碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

『黒部の太陽』前編

2009年03月22日 | テレビ・ラジオ・メディア
豪華なキャストだなあ、『黒部の太陽』。

さすが「フジテレビ開局50周年記念ドラマ特別企画」。

昨夜の前編だけでも、男優が香取慎吾、小林薫、伊武雅刀、ユースケサンタマリア、小野武彦、國村隼、火野正平、柳葉敏郎、田中邦衛、津川雅彦、寺脇康文、中村敦夫などなど。

女優陣も、綾瀬はるか、深田恭子、志田未来、本仮屋ユイカ、浅野ゆう子、風吹ジュン、泉ピン子といった面々が並んだ。

いやあ、よくぞ集めました。

そんな中で、主演の香取慎吾が大健闘。チカラ、入ってました。他の方々も、それぞれに役柄を押さえていたし。

それはそれで拍手なんだけど、物語としては、どうにも散漫な印象で、困った。

これだけのメンバーが出ているから、それぞれの“見せ場”や“芝居場”を作らないと、という行政的な配慮はあるだろう。

それを前提としても、見せられるエピソードが「トンネル堀り」という“本線”を支え、盛り上げるというか、本線に収斂するというか、そういうふうになっていかないのだ。

というのは、そうしたサイドのエピソード自体の問題と、描き方・見せ方の問題と、両方があると思う。

たとえば、わりと頭のほうで、黒部山中に視察に入ったとき。河原で話をしている小林薫たちの向こうに見える崖を、何人かがよじ登っている。

すかさず、「地質調査をしているですよ」みたいな説明の台詞があった。

「ああ、落とさなきゃいいけどなあ」「でも、そんなアカラサマなことはやらないだろう」と思った瞬間、崖に張り付いていた一人がザザッと足を踏みはずして落下し、死んでしまうのだ。しかも小林の「かつての部下」が。

ありゃりゃ、である。

大変な場所にダムを造ろうとしていたこと。これを皮切りに多くの犠牲者を出したこと。などなどを伝えようという演出であることは分かる。

だが、ほとんど垂直みたいな急峻な崖を、命綱もなしで登らせ、調査をさせていたとすれば、当時だって会社の責任問題だ。

また、香取慎吾が、初めて関西電力の工事担当者である小林薫の自宅を訪問するシーン。

香取は家を探してうろうろ。商店街には買い物に来ている小林の娘・綾瀬はるか。

二人は、それと知らずすれ違う。

「まさか、これで家の前でバッタリなんて、やらないよね」と思っていると、間もなく小林家の前でバッタリ。

こういうのって、分かりやすいというより、陳腐でしょ。見ているほうが照れてしまう。

どちらのエピソードも、挿入するなら、もう少し違った描き方や見せ方があったはずだ。

脚本なのか、演出なのか、それは知らないが、せっかくの豪華キャストによる“本格大型ドラマ”なんだから、“小手先”みたいなことに時間やエネルギーをかけて欲しくない。

それより、ドラマの“本線”を充実させるべきだ。

トンネルも、「原寸大」セットをうたっていたが、なかなかの出来。

ただ、実際に掘り進むシーンが、なんだか6~7人による、非常に小さな作業に見えてしまったのは残念。もっとオオゴトだったわけです。

破砕帯の大量出水は大きな見せ場だが、映画でも、石原裕次郎さんがケガをしたシーンだ。このドラマでも、迫力のある映像になっていた。

さあ、今夜の後編は、どんなふうになっているのか。

黒部の太陽
木本 正次
新潮社

このアイテムの詳細を見る