あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

西暦2023年皐月蝶人映画劇場その5

2023-05-31 11:08:41 | Weblog

西暦2023年皐月蝶人映画劇場その5

 

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3307~11

 

1)ピーター・ボグダノヴィッチ監督の「金星怪獣の襲撃」

巨匠に拠る1968年の原始的SF映画なり。カルトもここまでくれば立派なお芸術か!?

 

2)リ・リーミン監督の「イップ・マン宗師」

2019年の中国製阿呆莫迦カンフー映画ずら。

 

3)ピーター・ワトキンス監督の「懲罰大陸☆USA」

英国に落されたソ連の核ミサイル!1965年の偽ドキュメンタリー映画の傑作ずら。

 

4)ボルクル・シグソルソン監督の「トラフィッカー」

運び屋のヒロインがヘロインを運ぶ2018年の阿呆莫迦密輸映画ずら。

 

5)イザベル・チャイカ監督の「2発の弾丸」

2016年のフランス映画。入った泥棒を2発の銃弾で殺してしまった宝石店主の地獄への転落。

 

  月未見月はや過ぎたりと嘆きしが月末日ありて安堵す 蝶人 

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東京都美術館にて「マティス展」をみて

2023-05-30 09:23:08 | Weblog

 

蝶人物見遊山記第366回

 

「20年ぶりの待望の大回顧展」という惹句に誘われて遠路上野までおぼつかない足を伸ばす。足だけではない。実は昨夜は夜中に下痢が酷くなって、だんだん喉から吐きそうになってきたので、何度かぐあんばったのだが、吐ききれず、しばらく便器の傍でのたうち回っていたのだが、6時過ぎてからこれは2度目のコロナ感染ではないか、今日は11時半に岸本鹿歯科の予約があるから、熱があっては大変だと思って、さっきから体温計を出したり入れたりしているところだが、官民共にコロナを無視し始めてからの被害は甚大で、わが近辺でコロナ禍にあえいでいる人は無茶苦茶に多い。遠からず官民は大いなるしっぺ返しに遭うだろうから、いい気味だ。

 

それより「マティス展」の話だった。忘れるところだった。

 

マティスは昔はマチスと表記していて、そっちのほうがPCを打つのが楽だから、以下マチスにするが、今回は出所がポンピドーに偏っているきらいはあるが大小合わせて156点の出品で、かなり見応えがある。

 

コレクションは、はじめは処女の如き点描から後期印象派のセザンヌ、ゴッホ、ルノワール風、野獣主義、表現主義、象徴主義、構成主義と、さながら西洋絵画史のあれこれをつまみ食いするがごとき、激烈な作風の転換を辿るが、最後に突如「切り絵」とそのコラージュ手法に邂逅した瞬間に、マチスは、脱兎のごとく父母未生以前本来のマチスになる。

 

そこでは従来の多種多様なエチュードが、魔法遣いの巨大な釜でぐらぐら煮詰められ、その蒸留の果てに出現して来た、自由で軽快なエーテル、融通無碍な世界放下と、しかる後の世界獲得&再建の美学が、麗しくも花開くのである。

 

なお本展は、来る8月20日まで楽しく開催中。

 

わたくしをなんと言おうか「僕」ではない「俺」か「私」か「おいら」か「わし」か 蝶人

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菊岡京子著「谷の風」を読んで

2023-05-29 11:09:22 | Weblog

 

照る日曇る日 第1906回

 

「谷の風」と書いて「やとの風」と読ませているから、これは鎌倉在住の人。和紙専門店「社頭」の女主人による「かまくら小町の春秋」記である。

 

「社頭」は喧騒只ならぬ小町通りのど真ん中にあったお洒落な趣味の銘店であったが、数年前に同じ鎌倉のどこかに移転していったが、本書の著者は引退され、いまは娘さんが跡を継いでおられるらしい。

 

もっとも著者は大正10年生まれなので、もしかすると?という気もするが、確認できなかった。さて本書であるが、半世紀前の閑静な小町通り界隈の思い出や、横光利一を師と仰ぐ作家でアナーキスト詩人でもあった夫菊岡久利(1909年~70年)にまつわる書画骨董の逸話などが満載で、まことに興味深い。

 

敗戦直後の鎌倉は、現在の国宝級、いなのちに国宝に認定された大雅や鉄斎や光琳や「のんこうの茶碗」などがむさくるしい骨董屋の店先に無造作に並んでいて、久利は毎日のように川端康成と一緒にそれらを物色しては買い込んでいたそうである。

 

驚くべきは川端の無欲恬淡ぶりで、久利が康成の手に在る光悦の書状を見て激賞すると「そうですか、じゃあ奥さんにあげましょう」といってくれてしまうのだが、久利自身も宋旦の「ふくべ花入」や中国伝来の美しい壺を、詩人高橋新吉の結婚祝いに惜しげもなく呉れてしまうのである。

 

結局菊岡家には何ひとつ銘品は残らなかった訳だが、のちに日本画家の小倉遊亀の家で久し振りに光悦の書を見た著者は「私はうれしく、心が豊かになった」と記すのだから叶わない。

 

   猿之助よ記者会見をすぐ開き何かあったか明らかにせよ 蝶人

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西暦2023年皐月蝶人映画劇場その4

2023-05-28 09:58:10 | Weblog

 

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3302~6

 

1)ブノア・ドペール監督の「疑惑の果てに」

父親による娘の性的凌辱が生み出す連続殺人事件の悲劇を描2011年のフランスのサスペンス映画。

 

2)ピエール=アントワーヌ・イロ監督の「登山」

2017年のフランス製山登り映画だが、中身は薄い。

 

3)フィリップ・グレーニング監督の「大いなる沈黙へ」

16年待たされて2006年についに実現した仏グランド・シャルトーズ修道院の記録映画。厳かで神聖の気に満たされる。「我は在りて在る者」という聖句が耳に残る。

 

4)ウェイン・ロバーツ監督の「グッバイ、リチャード!」

ジョニー・デイップが癌で死に行く教授を演じる2020年のしみじみ映画。

 

5)チョ・ウィソク監督の「監視者たち」

チョン・ウソンが犯人、ハン・ヒュジュが新米刑事を演じる2013年の犯罪サスペンス物。香港映画のリメイクだがなかなか面白い。

 

ハルジオンとヒメジョオン、ビヨウヤナギとキンシバイの違いについて述べなさい 蝶人

 

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鏑木清方記念美術館にて「清方、鎌倉に住まう」展をみて

2023-05-27 11:56:40 | Weblog

 

蝶人物見遊山記第365回&鎌倉ちょっと不思議な物語第443回

 

残念ながら5月17日に終ってしまったのだが、「晩年の作品を中心に」集めらた今回の展示品は、毎回変わり映えのしないマンネリ・コレクションにあって、一等抜きんでた内容であったかもしれない。

 

その中心はなんというても、最晩年の「白梅」、明治の庶民生活の朝昼晩を描いた銘品「朝夕安居」であるが、もっと心に染みたのは、引き出しに収められたサントリー眉美術館所蔵の、鮎やさくらんぼうや様々な身近な素材の素描であった。

 

日本画家、鏑木清方の最大の武器は、あの印象的な碧を代表選手とする、江戸伝来の上品で洗練された繊細な色遣いであるが、これらの小品を際立たせているのは、西洋画の作家に勝るとも劣らぬ彼特有の理知的なデッサン力で、それが身近な素材に永遠の生命を付与しているのである。

 

  政治家の全部が女性でもいいけれど自公維国に所属するなよ 蝶人

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文 目黒実・絵 福田利之「祈る子どもたち」を読んで

2023-05-26 15:46:16 | Weblog

 

照る日曇る日 第1905回

 

詩人にして哲学者であり、かつて自分が子どもであったことを忘れない大人のひとりである作者が書き下ろした、宇宙的なスケールをもった、気宇壮大な「21世紀版創世記」である。

 

かつて平和の惑星であった地球のエンジェルであったアーダとハンヌが、失意と絶望の中から、再び立ち上がり、悪と汚辱に汚れきった我らの地球を、純なる至誠の祈りで救い出す!という、愛と奇跡の物語は、かつて自分が子どもであったことを忘れない大人の、久々の感動を呼ぶだろう。

 

 ジョルダンの息子のフィリップが振る「フィガロ」金切り声で喚くなスザンナ 蝶人

 

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寺山修司×宇野亜喜良作・目黒実編「五月よ僕の少年よさようなら」を読んで

2023-05-25 13:27:30 | Weblog

 

照る日曇る日 第1904回

 

 きらめく季節に

 だれがあの帆を歌ったか

 つかのまの僕に

 過ぎてゆく時よ (寺山修司「五月の詩・序詞」より引用)

 

テラヤマvsウノによる記念碑的なコラボレーションを、心ゆくまで楽しめる1冊。大御所2人の豪華絢爛たるジャムセッションが悪かろうはずはない。

 

  1歳の幼なが我に微笑めば「未来」が一気に姿を現す 蝶人

 

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西暦2023年皐月蝶人映画劇場その3

2023-05-24 13:50:17 | Weblog

西暦2023年皐月蝶人映画劇場その3

 

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3297~101

 

1)アフォンソ・ポイアルチ監督の「ブレイン・ゲーム」

アンソニー・ホプキンスが超能力で殺人犯に挑む2016年のサスペンス映画なり。

 

2)アイヴァン・ヤン監督の「ミステリーロード」

先住民アポリジニの刑事が少女惨殺事件の解明に奔走する重厚な2013年のサスペンス映画。

 

3)キャメル・クロウ監督の「ザ・エージェント」

1996年にトム・クルーズが演じたいかにもハリウッドなスポーツコメディ。邦題は日本で勝手につけたのだが「ザ」じゃなくて「ジ」だろうよ。

 

4)フィリップ・ノイス監督の「ソルト」

赤い唇のCIAの諜報員アンジェリーナ・ジョリーが大活躍する2010年の米ロスパイ映画。

 

5)ピエール・モレル監督の「ライリー・ノース」

夫と娘を殺された妻が「復讐の女神」となって悪者を皆殺しにしていく2018年の荒廃した映画ずら。

 

  時々は頭を冷やして思い出せ真珠湾あっての広島長崎 蝶人

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家族の肖像~親子の対話その94

2023-05-23 11:41:39 | Weblog

2023年1月

 

あけましておめでとう。ぼく、言いましたよ。

コウ君、おめでとう!

 

ぼくは、お正月、好きですお。ぼく、お雑煮好きですお。

お父さんも。

 

お母さん、お父さん泣いたの、セイザブロウさん亡くなったからでしょう。

そうよ。

 

お母さん、ショウガイジって、なに?

障害を持つ子よ。

 

お母さん、自閉症って、なに?

コウ君みたいな人のことよ。

 

お父さん、おまわりさんの英語は?

ポリス、じゃなくて、ポリス・オフィサーだよ。

ポリス、ポリス、ポリス

 

命令って、こうしなさい、ってことでしょう?

まあそうだね。

メイレイ、メイレイ、メイレイ

 

零は、雨に命令の令ですお。

なるへそ、そうだね。

 

廃止、なくなること?

そうだよ。

 

お母さん、オデンに、大根と卵入れてくださいね。

はい、分かりました。

 

今日は、小正月ですよ。

そうか、コウ君よく知ってるね。

小正月、なに?

小さいお正月、かなあ。

 

ぼく、2023年好きですお。

そうなんだ。

 

「♪これっくらいの、お弁当箱に……」、ぼく、歌いましたよ。

歌ったね、コウ君。

 

お父さん、洗濯物乾いていますよ。

そう?ほんとに乾いた?

乾きましたお。

 

ぼくはトシヒコ君です。

こんにちは、トシヒコ君!

 

ぼく「コンピューターおばあちゃん」です。

それなに?

「みんなの歌」だお。

そうかあ。

 

ぼくはタクちゃんです。

こんにちは、タクちゃん。

 

お母さん、機会あったら、って?

今度良かったら、よ。

 

モーツァルトの「フィガロの結婚」を振るときのカール・ベームのテンポの確かさ

 蝶人

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辻征夫著・田中和雄編「船出」を読んで

2023-05-22 11:05:23 | Weblog

 

照る日曇る日 第1903回

 

田中氏は童話屋という出版社のご主人だが、ただものではない。その証拠がこの本で、江戸っ子詩人、辻選手の数多くの作品から抜き出したコンピレーションの出来栄えはまことに見事なものである。

 

 じゃ ひとあし先に

 船出するんだね 船長

 月も明るく

 海は静かだよ  (「船出」より)

 

    79で7人目の子をなせるロバート・デ・ニーロ8人目は止せ 蝶人

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銕仙会能楽研修所にて青山実験工房第7回公演「追善・一柳慧」を立て膝で見聞きして

2023-05-21 20:40:11 | Weblog

 

蝶人物見遊山記第364回

 

昨年10月に急逝された敬愛する作曲家を追悼する催しの駆け足レポートです。

敬愛する音楽家が、多数登場する異色のコンサートとあれば、万難を排して駆けつけねばなりませんが、期待以上の感動的な音楽会でした。

 

まずバーバラ・モンク=フェルドマン構成・作曲による世界初演の「松の風吹くとき」では、高橋アキの研ぎ澄まされた感性と熱演が、劇空間と時間の全体を終始完璧にコントロールしていました。

 

ワキ西村高夫、シテ清水寛二の朗詠と能舞で、小野小町の3つの和歌が朗詠されるなか、高橋アキのピアノが、西洋音楽の主旋律と能の謡、地謡、囃子の劇伴を、同時並行かつ重層的に奏でる和洋折衷の新世界は、まことにエキサイティングでありました。

 

ただ、小町の世界に「羽衣」を不器用に接ぎ木したような能舞や、突如登場した鳳凰?の模型を、シテからワキへと手渡したりする直截的な演出に対しては、古典的な能の世界に馴染んできた観客は多少の違和感を覚えたことでしょう。もっとも、それが演出家の狙いかも知れませんが。

 

トイレに並んでいうちに終わってしまった短い休憩の後で、慌ただしく第2部が始まります。なんせ猛烈に中身の濃い演目が、出番を待って犇めきあっているのです。

 

まずは前衛音楽の世界の重鎮、高橋悠治御大へのインタビューから。

御年84歳ながらお洒落な服装が素敵です。

 

「米国で映画音楽を手掛けると一流に非ず、というのが常識だったのに、わが国では武満、黛、林などの現代音楽家が挙って手掛けるのは不可解だ」と米国では言うておった、というような証言が印象に残りましたが、前日と同じ演題では思い出噺もしんどいですよね。

 

次は1994年生まれの超若手作曲家、森円花の「神話 独奏ヴァイオリンのために」を

甲斐史子が独奏しました。どんどん良く鳴る法華の太鼓、いつ終わるとも知れないアレグロの、テープの張られないゴールに向かって、莫大な熱量で爆走する巨大な→に拳を握りしめて、「そうだ、そうだ、どこまでも、どこどこまでも突き進めえ!」と、胸の奥で怒鳴っているうちに、白内障でろくに見えない左目から、突如涙が噴き出してきたのには、まあ驚きました。

 

私は古典音楽では、かのチェリビダッケ&読響の生演奏に絶叫し、涙したことはありますが、現代音楽で泣いたのは、生まれて初めて。彼女が「一柳賞」を獲ったのも宜なるかな。この若き作曲家と、この物凄いヴァイオリニストの名前を、心の中でがっつり銘記したことでした。

 

息つく間もなく、今度は御大高橋悠治選手の登場で、一柳慧作曲の「イン・メモリー・オヴ・ジョン・ケージ」が、。悠揚迫らぬ風格を保ちながら演奏される。

終わり近くに御大突然立ち上がってピアノの中をいじったのち、バアーンと体重掛けて「思い出を閉じた」あたりは、いかにも<ケージー=一柳=悠治>の濃密な交わりを象徴しているようで、それはそれは特別な瞬間でした。

 

甲斐史子のヴァイオリンと高橋アキのピアノで、やはりジョン・ケージの「ノクターン」、続いて石川高の笙、甲斐史子のヴァイオリンと清水寛二の能舞で、一柳慧の「月の変容」が奏された後で、メゾソプラノの波多野睦美が登場し、高橋悠治の伴奏で彼が作曲した「黒い河」が演奏されました。

 

これは解説によると、アムール川のほとりの日本人収容所で1954年に病死した俳人山本幡男による8つの俳句に基づく作品ですが、俳句の四季の循環を再現するように、舞台に円弧を描いて移動しながら歌う波多野睦美の、故人への深い思い入れが印象に残りました。

 

次が一柳慧の「限りなき湧水」です。タイトル通りに高橋アキが、ピアノが壊れんばかりに、力奏、また力演。これほど勁い思いで書かれた激烈な音楽を、私は初めて耳にしながら、ビアニストの指と、ピアノの無事を切に祈っておりました。

 

まだまだコンサートは続きに続いて、またまた世界初演曲が登場!殺された長男元雅の死を悼んで父世阿弥が書いた追悼文に拠る高橋悠治の「夢跡一紙」です。

 

これは波多野睦美のメゾと清水寛二の朗読、高橋悠治のピアノで演奏されましたが、ここでは能で鍛えた清水寛二の<声>の力が圧倒的。最近はよく詩人がみだりに朗読するようですが、まずは謡曲で喉を鍛錬してからがよさそうです。

 

さうして、ようやくやってきたのが今日のマチネーのオオトリ、一柳慧の図形楽譜に拠る「アプローチ」です。(この楽譜は1972年に製作されたそうですから、もしかすると私がその頃の原宿で、ある日あるとき、ほんの一瞬だけ拝見させて頂いた楽譜の中にあったものかもしれないぞ)

 

なんせ音楽の全体像に対する図形と漢字による表示はあっても、オアマジャクシがないのだから、石川高、甲斐史子、清水寛二、高橋アキ、高橋悠治、波多野睦美の全出演者が思い思いに能舞台に現れ出てきても、誰が何を「アプローチ」するのかは、決まっていない。はずである。

 

それでもいちおうのリーダー役は高橋アキ選手が司っているらしく、彼女が大声をあげてドラムを叩いたり、その綿棒でピアノの底面を叩いたり、高橋悠治が死人のように柱に寄りかかったり、清水寛二がピンポン球を客席に飛ばしたり、いきなり窓を開いて午後4時の陽光を招き入れたり、全員が三々五々やたら動き回ったりする姿を見ていると、既成のコンサートホールの音楽を否定して、なんとか「アナーキーな非音楽的音楽状態」を立ちあげようとした一柳慧選手の心中の意図だけは理会できたように思ったことでした。 

 

「でんでん太鼓」に「ガラガラ」で対抗しようとする高橋兄妹のユーモラスな顔と顔を楽しく見物しているうちに、私がはしなくも思い出したのは、かのチャプリンとキートンが芸人根性でシノギを削った映画「ライムライト」でありました。

 

あそこではヴァイオリンとピアノを破壊しての激烈な音楽バトルが繰り広げられましたが、もしかすると一柳選手の図形楽譜の端っこには、そんなハチャメチャ・スラップスティック像が想定されていたのかもしれない。

 

とまれかくまれ、皆さんお手を拝借。過ぎてしまえば、いずれは演じた人も、見た人も、誰もが忘却してしまうであろう、一期一会の夢のコンサートに万歳三唱!!!

 

 

  その昔「昭和の世阿弥」が出入りした銕仙会で「現音」を聴く 蝶人

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川崎洋編「教科書の詩をよみかえす」を読んで

2023-05-19 15:11:04 | Weblog

川崎洋編「教科書の詩をよみかえす」を読んで

 

照る日曇る日 第1902回

 

そういえば私が小学生や中学生のときには国語の教科書に詩が載っていたようだが、殆ど覚えていない。

 

例外は、大関松太郎という少年の、畑を鍬で掘り起こすと、いろんな虫がびっくりして飛び出してくる、というような所謂「生活綴り方」的な作品で、それ以外は今朝ドラでやっている牧野富太郎を東大で苛めた矢田部教授らが翻訳した「新体詩抄」しか記憶にない。

 

それで本書を手に取ると、石垣りんの「峠」から栗原貞子の「うましめんかな」、茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」など印象的な名詩がじゃんじゃん登場するではないか。

 

しかもそれらの作品を詩人の川崎選手の、かの異次元男のそれとは180度異なる懇切丁寧な解説で、未読することが出来る本書は、ほんとうは、私が半世紀以上も前に読むべかりし秀作の森だったのであったあ。

 

  G7てんで興味はないけれど猿之助ならなんでも知りたい 蝶人

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谷川俊太郎編・堀内誠一挿画「わらべうた上」を読んで

2023-05-18 10:48:20 | Weblog

谷川俊太郎編・堀内誠一挿画「わらべうた上」を読んで

 

照る日曇る日 第1901回

 

そういえば日本の「マザーグース」をすっかり忘れていたな、と気づいた谷川選手が、北原白秋編「日本伝承童謡集成」から選んだわらべうたに、堀内選手が苦労しながら挿絵をつけた、とても素敵な絵本です。

 

しょうがつどん ござるた

どこまでござるた

くるくるやまの

とうげのしたまで

ござるた

 

から始まり、

 

おしょうがつは くうるくる

おらぁ ぼろずうるずる

 

で終わります。

 

懐かしいですなあ。

 

  プールには塩素がたっぷり含まれる安心安全とはけっして言えない 蝶人

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西暦2023年皐月蝶人映画劇場その2

2023-05-17 10:39:18 | Weblog

 

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3292~96

 

1)ジャン・ベッケル監督の「再会の夏」

第1次大戦で敵と和解しようとして失敗した仏蘭西兵とその愛犬が織りなす2019年の戦争悲劇映画。

 

2)ローランド・エメリッヒ監督の「ホワイトハウス・ダウン」

議会議長の陰謀で大統領が襲われホワイトハウスが炎上するが、主人公と娘の大活躍で目出度しめでたしとなる2013年の大捕り物映画ずら。

 

3)マイケル・クリストファー監督の「ナイト・ウオッチャー」

殺人事件に巻き込まれたホテルの夜勤を仕事に持つ高機能の自閉症者が主人公であるが、良く分からない結末。症者はそれぞれ症状が異なるので一般化は難しい。2020年の製作なり。

 

4)W.S.ヴァン・ダイク監督の「男の世界」

クラーク・ゲーブルとウィリアム・パウエルの幼馴染が、長じてギャングと知事になり、善悪の彼岸で相まみえるという1934年のライヴァル物語。2人を愛するヒロインはマーナ・ロイなり。

 

5)モフセン・マフマルバフ監督の「独裁者と小さな孫」

2014年ジュージア制作の政治悲喜劇ものがたり。一夜にして民衆の蜂起で専制君主の地位を追われた老大統領とその孫の道行を丁寧に追うが、やいプーチン、お前もよく見ておけよ。

 

 待ち待ちて遂に一声ホトトギス「てっぺん欠けたか?」「もちろん欠けたさ」 蝶人

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五味太郎「もみのき そのみを かざりなさい」を読んで

2023-05-16 20:19:29 | Weblog

 

照る日曇る日 第1900回

 

冒頭に青い雑巾のような無地が出てきて、次の頁をめくると「ほし めざめなさい」という文句が掲げてあって、濃青の夜空の真ん中に黄色い星が出る。

 

次に五味選手が「ふね とびなさい」と命じると夜空にヨットが浮かんでいる。

 

以下同文。五味選手はこの絵本の中でとつぜん一人の神様になって全世界を創造するのである。

 

最高のポエジーにあふれた、最高にシュールで、最高に黙示録的な、最高のクリスマスの絵本である。

 

   その赤が世界で一番赤かった息子が贈りしカーネーションの 蝶人

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