眠れない夜の言葉遊び

折句、短歌、言葉遊び、アクロスティック、夢小説

うさぎと亀のプロローグ

2024-10-22 17:55:00 | リトル・メルヘン
 抜かれて行く刹那、亀は修行に費やした日々のことを思い出していた。
 石の上で目を閉じて精神性を高めた。登山家のグループの後を歩いて、粘り強さを鍛えた。氷の上のダンサーについて芸術性を学んだ。路上プロレスに飛び入って、根性を身につけた。すべては見違えるような亀になるために。
 それでも本番のレースでは、思惑通りにはいかないものだ。犬に抜かれた時には、地力の違いを思い知った。長年の習慣が違う。リスに抜かれた時には、フィジカルの違いを思い知った。バネが違う。馬に抜かれた時には、次元の違いを思い知った。生まれも育ちも違う。

(とても追いつけない)

 自分だけではない。
「私が伸びた分、他も伸びているのだ」
 大会のレベルの高さを悟りながら駆けていると、ちょうど亀の横に並んだ選手がいた。眠っているはずのうさぎだった。
 何としても最下位にだけはなりたくない。
 そうした思いが瞬間的にこみ上げてきて、気がつくと亀はうさぎをぶん殴っていた。

「何をするんだ!」
 うさぎは抗議の声を上げながら倒れ込んだ。

「お前は寝る担当だろ!」
 そう決めつけたのは、亀の勝利に対する執念だろうか。

(夢を裏切る奴は許さないぞ)

 うさぎと亀の戦いはまだ始まったばかりだ。








コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ドッグ・ターン | トップ | 助演オーディション »

コメントを投稿