相振り飛車を思い描いて指していると、相手はいつの間にか「こいなぎ流」の右玉陣形になっていた。飛車先が保留されているため、向かい飛車から逆襲することもできなかった。僕は囲いを木村美濃にした。ゆっくりしていて玉頭から攻められる展開は嫌で、左から雀刺しの陣を作って端から攻め込むことを狙った。すると相手は、歩を突き捨て桂をポンと跳ねてきた。単純で軽い攻めなのに、二枚銀の弱点を突かれたようで嫌な感じがした。仕方なく僕は美濃の金をよろけて中央を受けた。(不本意な金寄りだ)気がつくと飛車交換になっていた。軽い成り捨ての手筋をあびて飛車を打ち込まれる。やむなく僕は自陣飛車を打って駒損を逃れる。
「まだまだこれからよ」
そういう風にみることもできる。駒損をせずに、決め手を与えないようにじっくりと指せれば、チャンスは残せるだろう。しかし、こちらの方が時間がない。予定ではない展開になったことで、勝ちにくい将棋になっていた。
「そういう陣ではないんだよ」
雀刺しの陣が、世界の隅っこにもの悲しく残っていた。自分から攻め込んでいくつもりだったのに、一方的に受けている展開は辛いものだ。
「僕も早く竜になりたい」
そうして相手の竜に自陣飛車をぶつけてさばきを狙った手が、敗着になってしまう。(先に相手の角道を遮っておくべきだった)
決め手の角切りをあびて、自陣は完全に崩壊した。
辛抱が足りない。しかし、敗着の他に敗因はある。
「相手の角桂が大いばりする展開になったこと」
雀刺しの陣が不発に終わったことに対して、相手の陣のよいところを最大化させてしまったこと。やはり、それに尽きるのではないかな。
●鍛えるところを意識する ~生き様をイメージする
筋肉を鍛える時、鍛える箇所を意識して行うと効果が増すという話がある。将棋の上達も同じようなものだ。漠然と勝利を目指してやっていても、なかなか強くなることは難しい。もう少し、日々具体的なテーマを持って戦う方がいいだろう。テーマは、何でもいい。
よーし右四間飛車を撃破するぞ。よーし、居飛穴を退治するぞ。よーし、相振り飛車で作戦勝ちするぞ。よーし、端攻めを玉で受けて受けきるぞ。よーし、時間で勝つぞ。よーし、自陣角を打つぞ。よーし、手厚く指すぞ。よーし、盤上を制圧してやるぞ……。
とにかく前に「よーし」とつけて気合いを入れることが大事だ。
「よーし、3回指して3連勝するぞ!」
そんなテーマだっていい。
鍛えたいところ、理想や生き様をイメージして指すと、ただ漠然と指すよりもモチベーションが上がり、学習密度もアップするはずだ。
そうそう勝てるわけじゃない。
(勝ち負けなんて大した問題ではない)
それよりも、いい手を一手指せるという方が重要だ。