碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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何でも僕に訊いてくれ、なんてとても言えない

2008年07月18日 | 本・新聞・雑誌・活字
大学の先生をしていると、学生からいろいろな相談を受ける。昨日はゼミに当たる「プロジェクト」の日だったから、研究生である4年生からの相談だ。まだ内定が出ていない学生からは就活(就職活動を略したもので、あまり好きな言葉じゃないが、大学では完全に一般化した)に関すること、内定を確保した学生からは卒業研究に関しての相談が多い。

就職について言えば、4年生のこの時期に「困ってるんです」と相談に来るのは、それこそ困ったものでありまして、3年生の今くらいに相談に来てくれると、かなり有効なアドバイスができる。とはいえ、4年生も必死なので、じっくり話を聞いた上で、かなり厳しい指摘や、明日にもやるべきことを伝える。

糸井重里さんだったか、佐藤可士和さんだったか、とにかく広告関係の誰かが言っていた。クライアントからの相談をじっくり聞くのは、医師が患者の(自分の症状に関する)話を聞くようなものだ。その話の中に「問題」や「課題」が詰まっていて、同時に「問題解決」のヒントもある、と。

学業、就職、恋愛、人生と、様々な「課題」をもった学生がやって来るたび、こちらが自信をもって「何でも僕に訊いてくれ」と言えたら、どんなにいいだろうと思う。そう、加藤典洋さんの新著『何でも僕に訊いてくれ』(筑摩書房)を手にとったのは、そういう理由からだ。

しかし、いきなり「あとがき」で笑ってしまった。このタイトル、「著者としては、少し恥ずかしい」そうで、しかも「読んでもらえばわかるが、半分はやけくそである」だって。あー、よかった。

いやいや、それは謙遜であり、本編を読むと、どんな質問にも、斜に構えたり、韜晦で逃げを打ったりせず、きちんと「正眼の構え」で答えておられる。

たとえば、優れた映画批評とは?と問われて、「それを読んでその映画が見たくなるような映画への「戻し」効果(?)をもつ批評」と答える。うん、そうかもしれない。

人に対して用いる「二分法」を訊かれると、「偉い人」と「偉くない人」という不思議な回答。そして、どうも自分は「偉くない人」のほうに惹かれているな、と感じるそうだ。面白いのは、この二分法は、人に対してだけでなく、モノに関しても適用できるという。詳細を知りたい方は、本書で。

この本は、「Webちくま」での連載をまとめたものだ。すでに第一弾として『考える人生相談』が出ている。文芸評論家で早大教授の加藤さん。『言語表現法講義』や『テクストから遠く離れて』などの著書は、学芸書でもあり、けっしてやさしいものではないが、こちらは読みやすい文章と楽しめる内容になっている。

何でも僕に訊いてくれ―きつい時代を生きるための56の問答
加藤 典洋
筑摩書房

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考える人生相談
加藤 典洋
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