碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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産経新聞で「運命の人」についてコメント

2012年02月15日 | メディアでのコメント・論評

時代再現は「ディテール勝負」
ドラマ「運命の人」実在の人物がモデル 

沖縄返還密約をモチーフとしたTBS系ドラマ「運命の人」(日曜後9・0)。重厚な演出と昭和40年代の巧みな再現に加え、最近は登場人物のモデルとされる読売新聞の渡辺恒雄グループ本社会長(85)が抗議の文章を週刊誌に寄せるなど、話題性が高まっている。プロデューサーの瀬戸口克陽(かつあき)氏(38)に舞台裏を聞いた。(織田淳嗣)


原作は平成21年に刊行された山崎豊子さん(87)の同名小説。毎朝新聞の政治部記者、弓成亮太(本木雅弘)は、外務省事務官、三木昭子(真木よう子)が提供した情報をもとに、沖縄返還をめぐる密約を追及する。しかし、機密漏洩をそそのかした罪で逮捕され、妻の由里子(松たか子)も巻き込んでスキャンダルに翻弄されていく。

時代の再現について、瀬戸口氏は「ディテールで勝負した」という。たとえば言葉遣い。妻たちは夫に敬語を使い、男性の言葉遣いも砕けていない。「台本の段階でも現場でも、語尾については深く試行錯誤しました」。

ファッションも硬派で、弓成記者は三つぞろえのスーツにオールバック。由里子はブラウスやカーディガンなど暖色系、昭子の服は対照的に寒色系の色使いだが、「服のラインは現代的な要素も入れました。あまり当時に忠実にすると、古くさくて、自分たちとは関係ないと視聴者に切り離されてしまう」と、微妙なさじ加減を明かす。

一方、家具などの小道具は考証を徹底した。新聞社が舞台なだけに、特に当時の新聞の小さな文字や、紙質、見出しのタッチは忠実に再現。「スタッフが連日国会図書館に通い、顔を覚えられたほどです」

ドラマは昭和46年に実際に起きた事件を基にしており、存命中の人物がモデルだ。一方、創作も絡めているため、渡辺会長が「事実と違う」と抗議するような危うさもはらんでいる。

上智大新聞学科の碓井広義教授(メディア論)は「TBSがこの事件をドラマにできたのは、山崎さんの原作があってのことだろう」と、原作が“クッション”になっていることを指摘。

その上で、「脚本がしっかりしており、原作から一歩踏み出して3人の男女の人間模様を描き、特に当時扱われなかった妻の心情にもスポットを当てているのがいい。登場する政治家にも、良くも悪くも今にはないアクの強さが出ている」と評価している。


(産経新聞 2012.02.14)