放送批評懇談会が発行する月刊誌『GALAC(ぎゃらく)』最新号の特集は、「決定!第48回ギャラクシー賞」。
ここに、選奨委員長を務める「報道活動部門」について、総括の文章を寄せています。
「報道活動」を評価する新たな視座を踏まえて
はじめに、東日本大震災で被災された皆さんに、こころからお見舞いを申し上げます。また、困難な状況の中で震災報道に携わる方々に敬意を表します。
今回、報道活動部門選奨委員会は多くの新たなメンバーを迎えた。
いわばリニューアル・オープンである。
そこで審査を始めるに際して、この部門における審査基準について全員で話し合った。その結果、次のような評価ポイントを確認した。
①テーマや視点の時代性・社会性
②取り組みや手法の柔軟性・工夫
③取材・調査の精度
④活動の継続性・日常性
⑤視聴者や聴取者、地域とのコミュニケーション
⑥活動が生み出した成果・影響
⑦放送ジャーナリズムとしての意義
以上の基準項目を踏まえつつ、総合的な評価を行う。また、活動主体の置かれた状況や環境にも目配りしつつ、全国でのさらなる活発な報道活動を喚起するような顕彰を目指す。
(報道活動部門「審査基準」より)
報道活動部門の狙いは、単一の番組では完結しない、収まりきらない取り組みを評価することにある。対象となるのは同じ番組内での連続報道、複数の番組にまたがる調査報道、系列の枠を超えた地域の連携報道、イベント等とも連動したキャンペーン報道などだ。今年度の応募総数は二十一本。本数こそ少ないが、実に多彩な活動を見せていただいた。
大賞の札幌テレビ「がん患者、お金との闘い」は、金子明美さんというがん患者の闘病を軸に展開される4年間のドキュメント。がんがこれだけ身近になりながら、その経済的負担の重さを知る機会は少ない。高額な新薬。適応されない保険。スタッフは金子さんへの密着取材を続け、医療制度の問題点を探り、三十回もの放送を行ってきた。この報道活動をきっかけに国や保険会社が動き始めたことも高く評価したい。
優秀賞の琉球朝日放送「オキナワ1945 島は戦場だった」は、その手法に注目が集まった。六十五年前の沖縄戦の一日一日を取り上げ、同じ日付での放送を一年間にわたって行ったのだ。今や高齢となった体験者の証言や当時の貴重な記録映像を駆使しながら、決して風化させてはならない、現在の自分たちにつながる問題として報道活動を続けた。
同じく優秀賞に輝いたのは宮崎放送「口蹄疫発生から終息宣言までの一連報道」。畜産王国である地元で起きた惨事を、日々のニュースや特番、また複数の番組も連動させて伝えている。なぜ口蹄疫は広がり、いかにして抑えたのか。粘り強い取材がそれらを浮き彫りにしている。
続く選奨は三本。一本目はNHK「北方領土プロジェクト」だ。かつて島で暮らした住民たちも高齢化している。その証言を集めると共に、実行支配と呼ばれる現地のロシア化の現状をレポート。さらに日ロ交渉に参加した当事者からも外交秘話を引き出している。北海道内と全国での放送を組み合わせた問題提起だ。
次の選奨は東海テレビ「堀川のキセキ~人・街・川」。名古屋市内を流れる“ふるさとの川”の浄化を訴えるキャンペーン報道である。実行可能な水質浄化をはばむ縦割り行政など、多くの問題点を指摘した。
テレビ金沢「壁画修復から見つめた幻の画家アーニョロ・ガッディにおける一連の放送活動」が三本目の選奨だ。地元の大学教授が参加したフィレンツエでの修復作業を伝え続けた。甦った美の魅力はもちろん、二つの街の交流も丁寧に追っている。
最後に、審査会では震災報道について長時間の討議が行われたことを付記したい。結果的には、原発を含め現在も事態が進行中であることを考慮し、応募作の枠を超えて特定の組織や個人を顕彰することは控えることになった。あらためて震災報道全体をとらえ直す機会をもちたい。
(GALAC 2011年7月号)