これだから、「東京新聞」はヤメられない(笑)。
「NHK経営委員長が東電社外取締役に内定」という、誰がどう見ても真っ当ではない事態に対して、きっちりと「異」を唱えている。
これでこそ、ジャーナリズムだと思う。
NHKと東電 蜜月
数土NHK経営委員長が
東電社外取締役内定の愚
NHKと東京電力。報道する側とされる側。相反する立場にあるはずの組織だ。NHK経営トップの数土(すど)文夫氏(71)が、東電の社外取締役に就くという。中立性、公正性が疑われるのは当然。これでNHKを信用してくれというのは、無理な相談だ。(上田千秋・小倉貞俊記者)
■会長任命など権限絶大 過去、放送内容に介入?
「国の一大事だと思い、是非に、と頼まれたので引き受けた」「放送内容には立ち入らないし、私もこれまで立ち入ったことはない」。NHK経営委員長と東電社外取締役の兼職を疑問視する声が相次いでいることについて、数土氏はこう反論した。
数土氏は、北海道大卒業後、川崎製鉄(当時)に入社。二〇〇三年に同社と日本鋼管が統合して発足したJFEスチールやJFEホールディングスの社長などを歴任した。
経営委員会とは、一般にはなじみが薄いが、NHKの最高意思決定機関で権限は絶大。放送法などによると、十二人いる委員は衆参両院の同意を得て首相が任命。任期は三年で、委員長は委員の互選で決まる。
NHK会長の任命権や予算を議決する権限などを持ち、年間の報酬額は常勤二千二百五十六万円、非常勤でも五百七万円。委員長はそれぞれ20~30%程度上乗せされる。
非常勤の場合は兼業が可能だが、放送の中立性を守るため、国家公務員や政党役員、テレビメーカーの役員などが委員になることは禁じられている。
経営委員は個別の放送内容に口を挟むことはできないようになっている。ところが過去には、経営委員長が放送内容に踏み込む発言をして物議を醸したことがある。
富士フイルムホールディングス社長の古森重隆氏が委員長だった〇八年三月、海外向けの国際放送の内容に関して「日本国民の立場に立って国益を主張すべきだ」と発言。後には、自民党衆院議員の会合に出席していたことも判明し、市民団体が罷免を求めて署名を提出する事態に発展した。古森氏は任期満了まで委員長を務めたが、波紋を広げた。
数土氏も一月の経営委員会で「もっと番組の編集方針について執行部側と経営側との意見交換があってもいい」と、放送内容への介入と受け取られかねないような発言をしている。
社外取締役の人事は、東電の次期会長に就任する原子力損害賠償支援機構の下河辺和彦運営委員長が進めたとされている。しかし、実際には民主党の仙石由人政調会長代行が主導し、民主党に近い経済同友会(同友会)に協力を求めたとの見方が専らだ。
社外取締役に就任する予定の住生活グループ、藤森義明社長(60)と、三菱ケミカルホールディングスの小林善光社長(65)、それに数土氏の三人は、ともに同友会の副代表幹事を経験している。
「取材する側」と「される側」
中立性 保てるのか
視聴者に不信「報道機関の自殺行為」
仙石氏が人事に関与したためなのか、野田政権は、数土氏の社外取締役就任を容認している。放送業界を所管する川端達夫総務相は十五日、「非常勤の委員の兼職は禁止されておらず、制度上の問題はない」と断言。枝野幸男経済産業相も同様の見解を示した。
■保有社債上位五社は電力系
実はNHKは、以前から電力業界と密接に繋がっている。昨年九月末現在の中間財務諸表によると、NHKは計約九百二十五億円の事業債(社債)を保有。
金額はトップの東電が百三十二億円、関西電力六十五億円、中部電力六十四億円、中国電力五十一億円、東北電力四十二億円と上位五社はすべて電力会社が占めている。東電をはじめとする電力会社の経営状況が悪化すれば、NHKにも影響が及ぶ。
数土氏の社外取締役就任にはNHK内部からも異論が出ている。管理職を除く全職員約七千六百人が加入する日本放送労働組合は十六日、東電が実質国有化される点に触れ、「従来以上に慎重に距離感を意識しなければならないのは当然」とする声明を発表。「公共放送の自主自立を疑わせる要員になりかねない」と訴えている。
識者はどう見ているのか。メディア批評誌「GALAC」の編集長を務める丹羽美之東京大准教授(ジャーナリズム研究)は「東電は原発事故以降の報道において、最も重要な取材対象だ。『NHKは東電の発表を垂れ流しているだけ』とまで言われているのに、ますます視聴者の疑念が膨らみかねない」と苦言を呈する。
原発事故のテレビ報道を検証している伊藤守早稲田大教育・総合科学学術院教授(メディア研究)も「NHKと東電、それぞれの経営陣に居れば利益相反する内部情報を知ることになる。矛盾する立場に就こうという数土氏の見識も甘ければ、それを認める政府の判断もおかしい」と批判する。
社外取締役に就く予定の藤森義明住生活グループ社長は、福島第一原発の原子炉を製造した米ゼネラル・エレクトリック(GE)社の上級副社長を務めていたことのある人物だ。伊藤氏は「受け手の東電にとっても都合のいい人事になっている」とみる。
「今回の件で数土氏は、マスメディアの役割についての認識不足を図らずも露呈した」。市民団体「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」の共同代表を務める醍醐聡東京大名誉教授はこう断言する。
醍醐氏らは、「経営委員長と社外取締役はともに職責が重く、両立は不可能。数土氏はNHKか東電かのどちらかを選ぶべきだ」などとする要望書を、数土氏本人や総務相、経産相などに提出した。
醍醐氏は「自身の態度が世間のNHKに対する不信感を広げた責任は深刻なのに、それに気付いていない。経営委員長としての資質がないのは明らかであり、メディアから去った方がいい」とこきおろした。
NHKの元政治部記者、川崎泰資椙山女学園理事は「そもそも、NHKと電力会社とのつながりは昔から深かった」と話す。関西電力の小林庄一郎会長が一九九二年から九八年まで経営委員長を務めた事例もある。
川崎氏は「NHKが脱原発デモをほとんど報じていないことでもわかるように、局内には原発に批判的な番組は作り難い雰囲気がある」と指摘する。自身も以前、原発事故関係の取材をやめるよう圧力を受けたこともあったと明かし、こう強調する。
「このままでは、NHKの信頼は二度と取り戻せなくなる。報道機関の自殺行為だ」
<デスクメモ>
NHKに、本当の権力批判、政府批判はできるのか。原発事故報道に遠慮はなかったか。公共放送であるNHKを見る目は厳しい。報道機関にとって、不信感をもたれること自体が致命的だ。現場には真面目に取材している記者ももちろんいる。それなのに、一人のトップの行動ですべてが失われる。(国デスク)
(東京新聞 2012.05.19)
・・・・普通に考えれば当たり前のことが、なぜ当たり前に行われないのか。
数土氏は、東電の社外取締役に就任するなら、NHKの経営委員長を辞するべきだ。
もしも、それが行われないなら、NHKが数土氏を経営委員会から外すべきなのだ。
「報道機関にとって、不信感をもたれること自体が致命的だ」という国デスクの言葉に尽きる。