駅ナカの朝は激しい競争社会だ。無難な店づくりをしているだけでは、置いていかれる。斬新で人目を引くサービスがないと生き残ることは難しい。
「おめでとうございます!
ラッキー・パンをお選びいただきました!」
そうして私は特等席へと案内された。誰よりも高くゆったりとした席で、手厚いおもてなしを受けることになった。スープに玉子にウインナー、お供のわんちゃんまでついてきた。
「よろしければお読みください」
週刊誌は好みではなかった。
「ナンバーとかあります?」
「ナンバーズでしたらございますが」
「それでもいいや」
「すぐお持ちします」
「それからこの子、散歩に連れて行ってあげて」
「かしこまりました」
下を通る人が羨望を込めて私の席を見つめて行く。幸運はトングの行方次第。明日はあなたにだってチャンスがあるかも。
「サービスのギターソロでございます」
凄腕のギタリストが冷めかけたコーヒーをもう一度沸騰させた。やはり朝はロックに限るな。
「痛くないですか?」
心地よい指先が先入観に凝り固まった肩を優しくほぐしてくれる。これも私のたった1つの選択によって与えられた褒美だ。
「デザートの抹茶アイスでございます」
「ありがとう」
まぶしい光を浴びながら私の朝は終わろうとしていた。
「それではこれを着てください」
「えっ? なんで」
「あなたは1日店長に就任されました」
「えーっ、聞いてないよ!」
「日当は40万となっております」
「よろしくお願いします!」
1ヶ月でもいいけど……。
「コラーッ! 店長を呼べ!」
「下でお客様がお呼びです。1日店長」
「えーっ、私?」
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人流の歪みに浮いたボーナスの元を辿ればみんなのがまん