あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

秋の点鬼簿

2017-09-30 14:46:59 | Weblog


蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話 op. 262


ある夜、こんな夢を見た。

「講談社の新男性誌が創刊され編集長のハラダ氏から原稿を依頼されたのでしばらくしてから送稿したところ、「すんまへん、ダブルブッキングで他のライターに書かせてしまいましたあ」というメールが来たので、頭に来て彼の上司の常務に文句を言うたら、速攻ハラダは解任されちまった。」

そのあと、ちょっと気になったのでネットで調べてみると、ハラダ氏こと原田さんは、もうこの世の人ではなかった。昨年の9月に58歳で亡くなっていたのだ。
脳出血というからきっと突然の出来事だったに違いない。

築地の本願寺で取り行われた葬儀では、杉山恒太郎氏や篠山紀信氏がよいスピーチをされたと、後輩の方がブログに記されていた。
私も行けばよかったと思ったが、後の祭りだった。

原田さんとどういうきっかけで知り合ったのかはもう覚えていないが、なんとなく面識を得て、会えば挨拶を交わすような間柄になっていた。

講談社の「ホットドッグ」という若者雑誌の巻頭に情報欄があったが、そこで映画感想などを時折書かせてくれたのが彼だった。
若くて美人で頭の切れる羽仁未央さんを紹介してくれたのも彼だった。
その未央さんも2014年に50歳で亡くなった。

原田さんは、いつか浄明寺に住んでいると言っていたので、もしかすると散歩の途中でぱったり出くわすこともあるかなと思いながら、日曜の昼下がりに、浄妙寺近辺の表札を捜すとなく覗いたこともあったが、私たちは知らない間に幽冥境を異にしていたのである。

そして昨日、フェイスブックの友人から同級生の訃報を知らされた私は、またしても言葉を失った。集英社でノンノやメンズノンノ、シュプールの編集長を歴任した山本大介君が今月の5日に亡くなったというのだ。

おそらく昨今のこの国と世界の酷い体たらくに愛想をつかしたのだろう。
まんまるい顔のまんなかに黒い眼鏡をかけ、ずば抜けて背が高く、やることなすこと格好良かったやり手の大介の笑顔は忘れられない。

山本大介君の霊よ、安かれ!


         次々に人は死にゆき九月尽 蝶人


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シリーズ「今日から役立つ、誰もが泣いて喜ぶ、感動の挨拶スピーチ文案集!」改め 「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々満載挨拶スピーチ実例集!」

2017-09-29 11:08:17 | Weblog
第3回 「金婚式/恩師の金婚式を祝う教え子のスピーチ」



蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話 op. 261



テーマ=懐かしい恩師のエピソードを印象的に語る


本日ご結婚50周年の良き日をお迎えになりました金田先生ご夫妻に心よりお祝い申し上げます。

*1私は、先生が勤務されておりました西山経理学校で大変お世話になりました井上信也と申します。

*2“泣く子も黙る鬼金田”という綽名の通り、先生の授業はとても厳しいものでした。私などはしょっちゅう廊下に立たされていたものです。ところが授業が終わると、金田先生はもう勉強のことなんていっさいうっちゃって、我われガキ大将といっしょに遊んでくれました。
春は野球、夏は海水浴、秋は山登り、冬はスキー。「よく学び、よく遊べ」といいますが、金田学級のモットーは「よく遊び、また遊べ」でありました。

*3お陰様で最低限の経理の基礎はもちろん青春時代にもっとも大切な「遊び」を徹底的に身に付けさせて頂いたことが私たちの人生の最高の出発点になりました。

*4今日の良き日に当り、改めてわが師金田先生への感謝の念を新たにするとともに、先生と奥様の末長いご健勝とご活躍をお祈り申し上げる次第です。

○ スピーチのポイント
1) 恩師との関係を要領よく出席者に紹介します。
2) 往時を回想する際には老齢者に配慮し、発声はゆっくり大きく明快に。
3) 恩師への感謝を忘れずに。
4) 陰の立役者である夫人にも言及しましょう。


  

   悪賢い美魔女に見事アウフヘーベンされました京都のぼんぼん前原誠司 蝶人


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シリーズ「今日から役立つ、誰もが泣いて喜ぶ、感動の挨拶スピーチ文案集!」改め 「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々満載挨拶スピーチ実例集!」  第2回「銀婚式/友人の銀婚式を祝うスピーチ」

2017-09-28 13:47:06 | Weblog

蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話 op. 260


今回のテーマ=昔のエピソードを紹介してユーモラスに祝う


田中君、そして奥さんの郁子さん、銀婚式おめでとうございます。
*1私は田中君の高校時代からお付き合いをさせていただいております門山晃と申します。こうやってお二人が並んで座っていらっしゃるお姿を拝見しておりますと、あれからもう二十五年が過ぎたのかと夢のような思いがいたします。
*2真吾君は髪の毛が白くなり、ちょっと太りましたが、郁子さんのほうは相変わらずえくぼが可愛らしくてスマートで、「3年B組のマドンナ」の面影はそのまんまなので、同級生の一人としましてはイメージを裏切られずに実はホットしているところであります。
*3そもそも、人間は大きくイヌ派とネコ派の2種に分類されるそうですが、お二人は当時から猛烈なネコマニアでありました。捨てネコ、ドラネコなんでも来るネコは拒まず、ということで二人のアパートはまるでネコの巣窟のようでした。
それが相当不気味な様相を呈してきたために、イヌ派の私などはあまり寄り付かなくなってしまったのですが、ネコ好き同士の連帯感は非常に独特のものがあるようですね。
その強烈な連帯感がいつしか二人を結ぶ強い愛の絆に変わっていったのではないか、というのがアバウトなイヌ派である私の想像なのですが、
*4田中君、果たして真相はどうなのでしょうか?
*5冗談はともかく、当時からお二方の熱愛振りは傍目もうらやむほどでした。
四半世紀の長い時間には色々なことがあったとは思いますが、現在田中君は環境問題の専門家として、郁子さんは福祉アドバイザーとしてそれぞれの分野でめざましい活躍をされております。
そしてお二人のマンションにはあいもかわらず何十匹ものネコちゃんが居候しているそうですよ。
田中君、郁子さん、ネコちゃんの食費をかせぐためにも、どうかこれからも体に気をつけて頑張ってください。

○ スピーチのポイント
1)長い付き合いのある親友であることを告げて以下のスピーチの伏線を張ります。
2)当時のエピソードをユーモラスに紹介して会場の雰囲気をリラックスさせます。
3)イヌ派、ネコ派の区分は星座、血液型などと同様に多様なものを単純化する論法でいろいろな応用が可能。知っておくと便利です。
4)一方的に喋るばかりがスピーチではありません。このように出席者に直撃インタビューする手法も臨場感があって効果的です。
5)ユーモアに包みながらも二人の幸せを祈ります。


 悪行を馬鹿丁寧に説明するとかや安倍蚤糞は素敵な政治家 蝶人
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シリーズ「今日から役立つ、誰もが泣いて喜ぶ、感動の挨拶スピーチ文案集!」

2017-09-27 11:37:33 | Weblog


蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話 op. 258



その1 「喜寿の祝い/恩師の喜寿を祝う教え子のスピーチ」


テーマ=生涯の恩師に対して、感謝の気持を込めて語る



中山先生、つつがなく喜寿をお迎えになりまして本当におめでとうございます。

*1私は学生時代に先生の教えを受けました木下弓彦と申します。

*2喜寿は、昔から「喜の字の祝い」とも称され、その由来は漢字の七十七を組み合わせると「喜」という字の草書体になるからだと言われております。私も先日実際この文字を筆で書いてみまして、成る程なあ、昔の人はなかなか知恵があったんだなあと、自分の無学は棚に上げて感心した次第です。

* 3中山先生は私の中学一年生の時の担任でした。理科がご専門でしたが、文学や歴史の造詣も深く、授業時間はもちろん放課後も、休日も先生をおたずねしては色んなことを教えていただきました。
例えば、分子や原子や素粒子といったミクロの世界と、銀河系の宇宙を構成する惑星のマクロの構造が似通っているのが面白いとか、世界の陸地がもとはつながっていて、それが時間の経過とともに分裂していったとか、初夏満天の星の下で夜の更けるのも忘れて先生のお話に聴き入ったものです。
今日私のような不肖の弟子が大学で物理学の教師をしているのも、そもそものきっかけは先生の雑談の面白さ、発想の素晴らしさに深く啓発されたからだと思います。

*4中山先生の暮らしぶりは質素でしたが、政治、経済、文化、社会――森羅万象あらゆることに旺盛な好奇心をいだき、つねに問題意識をもってエネルギッシュに勉強されていました。そしてそのひたむきな姿勢は半世紀を過ぎてもまったく変わりません。

* 5どうか先生、これからも私ども後輩の精神的な支柱としてお元気でご活躍ください。最後になりましたが、いつもご迷惑ばかりお掛けしてきた奥様に謹んでお詫びと今日の良き日のお祝いを述べさせていただき、お二人のご健勝を心よりお祈り申し上げまして私のごあいさつとさせていただきます。

○ スピーチのポイント
1) 最初に自分の名前と恩師との関係を明らかにしましょう。
2) イントロとして喜寿の由来に触れるのも悪くないでしょう。
3) 恩師との出会いや印象的なエピソードを幾つか具体的に述べて恩師の人柄を好意的に紹介しましょう。
4) 恩師の素晴らしさをあらためて強調。
5) 終結部では恩師と配偶者の双方に対して今後の活躍と健勝を祈念しましょう。


  「革命」は左翼の専売特許と覚えしが手垢に塗れて右翼が使う 蝶人
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三題噺ずら

2017-09-26 11:15:55 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1248、1249、1250



1)ポール・グリーングラス監督の「キャプテン・フィリップス」をみて

ソマリア沖の海賊船に襲撃されたアメリカの貨物船の船長の受難と苦闘、というか災難の一部始終の物語。何度も何度も殺されそうになるが奇跡的に救助されるが、その救助部隊のこれはどうも実話らしいが、そうだとするとまことに勇敢な船長である。こういう役をやらせたらトム・ハンクスはじつにうまい。

これは2013年の作品であるが、彼は最近「ハドソン川の奇跡」でもキャプテン役をやっているが、こちらは飛行機ずら。


2)ロバート・バトラー監督の「乱気流」をみて

護送中の殺人犯を乗せた旅客機が乱気流に遭遇したり機内で殺人事件が起こったりしっちゃかめっちゃかになりつつもスッチーの機転と勇気と操縦で無事空港に不時着するという滅茶苦茶な映画ずら。濡れ衣を着せたられたと主張する護送犯がはじめは紳士的に振るまっていたのに途中からキチガイになるのは不可解。飛行機ってスッチーでも操縦・着陸できるんだ。


3)クリストファー・ノーラン監督の「インセプション」をみて
夢は第二の人生どころか、その映画では第三、第四、第五、第六、第七までもいろいろば夢のステージが合って、そのそれぞれで別の人生が繰り広げられているのだった。


    絶望的な希望の党を立ち上げし自民党の別動隊 蝶人


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黒澤明監督の「椿三十郎」をみて

2017-09-25 10:05:11 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1247



この映画の特色は、モノクロ映画にもかかわらず白椿が燦然と輝くように見える不可思議と、最後の三船と仲代の超近距離での一瞬で終わる決闘だろう。

目にもとまらぬ太刀さばきで、ものすごい血しぶきが噴き上げる光景の恐ろしさと美しさ! これぞ娯楽映画の極である。

三船もさることながら、敵役に回った時の仲代の凄さと素晴らしさは、彼が善人役を演じる時の比ではない。


  「ロケットマン」と「ならず者」の決闘は地球の外でやっとくれ 蝶人
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ロバート・アルトマン2本立てずら

2017-09-24 10:48:54 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1245、1246



○ロバート・アルトマン監督の「MASHマッシュ」

製作は1970年。朝鮮戦争がどんな戦争であったかはさておいて、米軍の現地野戦病院のドタバタをハチャメチャに描きつくす心意気が素晴らしい。悲劇を喜劇に転換する魔術を堪能せよ。


○ロバート・アルトマン監督の「ギャンブラー」

1971年製作のアメリカ映画。なんとももどかしい、いらいらするような展開だが終盤も近くなってようやく男(ウォーレン・ベイティ)と女(ジュリー・クリスティ)の情念が炎と共に燃え上がるのだが、時すでに遅く男は哀しい末路を迎えるのだった。まあ人世っておおかたそんなもんだけどね。


  他の国を「完全に破壊してやる」と平気で言える「偉大な」大統領 蝶人
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由良川狂詩曲~連載第16回

2017-09-23 11:10:37 | Weblog

第5章 魚たちの饗宴~いやさかケンちゃん



タウナギ「ん、なるほど、あの西本町の四つ角の下駄屋の当主の孫で、いま鎌倉は尊氏一族の菩提寺、浄妙寺の近くに住んでおると聞くケンちゃん、そのケンちゃんに助けを求めよとアポロンの神託が下ったのじゃな」

Q太郎「さよう、さよう。その通りじゃ。それゆえ拙者早速一計を案じ、雨宮健氏に面会してわれら全由良川淡水魚同盟の前代未聞の危機を救ってくだされと、わが一族のうちもっとも機敏にして細身、修験道と立川流免許皆伝の持主たる愚息、豚児たるオタクのQ太郎を急遽鎌倉浄明寺の谷戸に派遣したのが、ざっと3週間前。はてさてその首尾はいかにと。よき便りを待ち暮らしておるのじゃ」

タウナギ「そうか、そうか、そうだったのか。いや、そうじゃった、そうじゃった。わしも寄る年並みで忘れるとこじゃった。さあ、みなの衆、ケンちゃんの無事到着を祈念して、みなで声を合せて、我らがテーマソングたる由良川音頭を歌い、踊ろうではないか!」

得たりや応、とみなの衆が立ち上がると、手拍子をとりながら、まずタウナギが野太いバスで歌い始めました。

 おもしろや、京にはくるま
 丹波に舟、ドウジャイナ
 丹波に舟、由良の川にむかい舟
 ドウジャイナ
 鶴の子の、そだちはどこじゃ
 四つ尾山、ドウジャイナ
 早少女衆は 苗を呼ぶ声、山越えて
 ソヨノ、まだ山越えて、
 ほととぎすの声、ソヨノ

続いてQ太郎が、伸びやかなバリトンで、喉を震わせました。

 井戸堀そめて 水がわかずに金がわく
 面白や。
 こまた榎の、榎の実やならいで金がなる
 面白や。
 みょうがとふきと、みょうが目出たや、
 富貴繁盛。
 今日はめでたや。日がらもようて、日もようて。
 餅もつかずに石をつく。
 面白や。

今度は、最長老のオオウナギの番です。

 丹波で名所は、由良の川
 水が半分、魚半分
 これは綾部か 福知山
 ぐると回れば 由良の海

ボーイソプラノのドンコが、続きます。

 降らずとも 蓑笠持ちやれ 篠原に
 篠原の 根笹の露は 蓑笠に

 京から下るような 白い菅の 笠をば
 わいらあにも たもろまいかの 白い菅の笠

ソロが終わると、一同声を揃えての大合唱になりました。

 めでたためでたの 若松様は
 枝も栄ゆる葉も茂る おめでたや
 鶴は千年 亀は万年
 由良川歴史は 一億年
 われらの歴史は 二億年

 苔むし神あがりましし白栲の
 うつのうつろなる生き神さまに
 われら魚どもせちにささげん
 このはららごを

 由良川の水より清く 由良川の底より深き
 ことほぎの 心も死ぬにありがたき
 その佳き日 その佳き人のおとずれを
 
 せちに待ち待ちて 今宵ぞわれら
 君に捧げん このいやさかの歌 このいやさかの歌
 ア ソレ、ア、ソレ、ア、ソレソレソレ
 いやさかケンちゃん、いやさかケンちゃん、いやさかケンちゃん……

                              つづく




 6回目のミサイル発射をらあらあとテレビは朝から夢中で伝える 蝶人

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河瀬直美監督の「あん」をみて

2017-09-22 11:15:44 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1244



ハンセン病を患って10代から老年にいたるまで施設に閉じ籠められていた老女(樹木希林が好演)の苦しみと一瞬のよろこびに焦点を当てた感動的な映画である。

長年にわたって、そして現在もなお偏見と差別の対象となっているこの病気とその弊害に苦悩する患者を取り上げた監督の勇気には敬意を表する。

しかしながら、ハンセン氏病という伝染病の正体について一度も科学的冷静正確に表現することなく、具体的には世間の偏見を代表する浅田美代子の発言に一度も異を唱えることなく、いわば情に流される形で映画が終わってしまうのは非常に残念である。

映画の前半部の冷静沈着な展開を最後まで貫けばよかったのに、老女への感情移入が激しくなりすぎて、いささかお涙頂戴に傾いたことが演出の失敗ではなかったろうか。


  つまらなき映画といえど一つくらいよきところあると淀長語れり 蝶人
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ピーター・ボグダノヴィッチ監督の「ラスト・ショー」をみて

2017-09-21 10:44:36 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1243



テキサスの小さな町に生きる男女の生と性の哀歓を白黒の画面で舐めるように描く。

ここでキャメラが映し取っているのは、果てしなく暗く哀しい人間のはらわたの蠕動そのものである。

夫に見捨てられた中年の人妻の顔のアップと独白は、この映画の白眉であり、人間の真実の姿を永遠の相の下にとどめている。

どこまで生きても所詮は孤独な人間の赤裸々なありのままの姿を描きつくした映画史上最高の映画のひとつだ。



   下手くそな歌なんやけどしゃあけんどその下手くそが好きなんやわし 蝶人

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渡辺京二著「逝きし世の面影」を読んで

2017-09-20 11:32:50 | Weblog


照る日曇る日第993回


幕末に来日した外国人の視線や膨大な証言を通じて、徳川末期、江戸末期の「文明」の特色を浮き彫りにしようとする試みは興味深く、ある程度成功しているが、著者はそれは維新の到来によって完全に滅び去ったと主張する。

また著者は、文化は滅びないし、ある民族の特性も滅びない。それは変容するだけだが、歴史的個性としての生活総体のありよう、つまり文明だけが滅びる、と説くのだが、はたしてそうだろうか。

文明に比べて文化の定義がなされていないのでよく分からないが、そういう言い方をするならば、文明も、文化も、民族の特性も同じように絶えず変容し、崩壊し、また再構築され続けているのではないだろうか。

というような話をしたい、のではなかった。

本書で自由自在に引用されているチエンバレン、ヒュースケン、カッテンディーケ、モース、レガメ、ハーン、バード、スミス、オズボーン、アーノルド、オールコックなど当時の来日外国人たちの日本人についての証言は抜群に面白く、ただそれだけでも読み物としての値打ちがある。

巻末の「心の垣根」のおいて、鋭敏な著者は「東海道中膝栗毛」のユーモアに不気味なもの、明かるいニヒリズムを感じ取っている。弥次さん喜多さんが安住するのは、生垣が低い、確立された個がない、言い換えればヒューマニズムという思想も実体もない世界である。

その生垣が低い世界に、黒船とともに「武装した近代」が来襲してきたとき、平和で安気で牧歌的な江戸の巷は、私たちがいまを生きている超資本主義の時空へと激烈に転換せざるを得なかった。

けれども日本会議の連中が勝手にそう思い込んでいるように、著者はその処方箋を本書に何ひとつ書いたわけではない。


   安倍蚤糞になんちゃらかんちゃら言いながら結局自公に入れる人 蝶人


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カール・ベーム指揮「リヒアルト・シュトラウス生誕150周年オペラ集」を聴く

2017-09-19 11:35:11 | Weblog


音楽千夜一夜 第399回

リヒアルト・シュトラウス生誕150周年の2014年にリリースされたベーム指揮によるシュトラウスの4つのオペラを10枚組の廉価版モノラルCDで楽しむ。

1958年ドレスデン録音の「薔薇の騎士」はリタ・ストライヒ、ゼーフリート、ベーム、マリアンナ・シュヒ、1959年のザルツブルク音楽祭の「影のない女」はギューデン、プライ、ホッター、ヴンダーリヒ、1947年ザルツブルク音楽祭の「アラベラ」は、ライニング、デラ・カーザ、パツァーク、1960年の「カプリッチョ」はシュワルツコップ、ベリーなどの往年の名歌手が登場し、シュトラウスの直弟子ベームの練達の棒で歌いまくりから堪えられない。


  見たくないこれも見たくないと断れど次々現るミクシーの広告 蝶人

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西暦2017年葉月蝶人花鳥風月狂歌三昧 補遺その5

2017-09-18 11:26:08 | Weblog


ある晴れた日に 第479回


今日もまた生まれて初めて生くる日よ大海原に入道雲湧く

なにゆえに草木はどんどん生えてくるお前も生きよと励ますために

なにゆえにヘリコプターは前に飛ぶ前輪後輪逆に回れども

ぐったりと羽根を垂らして下肢を上げ雄待受ける紋白の雌

蝉どもは子供を作れず泣いている八大竜王雨やめ給え

アブラゼミカマキリトンボキリギリス真夏の舗道は昆虫の墓

なにゆえに動物たちは鬱なるや死ぬまで檻を出る時はない

我もまた動物園に飼われたる寂しき動物ならんか

ピーターパンダのパンは美味かったピーターパンダ今はなし

想像してご覧花も虫も人もいないこの地球をとオノヨーコ

とりあえず頭を下げて謝っておけばなんとかなるのさこの国では

石原から猪瀬舛添小池百合子東京都知事は自分ファーストばかり

極東の小さき島の宰相の支持率俄かに落ちてゆくとや

もしかしてどこかの国の宰相は人工知能の産物なのかも

国民が納得できない説明を馬鹿丁寧にやっても駄目だよ

どうやらこの国では呪いは効くが祈りは通じないようだ

我もまた鎌倉市民なれば市税の一部で遺跡を発掘

江ノ電は動かず小町は人の波テレビよ鎌倉を紹介するな

鎌倉のどうということもない店を次から次に紹介する番組

障害は個性ですと言われても知らん顔している我が家の耕君

ああ所詮この世では幸福になれないのかこの子の顔をじっと見つめる

障がい者はこの世の宝皆殺しせず共に生きよう健常者たちよ

なにゆえに障がい児者は生まれたか健常者の愚かな知恵を暴き出すため

注意すれば息子はへこむ傷となりて永久に心に残る

我バクダン爆発すべきバクダンなれど不発に終わる死すべきバクダン

我バクダン気まぐれな神様が戯れにスイッチを押す日を待っている

女優さんに嫌われたくない男優は日に何回も歯を磨いているとか

今日もまた生まれて初めて生くる時われらみな生存の突破者



  知恵遅れ自閉症スペクトラム発達障害レッテル変われど同じ長男 蝶人



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谷崎潤一郎著「谷崎潤一郎全集第26巻」を読んで

2017-09-17 10:56:50 | Weblog


照る日曇る日第992回


中央公論新社が創業130周年を記念して2015年5月から毎月1冊のハイペースで江湖に送ってきた谷崎潤一郎全集全26巻の大尾は、昭和33年7月11日から38年2月4日までわずかな間隙を置いて書かれた日記と年譜、著作・著書目録を中心に、谷崎研究家とファンにとっては逸すべからざる内容となっている。

しかし「日記」は、谷崎本人の手になる個所はそう多くはない。大半が夫人や家族や秘書の手で代書されたもので、昭和33年11月末に高血圧で倒れた結果痛めた右手の痛みがいかに作家の活動を阻害したかが如実に分かる。昭和34年に発表された「夢の浮橋」以降、すべての作品は口述筆記せざるを得なかったのである。

さて全巻を通じての感想は、この作家こそ鴎外、紅葉に続く日本文学の正統であることを私なりに再確認できたことであったが、本全集に谷崎の代表作である「細雪」はあっても、彼が3次にわたって改定したもうひとつの畢生の大著、「源氏物語」の翻訳が欠如しているのは許しがたい暴挙であり、全集最大の欠陥と言わなければならない。
この全集はいわば看板に偽りのある「不完全全集」なのである。

もうひとつの欠点は、巻末の「解題」のお粗末である。それは作品の意義や内容の解説にはまったく触れないおざなりで表面的なものでとてもプロの仕事とはいえない。この際、千葉、明里、細江の3編集委員には、是非ともインスクリプト版の「中上健次集」の行き届いた解題を熟読して、今後の参考にして頂きたいものである。

ということで、私としてはできれば版元を岩波書店あたりに出し直してもらいたい残念な全集であった。


    民進と小池のゆるさを見てとって安倍蚤糞は総選挙に出る 蝶人
    
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佐々木幹郎著「中原中也 沈黙の音楽」を読んで

2017-09-16 10:11:34 | Weblog


照る日曇る日第991回


中原中也の30年の短い生涯とそれを荘厳した前人未踏の名編を著者独自の視点で考察していく。

なかには第6章「誰にどのように読まれたいか」におけるチェホフの「黒法師」の取扱のように、いささか牽強付会の強引な所論もあるのだが、読んでいるうちになんとなく説得されていく道行きは、かの梅原猛氏のひそみにならったか。

「あとがき」では「風が立ち、浪が騒ぎ、無限の前に腕を振る」というリフレインで知られる「盲目の秋」が引用されている。

「東北の被災地の海岸で、目の前に「風が立ち、浪が騒ぐ」荒涼たる風景を見ながら、中原中也は何と普遍的な詩の世界に立ち向かっていたのか、とわたしは改めて思ったのだった」という著者の言葉には深く頷いたことであった。


限りなく北朝鮮に圧力を加えても雑草を食べながらミサイル作るとプーチンはいう 蝶人
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