碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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ものごとを普段とは違う角度から見つめるということ

2008年07月10日 | 本・新聞・雑誌・活字
NHK朝の連ドラ『ふたりっ子』『オードリー』、大河ドラマ『功名が辻』などの脚本家、大石静さんの最新エッセイ集『ニッポンの横顔』(中央公論新社)を読む。昨日が小石さんで今日は大石さん、って別に意味はない。久しぶりの単行本で、しかも大石さんのエッセイは面白さの”歩留まり”がいいのだ。

世間の大半の人が右と言うとき、「私は左だと思うな。うん、断然左だね」と言ってくれる人は貴重で、大石さんのエッセイにはそれがある。

チャールズ皇太子とカミラ夫人の再婚話がイギリスで不評だったころ、大石さんは「私はいいと思う」とつぶやいている。公立高校での履修単位不足が話題になれば、「学校だけが悪いと叫ぶ人は、決定的におかしいと思う」と言い切る。(それらの理由は、ぜひ本書で)

また、映画や小説の宣伝で「絶対泣けます」「涙が止まりませんでした」と煽れば、「本当に感動したら、むしろ呆然としてしまって、泣けないと思う」とバッサリ。これこれ、これがいいのだ。大石さんが書くドラマにも、こうした「世間のお約束」を裏切ることで生まれる「リアル」が、地雷のように隠されている。だから面白い。

この本の巻末の一編は『飛んだ風船』。街で見かけた光景・・・子どもが風船を空に飛ばしてしまい、泣いていた・・・から、大石さんは、その子のこれからの人生を思う。そして、こう書く。

 「絶望は一人で引き受け、一人で立ち直っていくしかないのが人間だ」

そうかもしれない。たぶん、そこから人間の(リアルな人生の)ドラマが生まれるんだよな、と思った。

ニッポンの横顔
大石 静
中央公論新社

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