碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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北海道新聞 「碓井広義の放送時評」 冬ドラマの総括

2013年03月05日 | 「北海道新聞」連載の放送時評

北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、この冬の連ドラについて書きました。

早いもので、今期も、すでに終盤。

やや、どんぐりのナントカみたいな状況ですが(笑)、それぞれ健闘中ではあります。

そんな中から、3本をピックアップしました。


注目すべき冬ドラマ
今という時代の人間像体現

今期の連続ドラマもあと数回を残すのみとなった。起承転結でいえば最終コーナーを回るところだ。目立つようなヒット作はないものの、注目すべきドラマが何本かある。

まずは『最高の離婚』(フジテレビ―UHB)だ。尾野真千子と瑛太、真木よう子と綾野剛。人気の女優と俳優の組み合わせだが、それだけではない。物語の中で飛び交う結婚と離婚に関する本音が刺激的なのだ。

「妻って結局、鬼嫁になるか、泣く妻になるのかの二択しかないのよ」と尾野が叫び、夫である瑛太は、「結婚は3Dです。打算、妥協、惰性。そんなもんです」とつぶやく。どちらの夫婦にも子供はなく、いわば緩衝材のないまま互いと向き合う危うさがある。恋愛と結婚の違い。男女間の目線の落差。一昨年の『それでも、生きてゆく』で芸術選奨新人賞を受けた坂元裕二の脚本が光っている。

次が架空の高級住宅地を舞台としたミステリードラマ『夜行観覧車』(TBS―HBC)である。平均的サラリーマンの宮迫博之と鈴木京香が娘と共に引っ越してきたのが2009年のことだ。4年後、向かいに住む開業医の家で惨劇が起きる。夫が何者かに殺され、妻の石田ゆり子と次男が姿を消す。4年の間に何があったのか。犯人は誰なのか。過去と現在を往復する巧みな構成が効いている。

原作は『告白』の湊かなえの小説だ。『最高の離婚』と違って、ここでは子供との確執や地域との軋轢もテーマになっている。住宅街の主(ぬし)とも言える自治会婦人部長・夏木マリの怪演も見逃せない。

そして、もう1本が『まほろ駅前番外地』(テレビ東京―TVH)。一昨年映画化された『まほろ駅前多田便利軒』(原作・三浦しをん)の続編であり、映画の続きとしてドラマが作られる逆パターンは珍しい。キャストは映画と同じ瑛太と松田龍平だ。瑛太は東京郊外の「まほろ市」で便利屋を営む。中学時代の同級生である松田は、瑛太の事務所に居候しながら仕事を手伝っている。

大きな事件が起きるわけではない。また彼らはいわゆるヒーローでもない。むしろ困った大人たちである。しかし、ストーリーもさることながら、ワケあり男2人の微妙な間合いや、周囲の人たちとの関係から生まれる空気感が実に心地いいのだ。特に瑛太の飄々としていながらどこか芯がある行動や、にじみ出るユーモアは一見の価値がある。『最高の離婚』と併せて、今という時代、この世代の人間像を体現しているからだ。

(北海道新聞 2013.03.04)