半乾きのセメントの上を恐る恐る歩いて、2階お化け座敷に上がりました。
私以外はみんなお化けで、お化けたちはそれぞれにバーガーを頬張ったり、ストローをくわえたりしながら、夏の催しについて会談をしているのでした。
ここでは私は見えない存在かもしれないと思いながら、私はただ彼らの話を聞いていました。
「化けられるのは今の内だよ」
突然、お化けの1人が私の方を向いて言いました。私は驚いて何も言い返せませんでした。
「いつになったら話が煮詰まるのですか!」
風格のあるお化けが言いました。けれども、お化け共のアイデアは出尽くすどころか、ますます斬新なますます人間離れした、あたかも未知の惑星、未知の種を探すように果てしなく広がって行くようでした。声が声に被さり、被さった声にまた別の声が噛み付いて賑やかなことこの上ないのでした。
ようやくセメント臭を漂わせながら店の人が上がってきて、私の番号を探し当てました。
「お待たせいたしました。秋の青空バーガーと翼のポテトでございます」
身に覚えのない注文を、男は大きな声で読み上げました。
「違う! 私はもう足を洗ったんだ!」
その瞬間、固まった沈黙と共に一斉にお化けたちが私の方を振り返りました。
テイクアウトすればよかった……。静寂の中に生まれた後悔の中から、次のような歌が浮かんできました。それはクリスマスの折句でした。
靴付けた
領土はほんの
数分間
まるでドライブ
スルーのように
クリスマスになってしまうよとお化けの1人が言いました。