あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

渡辺保著「江戸演劇史下」を読んで

2010-02-13 10:39:35 | Weblog


照る日曇る日第326回



とうとう最後のページまで読んでしまいました。

あとがきで著者は、「この本はもちろん今日の読者のためのものであるが、それ以上に歴史の闇に消えていった多くの人々の霊に捧げたい」と書いていますが、これは嘘偽りなくその通りです。

分厚い本をぱたりと閉じた私の脳裏には、歌舞伎一八番を創成した七代目団十郎や、その父七代目との金銭トラブルに巻き込まれて大坂で切腹した名優八代目団十郎の「助六」の力演、そして守田座の責め場の舞台から転落して釘を踏み抜いて脱疽にかかり、名医ヘボンなどによって両手両足を切断する手術を受けながら、わずか34歳で花の命を散らせた女形田之介のたおやかな演技、さらには富本節に引導を渡して清元節全盛の世を切り開きながら文政8年5月26年に暗殺された延寿太夫の朗々たる美声が、なぜかまざまざとよみがえってくるのですから。

著者の汗牛充棟ただならぬ膨大な資料を駆使しての博引旁証はさることながら、いまから200年以上前の江戸時代の歌舞伎三座を華やかに彩った名優や音楽の名人たちの演技や演奏を、「まるで見てきたように」描き出し、あまつさえ私たち読者の耳目にあざやかに現前化する著者の筆力と自由奔放な想像力は、ほとんど神業の領域に達しているというべきでしょう。これは単なる江戸演劇史ではありません。さながらイタコのように彼らによりそい、彼らに憑依し、青史の時代に生きた名優の一世一代の名演の真価を復刻再現して永遠の正史にとどめようとする驚異的な情熱と幻視の書物なのです。

天保一二年、水野忠邦の奢侈禁止令を利用して歌舞伎取りつぶしを狙った鳥居耀蔵でしたが、遠山の金さんの反対もある程度は奏功して、結局堺町・葺屋町・木挽町の芝居三町にあった中村・市村・森田の歌舞伎三座は、浅草聖天町近辺の猿若町に強制的に移転されました。ところがこんな辺鄙な内陸部に追いやられたにもかかわらず歌舞伎は元禄・宝暦明和・文化文政に匹敵する黄金時代を迎えるのです。

その理由として著者は、民衆が育てた江戸歌舞伎の恐るべきエネルギーを挙げています。万延元年三月三日の桜田門外の変のおり、猿若町の中村座ではまさに井伊大老の暗殺さながらの「封印切」の稽古をしていたそうですが、役者たちは「もしもこっちの初日が早かったら、あっちで遠慮してあんな騒動もなかったろう」と豪語したという挿話を紹介したあとで、著者は「この隔離された別世界には、恐ろしい現実を笑いとばすだけのエネルギーがみなぎっていた」と大略で評するのですが、ここにおいて著者の歌舞伎への愛の告白を思いがけず耳にした想いをするのは、私だけではないでしょう。


♪げに歌舞伎こそわが国が世界に誇る最高の芸術 茫洋


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ゲッティンゲン音楽祭のヘンデル「アドメート」を視聴する

2010-02-12 11:33:06 | Weblog
♪音楽千夜一夜第108回

2009年5月28日にドイツのゲッティンゲンで行われたヘンデルのオペラ「アドメート」の公演をビデオで見ました。「音楽の母」と称されるゲオルグ・フリードリヒ・ヘンデルの没後250年に当たるヘンデル・イヤーのこの年は、世界各地でヘンデルを記念するイベントや演奏会が企画されましたが、これもその記念行事のひとつでした。

「ゲッティンゲン国際ヘンデル音楽祭」は1920年に開始されたフェスティバルで、 古楽の音楽祭としては現在最も長く続いている音楽祭だそうですが、今回の ヘンデル・イヤーに選ばれたのがんだ歌劇「アドメート」でした。これは1727年にロンドンで初演されたヘンデル42歳の年のオペラで、 ギリシア神話に題材を採る瀕死の王アドメートとその妃アルチェステの物語です。 かつてはしばしば上演され、人気を博したそうですが、現在ではほとんど上演の機会のない珍しい作品なのだそうです。

演出は映画監督・ドリス・デリエという知らない女性です。なんでも日本文化に深く共感し、小津安二郎の影響のもとで監督した作品「HANAMI ―花見―」(2007) がベルリン映画祭でも注目されたそうですが、 今回の「アドメート」でも「HANAMI」で共演した日本人ダンサー遠藤公義を振り付けとソロダンスに起用し、和洋折衷の奇妙奇天烈な演出世界を粛々と展開しました。

ヘンデルが描いたのはトロイア戦争後のギリシアのさる王国の宮廷の恋のさや当ての物語なのですが、国王アドメート、王妃アルチェステ、トロイの王女アンティゴナをはじめ出演者の全員が、なんと日本の江戸時代?の武将や花魁の装束で登場します。
瀕死の国王の一命を救うために犠牲となって自害した王妃を黄泉の国まで救出にむかうエルコーレ(ヘラクレス)などは、な、なんと相撲取りの格好をしていて、こいつが器用に四股を踏んだり、今は亡き朝青龍の土俵入りのしぐさまでやってのけるのです。

はじめはあまりの荒唐無稽さにあんぐりと口を開けて眺めていた私でしたが、無国籍風ジャポニスムと切れ味の良いモダンバレエ、色鮮やかな照明、そしてニコラス・マギーガン率いるゲッティンゲン音楽祭管弦楽団の快調な劇伴にいざなわれて、気がつけば3時間になんなんとする長丁場を居眠りもせず気持ちよく鑑賞することができたのでした。

ヘンデルの音楽はバッハと違って音楽語法が単純明快なので、聞く人を退屈させずに終曲までなだれこむためには相当の手練を要しますが、私がはじめて耳にするこの指揮者とオケは、かなり上手にその難事業を乗り切ることに成功していたと思います。
もっとも最高のヘンデル演奏においては、まるで高級なミニマルミュージックの演奏に遭遇したときのような興奮と催眠、そして見神効果にまでまきこまれることがあるのですが、彼らはその至高の境地にはまだ遠く及ばないようです。

配役と歌手は以下の通りですが、いずれも「中の上」ないし「上の下」クラスのひとたちでした。
アドメート:ティム・ミード、アルチェステ:マリー・アーネット、アンティゴナ:キルステン・ブレイズ、トラジメーデ:デーヴィッド・ベイツ、オリンド:アンドルー・ラドリー、エルコーレ:ウィリアム・バーガー、メラスペ:ウォルフ・マティアス・フリードリヒ

我よりも若き人死ぬる日よわが過ぎ越しの無様を恥ずる 茫洋
ずる 茫洋
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閉店迫る横須賀さいか屋  横須賀ところどころ第8回

2010-02-11 09:59:26 | Weblog


茫洋物見遊山記第12回


吉祥寺伊勢丹、有楽町西武、京都四条河原町阪急など全国各地で百貨店の閉店が相次いでいますが、ここ横須賀でも名門デパート「さいか屋」の大通り店が閉鎖されることになり、地元商圏に暗い影を落としています。

「さいか屋」は明治5年創業ですから、きっと戦国時代の歴史に名を刻んだあの雑賀一族の末裔がおこした当時は流行の最先端をいく商業施設だったのでしょう。現在では、川崎、藤沢、横須賀など神奈川に拠点をおく典型的な地方百貨店ですが、尋ねるたびに来客が減少していることが気になっていました。

しかし経営不振が極まって、まさか目抜き通りに面した大通り店をクローズするとは思いがけない結論でした。横須賀店は大通り店、新館、南館の3館で構成されていますが、あとの2つは大通り店のいわば背中側に立地しており、集客の点では相当のハンディがあるはずです。それなのにどうして今回のような選択をしたのか理解に苦しみます。

販売実績を見てみないと門外漢には勝手なことが言えませんが、現場を歩いてみた感じでは、新館と南館を売却して主力商品のみに絞った大通り店だけで営業を続けたほうがコストダウンと早期黒字化につながるのではないかという印象を持ちました。
南館は飲食街になっているようなので、もしここが黒字ならば大通り店との2館体制で新規巻き返しを図るべきではないでしょうか。

いずれにしても特性のない衣料品を主力とした特性のない百貨店は、特性のないアパレルメーカーとともにこれからもどんどん滅んでいくのでしょう。栄枯盛衰は世の習いとはいえ、総身に凍風が吹き付ける平成22年の横須賀の冬です。


曇天にヘリ低く飛びし朝年少の友独り逝きけり 茫洋

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聖ヨゼフ病院 横須賀ところどころ第7回

2010-02-10 08:51:28 | Weblog


茫洋物見遊山記第11回


諏訪大神社の階段を下った坂道の向こうにそびえているのが聖ヨゼフ病院です。

もともとは海軍の軍人の病院だったようですが、昭和21年からカトリック女子修道院聖母訪問会という組織に経営が移り、昭和36年に総合病院聖ヨゼフ病院と名称が変更され、平成17年には聖テレジア会に法人名が変更されて現在に至っています。まあそんなことはどうでもよいのですが、この病院にはかつて障碍児歯科があって、私の息子はもとより知的障碍を持つ神奈川県全域の親子が日参したものです。

健常児だって歯の治療は大変なのに、訳のわからんちんの障碍を持つ子の歯を削ったりすることがどれほど忍耐を必要とするかはどなたにも分かっていただけるでしょう。

中には猛烈に暴れる子供もいます。そんな障碍児たちを愛情と慈しみを持って辛抱強く治療に当たってくださったお医者さんと看護婦さんに深甚の敬意と感謝を捧げたいと思います。

高台の上のこの病院の頂きに居ます天使よ
幼く哀れな者たちの魂を安らかにしていと高きところへと速やかに導きたまわんことを!


♪がっつりと見つめ合いたり鷹と我 茫洋


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格調高い諏訪大神社 横須賀ところどころ第6回

2010-02-09 13:43:33 | Weblog

茫洋物見遊山記第10回

横須賀の湾を見下ろす諏訪公園の下に鎮座ましますのが、格調高い諏訪大神社です。だいじんじゃではなく、おおかみしゃと発音します。

 諏訪大神社の伝承によると、康暦二年(1380)にこの地の領主であった三浦貞宗(横須賀貞宗とも言う)が、信濃国(現在の長野県)諏訪から上下諏訪明神の霊を迎えて創建し、慶長十一年(1606)2月27日、大寒長谷川三郎兵衛の発起で、社殿と境内地の大改修が行われたことも伝えられています。

 祭神は、健御名方命(たてみなかたのみこと)と事代主命(ことしろぬしのみこと)の二柱です。健御名方命は武勇に優れた神で、東国の守り神と言われ、事代主命は、えびすさまとも言われ、開運の神として広く信仰されています。

またこの神社には大震災避難記念碑が立っていますが、関東大震災の折には高波を逃れた多くの住民が、境内の社務所や社殿で寝食をともにしたそうです。
なお高い階段の右奥に立派な日本住宅が見えますが、おそらくこの神社の神主さんのお宅ではないでしょうか。


♪おくつきにどなたがおわすかしらねどもそのうやうやしきにこうべはたるる 茫洋




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どぶ板通りのお地蔵様 横須賀ところどころ第5回

2010-02-08 11:32:52 | Weblog


茫洋物見遊山記第9回

横須賀のどぶ板商店街のちょうど真ん中あたりに赤い門で囲われた岩屋のような一角があります。

この奥に安置されている延命地蔵尊は、昔から参拝者が絶えない、霊験あらたかな地蔵尊として知られています。いつ通っても、線香の香りが漂っています。若い人たちの姿も目立つドブ板通りに、ひときわ異彩を放つ延命地蔵尊ですが、あまり人に知られていない歴史がありました。

 昔の文献によると、このあたり一帯は海に突き出した険しい地形で、交通路といえばわずかに山裾をぬって造られた細い道だけだったようです。そこでこの付近に下町と結ぶ素掘りのトンネルを造ったところ、このトンネルが不完全だったことから、出水や地震などによってたびたび落盤事故を起こし、多くのけが人がでました。そこでこのあたりの有志の方々の発願によってトンネルの入り口にあたる場所に地蔵を祭り、通行の安全祈念することになったといいます。

明治の中ごろまでは、この付近を洞ノ口あるいは堂ノ口と呼んでいたので、この地蔵は当初は「洞ノ口地蔵」と称されていましたが、この地蔵尊の霊験あらたかなことが、いつしか近郷近在の人々に広まって、年を経るごとに信仰する人が多くなっていきました。

そして、その祈願の内容も、家内安全から商売繁盛に広がり、さらに明治、大正、昭和と時代を新たにするごとに、入学祈願の信仰の対象にもなってきました。やがてこの洞ノ口地蔵を信仰すると長生きできるという神話も生まれ、いつのころからか「延命地蔵尊」と呼ぶようになったといわれます。

以上「横須賀どぶ板商店街」のHPからの情報でした。

♪横須賀やヤンキーも詣でる地蔵尊 茫洋



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横須賀ところどころ

2010-02-07 15:09:06 | Weblog
茫洋物見遊山記第8回


またしても横須賀にやって来ました。

左側の海を見ながらバスに乗って大滝町で降りて右側の道路に入ると、もうそこがどぶ板通りです。もともと横須賀は明治時代から軍港として栄えたのですが、なんとこの道路の真ん中にどぶ川が流れていたそうな。当然交通の妨げになるので、当時の海軍工廠から分厚い鉄板を寄付してもらい、どぶ川にふたをしたところから、「どぶ板通り」の通称ができたそうです。そしてそのどぶ川も鉄板もなくなった現在でも、その名前だけが残っているのです。

「どぶ板通り」には横須賀名物のスカジャン、ヨコスカネイビーバーガー、よこすか海軍カレー、肖像画店、土産屋、ミリタリーショップ、外人バーなどのお店が並んでいますが、私が好きなのは昔ながらの銭湯「大黒湯」です。同じ名前の銭湯は東京にもありますが、こちらはずっとひなびたローカル古典ヴァージョンです。

「どぶ板通り」の道端にとびとびに敷かれているのが、横須賀ゆかりの有名人たちの手形レリーフです。王貞治、斎藤明夫、佐々木主浩などのスポーツ選手や団伊久磨、清水哲太郎といった人々もその手跡を残していますが、雪村いづみ、原信夫、阿川泰子、白鳥英美子、渡辺真知子、宇崎竜童、阿木燿子、ジョージ川口などのミュジシャンが多いのは、この近くの海軍倶楽部に出演したことがあるからではないでしょうか。

横須賀は海と音楽とアーミーの街であります。


♪倫理なく自由も奪われ仕事せず哀れ沈みゆく小沢民主党 茫洋

♪堕ちよ堕ちよ地獄の果てまでモラルなき小沢民主党 茫洋

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石渡嶺上司・大澤仁著「就活のバカヤロー」を読んで

2010-02-06 15:10:59 | Weblog


照る日曇る日第325回&バガテルop121

この本には、企業・大学・学生が演じる茶番劇という副題がついています。

企業は優秀な学生を青田買いするために「就職協定」を幾度となく有名無実化してきました。大学側では「教育」が本分であるとうそぶき、就職など知ったことかという態度を取っていましたが、少子化が進んでどんどん学生の数が減り、経営基盤が足元から崩れ去っていく現実を目の当たりにして、どうしても就職率を上げざるを得なくなってきました。

そこに割って入るのがお馴染みのリクナビやマイナビを運用する就職情報会社です。企業からは「就職人気企業ランキング」などをちらつかせて説明会経費や媒体費用をむしりとり、大学に対しては就活指導ノウハウを様々な形で押し売りし、「就活と採活」の両側面において完全なマッチポンプで莫大な利益を上げています。

いい迷惑なのは学生たちです。勉学に専念できるのは3年生の1学期までのわずかな期間だけ。夏休み前にはインタンシップという訳のわからない就業体験に突入し、続いて大企業の説明会が大会場で開催され、大手テレビ局や電通博報堂などへのエントリーが開始されます。ともかく3年生の大みそかまでには内々定を獲得しようということで、学業などそっちのけで就活の東奔西走が繰り広げられているのです。

どこの大学でも企業訪問やら面接試験などに出陣する学生が相次ぎますから、ゼミや授業や実験などはみなうわの空。4年生になっても就職が決まらないと大事な卒業制作にも大きなダメージが出てきます。100年に一度という大不況で2010年度の内定率はこれまた史上最低を記録していることを知ってか、最近では2年生!が就職課に相談にくるという異常事態が発生しています。ゆがみにゆがんだ就活ゆえに、かなりのパーセンテージを占めるアホバカ学生のアホバカ度も、ますます亢進せざるを得ません。

アホバカ小鳩のおかげで国会がもはやまともな政策論議の場でなくなってしまったように、キャンパス内も、もはや真面目な勉強どころの騒ぎではないのです。
就職情報会社や就職本に脅かされた学生は、絶対おとされないエントリーシートの書き方や失敗しない面接の受け方を知ろうと私たちのところへやってきます。マニュアル通りの履歴書を持ち、マニュアル通りの質疑応答に熟達し、マニュアル通りのリクルートスーツを着たマニュアル人間のおぞましさ。そして彼らをそのような姿形に追い込んだ元凶であるにもかかわらず、彼らの来襲におびえる企業の異様さ。これを悲惨な蟻地獄といわずになんと呼べばいいのでしょう。

この悲喜劇を存続させている当事者は、企業・大学・就職情報会社・世間そして学生です。しかし学生自身にはこの苦境を逃れるすべはありません。私はやはり企業側が1996年に廃止した就職協定を復活し、それを政府が厳格に監視する形で、「会社訪問は4年生の8月20日、内定は11月1日」とおごそかに決めることが、現在の「就活のバカヤロー」状態を脱する唯一の道ではないかと思うのですが……。

♪就活のバカヤローが生み出している恐るべき国家的損失! 茫洋

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文化学園服飾博物館の「パレスチナの民族衣装」展を見る

2010-02-05 07:26:56 | Weblog


茫洋物見遊山記第8回&ふぁっちょん幻論第55回

新宿の文化学園服飾博物館では「パレスチナの民族衣装」展が3月14日まで開催されています。

聖地エルサレムを囲むパレスチナ地方には、イスラエルとアラブ両民族が政治的、人種的、宗教文化的に厳しい対立を続けている訳ですが、この会場ではヨルダン川西岸とガザ地区に分断されながらも軍事的強国イスラエルにゴリアテに挑むダビデのように礫で戦いを挑んでいるパレスチナの人々の民族衣装が多数展示されています。

アラビアのロレンスを思わせる男性の衣服も興味深いものがありますが、なんといってたっぷりとした着分の生地を贅沢に使い、大きなAラインに造型された女性の色彩豊かなドレスが目を引きます。

ドレスには花や木など自然のモチーフが金の糸などで刺繍されていて、とりわけ胸元に表現されたV字型などの大胆な文様が、エルサレムやラマラ、ガザ、ベツレヘムなど彼女たちの出身地毎のアイデンティティをあざやかに表現しています。

タータンチエックを思わせるこれらの美しい意匠は、先祖代々母から娘に手作業で伝えられ、その地域や部族や家柄の誇り高い象徴であったわけですが、その連綿たる歴史と文化的伝統が、20世紀後半のイスラエルの武断的攻勢と陰険な分断政策によって暴力的に断ち切られつつあることは断腸の思いです。

難民キャンプに追いやられたパレスチナ人たちが、ありあわせの素材と拙い技術でつむいだ貧しいドレスが、そのことを雄弁に物語っているようでした。


♪パレスチナの民族衣装を踏みにじるイスラエルの民の驕り昂ぶり 茫洋
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梟が鳴く森で 第1部うつろい 第35回

2010-02-04 07:02:26 | Weblog


bowyow megalomania theater vol.1


10月15日 雨

僕は、横浜線のことを考えています。それでお父さんに尋ねました。

お父さんはきのう僕を怒ったので反省して、今日は僕にやさしくしようと努力しているので、それが分かっている僕はお父さんに協力してあげようと思ったのです。

「いま横浜線、新しい?」

「新しいよ。JR東日本の横浜線は、新しいジェラルミン車だよ。質問はそれで終わり?」

「それでおしまいです」

僕はしばらくしてから「レコード芸術」を読んでいるお父さんにまた質問しました。

「横浜線はどこからどこまで走ってるの?」

「えーと、大船から八王子だよ」

「横浜線、新型だけ走ってるの?」

「うん、そうだよ。岳君、横浜線好き?」

「大好き」

「じゃあ横浜線の新型と旧型とどっちが好き?」

「両方好きです」

「ほんとう?」

「ほんとうです」

「新型と旧型とどこが似てるの?」

「黄色いのが」

「どこが黄色いの?」

「ここが黄色いの」
と言いながら僕は胸を指差しました。


♪電池寿命測定器の寿命も電池が支えているんだ 茫洋

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梟が鳴く森で 第1部うつろい 第34回

2010-02-03 21:02:56 | Weblog


bowyow megalomania theater vol.1

10月14日 曇

「岳、うるさい! いいかげんにしろ!」と、お父さんが怒鳴りました。

「バカヤロー!」と3回怒鳴りました。

お父さんは嫌いです。僕を怒るから大嫌いです。
「旧型の山手線は、お払い箱ですか?」と尋ねただけなのに、いきなり怒鳴るお父さんなんか死んでしまえ。僕はお父さんなんか大嫌いです。

ウグイス色の103系統の山手線はいまごろどこを走っているんだろう?



♪90爺マーチを駆って高速逆走 茫洋
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アバドの「マーラーの7番」を視聴する

2010-02-02 10:03:50 | Weblog


♪音楽千夜一夜第107回

2005年の8月、スイスのルツエルン音楽祭で同管弦楽団を指揮したマーラーの第7交響曲のビデオを視聴しました。

画面を見て驚くのはミラノの孤鷹クラウディオ・アバドの病み上がりの痩身といしだあゆみに匹敵するまるで骸骨のような顔容。しかし、ようやく癌の治療を終え、古巣のベルリンフィルを辞して、新天地に羽ばたく中老のマエストロの死から生への帰還のよろこびが爆発したような力強い演奏です。

オーケストラはベルリンフィルを主体に世界各地からアバドの人柄と音楽を慕ってはせ参じた寄せ集め部隊ですが、ザビーネ・マイヤーのクラリネットをはじめ、世界でも指折りの超一流音楽家集団の演奏だけに、そのテクニックの鮮やかさは抜群で、この大作をまるで室内楽の器楽協奏曲のように弾きこなしていきます。

各パートの楽員の乗りのものすごいこと。全員がジャズバンドのように上体をスイングさせ、弾きながら歌っているようです。そしてマーラーならではの難渋で絶対矛盾の自己同一的な総譜が、これほどの名技性と透明性ですみずみまで繊細に照射されたことはかつてなかったのではないでしょうか。特に憂愁と諧謔に満ちた第3楽章の行進曲などは管と管、弦と管との対比がじつに美しく描かれ、この曲の隠された表情の出現に息をのむ思いでした。

第2楽章と第4楽章の小夜曲も同様に素晴らしい出来栄えで、超絶ソロの官能的なまでの愛の交歓に、われら聴衆の耳朶が思わずぼおと紅らむまでに酔いしれたのですが、まてまて、そもそも第7番シンフォニーは、暗闇の中でのたうつ自我の暗転と解脱の秘儀の曲ではなかったか、と思いいたれば、アバドとその1党が自己愛に陶酔しながら奏でるまるで地中海の真昼の太陽を思わせる白熱の輝きがどうにも不可解なものに思われて来るのも事実です。

引き続いて、夜の苦悩ならぬ1点も陰りのない真昼の歓喜が朗々と歌い継がれる第5楽章のコーダの大爆発を耳にすると、はたしてこれがマーラーの内面の魂の音楽なのか、やはりクレンペラーやバーンスタインの暗鬱な解釈の方が正統的なのではあるまいか、とほとほと謎と悩みの尽きない世紀の大演奏でありました。


♪これぞ冥途の土産死に損ないアバドが死の音楽を歓喜の歌にすり替えたり 茫洋
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「小沢チルドレン」は何をしている

2010-02-01 17:38:39 | Weblog

バガテルop120

先日の朝日新聞に「新人黙らす小沢5原則」という民社党関連の記事がでていました。昨年の総選挙で当選した民主党の新人143人が小沢や鳩山の醜いスキャンダルに全員が貝になって沈黙を守っている問題について論じています。

なんでも小沢学校に属する彼らは、まるで小学生のように10班に分かれて徹底的に管理・統率されているらしいのです。班長は中堅の国対副委員長たちで、国会内での朝礼(山岡国対委員長)を終えると各班に分かれてミーティングに移り、おもむろに本会議や予算委員会に出撃してやじを飛ばすのだそうです。

小沢学校の新人教育5つの掟は、1)「横並び」で党内秩序維持、2)党内の出来事はすべて班長に報告せよ、3)政府の要職につくべからず、4)テレビに出て目立つべからず、5)地元回りはこまめに、だそうです、これらはすべて小沢校長の方針だというから開いた口がふさがりません。君たちはチイチイパッパの幼稚園児か? と言いたくなります。

小沢学校を登校拒否して、あまでうす校長が唱えるように、1)党内秩序など完全に無視して、2)党内スパイの汚名を返上し、3)どんどん政府の要職を奪い取り、5)じゃんじゃんマスコミに出て己を主張し、6)地元回りなどはいっさいやめて朝から晩まで天下国家を論じてほしいものです。

選挙民は小沢とか鳩山のような手あかのつきまくった旧人よりは、しがらみのない新人に期待して票を投じたはずなのに、彼ら「期待の明星」が、福田、田中、横粂などのフレッシュマンともども、光のささない座敷牢に閉じ込められ、言論や行動の自由を奪われて、自民党の金脈政治にまみれた老獪な政治ゴロの言いなりになっている姿は「情けない」の一語に尽きます。

どれほど小沢の世話になったかしらないが、君たちが議員になれたのは、小沢の「生活第一」なぞという訳のわからぬツイッターを、選挙民が真に受けたからではありません。腐敗堕落の極に達した自民公明政治に鉄槌を下して、「ともかく政権交代させよう!」という圧倒的な民意の嵐が吹きまくった結果にすぎないのです。

小沢の言う通りに地元を地道に歩いたから見事当選したのではなく、民意があなたを当選させたのです。世間では小沢が選挙のプロであると評されているようですが、総選挙の選対が小沢以外の誰であっても、しゃらくさい選挙技術が皆無でも、民主党は勝利していたでしょう。むしろダーティなイメージが強い小沢がいなかったほうが、もっと数多くの得票を獲得していたにちがいありません。 

それを偉そうに己の手柄のようにして新人を私物化する小沢も小沢ですが、借りてきた猫のように言いなりになる新人諸君の責任は重大です。こんな右翼系体育会か帝国陸軍初年兵まがいのあほらしい新人教育5つの掟を一日も早く返上して、党内にふつうの民主主義を早急に確立してほしいのです。

私があえて1票を投じた元鎌倉市議、逗子市長の長島選手にも、同じ神奈川県の小泉選手のように、もっと自由闊達に言いたいことを言ってもらいたいのです。

現在の「小鳩民主党」は、金と政治や基地問題などで予想通り混迷を深めており、このままでは失速破綻して参院選でも民衆の大いなるしっぺ返しに遭遇し、思いがけない敗北を余儀なくされるでしょうが、そんなことはわが国の政治にとって2の次、3の次。そんな些事より、言論の自由のない政党に、輝かしい未来などこれっぽっちもないのです。



♪物言えば唇寒し民社党 茫洋

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