あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

岡松和夫著「断弦」を読んで

2023-06-30 09:47:27 | Weblog

 

照る日曇る日 第1917回

 

最近、ハーンやダウスン、マッケンのみならずブラックウッドなどの怪談怪奇小説の翻訳で人気が出て来た翻訳家、平井呈一の数奇な運命を描いた直木賞作家の伝記小説である。

 

浪漫派やマイナーポエト大好きの平井選手は、芥川を去って志賀直哉に走った瀧井孝作のように、佐藤春夫から心酔する永井荷風の元へ赴き、忽ちにしてその信を得たが、勝手に師匠の筆跡を真似た偽作を捏造しては古書店で換金したので、その咎を戦後の小説で針小棒大に暴かれたために文壇、出版界から白眼視され、彼がそのダメージから回復することは終生に亘って遂に無かったと言えるだろう。

 

 そんな「罪人」の親類の女性を妻とした岡松選手だったが、だからというて平井をおとしめたり、もとあげたりすることのもなく、冷静沈着に主人公の生き方を淡々と描いていくので、それが“大人の”文学としての静かな感銘をもたらすのである。

 

  横書きの短歌の本を贈られて喜ぶ歌詠みはひとりもおるまい 蝶人

 

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西暦2023年水無月蝶人映画劇場その6

2023-06-29 17:50:12 | Weblog

 

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3338~42

 

、1)ジョナサン・モストウ監督の「ザ・ボディガード」

娘を殺すはずだった殺し屋が、だんだん娘に同情するようになるが、娘を守るどころか、娘に助けられえ、九死に一生を得る2017年のお噺。

 

2)マックス・オフェルス監督の「快楽」

モーパッサンの「3つの小話」を1952年に映画化。ギャバン、ダリューなど往年の名優が出るが、途中で「これぞ仏蘭西文学、これぞ仏蘭西映画」てふ得も言われぬ“映画的陶酔”に襲われる奇跡の名画なり。

 

3)アンドリュー・マーチン監督の「ザ・カプセル」

2015年の英国製宇宙映画。殆どがカプセルの内部の宇宙飛行士の独白だけでドラマを成立させると言う演出の力量には驚くが、ほんとに米ロに先駆けて英国が探査船を飛ばし、ソ連の謀略で行方不明になったかは謎ずら。

 

4)ピーター・ハイアムズ監督の「ダウト 偽りの代償」

フリッツ・ラングの法廷ものサスペンスの2009年のリメイク。悪役検事にマイケル・ダグラス。ラストのにどんでん返しあり。

 

5)ジェーン・カンピオン監督の「ピアノ・レッスン」

昔みたときに斧で指が切断されるおぞましさに堪えられなかったが、陰鬱なドラマが陽転してなんとハッピーエンドで終わったのでびいくらぽん。いくらなんでもトーンが違いすぎるずら。

 

   包丁を1本晒しに巻きながらキャンパスを行く男がひとり 蝶人

 

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ミロより優しく、ゴッホより激しく、ピカソより純真 『佐々木眞詩歌全集』

2023-06-28 15:20:17 | Weblog

西暦2023年水無月蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第417回

 

本日より全国の書店、アマゾンにて一斉発売中。書店に無い場合はすぐにお取り寄せ致します。

 

   本日はわが全集の発売日 どこに並ぶか知らないけれど 蝶人

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西暦2023年水無月蝶人映画劇場その5

2023-06-26 16:19:20 | Weblog

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3333から37

 

1)ウィリアム・サイター監督の「ルーム・サーヴィス」

マルクス兄弟が活躍する1937年のコメディだが、チットモ面白くないずら。

 

2)ミケル・ノルガード監督の「特捜部Q 檻の中の女」

ユニークでエキセントリックな刑事が忘れられた犯罪事件を見事に解決するまでの苦労を描いた2015年デンマーク製のサスペンス映画なり。

 

3)ルネ・クレマン監督の「鉄路の闘い」

ナチによるフランス占領時代の鉄道員のレジスタンス闘争を名匠が1946年にドキュメンタリータッチでリアルに描く。

 

4)テッサリ監督の「ビッグ・ガン」

1975年のドロン主演の任侠映画。ヤクザから足を洗おうとしたら妻子を虐殺されてしまったドロンが次々に復讐していくが、最後に脇が甘くなったところをズドンんとやられ哀れを催す。

 

5)フローリアン・レゼール監督の「ファーザー」

認知症を患った高齢者の世界を映像化し、名優アンソニー・ホプキンスが、人間の本質をえぐった、哀切極まりない2020年の叙事詩。

 

    夢に見た我の詩集が世に出たり16回の校正を経て 蝶人

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鎌倉市川喜多記念映画館で「東京画」をみて、トークショーをきいて

2023-06-25 12:38:47 | Weblog

 

蝶人物見遊山記第370回&鎌倉ちょっと不思議な物語第447回&闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3333

 

土曜日の午後、梅雨の晴れ間に開かれた映画鑑賞会に出かけてヴィム・ヴェンダース監督の「東京画」を見物し、その後の川喜多和子さんを偲ぶトークショーに出演された映画評論家の齋藤敦子さんと対面することができました。

 

齋藤さんはカンヌ映画祭とヒマラヤ登山の常連の優れた映画評論家であり、小説、戯曲等の翻訳家であり、ケン・ローチやキアロスタミ監督等数多くの映画の字幕製作者として著名な実力者ですが、むかし川喜多和子さんが宣伝部長を務める柴田駿社長のフランス映画社のスタッフだったのです。

 

思えば、今を去る1985年の大昔、柴田社長の厳命を受けた齋藤選手が、リーマン時代の私のデスクに「ゴダールのテレビCMを撮ったって本当?」という電話をかけてきたときこそ、我々の運命的な出会い?の瞬間でありました。

 

それはさて措き、ヴィム選手が崇拝する小津安二郎監督へのオマージュとして捧げられたドキュメンタリー映画「東京画」は、「東京物語」のタイトルから始まり、尾道のあの感動的なラストシーンで終わりますが、その実質は1983年に撮影され、1985年に完成したヴェンダース監督手作りの東京旅日記です。

 

そこには初代の新幹線、パチンコに嵌ったリーマン、ゴルフ場で練習する旧OL、代々木公園のローラー族などが、今は亡き亡霊のように立ち迷いながらコラージュされ、おらっち、その懐かしさと虚しさに、胸を衝かれるような思いが致しました。

 

さはさりながら、全篇を通じてもっとも感動的だったのは、小津映画とほぼ全航路工程を共にした名カメラマン厚田雄春の思い出噺で、私は彼の「小津命」の純情に、思わず涙したことでした。

 

 「コウさんによろしくね」とサイトウさん コウ君も有名になったね 蝶人

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游珮芸脚本・周見信画・倉元知明訳「台湾の少年3 戒厳令下の編集者」を読んで

2023-06-24 09:20:43 | Weblog

游珮脚本・周見信画・倉元知明訳「台湾の少年3 戒厳令下の編集者」を読んで

 

照る日曇る日 第1916回

 

いわれなき弾圧でおよそ10年間、白色テロの弾圧によって、政治思想犯収容所の緑島の生活を余儀なくされていた1930年生まれの主人公、蔡焜霖が、1960年ようやくシャバに出てきて、獅子奮迅の大活躍を演じる、60年9月から69年末までの暮らしぶりを活写している。

 

この「失われた10年」を取り戻すべく、われらが主人公は、まず日本製の漫画の翻訳と編集を手掛けた後に児童雑誌「東方少年」で働き、ついで漫画専門の出版社「文昌出版」を立ち上げ、その名を台湾中に知られるようになりますが、いったんスパイの嫌疑をかけられた蔡焜霖への当局の監視と干渉が止むことはありませんでした。

 

ついに漫画の検閲を開始した当局に抗すべく、主人公は講談社や小学館の学習雑誌を手本に漫画の比重が少ない隔週週刊誌「王子」を発売し、空前のベストセラーとなる。

 

それはある意味では、少年時代から国家権力に徹底的に抑圧された蔡焜霖の、ささやかな反撃であったともいえるだろう。

 

  わが歌集を奥村晃作さんに読んでもらえこんなにうれしいことはなかった 蝶人

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西暦2023年水無月蝶人映画劇場その4

2023-06-23 11:19:13 | Weblog

 

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3327~31

 

1)ティエリ・ビニスティー監督の「もういない」

娘を殺された母親の悲しみと苦しみを描く2016年のフランス映画。最後に意外な人物が犯人だったと分かるのだが虚しいね。

 

2)ロバート・バドロー監督の「ストックホルム・ケース」

「ストックホルム症候群」の元になった事件を描いた2018年の奇妙な映画・。

 

3)イーライ・ロス監督の「デス・ウィッシュ」

74年にブロンソンが主役を演じた「狼よさらば」の2018年のリメイクで、ブルース・ウィルスが妻子を殺された復讐鬼を嬉々として演じる。

 

4)イルディコー・エネェディ監督の「心と体と」

2017年の幻想的なハンガリー映画。それにしても同床異夢ならぬ異床同夢の男女なんて存在するのだろうか?

 

5)山本芳久監督の「日本統一」

元宮泰風&山口祥行主演に拠る2013年から現在までの大河任侠物語。もう何本みたか忘れたが、きっと山口組の創始と発展、全国制覇を念頭に置いた連作シリーズなのだろうが、もはやどれもこれも同じパターンなので見物は打ち止めとする。

 

   夏来れば思い出すのはスプライト山岡久乃のテレビCM 蝶人

 

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椎名誠著「失踪願望。コロナふらふら格闘編」を読んで

2023-06-22 10:01:56 | Weblog

椎名誠著「失踪願望。コロナふらふら格闘編」を読んで

 

照る日曇る日 第1915回

 

私とほぼ同い年の著者は、私と同じ頃にコロナに罹ったようだが、その「感染記」を読んでみると、その症状は酷かった私よりもっと酷かったようだ。

 

意識不明で病院で救急車に担ぎ込まれたところをみると、シーナ選手は危く死にかけており、よくも助かったものだ。

 

世界中の政権、とりわけ日本政府が、新型コロナの恐るべき被害を覆い隠し、もはや今次のパンデミックが終焉したかのような幻想を振り撒いているが、おっとどっこい、コロナは生きて、次なるメルクマールめがけて、秘かに毒牙を磨いているのだ。

 

シーナも今回は、賢明なる愛妻イチエさんの懸命の介護で、九死に一生を得たけれど、迫りくる「第9波」の来襲を、うまく避けられるだろうか?

 

いや避けられないだろう。でも大丈夫、マイフレンド。

その時キミは、長い間の念願の「失踪願望」を、見事に達成できるのだから。

 

おっと本書の感想を忘れるところじゃったが、挿入された写真と山田太一についての記述が殊の外素晴らしい。シーナが「なぜ寅さんをシネマスコープで撮るのか?」と訊ねたら、この日本一の名監督は、「これだと近景、遠景、その中間の3人の人物を、ワンカットで捉える事が出来るんです」と答えたという。

 

オバハンが2人いちゃいちゃ話していたら撃ち殺されるぜニッポン・チャチャチャ 蝶人

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大宅世継作詞・夏山繁樹作曲による詩篇交響曲第8番『雄大なる楽天』

2023-06-21 10:35:34 | Weblog

大宅世継作詞・夏山繁樹作曲による詩篇交響曲第8番『雄大なる楽天』

 

これでも詩かよ 第300回

 

1「ズビズバー、パパパヤー」~2019年トランプ・ヴァージョン原典版*

 

カツオ「ねえねえ、NHKってまた偽ニュース流したんだって?」

のび太「へええ、ほんとかなあ。誰が言ってるの?」

しずか「トランプさんよ」

くまモン「でもあのひと、偽大統領なんだよ。知らなかった?」

シャイアン「へえー、そうなんだ」

トト子「安倍さんも偽総理大臣なのよ」

おそ松「へえー、そうなんだ。知らなかったなあ」

ワカメ「ISって、偽イスラム国のことでしょ?」

サザエ「そうよ。満洲国も偽満洲国なのよ」

イクラ「バブー」

イヤミ「ところで、あんた、誰?」

チコ「あらま、わたしのことを知らないの。ボーっと生きてんじゃないよ」

ガチャピン&ムック「こいつ、偽チコちゃんさ」

チコ「平成が終わったら、あんたらは死ぬといい。あんたらの死は近いぞ」

伴淳「アジャパー!」

アチャコ「滅茶苦茶でごじゃりまするがな」

黒柳徹子「チコちゃん、あーた、そんなひどいこと言うと、死んでも『徹子の部屋』で追悼してあげないわよ」

左ト伝「ズビズバー、パパパヤー、やめてケーレ、ゲバゲバ」**


 *『佐々木眞詩歌全集』(らんか社)p18
 **『老人と子供のポルカ』     
 https://www.youtube.com/watch?v=LZZk0tP49H8
 作詞作曲/早川博二 歌/左ト伝とひまわりキティーズ

 

 

2「フェイクニュース」~2022年プーチン・ヴァージョン改訂版***


カツオ「ねえねえ、NHK ってまた偽ニュース流したんだって?」

 

のび太「へええ、ほんとかなあ。誰が言ってるの?」

 

 しずか「プーチンさんよ」

 

 くまモン「でもあのひと、偽大統領なんだよ。知らなかった?」

 

 シャイアン「へえー、そうなんだ」

 

 トト子「キシダさんも偽総理大臣なのよ」

 

 おそ松「へえー、そうなんだ。知らなかったなあ」

 

ワカメ「I Sって、偽イスラム国のことでしょ?」

 

サザエ「そうよ。満洲国も偽国家なのよ」

 

イクラ「バブー」

 

 イヤミ「ところで、あんた、誰?」

 

 チコ「あらま、わたしのことを知らないの。ボーっと生きてんじゃないよ!」

 

 ガチャピン&ムック「こいつ、偽チコちゃんさ」

 

 伴淳「アジャパー!」

 

アチャコ「滅茶苦茶でごじゃりまするがな」

 

黒柳徹子「チコちゃん、あーた、そんなひどいこと言うと、死んでも『徹子の部屋』で追悼し てあげないわよ」

 

中町綾「アセアセ」

 

 

 ***『佐々木眞詩歌全集』(らんか社)p126

 

3「それいけ!自由で開かれたインド太平洋」~2023年異次元男ヴァージョン最新版

 

 

カツオ「ねえねえ、NHKって、また偽天気予報流したんだって?」

 

のび太「へええ、ほんとかなあ? 誰が言ってるの?」

 

しずか「コウ君よ。大雨と落雷で電車が停まるというから早引けしたら、快晴になったんだって」

 

くまモン「でも、もっとひどいのは、この国の首相だよ。『なにゆえに異次元男を罷免しない公私混同の最右翼なるを』という狂歌を詠んだ人がいるそうだけど、その通りだよね」

 

おそ松「あの人、金庫にお金もないのに、『ミサイル買いたい、ミルクも欲しい』と叫んでる。無節操で、無定見、まるで<怪人ダヨン面相>みたいだよん」

 

チコ「あの人、偽総理大臣なんだよ。知らなかった?」

 

チョロ松「ジェ、ジェ、ジェ、そうなんだ」

 

トト子「<チャットGPT>を濫用しすぎると、大脳前頭葉がいつの間にか<「スマホチャットGPT脳>に変態して、その人間は<世界AI一家日本支部>の子分になってしまうのよ」

 

カラ松「へええ、そうなんだ。知らんかったずら」

 

ワカメ「『なにゆえに原発運転を延長するフクイチ再来が必要なのか?』という短歌を詠んだ人もいるそうだけど」

 

イラク「バブー」

 

一松「そういえば、『なにゆえに保険証を廃止する廃棄すべきはマイナカード』という歌もあるよ」

 

サザエ「真面目にちゃんと働いている保険証を用済みにして、欠陥だらけのマイナカードをアメとムチで強要したり、危険な原発を停止するどころか、勝手に長期運転に切り替えたり、こっそり新設計画を練るなんて、とんでもない話だヮ」

 

マスオ「<入管法>を改悪はしても改善するつもりなどさらさらない異次元内閣。その胸の奥にあるのは、どうあっても<とつ国びと>を<神国>に侵入させたくない、という封建的な島国根性なんだね」

 

波平「彼らは、いったんは超党派で合意したLGBT法案を、党利党略でちゃぶ台返しにしたりするんじゃ」

 

フナ「『なにゆえにそんなに急いでどこへ行くマイナ原発LGBT』という狂歌もあるそうだけど、まったくあの人たちは、いったいどういう了見で、あたしたちを、どこへ連れて行こうとしてるんだろうね?」

 

チコ「そりゃ<自由で開かれたインド洋>に決まってるじゃない!」

 

イヤミ「ところで、あんた誰?」

 

チコ「あらま、わたしのことを知らないの? ボーっと生きてんじゃないよ!」

 

ガチャピン&ムック「こいつ、偽チコちゃんさ」

 

黒柳徹子「偽者でも本物でもいいけれど、アタシが心配なのは、いつの間にか悪者扱いになっている市川猿之助選手。一日も早く『徹子の部屋』にやってきて、謎の一家心中事件の真相を、キチンと自分の口で説明してほしいな」

 

タラオ&タマ「そうだ、そうだ、そうだニャア」

 

   米国の下僕としての政権に寄り添うお前は奴婢奴婢の奴婢 蝶人

 

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内山りゅう著「ウナギのいる川いない川」を読んで

2023-06-20 11:17:07 | Weblog

照る日曇る日 第1914回

 

近所の滑川には昔から天然ウナギが棲んでいたので、見つけた順にウナタロウ、ウナジロウ、ウナサブロウ、ウナコ、ウナシロウ、ウナゴロウ、ウナロクロウと命名して歌に詠んだり、詩を書いたり、童話に登場させたりして感情移入し続けてきたが、地元の阿呆莫迦連中が罠を仕掛けて捕まえてはカバヤキにしてしまったので、今では夜、懐かしのあの淀みに行っても彼らの姿は描けも形も見えなくなってしまったので、仕方なく偶々図書館で見つけた本書を読んで、自分を慰めている。

 

ウナギの生態を明らかにしながら、沢山の写真が掲載されていて楽しく、勉強にもなる本だが、左に天然自然の屈曲と美麗な景観を湛えた「ウナギのいる川」、右側にコンクリートの壁でがっちり固めた水路のような「ウナギのいない川」を並べた見開きを一瞥した私は、昔々民主党が政権を奪取したときのスローガン、「コンクリートから人へ」を思い出し、あれは決して間違いではなかったことを今更ながら痛感させられていた。

 

ウナギのいる川は、人間がいる生きた川なのであり、ウナギのいない川は、人間がいない死んだ川なのである。

 

 「このヒルガオとても可愛いね」と奥村さん 八十七を共に祝わん 蝶人

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村上春樹・文 安西水丸・絵「ふわふわ」を読んで

2023-06-19 11:13:05 | Weblog

村上春樹・文 安西水丸・絵「ふわふわ」を読んで

 

照る日曇る日 第1913回        

 

既に何かと定評のある黄金コンビによる絵本ずら。

 

巻頭、「世界中の猫の中で、年老いた大きな雌猫がいちばん好きだ」と断言する村上選手の詔に沿って、安西選手が縷々説明的なイラストをつけているのだが、なぜかどこまで行っても、あまり面白くない。

 

それは、必ずしも村上選手がまつがったことをいうておるからではなく、あれこれいろんな言葉を付け加えても、要するに「年寄り雌猫大好き宣言」を大きくはみ出すような噺は皆無であり、「上に文章、下にイラスト」というレイアウトが、意外に平板で詰まらない、という事情もあるのだろうが、安西選手の挿絵も、意外なほどに生彩を欠き、よほどの猫好き、黄金コンビ好き以外は、あまり楽しめない結果に終わったのは残念至極でありましたあ。

 

  巨人さえ 負ければその日は ご機嫌さ たとえ世界が 崩壊しても 蝶人

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橋川文三著「増補日本浪漫派批判序説」を読んで

2023-06-18 10:51:13 | Weblog

 

照る日曇る日 第1912回

 

大昔にちょっと覗いた本を、もう棺桶に片足を突っ込んでからまたちょいと眺めてみるが、さして新たな発見があるわけでもない。

 

15年戦争を総括するためにはとても重要な本であるし、なによりも名辞だけが先行していた曰くつきの「日本浪漫派」の実態を、その主要人物である保田与重郎の言行や思想を、日本浪漫派ならぬ「日本ロマン派」として初めて対象化した点にお手柄があるのだろう。

しかし私は保田を尊敬していた伊藤静雄の古典美を湛えた端正な抒情詩に感動を覚えたことはあっても、「古事記」の倭建命の挽歌「命のまたけむ人はたたみこも平群の山の熊樫が葉を髻華に挿せその子」をみても別にどうということはないし、肝心の保田の文章をキチンと読んだこともないし、またその気もないし、15年戦争を「雄大なる楽天」で臨むと称したり、帝国軍人が中国大陸で三光作戦を展開する現場に立ちながら、戦争の悲惨なリアルを、自己憐憫と自己嘲笑でまぶした「日本というイロニー」なる文学的情感に解消するような高踏的かつ反人間的精神構造に加担したいとは露思わないのであるからして、若き日に酷く浪漫によろめいた著者への共感が、乏しくなるのは止むをえまい。

 

橋川選手の文章は、読めば読むほど意味内容が混濁暗熔し、あろうことか恩師の丸山真男の論理的な明快さよりは「頽廃期の檀林俳諧風の文体」で綴られた保田選手のそれに近づいていくようだ。

 

敗戦必至と知りつつ戦争賛美を唱え続けた保田、実際に敗戦しても戦争責任のかけらも肉に喰い入ることが無かった保田よりも、万事に通暁しながら「この大戦争は一部の人達の無知と野心とから起ったか、それさえなければ、起らなかったか。どうも僕にはそんなお目出度い歴史観は持てないよ。僕は歴史の必然性というものをもっと恐ろしいものと考えている。僕は無智だから反省なぞしない。利巧な奴はたんと反省してみるがいいじゃないか。」と嘯いた同時代の小林選手のほうに、いっそ人間味を感じる私である。

 

  6点差をひっくり返されたエンゼルスでもツバメより遥かにマシかも 蝶人

 

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西暦2023年水無月蝶人映画劇場その3

2023-06-17 14:55:30 | Weblog

 

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3322~26

 

 

1)スコット・ウィンドハウザー監督の「バッド・ネゴシエーター」

2018年の交渉役大活躍のアクション映画。敵味方のはずの兄弟の出来レースとは知らんかったずら。

 

2)「ユーリ・ノルシュテイン傑作選」

1975年に出たソ連のアニメーション作家に拠る6作品だが、出来栄えはいろいろである。

 

3)クロード・オータン=ララ監督の「肉体の悪魔」

ラディゲ原作、1947年のジェラール・フィリップの出世作。妊娠したミシェリーヌ・プレールが都合よく死んでくれたから良かったものの、もし元気だったら生き地獄が待っていたろう。フィリップは36歳で夭折したが、100歳のプレールはまだ健在である。

 

4)トム・フーバー監督の「リリーのすべて」

2016年製作の「世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語、である。

 

5)北村隆平監督の「ミッドナイト・ミート・トレイン」

初めは処女の如く、終わりは脱兎のごとく物凄くなる2008年のホラースプラッタの快作。実力のある監督だ。

 

   あがいてもヤクルト無惨落ちていく戦犯村上打率は2割 蝶人

 

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舘野鴻著「がろあむし」を読んで

2023-06-16 13:18:16 | Weblog

 

照る日曇る日 第1911回

 

仏蘭西の外交官ガロアが、日光の中禅寺湖の「ガレ場」で発見して、1914年に「ガロアムシ」と命名された、体長2センチくらいの原始生物の面影を留める不思議な生態を、その他の数多くの土壌生物、洞窟生物と共に、精密に描き尽くした驚異的な生物科学絵本です。

 

我々が暮している地面の下には、暗黒多湿を好む無数の生き物たちが生活していて、それらの生態は、すなわち地上の人間生活と直結しており、多重多層の循環型ライフサイクルを構成していることが、本書を眺めていると、よーく分かります。

 

いわば絵本、生物科学書といった既成の観念を超越した、この宇宙的な書物を、都会の到るうところを開発しまくっている阿呆莫迦ゼネコン野郎どもに、ぜひとも読ませてやりたいものです。

 

  緑色のスゥエーターを着たコンドウ嬢がにっこり笑う1分天気予報 蝶人

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テルヒ・エーケボム著・稲垣美晴訳「おばけのこ」を読んで

2023-06-15 10:11:11 | Weblog

テルヒ・エーケボム著・稲垣美晴訳「おばけのこ」を読んで

 

照る日曇る日 第1910回

 

フィンランドの作家に拠る不思議な童話絵本。こころに痛手を負うたひとりの女性が人跡稀な森の中の隠れ家に暮らし始めると、いくつもの怪異な現象が起こる。

 

その森に遺棄された死体の亡霊たちは、成仏するために一条の光を求めてさまっているのだが、主人公はその手伝いをしているうちに、亡くした自分の子供のような亡霊と知り会い、共に暮らすようになる。

 

失われた時空を取り戻そうとあがく魂が繊細な感覚で描きだす、現代人の孤独の世界だ。

 

  名も知らぬ黄色い花にとまろうかそれともよすかとキチョウは迷う 蝶人

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