北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今月は、この冬の連ドラについて書きました。
今期の連続ドラマ
主人公の「葛藤」に注目
主人公の「葛藤」に注目
シナリオ(脚本)はドラマの設計図であり、その良しあしがドラマの成否を決める。シナリオの核となるのは「葛藤」だ。主人公が目の前に立ちはだかる壁や困難と格闘していくプロセスにドラマが生まれる。それは警察ドラマでも恋愛物でも同じだ。何も障害がなかったり、全てが思い通りに進むならドラマは成立しない。見るに値する「葛藤」こそが物語の推進力なのだ。もちろん、それを体現する役者の力量も欠かせない。
背景に迫る力作
そんな視点で今期の連続ドラマを見た時、まず評価したいのが山崎豊子の小説を原作とする「運命の人」(TBS-HBC)だ。1971年の沖縄返還協定に絡む密約をスクープした新聞記者と妻、資料を持ち出した外務省女性事務官の物語。実際にあった機密漏えい事件が元になっているが、当時は、密約問題よりも記者と事務官の男女関係に世間の目が向けられてしまった。報道の自由が封じられていった背景にドラマがどこまで迫れるか。この冬一番の力作である。
次に挙げたいのは、岡田恵和脚本の「最後から二番目の恋」(フジテレビ-UHB)。中年男女の恋愛における本音と建前、つまり心の中の葛藤が程よいユーモアとともに描かれている。主演の中井貴一と小泉今日子の〝大人の演技〟にも落ち着いた味わいがある。
3本目は医療サスペンス「聖なる怪物たち」(テレビ朝日-HTB)だ。病院の看護師長と妹が企てた秘密の代理出産が物語の軸となっている。妹が学園グループの御曹司と略奪婚したものの、子どもを産めない身体になったことから始まる暴走。一見昼ドラのようだが、「聖職者」と呼ばれる医師や教育者の内幕も暴いていく展開は見応えがある。
大河ドラマ苦戦
最後に、NHK大河ドラマ「平清盛」は予想以上の逆風に苦しんでいる。要因は清盛という主人公の設定自体にある。活躍の舞台は平安末期で、日本人の好きな幕末や戦国時代と比べてなじみが薄い。また一般的に、清盛は悪玉・悪役というイメージが強い。つまり時間的にも人物的にも、視聴者との間に距離があるのだ。
とはいえ、兵庫県知事に「汚い」と言われた映画風の画像は陰影に富んでおり、主演の松山ケンイチのエネルギッシュな演技にも目を見張るべきものがある。今後、平清盛という人間が抱える葛藤を視聴者にどう伝えていくか。それが課題だ。
(北海道新聞 2012.02.06)