ある晴れた日に第126回
鎌倉や梅と光と風ばかり
初音なるかはた空耳なるか夢の内
淳作の櫻のやうな櫻咲く
桜斬る馬鹿者ならず桜切る
ウイが減りノンが増える日櫻咲く
よく見れば江戸の着物ぞ浅蜊貝
うかうかと浮かれ出けり揚羽蝶
蝶と見えまた花と見ゆ櫻かな
櫻散る平地に乱を起こすべく
別れとは少し死ぬこと花水木
上野では訛りも消えて啄木忌
我が庭に卯月朔日の朝日差し大島桜咲き誇りたり
東大寺小泉淳作襖絵のごとき櫻咲きにけり
わたくしを黄泉の国へと誘うか曇天漂う白き花々
うかうかと浮かれ出けるアゲハチョウまだ春浅き朝夷奈峠
ツンデレレコクるタメ口オッケーてへペろきゃわたんワイルドだろぉ
好きくないなくないなりますぱみゅぱみゅぱぜんぜんよろしかったでしょうか
ハンパない真逆ニッポン語拡張ちう蜜壇隕石安倍蚤糞アベノミクス
怪物は戦を正義に仕立て上げ羊を地獄に突き落とすなり
国民を条理なき戦争に巻き込んで全権を掌握したり鉄女
やな感じ世界中が北朝鮮のミサイル発射を待っている
世界一嫌われ者の火遊びを世界中がはらはら見守る
一戦したちまち滅びる国よりも永久不戦のこの身いとおし
いまもなおさまよえる民に生きているユダヤの神との聖なる契約
余りにも早く父母死にたればその身代わりでわれ生きており
音楽をいざなうような翻訳をめざせし人のバルザック読む
四月には新刊が出るというに題名未定これも新手の商売なるか
「書名未定」の村上春樹の新作は受け付けませんと図書館は拒みき
この歌ならこの人が良からんと選者もまた投稿者から選ばれていて
歌を詠むしあわせそれは辛うじて七七にまでたどり着きしとき
十二年前に辞めた会社の電話番号突如思い出す夜半の寝覚に
性愛の淵に溺れしヒロインの叫びに黙す川喜多記念映画館
悦楽の井戸に溺れしヒロインの叫びは哀し『愛の亡霊』
口臭き夫の長き接吻に耐えいる妻の愛の深さよ
果樹園を車で走るのは野蛮なりいざや歩きて花見などせん
どこまでもますぐに続く並木道六尺ばかりのくちなわよ出てこい
鎌倉の滑川に棲む大ウナギ絶滅危惧種とは知らずに眠る
どう見てもただの白なのに「ライムホワイトパールクリスタルシャインです」と言い張る車のセールスマン
「歌に生き、愛に生き」と熱唱すげにひばりこそ日本のカラスなりけり
満員の車内の人が押し黙りスマホを見詰め指繰る朝
アホ馬鹿の東大教授の暴言に我は憤怒し妻は泣きたり昭和51年夏戸塚の杜に
「大衆の原像」などは虚妄なれど自閉症児者の生にほのかに浮かぶ人間の原像
歳とるということはウイが減りノンが増えること
みずからの脳の進化をおしとどめ百歳生きるは人の業かや
あどけなき顔してバラエティに見入る妻横顔見れば心慰む
我が家に居るたった一人の女の子それがわたしの奥さんです
ポケットに右手を入れて耕君はほほえみながらジュースを買い行く
両手振りスキップしながら跳んで行く小学生にもう一度なりたし
美しき落ち葉を拾い時折は取り出して見る日々送りたし 蝶人