碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

光市母子殺害事件の「実名報道」と「匿名報道」

2012年02月22日 | テレビ・ラジオ・メディア
(東京新聞 2012.02.21)


20日の最高裁判決で、殺人・強姦致死などの罪に問われていた被告の死刑が確定した光市母子殺害事件。

その夜のテレビニュースでは、NHKだけでなく民放各局も、大月孝行被告(30)(旧姓・福田)の「実名」を報じていた。

また卒業アルバムの写真を中心に、大月被告の「顔」も流された。

この「実名報道」について、テレビ東京はニュース番組で、次のような説明を行った。

「テレビ東京ではこれまで、少年法を尊重し、大月被告を匿名で報道してきましたが、最高裁が上告を棄却し、死刑判決が確定することで、大月被告の厚生や社会復帰に配慮する必要性が失われたと考えられること、少年犯罪での死刑判決という重大性を総合的に判断し、実名での報道に切り替えました」

また、フジテレビの説明は、局のWEBサイトで読める。

「FNNではこれまで、犯行当時、被告が少年だったため、少年法の趣旨に沿って、更生の可能性や社会復帰に配慮し、匿名で報道してきました。しかし、死刑が確定することで、社会復帰後の更生の可能性が事実上なくなったことや、死刑執行は重大な国家権力の行使であること、事件の重大性などを総合的に判断し、今回、実名での報道に切り替えました」


一方の新聞だが、判決の翌日(21日)の紙面で、朝日、読売、産経などが実名報道に切り替えていた。

毎日、そして東京は匿名のままだ。

東京新聞は「匿名報道」に関して、紙面に「お断り」として説明文を掲載した。

「本紙は光市母子殺害事件の被告の元少年について、少年の健全育成を目的とする少年法の理念を尊重し、「報道は原則実名」の例外として匿名で報じてきました。今回の最高裁判決によって元少年の死刑が確定しても再審や恩赦の制度があり、元少年の更生の可能性が直ちに消えるわけではありません。少年法が求める配慮はなお必要と考え、これまで通り匿名で報道します」


「実名」と「匿名」とに別れた今回の報道。

それぞれの判断に、それぞれの見識がうかがえる。

議論はこれからだ。



        (東京新聞 2012.02.21)



        (産経新聞 2012.02.21)



フジ「世界は言葉でできている」のチャレンジ精神

2012年02月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

『日刊ゲンダイ』に連載中の番組時評「TV見るべきものは!!」。

今週は、フジテレビ「世界は言葉でできている」について書きました。


単純なクイズではなく
知的遊びの要素がある点が
斬新だけど・・・

「似たようなバラエティ番組ばかりでつまらない」とお嘆きの皆さんには、フジテレビ火曜深夜の「世界は言葉でできている」がオススメ。

司会は佐野瑞樹アナと生野陽子アナ。テーマは「名言」。過去の偉人のソレはもちろん、現在活躍する人たちの“生きた言葉”を紹介する。

見どころは単純に名言を当てるクイズ形式ではなく、パネリスト(コトバスターと呼ぶ)がアレンジして、「名言を超えるようなグッとくる言葉」を創作する点。一種の“頭の体操”や“知的遊び”の要素があるのだ。

先週登場したのは、90年代にサッカーのバルセロナFC監督として活躍した、ヨハン・クライフの「○○を恥と思うな、○○を恥と思え」という言葉。

これにバナナマンの設楽統は「敗北を恥と思うな、次の敗北を恥と思え」、小島慶子は「弱点を恥と思うな、弱気を恥と思え」と答えた。どちらもいいセンスだ。

実際のクライフの名言は「美しく敗れることを恥と思うな、ぶざまに勝つことを恥と思え」。

スタジオの観客は本家クライフよりも、バナナマン設楽のアレンジの方が“グッとくる”と支持した。このあたりが番組の真骨頂である。
 
新機軸の番組を開発しようとするチャレンジ精神は評価に値する。

ただひとつ、残念だったのは“紅一点”の生野アナがワンショット(アップ)で抜かれるのが1回だけだったこと。

深夜番組で彼女目当ての視聴者もいるだろう。カメラ割りにはぜひ工夫を。

(日刊ゲンダイ 2012.02.21)