適当なミドルシュートが飛んでくる。君はそれを止められなかった。
あれ、入った。
ああ入った。
入ったの? へー、あれ入ったんだ。
なぜの空気がピッチ上を流れた。
その後も隙を見つけては適当なミドルシュートが飛んできた。どうにかしようと構えてはいるものの、気づいた時にはネットが揺れていた。君にとっては、絶対に届かない場所があったのだ。
「あいつ向いてないの?」
君の適正を疑うような声がもれた、それは敵のチームからだった。味方の中に君を責めるようなものは、誰もいなかった。弱点を見つけた敵は面白いようにゴールを陥れた。君が止められるシュートは余程の速度とコースに限られていた。
「なるようになれ」
突然、君はゴールライン際からドリブルを開始した。エリア内から持ち出したところで、君は一瞬立ち止まった。寄せてきた敵の動きを見計らって更に前へ進んだ。ドリブル、ドリブル、ドリブル。突然、自分がしたかったことを思い出したように、君はドリブルを続ける。異変に気づいた敵が猛然と奪いにくる。その前向きにすぎる意欲を利用して、君はドリブル突破を図る。なめて、引いて、アウトで持ち出して、ついに危険なエリアまで進入した。
(少し家を空けただけ)
君は少しの罪悪感も持っていなかった。キャプテンマークを巻いたリベロが迫ってくるのを、ダブルタッチでかわした。キーパーが慌てて飛び出してくる。ドリブルで真っ直ぐゴールに迫りながら、アウトサイドでシュートを放った。右のポストをかすめてボールはゴールに吸い込まれた。
「やった」
味方に駆け寄って君は喜びを語った。それから、何度も同じパターンを繰り返し、敵チームを大混乱させた。ゴールを留守にするほど、敵に脅威を与えることができた。勿論、誰も責めなかった。君は走り甲斐のあるドリブルを手に入れていた。失敗したっていい。「取られたら取り返せばいい」君の前向きな姿勢がそのままチームの心になっていた。
「あいつ、やばいな」
敵は次第にシュートを打つことを恐れ始めていた。
神さまの
ガラクタなんて
身に余る
異名に浮かれ
シュートする僕
折句「鏡石」短歌