碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

<生放送>巡礼の旅

2009年03月14日 | テレビ・ラジオ・メディア

今朝の札幌は曇り。

さっき少し雨がパラついたが、今は止んでいる。

しかし、午後からは雨。そして雪になるという予報だ。

週末の北海道は荒れる。

今日は、まず北海道テレビに行き、「スキップ」の見学。

”地域情報バラエティ”を標榜する1時間番組。

出演は、アナウンサーの小野優子さんと、FMラジオのパーソナリティとして知られる北川久仁子さん。そして、「おにぎりあたためますか」で大泉洋さんと共演してる佐藤麻美さんだ。年代的にも近い女性3人による<生放送>である。

昨日の「トークDE北海道」や「イチオシ!」もそうだが、この生放送という機能というか、スタイルというか、テレビならではのチカラを、番組としてどう生かしていくかは、すごく大事。

民放は県域放送、つまり基本的に地域限定放送だ。その地域で暮らす人たちにとって、テレビの生放送、生番組がどんな意味を持つのか。そこに興味がある。


その後は、FMノースウエーブに移動し、「ステーション・ドライブ・サタデー」の中で「大人塾リターンズ」の生放送がある。

前回の札幌もそうだったが、天候が荒れそうで、今夜もまた飛行機が気になる。でも、まあ、いつもしっかり飛んでくれるのだ。強気でいれば、大丈夫(のはず)。

祝!「イチオシ!」放送1500回

2009年03月14日 | テレビ・ラジオ・メディア
         HTBのキャラクター「on(オン)ちゃん」


昨日、HTB北海道テレビの「イチオシ!」が、放送1500回を迎えた。

記念の日に出演させていただいたわけで、光栄です。

「イチオシ!」の放送開始が2003年。スタッフに聞くと、第1回からずっと参加しているのは、司会のヒロ福地さんだけだそうだ。

北海道における平日午後のテレビといえば、長い間、“ローカルワイドの優等生”であるSTV札幌テレビ「どさんこワイド」の独壇場だった。ダントツの占拠率で、他局は何を放送しても敵わなかった。

そんな“火中の栗”みたいな枠に新規参入した「イチオシ!」だが、今では互角の戦いぶり。最近は「どさんこ」をしのぐ勢いで視聴者の支持を集めている。

継続こそチカラなり。また、全体にまじめ、真摯な制作姿勢に好感がもてる。

昨日の1500回記念は、視聴者への「感謝」と「還元」に徹していた。1500という数字にこだわり、デパートとのコラボで、1500円に設定された様々なサービスを展開していた。

すでに、地方局の厳しいサバイバルが始まっているが、「地域の皆さんのための、地域情報番組」というスタンスは、ますます大切になっていく。

祝!1500回。目指せ、次の一里塚2000回、である。

ルームナンバーは、666

2009年03月13日 | 映画・ビデオ・映像

札幌に来ている。

昼間の気温が2度だった。まだまだ寒い。

これまた例によって、古書の石川書店に顔を出す。

そして、いつもの“お宝コーナー”100円均一のワゴンをのぞいてみた。

すると、出演番組である「トークDE北海道」の映画特集を見越したかのように、あるんだよなあ、そこに。

いきなり、岩波ホールの高野悦子さんが82年に出した『シネマ人間紀行』(毎日新聞社)を発見。

さらに、96年初版の小池真理子さんのエッセイ集『男と女~小説と映画に見る官能風景』(中央公論社)も出てきたのだ。

予習にもなるし、早くこれらの映画本を読みたいと思い、急いでホテルにチェックインした。

フロントで渡されたキーを見て、またびっくり。

何と、部屋番号が、666なのだ。

666。

ひえ~、『オーメン』じゃあ! ダミアンじゃあ! 悪魔の数字じゃあ!(って、知らない人は何のことかと思うよね)

いやはや、やはり札幌は侮れない。

男と女―小説と映画にみる官能風景
小池 真理子
中央公論社

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<○○な人にオススメしたい映画>特集

2009年03月12日 | 映画・ビデオ・映像
明日(金)、札幌で、いつもの番組出演がある。

午前中がUHB北海道文化放送「のりゆきのトークDE北海道」、午後はHTB北海道テレビ「イチオシ!」でのコメンテーターだ。

しかも、今回の「トーク」は、嬉しい映画特集である。

題して、<○○な人にオススメしたい映画>ときた。

こんな気分(状況)の人には、こんな映画がぴったりですよ、といった話。

いわば<観るサプリ>みたいなものだが、いろんなシチュエーションと、いろんな作品が登場するようだ。

ちなみに、ワタクシが推薦したのは、クロード・ルルーシュ監督の名作『男と女』であります。

女はアヌーク・エーメ。男はジャン=ルイ・トランティニヤン。ご存知、フランシス・レイのテーマ曲、シャバダバダ・・・の、あれだ。

ルルーシュ監督自身が、ドキュメンタリーの中で、「この1本のおかげで、私は、その後何十年も映画を撮り続けることが出来たんだ」と嬉しそうに語っていたっけ。

さあ、この作品を観るといいのは、どんなヒトなのでありましょうか。

ちなみに、私は、年に何度か見直します。

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坂本龍一と坂本一亀

2009年03月11日 | 本・新聞・雑誌・活字
昨日、TBS「はなまるマーケット」を見ていたら、坂本龍一さんが出てきたので、驚いた。

まあ、「はなまるカフェ」にはいろんな人が登場するから驚くのもヘンだけど、つい「あの、坂本龍一が」と思ってしまうので、やはり、不思議な感じがする。

今度行われるピアノ・コンサートがらみの出演だが、話はニューヨークでの生活を中心に、意外やお茶目な雰囲気も伝わってきて、見ていて楽しかった。

坂本さんといえば、新しいCDと同時に、新しい本も出ている。『音楽は自由にする』(新潮社)だ。

クルマ雑誌『ENGINE』にずっと連載された“自伝”である。

連載時の「連載:ぼく自身、語りおろし 坂本龍一による坂本龍一。」というタイトルも好きだった。写真も豊富だったしね。

通読すると、あらためて「面白い人だなあ」と思う。

音楽ファンには、YMO時代の話が興味を引くかもしれない。

後にYMOを結成することになる高橋幸宏さんと、野音の楽屋で初めて対面した時、そのファッショナブルな姿を見て、「こんな野郎がロックなんかやってんのかよ!」と呆然とした、なーんてエピソードが満載だ。

私は、幼少時代の部分に登場する、坂本さんの父・坂本一亀さんに関する部分が興味深かった。結構厳しいお父さんとして出てくる。

ちょっとした文学ファンなら知っているが、坂本一亀さんは、河出書房で、野間宏、三島由紀夫、島尾敏雄、高橋和巳などの作品を手がけた “伝説の編集者”だ。雑誌『文藝』の編集長も務めた。

坂本一亀さんは6年ほど前に亡くなったが、実は、ずっと以前、たった一度だけ、お見かけしたことがある。いや、口をきいたことがある。

場所は、当時の新宿厚生年金会館近くのバーだ。

誰に連れて行かれたのか、もう覚えていないが、とにかくそのバーで飲んでいた。カウンターだっただろうか。

突然、隣にいたオジサンが話かけてきたのだ。その人は、もうだいぶ前から店にいて、十分に酔っているようだった。

「おい、キミは何というんだ?」とオジサン。私の名前を聞いているらしかった。で、答えた。

すると、酔眼のオジサンは「ワシは坂本一亀じゃ!」と、フルネームを大きな声で言った。この名前は「かずき」と読むのだが、私の記憶では、この時はご本人が「イッキ」と発音していた。

青年だったワタクシも、もちろん坂本一亀の名前は知っていたから、びっくりした。

しかしながら、その後、坂本一亀さんと、中身のある話をした記憶はない。一亀さんは、私に名乗った後、すぐ店を出たからだ。話をしていれば、あの高橋和巳を育てた名編集者の言葉を忘れるはずがない。

その時、女将というかママに向かって、「じゃあ」と手を振っただけで、勘定を払う様子もなく店を出て行く一亀さんを見て、青年は「ああ、さすが坂本一亀ほどになると、ツケが利くんだ」とヘンなことに感心していた。

「ワシ」という言い方と、「イッキじゃ!」の「じゃ!」の部分が、今も懐かしく耳に残っている。


音楽は自由にする
坂本龍一
新潮社

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伝説の編集者坂本一亀とその時代
田辺 園子
作品社

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映画『ヤッターマン』は世紀の怪作か!?

2009年03月10日 | 映画・ビデオ・映像

うーん、参ったなあ。ほんと、参った。

映画『ヤッターマン』のことだ。

アニメは毎週テレビで見ていたし、ドロンジョ様の大ファンだし、『ゼブラーマン』の三池崇史監督だし、これは行かなきゃ、ってんで映画館へ。

観ました。

でも、でもですねえ、困ったわけです。

どーにも弾まない。わくわくしない。こんなはずじゃなかったんだけど。

アニメには忠実なのだ。

おなじみのキャラ、メカ、フレーズ、ギャグも、きっちり“実写”している。それは「ご苦労さまです」と言いたくなるくらい。

それなのに・・・。

ドロンジョの深田恭子サンも、例のボンデージ・ファッションでしっかりキメて、頑張っている。でも、もっと弾けてもよかったよね。

ヤッターマン1号・2号は、桜井翔クンと福田沙紀チャン。

桜井クンは27歳とも思えぬ若々しさ(?)で、また、沙紀チャンは何も考えていなさそうな(実際は知らないけど)横広がりの笑顔で、それぞれ楽しそうに演じていた。

楽しくないのは観客ばかりかも。

いつもアニメでやっていたドロンボー一味による歌やダンスも、映画で再現されている。でも、「ワンコーラスで十分です」とお願いしたくなった。

さて、この事態、一体なぜだろう。

脚本が悪かったのかなあ。映画は脚本だもんなあ。

その意味では、もっとテレビアニメから逸脱してもよかったんじゃないか、とも思う。

しかし、美術はすごかった。これは賞賛に値する。

破壊された渋谷ならぬ「渋山」の街。武富士じゃなくて「山富士」、109じゃなくて「107」の看板。ハチ公じゃなくて「ハッチ(タツノコプロだもん)公」の像。もっとじっくり見たかった。

ヤッターマンの基地である地下ガレージも雰囲気だ。部屋の隅々まで、くすっと笑えるアイテムが所狭しと並べてある。

そして、衣装。

特に、あのボンデージ着用の深田恭子サン。マニアは、ひたすら拍手だろう。ただし、何もしないで立っているときが一番美しかった。

スポーツ紙には「7、8日の2日間で約38万5000人を動員、興行収入4億5000万円を突破し、週末の映画興行成績で1位を獲得」とあった。興行収入も50億円を目指しているそうだ。

ホンマかいな? 

ワタクシが観た映画館では、決して多くない観客のうち、上映中に、少なくとも3人が“途中退席”した。出て行っちゃった。最近では珍しい光景だ。

確かに、久しぶりで「退屈」とか「眠気」という文字が正面から襲ってきたが、必死で戦った。

1800円の料金は惜しくない。でも、正直言って、時間はちょっと惜しかった(笑)。

映画のエンドロールの後で、「次回予告編」が流れて、またびっくり。

え~、続編あり、だったの? 

大丈夫、なんでしょうか。

とはいえ、<世紀の怪作>を、劇場で身銭を切って観たことは、これはこれで“得がたい経験”。頭の中に、しっかりインプットしておこう。

ポチッと、な。


ヤッターマンPerfect Book―タイムボカンシリーズ (別冊宝島 (851))

宝島社

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BS世界のドキュメンタリー『ラストカット』

2009年03月09日 | テレビ・ラジオ・メディア
いいよねえ、BS。

昨夜、“見もの”だったのは、NHK衛星第一のBS世界のドキュメンタリー『ラストカット~ファインダーが見たブッシュ大統領の8年』だ。

雑誌「TIME」を中心に活躍するフォト・ジャーナリスト、クリストファー・モリスを取り上げていた。

なぜ、この写真家を?

モリスは、この8年間、ブッシュ大統領を撮り続けてきたのだ。

元々戦場カメラマンだったが、「TIME」の依頼で、ブッシュに密着することになる。

ホワイトハウス内部からプライベートまで、トータルで撮った写真が10万カットを超えるそうだ。

中でも、2001年の9・11テロ事件の後、“戦争”を決めた時の執務室内部の写真は圧巻だった。ブッシュの緊迫した表情が様々なことを語っている。

テロ直後の、高い支持率の頃、モリスはブッシュが苦手だったという。逆に、国民の気持ちが離れ始めてから、少しずつ平気になっていったそうだ。

その<ラストカット>は、オバマ大統領の就任式の際に撮られる。

「国民に愛され、嫌われた大統領」といわれるブッシュと歩んできたアメリカの8年。

モリスは言う。「自分の役割は、歴史家のように、記録に残すことだ」と。

このドキュメンタリーを見ていて、一番感じるのは写真のもつチカラだ。

ビデオという“動画”ではなく、写真という“静止画”だからこそ、逆に伝えられるものがたくさんあることを、あらためて思った。

My America

Christopher
 Morris

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『20世紀少年』全巻読破マラソンレース

2009年03月08日 | 本・新聞・雑誌・活字

我が家の<プチ『20世紀少年』ブーム>が続いている。

家族全員が映画の第1章、第2章を観終わり、次は、やはり、「原作を読みたい!」ということになった。

ここは家長としての責任(?)もあり、浦沢直樹さんの漫画『20世紀少年』全巻確保へと動いた。

いくつか品切れの巻もあり、その収集活動は困難を極めたが(オーバー)、先日、ついに『20世紀少年』全22巻&『21世紀少年』上・下巻の計24冊がそろった。

それ以来、順番に回し読み、というか“時間差スタート”で、全巻読破マラソンレースが開始された。

出資者としての権利で、ワタクシが先陣を切ったのだが、途中、2番手である娘に追いつかれるという事態が発生。トップの座を奪われた。

娘はそのまま逃げ切って、ゴール。ただし、内容に関わることは、他の家族に一切口外しないと約束させた。

続いて、ついさっき、私も読了。

息子が間もなくゴールを迎えるし、その母親は、周回遅れを気にもせず、じっくりと読み進めている。

あらためて言うのもヘンだが、これは本当に“とんでもない傑作”だ。

連載は8年という長期に渡ったし、その時は細切れで読んでいたから、少し印象が違った。しかし、今回、一気に物語を体感してみて、その全体像、構築された世界観に脱帽した。

特に、1960年代末から70年代はじめ、という登場人物たちの“20世紀少年時代”には、どーんとハマってしまった。どきどきした。

たとえば、1970年の大阪万博が、当時の子どもたちにとって、どんなお祭りであり、イベントだったか。これは親や先生をはじめ、当時の大人たちにも想像がつかないだろう。

『20世紀少年』は、大阪万博の意味を描いた初のコンテンツじゃなかろうか。なーんてことまで思わせてしまうチカラが、この作品にはあるのだ。

今、我が家では、ケンヂも、オッチョも、ユキジも、ヨシツネも、マルオも、モンちゃんも、みーんな、まるで親戚か親しい知人のように、フツーに会話の中に登場している。

「そういえば、さっきオッチョがさあ・・・」みたいな感じだ。

映画『20世紀少年』の第3章の公開は、確か8月。まだまだ先だ。

娘は、「今度は『モンスター』全巻に挑戦したいなあ」などと勝手なことを言い始めた。困ったもんだ。

私は、もうしばらく『20世紀少年』の世界を味わっていたい。気になる部分の再確認もしたいし。

いやあ、それにしても、すごい漫画です。

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『おくりびと』は、お見事のオンパレード

2009年03月07日 | 映画・ビデオ・映像
ずっと気になっていた映画『おくりびと』を、ようやく観ることができた。

アカデミー賞といわれたら構えてしまうが、観始めたら、そんなことはどこかに消えて、ひたすら作品に没入した。

よかったです。

「死とか生とかがテーマ」みたいな気張った感じも、押し付けがましさもない。あるのは静かな美しさ。そして上質なユーモアでありました。

この映画は、結局、本木雅弘さんに尽きると思う。それくらい本木さんが素晴らしい。

納棺師という仕事に感動したのであろう本木さんの、そのキモチがきっちり伝わってくる。映画を観ていると、いつか自分も、本木さん演じる納棺師に、いや、本木さんに納棺して欲しいとさえ思ってしまう。

私が幼かった昭和30年代、祖父が亡くなった時など、映画の中で納棺師がやっていたようなことは、確か家族(遺族)がやっていたはずだ。

人生の最期。”その人らしい旅立ち”を整える納棺師・・・。

プロフェッショナルは凛としている。背筋が伸びている。そして、プロフェッショナルの動きは美しい。本木さんの動きも美しい。

映画の中で、本木さんの師匠である山崎努さんが、仕事の“現場”に向かう途中、クルマで本木さんをピックアップするシーンがある。

運転を本木さんに代わってもらうため、山崎さんは一旦クルマを降りて助手席に向かう。その際、本当にさりげなく、自分の指輪と腕時計をはずすのだ。“ご遺体”に触れるとき、傷つけてはいけないからだ。プロらしい所作だが、もちろん、そんな説明はない。

共演の、山崎努さん、余貴美子さん、吉行和子さん、いずれも見事。特に山崎さんは、伊丹十三監督の傑作『お葬式』を思いださせてくれた。

小山薫堂さんの脚本にも大拍手。映画が始まって直後の、最初の“ご遺体”をめぐるユーモアは、テレビでいう“つかみ”だ。

あそこで、「お葬式の映画らしいよ」と少し重たいイメージを抱えて映画館にやってきている観客の気持ちを、いきなりほぐすあたり、見事です。

それに、映画の中では、納棺師の仕事に対する世間の目や見方や、その苦さも、ちゃんと描いていて、感心した。

滝田監督は、シナリオと役者を信頼して、堂々の正攻法、真っ向勝負で演出していた。これまた、見事。

久石譲さんの音楽も、ドンピシャだしね。中でも、「アベマリア」から「おくりびと」のテーマへと流れていくところなど、ため息が出るほどだった。

というわけで、この作品、お見事のオンパレードなのだが、ただ、一つだけ、たった一つだけ、残念だったことがある。

それは本木さんの妻を演じたのが末広涼子さんだったことだ。

そりゃ、末広さんなりの目いっぱいの演技ではあった。しかし、あの役を支えるには、ちょっと無理があった。

物語の進展につれて、妻として、夫に対する思いが、じわりと変化していく。それを表現するのに、末広さんにとってはいつも通りの、あの口元の筋肉だけを操作する芝居では、辛いのだ。

誰か、他に、30代の演技派女優はいなかったんだろうか。惜しいなあ。

でも、そのことを差し引いても、この作品、やはり素晴らしい。

アカデミー賞をとって、よかった。でなければ、せっかくの名作も、埋もれていたかもしれない。

自分も含め、人は、いつか最期を迎える。その最期を“疑似体験”できた。その最期から自分の今を眺める。そんな視点を、あらためて思わせてくれた。

映画館の中には、多くの高年齢のお客さんがいた。ふだん、この年代の人たちが観る映画が少ないことに気付く。その意味でも、作品を周知させてくれたアカデミー賞受賞は、本当によかったのだ。

映画の中で、本木さんの父親役だった峰岸徹さんは、すでに旅立ってしまった。合掌させていただきます。

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朝ドラ「だんだん」はコスプレショーだったのか!?

2009年03月06日 | メディアでのコメント・論評

NHKの朝ドラ「だんだん」に関して取材を受けた『週刊新潮』(09.3.12号)が発売された。

記事のタイトルは<「マナカナ」のコスプレ? 朝ドラ「だんだん」に医者もびっくり>。

コスプレはともかく(笑)、ドラマの中の医療関係の描写で、いくつもおかしな所がある、という話だ。

やはり、いろんな無理が出てきているのかもしれない。

ワタクシのコメントは、当然のことながら、あれこれ話をした中からピックアップされたものだ。


「ずばり言うなら、マナカナの歌唱がプロの水準じゃないと気付いた制作陣が早々と方向転換した結果、と想像します。それゆえ、医療や介護を扱っても、考証が不十分で薄っぺらなものになったのではないか」

「60~80年代のヒット曲を歌わせることも含め、視聴者を取り込もうと策を弄したことで、かえって共感を得にくい物語になってしまいましたね」


現在、舞妓ののぞみは、踊りの名取となって、今度は松江の少女を祇園に引き取ろうとしている。どうやら女将修行に入りそうな気配。

一方、松江のめぐみは、研修医となった石橋と同じ病院で、一人前の看護師を目指して修行中だ。

残り、約3週間。

どうなることやら、と思いながら、ちゃんと最後まで拝見させてもらいます。

“改編率”70%以上のTBS「4月改編」

2009年03月05日 | メディアでのコメント・論評

これほどの規模だとは思わなかった。

TBSの「4月改編」である。

何しろ、ゴールデンタイムの“改編率”が70%を超えているのだ。

ゴールデン帯71.4%。プライムタイム60.7%。全日帯46.8%。総入れ替えはオーバーだが、TBSの番組表だけ様変わりするような大きな改編であることは確かだ。

大きいのは、やはり平日夕方5時50分から7時50分までの大型ニュース番組「総力報道!THE NEWS」。

そして、午前11時から午後2時55分までの「ひるおび!」。さらに午後4時53分から5時50分までの「サカスさん」もある。

長時間の情報番組と報道番組が一日中流れる感じだが、注目すべきは、これらが<生放送>ということだ。

半世紀前の、テレビ草創期には、番組のほとんどが生放送だった。VTRがまだ日本に導入されていないのだから当然。まるでその頃を思わせるほどの改編なのだ。

この辺りに関して、3月5日付けの『日刊ゲンダイ』で、次のようなコメントをさせていただいた。


スタジオでの生放送が大幅に増えているのは、“コストダウンを意図した結果”という印象を受けます。生放送はテレビの特性でもあるので、面白いモノが出来る可能性もあります。

しかし、その一方で、じっくり時間をかけて作り込むような骨太な番組が少ないのは物足りない。腰を据えたドキュメンタリーが少ないのは残念な気がします。

せっかく新しい報道番組も作ったのに、これでは薄っぺらいイメージを与えてしまう。

TBSが視聴率を取るためには、突発的な事件や事故が起こるのを待つしかないかもしれません。


「TBSのチェンジ」、出来れば成功して欲しいと思う。名門復活なるか、引き続き注目だ。

作家や作品との<相性>もあるわけで・・・

2009年03月04日 | 本・新聞・雑誌・活字
大失敗である。

悔しい。

残念だ。

私は、実に素直な<本好き>であり、誠に単純な<活字好き>であり、チラシ広告の文章だって楽しんでしまうほうだ。

そんな私でも、やはり相性の悪い作家さんとか、合わない作品というのはあるわけで、今回は、まさにソレだった。

長嶋有さんの『ねたあとに』である。

登場人物は、ある山荘に暮らす、ちょっと変わった父と子。そして、そこに集う、これまたちょっと不思議なキャラの人々。彼らの、ひと夏のお話だ。

全編を通じて、いくつものオリジナル風ゲームというか、遊びが出てくる。

たとえば、麻雀牌を使った「ケイバ」と呼ばれるもの。サイコロを使った「顔」。そうそう、アレンジされた「軍人将棋」もある。

本人たちは面白がっているが、読んでいる私は、あまり楽しめない。いや、このゲームだけでなく、小説全体に対して、どうにもノルことができなかった。

ストーリーが波乱万丈でなかろうと、筋らしい筋がなかろうと、微妙なニュアンスのみを味わうものであろうと、たいていの小説は、それなりに楽しんでしまうのだが、この作品は、うーん、どうにもこうにもダメでした。

奥付を見て分かったのだが、この作品、朝日新聞の連載小説だった。

私は、長編小説が連載物の場合、基本的に新聞や雑誌の連載時には読まない。単行本になってから読ませていただく。

だから、朝日新聞は購読しているのだが、この小説は読んでいなかった。いや、もしも連載時に、一度でも目を通していたら、今回、こうして単行本を手にしなかっただろう。

しかし、それにしても、朝日新聞の読者の方々は、1年もの間、これを毎日、読んでいたんだろうか。読んで、楽しめたんだろうか。聞いてみたいような気がする。

そういえば、長嶋さんの芥川賞受賞作『猛スピードで母は』も、当時、読んでみて、まったく馴染めなかったのだ。ついさっき思い出した。

『猛スピードで母は』の後、しばらくして、「そろそろどうかな」と思い、読んでみたのが『エロマンガ島の三人』。

これもダメだった。それなのに、また手を出してしまったのだ。

大失敗。後悔。残念。でも、私が悪い。

『ねたあとに』を、無理をしながら、辛抱して読み終わったのが、ちょうど某病院のロビーだった。気分は落ち込んでいた。

で、何とか“口直し”をしたくて、売店に走った。

もちろん、あまり目ぼしいものがあるはずもなく、購入したのは、東海林さだおさんの文春文庫の新刊『ショージ君の養生訓』である。

病院の売店で入手した“養生訓”というのも出来すぎだが、そこはショージ君。健康法に関しての、笑えるエッセイや対談が満載で、かなり“口直し”になった。慰められた。

ショージ君に感謝です。

ねたあとに
長嶋 有
朝日新聞出版

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ショージ君の養生訓 (文春文庫)
東海林 さだお
文藝春秋

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怒涛の量産が続く新堂冬樹さん

2009年03月03日 | 本・新聞・雑誌・活字
最近、新堂冬樹さんの“量産”ぶりが目立っている。

特に、芸能界を舞台としたエンターテインメントが元気いっぱいだ。

少し前に出た『枕女優』の路線上にあるのが、『女優仕掛人』。

16歳の新人女優・千紗を世に出すべく、必死の努力を続けるのが、プロダクション社長の上杉だ。

彼の様々な営業活動もすごいが、千紗という女の子のトップ女優への執念がすさまじい。この世界で頼りになるのは、「強くてできる男」であることを知っているのだ。

連載されたのが「日刊ゲンダイ」ということもあり、男性読者の興味を引くエロスもふんだんに盛り込まれている。

小説なので、もちろん誇張はあるが、芸能界の裏側、タレントプロダクションの熾烈な戦い、といった部分は迫力満点。

何しろ、新堂さん自身が、タレントを抱える「芸能プロ」の社長なのだ。

いや、芸能プロ社長が作家になったわけではない。逆だ。作家が芸能プロの経営に乗り出したのだから面白い。

もう一作は『アンチエイジング』。

加齢、老化を防ぐというか、抑えるというか、とにかく、より若さを維持しようという取り組みの悲喜劇が描かれている。

登場するのは、ひと組の夫婦。妻は妻なりに、夫は夫なりに、“アンチ”を欲する理由があるのだ。

最近の、よく見かけるクルマのCMで、「わたしたち、主婦で、ママで、女です!」みたいなコピーがある。

ま、確かにそうなんだけど、これって、どうしても最後の「女です」に力点があるように聞こえてしまい(違ってたらゴメンナサイ)、また、こんなふうに公衆の面前で(?)声高に叫ばれちゃうと、どこか居心地が悪いのはワタクシだけでしょうか。

世の男性が、「俺たち、サラリーマンで、父で、男です!」って叫ぶのも、きっとヘンな気分になるんだろうけど。

ま、とにかく、『アンチエイジング』に出てくる妻も、「主婦で、ママで、女です」の「女です」に重点を置くことに目覚めてしまい、あれこれ大変なことになっていくのですよ。

怒涛の量産体制が続く新堂さんの最新刊は、未読の『不倫純愛』。

何やら、こちらも大変そうだなあ(笑)。

女優仕掛人
新堂 冬樹
角川グループパブリッシング

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アンチエイジング
新堂 冬樹
ポプラ社

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不倫純愛
新堂 冬樹
新潮社

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NHK「だんだん」の収拾

2009年03月02日 | メディアでのコメント・論評

NHK「だんだん」について、『週刊新潮』から取材を受けた。

「だんだん」は今月いっぱいで終わるわけだが、ほんと、これから残りの期間で、どう収拾をつけるつもりだろう。

元々は、「運命の再会を果たした双子の姉妹が、歌手を目指して成長していく物語」だったはずだ。

それが、今では、一人は祇園に舞い戻り、もう一人は松江に帰って介護福祉士やら看護士やらの修行をしている。っていうか、まんま元に戻ってしまった。

現実には、介護福祉士も看護士も、本気でその仕事を目指して頑張っている人たちがたくさんいる。ドラマの筋とはいっても、出たり入ったり、軽々しく扱うのはおかしい。

ついでに、レコード会社のプロデューサーだった石橋クンも、「やはりボクは医者になる」とか何とか言って、今では研修医だ。医者ってのも、そんなに簡単に戻れるんかい?

こうなると、彼らの、あの「歌」へのこだわりや、「プロの歌手」という仕事の意味は一体何だったんだろう、と思ってしまう。

まさか、青春のひとコマ?

だとすれば、音楽のセンスというか、歌の能力というか、その方面はまったく素人以下のマナカナの二人が、無理やり演じて、歌っていた下手な歌を、何ヶ月もずっと聴かされてきた視聴者はどうすればいいのか。

「ある女性が、ある職業を目指して、紆余曲折がありながらも、頑張っていく」という朝ドラもパターンも、いろんな角度から再検討する時期なのかもしれない。

これまでに、たいていの職業は描いてきて、最近は、ヒップホップダンサーだの、懐メロ専門の双子デュオだの、視聴者にとっては「何やらようわからん」ものが続いている。女流落語家あたりがギリだったかもしれない。

4月からの朝ドラ「つばさ」で、多部未華子サンが目指すのは「老舗の和菓子屋の跡継ぎ」だという。和菓子職人なら「あすか」がそうだったけど、今度はどんな展開になるのか。

脚本が戸田山雅司さんだから大丈夫かもしれないが、果たして、どうなるんだろう。

だんだん―連続テレビ小説 (NHKドラマ・ガイド)
森脇 京子
日本放送出版協会

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フジテレビは50年前の今日、放送を開始した

2009年03月01日 | テレビ・ラジオ・メディア

日本でテレビ放送が始まったのは1953(昭和28)年。NHKと日本テレビがトップバッターだった。

だから、昨年の日本テレビは、開局(放送開始)55周年の「日テレ55(ゴーゴー)」キャンペーンで賑やかだった。

そして、今年はフジテレビとテレビ朝日が“50周年”である。

テレビ朝日の開局は1959(昭和34)年2月1日。設立に際しては、日経新聞や東映の他に、旺文社が大株主となっていて、当時の社名は「日本教育テレビ(NET)」だ。基本的には教育専門チャンネルだった。

とはいえ、教育専門放送局の経営は困難で、やがて普通の民放へと変身(仮面ライダーか)を遂げていく。

フジは同じ1959年の3月1日、ちょうど50年前の今日、開局したのだ。

当時は、もちろん、お台場の球体付き社屋ではない。新宿区河田町にあった旧社屋だった。

10数年前まで使われていた、あの懐かしい建物。移転以来、行ってないけど、今はどうなってるんだろう。

数え切れないほど打ち合わせをした局内の喫茶店、というか喫茶コーナー「エフ」。

その打ち合わせが長引いて、コーヒーのお代わりが続いた後で飲む「昆布茶」が、やけに美味しかった。


というわけで、両局とも、このところ「開局50周年特別企画」が続いている。

かつての番組の映像が見られる、いわゆる「回顧・総括・懐かし」系の特番は、つい見てしまう。

フジの3夜連続企画もそうだ。金曜は音楽、昨夜はバラエティ、そして今夜が報道系。

昨夜の「バラエティ ルーツの旅」も、久しぶりで見る映像を、それなりに楽しんだ。ただ、せっかくのタイトルにあるように、フジのバラエティ番組の“系譜”とか“流れ”を、もう少し分かりやすく見せてくれたら、もっとよかった。

番組の“しつらえ”としては仕方ないのかもしれないが、スタジオに並んだお笑い芸人たちのワイワイ・ガヤガヤに時間を割くなら、もっと見たい番組や映像がたくさんあったように思う。

ま、ゴールデンの4時間となれば、“見た目”の賑やかさを用意するのは当然だと分かってはおりますが。

さて、今夜。「激動!世紀の大事件~証言者たちが明かす全真相~」に期待しよう。

スタジオでのあれこれより、とにかく50年分の報道映像の“選りすぐり”が見たい。この番組自体が貴重な資料となるような内容だといいなあ。