あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

蝶人皐月映画劇場その6~大島渚特集号

2020-05-31 11:22:33 | Weblog


闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2135~42

1)大島渚監督の「太陽の墓場」
大阪の下町に虫のように這いずり回る民草の困窮や若い男女の恋、殺人やヤクザの生態を描くが、ラストの炎上が安っぽくてしらける。1960年作品。

2)大島渚監督の「飼育」
1961年に幻の「「大宝」から配給された大江健三郎原作の映画化だが、長野でロケしたからかだいぶ小説とはイメージが違う。黒人米兵を殺害しながら、その事実を村長の三国連太郎以下の村人全体が「無かったこと」にする今に続く日本人の体質。

3)大島渚監督の「無理心中日本の夏」
1962年に製作されたらしいが、まあなんちゅう下らない映画であることよ。いろいろなエピソードを繋ぎ合せているようだが、言いたいことなんかなーーんも無いんだね。

4)大島渚監督の「ユンボギの日記」
1965年の製作。韓国の路上で大島が撮った写真をドキュメンタリー映画に仕立てて鮮やかに成功している。

5)大島渚監督の「悦楽」
恋人のために殺人まで犯した中村嘉津雄が、ひょんなことから3千万円を蕩尽し、挙句に知りたくも無かった恋人の本性を突きつけられるという山田風太郎原作、1965年製作、悲喜劇ずら。

6)大島渚監督の「日本春歌考」
前半は退屈だったが、後半で急迫する1967年の作品。猥歌がだんだん高尚なものに思えてくるのが不思議ずら。建国記念日にからめて日本と朝鮮半島との関係にも触れているが、散漫にすぎるし、男女の情交が妙に図式化されていて違和を覚える。荒木一郎の不気味なキャラ、小山明子のエロ。

7)大島渚監督の「東京戦争戦後秘話」
1970年に製作された「映画で遺言を残して死んだ男の物語」。いきなり革マルの黒寛の本などが出てきてギョっとする。いきなり押し倒して事に及ぼうとするシーンなどもいかにも70年ずら。走りながら撮る大島の疾走感覚。

8)大島渚監督の「夏の妹」
1972年返還直後の沖縄でオールロケされたライヴ感にグルーヴされる熱い映画だぜい。栗田ヒロミが可愛いが、りりィの声は聞きとりにくい。

      妻と見る蛍の光五月尽 蝶人

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「エドゥアルト・ファン・ベイヌムの芸術」第1集9枚組CDを聴いて

2020-05-30 11:25:35 | Weblog


音楽千夜一夜 第449回

オランダの指揮者、ベイヌム(1901-59)はナチ協力者のメンゲルベルクの後任でロイヤルコンセルトヘボウ管弦楽団のシェフを務めたが早世し、その後をヨッフムトハイテインクが継いだ。

ブラームスの1番やブルックナーの7番、マーラーの4番などを含むこの9枚組のCDは、すべてかつて英デッカから発売されていたモノラル録音であるが、シベリウスを除いてあのデッカの腰の低い重量感のあるレコードの音は再現されていなかった。

歳をとってボロボロになり果てた私のロバの耳には、最新コロナウイルス型のリマスター盤よりも昔懐かしいレコード録音の方が美しく、力強く響き渡るのである。

     コロナには目を瞑りつつ皐月尽 蝶人
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主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集NO.28」

2020-05-29 13:06:46 | Weblog


蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話第339回

○業界組合総会/組合長のあいさつ

本日は、第23回全日本眼鏡製造販売組合の総会にご臨席の栄を賜りましてありがとうございます。私は、組合長の高橋淳一であります。*1

近年わが業界も、内外の経済環境変化の荒波が打ち寄せて参りました。私どもは、かねてより日本の眼鏡作りは世界一であると自認しておったのでありますが、最近は東南アジア、中国製の格安品が氾濫し、価格競争力のみならず品質面においてもレベルが高くなっておりますので、産地におきましてもなお一段の技術開発とコストダウン、そして不断の企業努力が必要かと存じます。

幸いわが業界が世界に誇るチタンフレーム製品につきましては、その技術的優位性を当面維持できるのではないでしょうか。*2

「武士は喰わねど高楊枝」という格言もございます。*3
参加組合各位におかれましては、何卒チタンフレームの金型製法の海外技術移転を断固自粛されまして、最後の牙城を死守して頂きますよう、格段のご賢察とご配慮をお願い致しまして総会開会のごあいさつにかえさせて頂きます。

○ アドバイス
1眼鏡業界にも技術革新と価格革命の国際競争時代が訪れようとしている。組合長が総会の冒頭で警鐘を打ち鳴らす。
2若干唐突ではあるが、年配の方がやや古めかしい言葉遣いでスピーチする時にこうしたことわざを引用すると、不思議に説得力が出るものである。2自動車、電機、半導体など、いまわが国のすべての製造業がかかえている問題である。

         コロナ禍も老いの寄り道螢飛ぶ 蝶人

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蝶人皐月映画劇場その5

2020-05-28 13:08:21 | Weblog


闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2125~34

1)クロード・シャブロル監督の「クリシーの静かな日々」
私がまったく評価しないヘンリーミラーの小説の映画化であるが、話の中身も役者も最低で、まったくどうしようもない仕上がりになった。

2)ジョン・フォード監督の「黄色いリボン」
1949年製作のジョンウエイン主演の騎兵隊物で、あの懐かしい主題歌が効果的に使われており、良くできた西部劇だとは思うが、カスター将軍の第7騎兵隊を全滅させた先住民大連合軍は1万人いたはずなのに、その一握りしかやっつけていないのに大喜びしているのは頷けないずら。

3)ルイジ・コメンチーニ監督の「ブーべの恋人」
ブーベことパルチザンの闘士J・チャキリスを愛したマーラことクラウディア・カルディナーレ。1963年製作のイタリア映画だが、戦後も右翼&ファシストとパルチザンの抗争は続いたんだなあ。カルディナーレ可愛らしいなあ。

4)ミケランジェロ・アントニオーニ監督の「夜」
マストロヤンニとジャンヌ・モロー夫妻の前に登場したモニカ・ヴィッティの戦慄すべき美しさ!それを映像に定着することだけがアントニオーニの目的だった。それにしても1961年当時は愛の不毛とか都会人の孤独と疎外なんちゅうモチーフの映画が多かったなあ。今と違って贅沢じゃった。

5)山田洋次監督の「霧の旗」
兄が無実の死刑判決を受けた妹の倍賞千恵子が滝沢修の弁護士を恨んで徹底的に復讐する恐ろしい物語ずら。松本清張の原作を1965年に映画化。もし寅さんが大ヒットしなければ倍賞を起用したくこのような傑作が数多く誕生したかもしれない。しかし新珠美千代はいいなあ。

6)青山真治監督の「こおろぎ」
鈴木京香は好演しているが、せっかく山崎努をつかいながら、この監督、そして脚本の岩松了はいったいなにをいいたいのかさっぱり分からん。時間とカネの無駄ずら。

7)小津安二郎監督の「戸田家の兄妹」
1941年の製作。夫の死後、未亡人の母と未婚の妹が長男、長女から冷たい仕打ちを受けたので、それを知った次男佐分利信が1周忌の場で激怒し、彼らを退場させるのでびっくりポン。その後は3人で仲良く暮らしましたという展開はおやおや、という気持ちになるずら。

8)溝口健二監督の「残菊物語」
2代目尾上菊之助(花柳章太郎)が5代目尾上菊五郎(河原崎権十郎)に反逆して家を飛び出して辛酸をなめるが結局元の鞘に収まるが可哀想に恋女房の森嚇子は死んでしまうという聞くも涙の物語だが、1939年溝口の演出が冴え捲ります。

9)長谷川安人監督の「十七人の忍者」
大友柳太郎率いる伊賀忍者の悲劇的な暗闘ずら。三島ゆり子懐かしいずら。

10)「マスター・アンド・コマンダー」
ラッセル・クロウが苦労しながら奈翁仏軍の最新型米製戦艦を撃沈する2003年の血わき肉躍る海洋戦闘ドラマ。最近のピーター・ウィアーは詰まらないので何の期待もしていなかったが、意外にも面白かったずら。ガラパゴスのトカゲまで出てくるでよ。

        コロナ禍も冥途の土産よ青嵐 蝶人

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主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集NO.27」

2020-05-27 11:50:55 | Weblog


蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話第338回

 1)異業種交流会/幹事のあいさつ

お忙しい中をようこそいらっしゃいました。*1

私は「21世紀ハイブリッド研究会」の幹事を務めさせて頂いております柳沼と申します。よろしくお見知りおき下さい。当会も、本日で通算15回目の定例ミーティングを開催することができ、誠にご同慶の至りであります。

さて「21世紀ハイブリッド研究会」は、異業種の方々のために設けられた情報交換、相互研鑚、切磋琢磨の場でありますが、*2

急変する国際情勢に迅速に対応するため、このほど各国大使館のご好意によりアジア、欧米諸国のメンバーとりわけ米国と中国の企業経営者や科学技術者の方々に大きく門戸を開き、とかく国産メンバー偏重であった当会の自己変革と構造改革をさせて頂くことになりました。

21世紀の雑種文化をたくましく育てようというのが当会設立の趣旨ですが、おそまきながらそのポリシーを海の外にも拡大し、真にグローバルな異文化異業種大交流の会へと進化させたいと考えます。*3皆さまのなお一層のご支援ご協力をお願い致します。

○ アドバイス
* 1異業種交流会も数多いが、とかくマンネリに陥る危険がある。そこで幹事さんは一計を案じて新たなプランを練ることにしたのである。
* 2つねにネットワークを更新し国内外を問わず新鮮な情報源をグローバルに添付することこそ会の発展強化につながると幹事は考えたのである。
* 3以下、海外メンバーの紹介が続く。

2)異業種交流会/参加者のあいさつ

こんにちは、私はインドからやって来たサタジット・ネールです。*1

デリー大学でIT関係のソフトウエアの勉強をしたあと、この春の新学期から東京工業大学の情報工学研究室の助手をしています。まだ日本語がうまく話せませんがどうぞよろしくお願いします。*2

私たちの国インドは、21世紀の国家政策として政府がIT立国を宣言し、ここ数年インターネット電話サービスや光ファイバー網の整備に乗り出し、国家予算の多くをITのインフラ整備と技術者の養成に振り向けています。パソコン所有者は、2005年には3500万人となり、ネット関連市場は中国に次ぐスケールに成長するはずです。GM、AT&Tなど米国の大手企業と提携した携帯や衛星回線事業も盛んです。*2

私は世界でも有数の経済大国でブロードバンド時代のデジタル・コミュニケーションとりわけBtoB、BtoCの電子商取引についてのソフトを研究し、将来日印両国のITの掛け橋となりたいと念願しています。どうぞよろしくお願いします。

○ アドバイス
* 1これは珍しくもIT立国を目指すインドのエリート・テクノクラート参加者のスピーチである。まず参加者は、簡単な経歴と現在の仕事、を簡潔に伝えること。
* 2メンバーへの希望や将来の抱負などがあれば、この場を利用すると今後の活動のてがかりとなるだろう。事実、異業種交流会からは思いがけない収穫が続々生まれている。

 聞くたびにヘドが出てくる「新しい生活様式」豚に喰われよ 蝶人

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ソニー・イタリア盤の「ベートーヴェン全集」を聴いて

2020-05-26 11:24:07 | Weblog


音楽千夜一夜 第448回

今年はベトちゃんの何周年だか何回忌だかでいろんな全集が売り出されえているようですが、私が取り出したのは前回だか前々回の何周年だか何回忌だかでイタリア・ソニーが売り出したCD全34枚組の「不完全」全集です。

不完全というても大方の有名曲は揃っていて、交響曲はバーンスタイン&NYフィル、ピアノ協奏曲はバレンボイム指揮のルービンシュタイン、V協奏曲はスターン、ピアノソナタはブッフビンダー、ヴァイオリンソナタはズッカーマン、ナイクルグ、弦楽四重奏はブダペストSQによるそれぞれ全曲が揃っているうえに、荘厳ミサ、フィデリオまでついてくるという超お徳用の超廉価版。2012年に買っておいて良かった、良かった。

 コロナにも台風にも負けず3匹の螢は橋をゆらゆらと超ゆ 蝶人
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村上春樹著「猫を棄てる」を読んで

2020-05-25 14:30:59 | Weblog


照る日曇る日第1407回

「父親について語るとき」という副題のとおり、作家が彼の父親について、いつものような流暢な小説の語り口とは正反対の、どもりながら訥々と語った小冊子で、彼の文学世界とは何の関係も無い個人的な話だと思うが、なかなか興味深い人物だと思った。

ところで村上春樹は好んでこの「何ナニをするとき何々する」という言い方をするようだが、「犬が西向きゃ尻尾は東」みたいで、妙にカッコつけてるだけの無内容なフレーズだから「父親について語る」にしてもらいたいものだ。やれやれ。

誰しも父親、特に戦争中に南京なんかに行った兵士について語るのは大いにはばかられることだと思うが、それで自伝を父と一緒に猫を夙川の香櫨園の海岸に捨てに行ったことからはじめているのは頷ける。

私なら、父が自転車で青大将を由良川に捨てに行ったところから書くだろうな。

     一条の飛行機雲なし夏の空 蝶人
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伊藤比呂美著「道行や」を読んで

2020-05-24 13:39:59 | Weblog


照る日曇る日第1406回

アメリカから帰国してからは故郷熊本と東京を往復する日々の道行とその都度ののるかそるかの言動と物想いを書きつづった詩人のエッセイで、けっこう気軽にツラツラ書き飛ばしてきた文章が、突然終始するところがちょっと詩的である。

「Hey,you bastards! Im still here!」(ちくしょう、あたしはまだ生きてるんだ。)という副題がついているが、これは映画「パピヨン」で大海原から脱出しようとするスチーヴ・マクイーンが叫ぶ言葉で、その「I」を伊藤さんは「あたし」と叫んでいるわけだ。

彼女は東京では大学生に文学を講じているようで、その慣れない授業の実態がありのままに書かれていて、なんか大変そうである。

阿呆莫迦もいれば優秀な生徒もいる大教室やゼミで、教壇から喋るのはまあいいとしても、シラバスをこさえたり、それにふさわしい内容をでっちあげたり、毎回設問したり、それにいちいちリターンしたり、試験問題をこさえて何百枚というそれを徹夜で採点したりする労苦は、いくらギャラが良くって、彼らに対する愛情があっても、一度やったらもう沢山な労働で、私なども何回Hey,you bastards! Im still here!と叫んだことか分からないずら。

アベノマスクまだ来ないけどその経費アベの事務所で負担するべし 蝶人
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新型日本春歌考

2020-05-23 10:32:59 | Weblog
これでも詩かよ 第285回


ひとつ出たホイの ヨサホイのホイ
一人静と やるときにゃ
義経亡きあと せにゃならぬ
ホイ

ふたつ出たホイの ヨサホイのホイ
不要不急で やるときにゃ
自粛しいしい せにゃならぬ
ホイ

みっつ出たホイの ヨサホイのホイ
民族主義者と やるときにゃ
日の丸掲げて せにゃならぬ
ホイ

よっつ出たホイの ヨサホイのホイ
シンゾー夫人と やるときにゃ
桜の森で せにゃならぬ
ホイ

いつつ出たホイの ヨサホイのホイ
コロナ娘と やるときにゃ
アベノマスクで せにゃならぬ
ホイ

むっつ出たホイの ヨサホイのホイ
ムカデ娘と やるときにゃ
ムヒを塗り塗り せにゃならぬ
ホイ

ななつ出たホイの ヨサホイのホイ
夏井先生と やるときにゃ
梅沢名人の許しを 得にゃならぬ
ホイ

やっつ出たホイの ヨサホイのホイ
ヤチマタ娘と やるときにゃ
8本おっ立て せにゃならん
ホイ

ここのつ出たホイの ヨサホイのホイ
吸血女と やるときにゃ
マスチゲン飲み呑み せにゃならぬ
ホイ

とうとう出たホイの ヨサホイのホイ
とうといおかたと やるときにゃ
テレワークしながら せにゃならん
ホイ、ホイ

 あらくれの中におさげのおみなありて外構工事も捗ると見ゆ 蝶人
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「夢は第2の人世である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」 第85回

2020-05-22 11:41:49 | Weblog


西暦2019年霜月蝶人酔生夢死幾百夜

最高権力に逆らった罰として、私は荒れ狂うゴリラの入った檻に入れられたまま、血に飢えたサメどもがうようよ泳いでいる海の中に放り込まれた。11/1

バッハについての講演会があるというので、指定された会場に定時に到着したのだが、誰一人いなかった。11/2

母国の崩壊の報に接し、恐怖を覚えた私は、これまで書き続けてきた敵国呪詛の過激な日記を焼却して、隣国に亡命した。11/3

「洋服と人世についてスピーチせよ」と命じられたが、ふぁっちょん業界からずいぶん遠ざかっているので、「そんなの無理だぜ」と思いながら、懸命にショップ探訪しているわたし。11/3

こないだ女の処へ忍んで行った時に、衿足にしてくれた接吻の快感が忘れられないので、昨夜また「してくれえ」と頼んだが、「え、もう賞味期限が切れたの」と笑うばかりで、冷たくあしらわれた。11/4

現政権の政策に対して反対し続けてきたボクだったが、金策に困じ果てて某大使から50万円借りてしまったために、友人たちからは裏切り者と指弾され、大使からは返済を求められて、ついに万事休してしまった。11/5

するとそれに見かねたヨリシゲが、ボクに100万円相当のぶんぶく茶釜を譲ってくれたので、これでなんとかしようと、地元に「なんでも鑑定団」がやってくるのを待っている次第だ。11/5

ジャーネー事務所の管理体制の強烈な締め付けに逆らって、私は個人的クーデタを企図していたのだが、私の担当マネージャーの女子が、それによって蒙るであろう致命的な被害と虐待を思うと、なかなかそれを決行できないでいた。11/6

皆が役場に集まると、村長が52枚のトランプを並べて、「皆の衆、お好きなカードを選びなはれ。取ったその数字が、今年の年貢の数じゃ」と言うたが、誰一人手を出さなんだ。11/7

私は夜中の12時半に出発する京急バスを待っていたが、流れ者に交じって諸国一見の放浪の旅に出てしまえば、可愛い女房子供はどうなるのだろう?という一抹の不安が、胸中から消え去ることはなかった。11/8

大きな蝶が飛んでいたので、ジャンプ一番捕まえたが、ふと上空を見上げると、アパートの窓から、2つの首つり死体が風にぶらぶうらと揺られており、そのひとつは、なんと私だった。11/9

妻に近寄って下手な冗談をいう男がいたので、私はいきなり殴り倒し、起き上がってくるところに膝蹴りをして、やっつけたつもりでいたが、そいつは、明らかに私よりも強そうなので、これからどのように決着をつけようかと戸惑っていた。11/9

大学のゼミにおける私のテーマは、何もしないで戸外をぶらぶら歩きする「東京散歩」という脱力系なのかなぜか人気があって、毎年大勢の学生が希望するので、うれしい悲鳴を上げている。11/10

大きな沼に不気味な生き物が棲んでいるというので、20名の部下を潜水させ、沼に垂らした20本の糸を一手に握りしめているのだが、いきなり水中に部下もろとも吸い込まれてしまう危険があるので、おさおさ警戒を怠らないようにしているのだ。11/11

散髪屋で髪を切ってもらい、頭を洗ってもらい、髭を剃ってもらったところで、財布を持っていないことに気づいて、えらく焦っているわたし。11/11

大晦日なのに新作CMの制作打ち合わせが入ったので、取り合えず会社を飛び出してTYOのキムラ氏の事務所へ急いだが、町は「ええじゃないか、ええじゃないか」の阿呆莫迦踊りの群衆に満ち溢れていて、一歩も進めない。11/12

私らは大望を胸に懐いて決起したものの、丹波地方を治める波多野氏の強力な武装兵に阻まれて、京への進撃の道を突破することができないでいた。11/13

敵は我が軍勢を一撃の元にほふったが、なぜか私の小隊だけは殲滅しないので、部下の「青くん」、「赤くん」を偵察に出したら、私らを鮎の友釣りの見せ鮎にして、友軍を引きずり出す餌に使おうとしていると分かった。11/13

工場で時間ぎりぎりまで働いていた私は、社食で食べ放題のスイカが殆ど残っていないので頭にきて、「お前たちはろくろく働かないのに、俺の大好物のスイカを全部喰うてしまった。絶対に許さないぞ!」と見栄をきったが、誰も聞いてはいなかった。11/14

利害を異にする3社が、共同で立ち上げる新規ブランドのネーミング会議がもたれたが、3名の代理人が、他社の案を1対2で否決して潰しまくったので、結局何も決められずに散会したのよ。11/15

数か月の籠城虚しく、遂に明日は落城と決まった日も、城の牢番の私は、そこに新たに幽閉される人々のための大掃除を、せっせとやっていた。11/16

わいらあルンペンなんやけど、この展示会場でゴロゴロしとると、たまにデザイナーに呼ばれて、「流れ者風のモデルになってくれへんか」と頼まれることがあるさかい、ここいらでゴロゴロしとるんや。11/17

南海を疾走する私のヨットの帆には、実際に航海中に艇内に飛び込んできた飛び魚を貼付することによって表示された、巨大な飛び魚の絵が描かれていた。11/18

PCで袋と打つと袋が出てくる仕組みだが、レジに客が殺到してくるので、袋が出てくるのを待ちきれない連中が、自分で勝手に乱打しはじめた。袋、袋、袋。11/19

見た目そっくりの可愛らしい双子の男の子が、笑いながら私の顔を覗き込んでいるので、目を覚ますと、そこは今年の2月に亡くなったいうタツミ君の家だった。11/20

ギルガメッシュハイム語の原稿は、あまりにも膨大すぎて、私が家にあるプリンターとダンボール2箱分のB5用紙で印刷しても、まだまだ刷り残っていた。11/21

クレーンに乗って愛の唄を歌う、という私の短歌に感動したというて、その2人はクレーンの上でセックスしたりして、どうにもこうにも引き離せない2人になってしまった。11/22

昆虫採集などしたこともないその貴賓が、「絶滅する前に我が国の蝶を収集したい」というので、私は仕方なく私は志賀昆虫店に絹製の補虫網を買いにった。11/23

冬休みで無人の大学に毎日通ってくる学生がいるので、「あんさんなにしてはるんや」と訊ねると、「たくさん単位を落としているので、その穴埋めに自習して、その証拠をこのカセットに録音しておいて、新学期に先生に渡すんです」と答えた。やれやれ。11/24

私はカナガワ氏からパリ駐在員を命じられ、「語学も出来ない老人なのに困ったことだ、どうしよう」と迷っていたのだが、かてて加えてダブル勤務の学校からもEU駐在員に任命されたので、もうこうなったら彼の地で骨を埋めようと悲壮な決意をした。11/25

私はクライアントの指名により、コオタロウと組んでCMの企画とコピーをいやいや担当したのだが、営業が見積書を持っていくと、私らのギャラのあまりの高さに驚いて、「やはりコオタロウは止めにしてくれ」と頼んできた。11/26

世界一高く、遠くまで飛ばせるロケットの開発を目指していた私だったが、「そんなに闇雲に頑張らなくとも、テキトウなとこまで飛べば、そこからもう一度ジャンプさせるほうが安全だと」といわれて、すっかりやる気をそがれてしまった。11/27

私は歌壇の大家にメール添付で大量の短歌を送りつけたが、大家からは何の反応もなかった。感じ悪うう。11/28

人物を撮らせたらナンバーワンという噂のカメラマンが当地にやって来たのだが、あいにく人っ子ひとりいないので、一度もシャッターを押すことなく帰ってしまった。11/29

町内の青年が議員に当選したというので、彼の同級生である長男もその祝いの席に仲間たちと一緒に並んでいたのだが、彼の脳髄では選挙も当選もまったく意味がわからないので所在無げに佇んでいるところを、私が手を引いて「さあ家に帰ろう」と言うとコックリ頷いた。11/29

101歳で大往生した中曽根元首相の業績を、マスコミは大ぎょうに称えているが、あにはあらんや、国労をぶっ潰して本邦の労働運動の息の根を止めたのがこの人物であった。11/30

  樹木にも精霊宿ると知りながら我ら無惨に切り倒すなり 蝶人
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蝶人皐月映画劇場その4

2020-05-21 11:01:10 | Weblog


闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2115~24

1)ミシェル・フランコ監督の「或る終焉」
終末期の患者と寄り添う看護師をティム・ロスが好演。2015年製作のいわゆるひとつの味わい深い人世映画ずら。

2)ジョン・フォード監督の「バファロー大隊」
ありきたりの西部劇ではなく、黒人差別を扱ったユニークな法廷闘争劇で、ユーモラスな演出が素晴らしい。それはいいのだが、なんで先住民差別を払拭できなかったのだろう。やはり1960年製作の時代的限界か。

3)ロウ・イエ監督の「ふたりの人魚」
上海の泥川のように夢も希望も無い場所で無理矢理夢を立ち上げようという涙ぐましい努力がかえって痛々しい。

4)チャイタニア・タームハネー監督の「裁き」
2014年のインド映画で、反体制派の老芸人が不当な弾圧で呻吟する経過をドキュメンタリータッチで淡淡と描く。中国の民主派弾圧も酷いが、インドでもこういう有形無形の抑圧がひたひたと進行しているのだろな。「インドより日本大丈夫か?」と言いたくなる。

5)J・リー・トンプソン監督の「恐怖の岬」
グレゴリー・ペックとロバート・ミッチャムが最後は決死の肉弾対決で大迫力ずら。それにしてもミッチャム、いい役者やのう。

6)ジョージ・ルーカス監督の「アメリカン・グラフィティ」
ロン・ハワード、リチャード・ドレイファスなどが出てきてカーレースをやったり、女の子を追いかけたり、ダンス大会で踊ったりする、コッポラ製作、ジョージ・ルーカス監督による1973年の青春映画ずら。
ベトナム戦争に突入する前の古き良き1962年のアメリカの若者たちの群像、ここにあり。

7)ジャック・スマイト監督の「エアポート75」
「大空港」の続編でチャールトン・ヘストンとその恋人カレン・ブラックが手に汗握る大活躍。往年の名女優「グロリア・スアンソンも出ているぞ。しかしいきなり自家用機に衝突されたらい.おっかないわな。飛行機なんて乗らないに限る。

8)ゲリー・ジェームソン監督の「エアポート77」
2年後の続編では、油田に衝突したジャンボ機がバミューダ海に沈没してしまう。ところが驚いたことに海水は少しずつしか機内に侵入しないので、特殊部隊が機の周りに気球を取り付けて無事に浮上させてしまうのだ。凄い。でも飛行機のような危険な乗り物に乗るから、こおゆうことになるのだ。

9)デヴィッド・ローウェル・リッチ監督の「エアポート80」
今は無きコンコルド超音速旅客機が登場。謎の戦闘機に追いかけられてミサイルを何発も撃たれるが、アラン・ドロン機長の神業的操縦で難を逃れたその翌日は貨物室に悪さをされてなんとアルプスの山に胴体着陸するという一大スペクタクルパニック映画ずら。

10)オリヴィエ・ダアン監督の「グレース・オブ・モナコ」
モナコ王妃になったグレースケリーが色々苦労するが、心機一転モナコに溶けこんで対仏危機を打開し、メデタシメデタシになる話だが、これって本当なの?

コロナ禍で初めて分かったことがある不要不急がこの世の命 蝶人
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島田雅彦著「スノードロップ」を読んで

2020-05-20 11:15:35 | Weblog


照る日曇る日第1405回

パラレルワールドにいるという皇后を出汁にして、作者が小説という素材をフルに活用して繰り広げる現政権への根源的、徹底的批判の書である。

象徴天皇制を立憲君主制と読み替え、日露戦争の軍資金を米国のユダヤ系資産家から調達したことがその後の日本の命運を決定づけた、という主張にはいささか疑問符が付くが、作者がわれらの世界を覆いつくすこの「否定的現実」を、理知と理想と勇気と想像力で乗り超えようとする「蛮力」に、深甚なる敬意を捧げたい。

コロナ禍を伝えるテレビの前に座し両手を合わせ祈る人あり 蝶人
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「夢は第2の人世である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」 第84回

2020-05-19 10:49:57 | Weblog


西暦2019年神無月蝶人酔生夢死幾百夜


「こちらは某国の王女様であるが、今日から1ヶ月間お前たちと一緒に仕事をして下さることになったから、万事よろしう頼むぞ」といわれたのだが、それから1ヶ月間、私らはてんで仕事にならなかった。なぜなら王女様は全裸の美女だったから。10/1

チューターとしての私は、意外にも結構まともなことを喋ったとみえて、聴衆の中の1人の女性は、私の言葉にいちいち深く頷いていたので、私はゼミが終わってから彼女を隣の部屋に連れ込んで接吻したが、彼女がまったく抵抗しなかったので、性交しようとしたが、その時彼女に下半身がないことに気付いた。10/1

その頃の私は、毎朝例の無垢の人からの電話があるのを唯一の楽しみにしていた。その声を聞くと、なんとなく清らかな心持ちになるのだ。10/1

新米披露会に出席した私は、はじめは最後列に座っていたのだが、だんだん前の席に移動し、最後は最前列に躍り出て、出来たての新米を試食しみたが、とても美味だった。要するに、腹が減っていたらしい。10/2

電通がデベロッパーになって、高田馬場早稲田辺の大開発をするという話を耳にして、それではまた、地下鉄にただで乗ったり、学バス利用者を実力で阻止したり、半日で5万円のカンパを集めたりできるのか、とぬか喜んだりした。10/2

私は生まれて初めて芝居の演出をすることになって、役者にいろいろな指示を与え、「さあ行ってみよう!」と叫んだが、なにも起こらなかった。それもそのはずで、まだ脚本が出来ていなかったのだ。10/3

12時から試験だというので、学友諸君と一緒に教室で待機していたが、担当教官のヒラオカが来ないので、みなメシを食いに行った。30分遅れでやって来た彼奴は、「半からだと思っていた。みんな戻ってくれよ」と、泣きながら訴えたが、みな知らん顔していた。10/4

新曲の録音でスタジオに缶詰になっていたら、突然頭が痛くなった。他のミュージシャンもそうだというので、神主を呼んでお祓いをしてもらったが、全然効果がないので、結局別のスタジオで録音することになった。10/5

曾祖父なんか知らないけれど、祖父と祖母が死んで、父と母が死んで、伯父伯母叔父叔母みんな亡くなって、私ひとりが取り残された。10/6

私の名前が、私が作製した文書からことごとく失われたので、2台のパソコンと3個の外付けHDDの中を大捜索して、なんとか見つけ出そうとしているところだ。10/7

お昼にランチを食べようと、会社からかなり離れた定食屋に入ったら、私の課のY嬢が、営業部の男たちに交じって女一人でサンマを食べていて、「お前はどうして自分の仲間とメシを食わないでここに来るんだ」と聞かれて「ほっといてよ」とそっぽを向いていた。10/9

台風の被害に遭った私の寺は、軍の移動テントのすぐ傍にあったので、兵士たちはすぐに修復してくれた。10/10

「家族A」は「家族B」に対して、かつて天人許すべからざる残虐行為をなしたことがあったので、しばらくは慙愧の念から大人しくしていたが、しばらくすると何事も無かったかのような顔をして、傍若無人に振る舞うようになってしまった。10/11

5000行に及ぶ彼の大長編詩の冒頭は、「それから私は」という言葉だった。10/12

諸君、喝采し給え。若き天才建築家の登場だ。10/13

ボクは、毎晩世界のラグビー選手が集る居酒屋で呑み食いしていたので、段々彼らの強さの秘密について知るようになっていった。10/14

ストックホルムだか、ヘルシンキだかで、母が列車に乗っている、という情報に接したので、急いで追いかけたのだが、ついに見つからず、返す返すも残念だった。10/15

私の職場では、怒り狂った社員が、朝から晩まで滅茶苦茶に電話を掛けまくるので、煩くてたまらないが、私だけ何もしない訳にはいかないので、取り敢えず5か所に電話した。10/16

障碍者の親の会の打ち合わせに、どういう風の吹き回しか、成人後見人を名乗る男が登場し、自分がその後見依頼者ともども仏蘭西に行った折りの話をベラベラしゃべり出したので、皆の顰蹙を買った。10/17

初めて中国を訪問したら、周恩来首相が3千年の過ぎ来し行く方を懇切丁寧に解説してくれたが、その言い方では、過去から現在までの道行が絶対化されてしまうので、現政権に対する批判が出来なくなってしまう危険がある、と思った。10/18

もういいだろう、と思って外に出ると、例の男の子と女の子が、私を捕まえて、どこにも行かせてくれないので、私はエンエンと泣いた。10/19

私たち6人兄妹は、3人の伯父叔父の家に別々に引き取られて、お互いに会うことも無く育ったが、半世紀ぶりに再会したら、それぞれが能や歌舞伎や文楽の歌舞音曲にかかわる仕事をしていたので驚いた。10/20

「机の上の余分な物は全部捨ててください」と言われたが、昔の手帳だけは捨てられなかった。10/21

夜の11時から、池袋のスカラ座で試写会があるのだが、山手線が駅の手前で止まってしまい、焦りまくっている私。しかし、池袋にスカラ座なんてあるのだろうか?もしかして新宿の間違いではないのだろうか?10/22

ふと気がつけば、万人が万人に対する戦争の時代に入っていたので、及ばずながら、私も武装したのだった。10/23

インフルエンザからセキリ、エキリ、コレラ、エイズまで、何にでも効く万能予防注射が発明されたので、全国民が皇居前広場に集まって、「早く注射しろ!」と叫んでいるが、希望者があまりにも多く、長蛇の列になっている。10/24

オレが、ブッシュにからまったPCを探していると、5時から6時ごろに、不意を突いてオレをやっつけようという僚友たちのひそひそ話が、耳に入ってきた。10/25

原住民たちが、思いがけず我々に反抗したので、私は部下に対して、全員から武器を取り上げ、抵抗するようなら、即銃殺するよう命じた。10/27

昨日エイギョウから依頼があって、なんたらかんたらフェアをやるので、その製作物を、という話だったので今朝シゲハラ印刷の担当者に来てもらったのだが、それを具体的に詰めようとしても、なんたらかんたらの実態が分からないので、手のつけようもないのだった。10/28

世界の終りが迫っていた。私は妻と一緒に電子辞書だけ持って、着のみ着のまま裏山に逃げ出し、「世界名言集」を検索しながら遺言を考えていたのだが、突然辺りは真っ暗闇になり、液晶も切れた。それが世界が終った瞬間だった。10/29

バルカン半島の緩衝地帯で衝突があり、現地駐在の日本大使館が「日本資本主義」という旗印を掲げていたので、私は急遽「日本国憲法」に差し替えた。10/30

ソロス君は、自分の子飼いの部下を、破格の高給で、自分が管理運営する秘密プロジェクトのメンバーに任命して、ますます実権を積み重ねていった。10/31

  家居して森鴎外を読みおれば澁江袖斎も虎列拉で卒す 蝶人
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岩波版「鴎外全集第16巻」を読んで

2020-05-17 13:12:43 | Weblog


照る日曇る日第1402回

大正3(1914)年から5(16)年にかけて執筆、発表された創作13篇、翻訳2篇を納めています。鴎外は大正11(22)年に60歳で卒していますから、「高瀬舟」「寒山拾得」「津下四郎左衛門」「最後の一句」、リルケの珍しい戯曲「白衣の夫人」、P・ブルジェの仏語訳「鑑定人」など、その晩年の心境が色濃く吐露された作物というてもよろしいでしょう。

されどなんというても一番の大作は、大正5年に119回にわたって現在の毎日新聞に連載された長編史伝「澁江抽斎」で、それが最終回を迎えた5月13日の13日後に、夏目漱石最後の未完の小説「明暗」の連載が、朝日新聞で始まったことになります。

さて鴎外が、なぜ江戸時代末期の青森藩の医者、澁江抽斎(1805-1858)に興味を懐いたかというと、それは彼自身が述べているように抽斎が本業が医師であるだけでなく、歴史、哲学、文学、考証、歌舞音曲にも広範な知識と好奇心を燃やした、少しく時空を超えた同好の士であったからでしょう。

鴎外は恐るべき博識と人的ネットワーク、寺社仏閣への掃苔などのフィールドワークを最大限に生かしながら未知の史実へのリサーチを敢行し、舌なめずりするように澁江抽斎の事績と人となり、さらに抽斎死後の後日談「壽阿彌の手紙」など末裔の末の末の行方までも、細大漏らさず記録していくのです。

そしてそのハイライトは武装した3名の刺客に襲われた抽斎を、「口には懐剣を銜へ、僅かに腰巻一つ身に著けたばかりの裸體」の、入浴中だった妻五百(いお)が、賊に熱湯を浴びせて救うという、まるで往年の東映映画のような眩い光景でしょう。

抽斎は様々な事情で4たび妻を迎えましたが、怜悧にして武芸を嗜む年下の美貌の妻を、安政5年に大流行したコロナ、ならぬコレラで急死するまで、生涯にわたって愛し続けました。

本巻に収録された「じいさんばあさん」にも、伊達騒動で被害を被った老夫婦の長い晩年が記述されていますが、これらの伴侶の理想の姿を描きながら、鴎外はもしかすると、若き日に涙を呑んで別離したあの「舞姫」のヒロインとの、もしかしたらありえた幸福な生涯について夢想していたのかもしれません。

ケンくんが母に贈りしカーネーション紅いお花が次々咲くよ 蝶人
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蝶人皐月映画劇場その3

2020-05-16 11:15:02 | Weblog


闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2105~14


1)ガス・ヴァン・サント監督の「追憶の森」
妻に死なれて絶望し青木ガ原樹海で自死するためにやって来たアメリカ人の前に出現した渡辺健は夢か現か幻か?欧米キリスト教徒がみる「アジア仏教徒の不思議な霊的世界」というよくある視点がいささか気になるずら。

2)メル・スミス監督の「ビーン」
さえない美術館員ローワン・アトキンスが、思いがけず大活躍してしまうお馴染みビーンもの。しかしホイッスラーの名画を台無しにしてしまい、そのかわりにポスターとすり替えたら、誰でもすぐに気がつくのではないかいな。

3)オリヴァー・パーカー監督の「ジョニー・イングリッシュ気休めの報酬」
ご存じビーンのローワン・アトキンスが「007」に扮して超ドタバタの大活躍だが、プーチンそっくりの詰まらん役者が出てくる本物の「007」よりこっちのほうがよっぽど面白いずら。

4)五所平之助監督の「大阪の宿」
大阪に左遷され宿に入った保険会社のリーマン佐野周二を取り巻く女たちの群像を快適なテンポで鮮やかに浮き彫りする五所平之助の腕の冴えは瞠目に値する。とりわけ芸者うわばみに扮した乙羽信子の美しく愛らしいこと!

5)今村昌平監督の「復讐するは我にあり」
捜査陣をきりきり舞いさせながら5名の連続殺人をやらかした凶悪犯の半生を描く。緒方拳が怪演しているが、題名は内容と合わない。それにしてもやまゆり園の植松が殺したのは無抵抗の19名、26名に重軽傷を負わせているのだから比較にならない悪辣無惨な犯行だ。

6)デルマー・デイヴィス監督の「折れた矢」
先住民の視点から白人の横暴を描いた珍しい1950年製作の西部劇。主人公のJ・スチュアートとアパッチの酋長ジェフ・チャンドラーの友愛がうるわしい。薄幸の死を遂げる可憐なヒロイン、デブラ・パジェットは健在ずら。

7)デヴィッド・リーン監督の「オリバー・ツイスト」
ディケンズの小説の2回目の映画化。英国で1943年に撮影された。悪役フェイギンをアレクギネスが演じているが、役者、演出ともども見事な出来栄えで文句なし。

8)トッド・ブラウニング監督の「怪物團」
1932年製作の恐るべき勧善懲悪アメリカ映画。舞台はサーカスであるがサーカス場面は出てこない。美貌の軽業師が自分に恋した小人を食いものにしたので、小人症、下半身損傷、両手両足喪失男、シャム双生事、半陰陽、骨人間、小頭症などのフリークスが一致団結して悪女に復讐。下半身の無い障害者にしてサーカスの見世物にしちまう。障害者を差別するとこういうことになるのだ。植松、分かったか。

9)岸善幸監督の「あゝ荒野」
昔から潜水艦映画と拳闘映画に駄作は無いが、これは寺山修司の小説を原作に自由に逸脱・発展させた素晴らしい拳闘映画。主演の菅田将暉、ヤン・イクチュン、助演のユースケ・サンタマリの名演。そして前篇、後篇の長丁場を一瞬のたるみを感じさせることなくラストまでぶっ飛ばす岸善幸の快調なメガフォン。この監督の実力は明らかに同期の是枝選手の上を行くものだ。

10)ケヴィン・レイノルズ監督の「ウオーターワールド」
エラ人間に扮したケヴィン・コスナーが海を舞台に大活躍。1995年製作の大金をつぎ込んだ大掛かりな海洋冒険ドラマなり。全然期待していなかったけど結構面白かった。

ユニクロに一歩先んじSPAに転換せざるが敗因でRか 蝶人
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