感想戦はしない。その代わりに、戦った相手に決まってたずねることがある。
「将棋とはどんなゲームですか?」
小考の後、棋士は答える。面白いのは、その答えがみんなバラバラだということだ。だから、この問いかけもやめられない。思ってもみなかった答えを聞けるのは、とても刺激になるのだ。
「将棋とは、どんなゲームですか?」
「王手をかけるゲームである」
「ときんを作るゲームである」
「駒をはがすゲームである」
「あなたにとって将棋とは?」
「棒銀です」
「将棋とは、どんなゲームですか?」
「考える人のためにあるもの」
「大駒をさばくゲームである」
「飛車を取るゲームである」
「あなたにとって将棋とは?」
「中飛車です。それがすべてです」
「将棋とは、どんなゲームですか?」
「向き合って対話するものである」
「王手をがまんするゲームである」
「盤上を制圧するゲームである」
「あなたにとって将棋とは?」
「筋違い角です。手番がすべてです」
「将棋とは、どんなゲームですか?」
「焦った方が負けるゲームである」
「金を狙うゲームである」
「飛車を切って勝つゲームである」
「あなたにとって将棋とは?」
「アヒルです。他は関係ないです」
「将棋とは、どんなゲームですか?」
「長所を探すゲームである」
「必至を狙うゲームである」
「玉をさばくゲームである」
「あなたにとって将棋とは?」
「友達です」
「将棋とは、どんなゲームですか?」
「相手の狙いを消すゲームである」
「何もしないゲームである」
「飛車を取らせて勝つゲームである」
「あなたにとって将棋とは?」
「詰将棋の練習です。おかしいですか?」
将棋とは何なのか。それを一言で言い表すことはとても難しい。だが、それぞれの棋士から帰ってくる答えは、とても興味深いものだ。迷いなくあてはめられた言葉からは、世界観のようなものが見えた。いくつもの引出を持ち、局面に応じて取り出すことができれば、戦いを有利に導くことも可能ではないだろうか。自分にとって何が大事か。それを知っている者にはかなわないなと思う。
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