
三味線テストが順に回ってくる。これは全員参加型のテストなのだ。それにしてもぶっつけ本番だ。前の人がそこそこ上手に音を出していて緊張が増す。いよいよ僕の番だ。カラオケにお手本の映像が流れている。
「えっ、歌うの?」
最初に鼻歌を添えるらしい。意を決して鼻歌スタート。弦を弾いても音が上手く出なかった。鼻歌も小さくなって、無の演奏がしばらく続く。聴いている者もいるが、聴く振りをしながら漫画を読んでいる者もいるのだろう。しかし、あるタッチをきっかけにして僕は覚醒した。
(出せるじゃないか)
高い音が出ることに興奮して弾きまくった。
「はい、それまで」
うるせー! これからじゃ。先生の制止を無視して僕は奏でた。課題曲に飽きて、即興で作った曲を演奏しながら歌った。みんな聴いている。手拍子をする者もいる。窓の向こうに影が見える。もう誰にもとめられない。
(こんなにも自分の中にメッセージが眠っていたなんて)
これさえあれば、ヒーローにだってなれる。
「あなたのコーヒーカップは?」
家に帰るとおばさんが来ていた。
「知らない」
キッチンに出たままの包丁を洗った。流しの下に片づけようとすると刃が2段構えになっているように見え、目を疑った。
これは……。
尖った部分が徐々に丸みを帯びて縮んで行く。
なんだ、お好み焼きを返す奴か。
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