あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

神奈川県立近代美術館・葉山にて「フランシス・ベーコン展」他をみる

2021-03-31 13:04:20 | Weblog

蝶人物見遊山記 第334回

朝日新聞の「天声人語」に行きたかったフランシス・ベーコン展の紹介が出ていた。
遠くからの来訪客が予想されたので、すぐに予約して駆け付けたらまだ駐車場も空いていたし、それほど多くの観客でもなかったので、ゆっくり鑑賞できて良かったずら。
フランシス・ベーコン(1909-1992)といえば2013年5月の国立近代美術館での展覧会が、夢に出てくるほど圧倒的に素晴らしかったので、今回も期待してでかけたのだが、あれはいったい何? 
新聞に掲載されたモノクロ写真(その中には有名人も数多く含まれる)を素材にして、その上から、引っかいたり、グワッとグワッシュしたり、クレヨンや色鉛筆でちょちょっとドローイングしたり、あちこちを切断したりしている小品が大半で、竹橋の時のような巨大な油彩画なんか一点もない。
シュルレアリズムの影響を受けた時代の小ぶりの油彩が何点かあったが、これがいかにも大人しい普通の油絵で、面白くもおかしくもなかったずら。
ゴッホやミックジャガーや対戦するボクサーや、「戦艦ポチョムキン」に出てくる乳母の映像の上から、遊び半分で悪戯描きしたりコラージュしたような「作品」は、ちゃんとした立派な完成品とはいえない。本来は画家の練習帳か試作品のような「その他大勢」を延々と並べて有難がるような趣味は、よほどのファンやマニアならともかく、私には全くない。
ので、「ああ詰まんなかった」と思って、入口のほうに戻ったら、「イギリス・アイルランドの美術展」が同時開催されていて、なんとウィリアム・ブレイクの「神曲」や「ヨブ記」の挿絵があるではないか! ブレイクの版画のなんと精密微細にして真に迫って美しいことよ。これは私にとっては「聖書」や「神曲」そのものよりも神々しくありがたい作品であった。
さらに同展では、東京に生まれ学習院中等科を経て倫敦の美術学校で学び、詩人エズラ・バウンドと交わり欧米で活躍しながら関東大震災で30歳の若さで夭折した画家久米民十郎(1893-1923)の作品をはじめて目にすることができ、これはコロナ禍の中の眼福であった。
なお本展は来る4月11日まで同館にて開催中。参考までに前回のベーコン展の感想文を貼付しておこう。

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1901503443&owner_id=5501094


  自由とか民主主義とかがない国を愛せと言われて誰が愛せる? 蝶人
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主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.57」

2021-03-30 16:24:56 | Weblog

蝶人狂人綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第382回


○退職社員送別会/後輩のあいさつ

販売4課の島本です。*1
今日はわたしの先輩である3課の加勢さんが退職されるということなので、課が違うのですが幹事さんにお願いして飛び込みで参加させて頂きました。
加勢さんは、6年前わたしが販売事務の新人として3課に配属されたときの直属の上司として、ほんとにゼロから仕事のイロハをなにもかも教えていただいた恩人であり尊敬する大先輩です。*2
いまではあまりはやらないけれど、お茶の入れ方、お客様への出し方、机や電話やパソコンの掃除の仕方から始まって、部課長の来客リスト作り、総務課への車の手配、冠婚葬祭の仕切り、展示会の案内状、設営、お弁当の手配、販売員の出張届けや経費、伝票の制作、そしていちばん大事な販売予算と実績表の制作まで、わが社の営業部広しといえども加勢さんの凄腕に敵う者は誰一人ありませんでした。*3
加瀬さんなきあと誰がいちばんこまるのでしょうか?
それはほかでもない課長とこのわたしです。
加瀬さんなき販売3課はいったいどうなってしまうのでしょうか?
みなさん意外とご存知なかったかもしれませんが、加瀬さんは、見かけは*4
やまと撫子のようにおしとやかなのですが、実際は体育会系の男っぽい性格なんです。
へたな男子の営業マンなんかよりも*4
一意専心、集中してテキパキと仕事をこなされ、その仕事振りはとても参考になりました。
それから加勢さんの*4ライフスタイル。
シンプルそしてあくまでもナチュラル。肩に力を入れない地味な*4キャリアウーマン、とでもいうのでしょうか。
同性のわたしから見ても、とてもかっこよかったのにもうその颯爽とした姿が見られなくなるかと思うと、ほんとうに残念です。
加勢さんはファンが多く、3課だけじゃなく、営業全体、総務、工場関係、出入りの業者さんを含めて大勢の方から愛され頼りにされていましたが当然のことだと思います。*5
風の噂では、退社されてからの加瀬さんにはとても素晴らしいことが待っているそうですよ。だから今日、みなさんもあまりくよくよしないで加瀬さんを明るく送り出してあげましょうね。

○アドバイス

*1とかく送別会は湿りがちな雰囲気になることが多いので、あい さつはなるべく歯切れ良く、明朗闊達のトーンを心がけると良い。
*2本人だけが知っている主賓の仕事振りや人柄の良さを具体的に紹介してほめてあげると気持が明るくなる。
*3類型的で無味乾燥なあいさつ、美辞麗句だけのあいさつがいちばんつまらない。たまには大阪の吉本興業的なノリで笑いをとったり、ユーモアとウイットあるスピーチに挑戦してみよう。
* 4スピーチする時点で、テレビや雑誌、新聞で話題になった用語やテーマを意識的に使ってみるのも効果的である。
*5プライバシーに触れそうな話題は極力さけ、許容される範囲を事前に主賓に確かめてからスピーチすることが望ましい。

  青池さんから頂戴した土佐文旦毎日食べてしあわせでした 蝶人
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小川糸著「とわの庭」を読んで

2021-03-29 13:09:14 | Weblog

照る日曇る日 第1558回

この人の作品は現実、現場の徹底的リサーチを踏まえながら、そこから立ち上がる物語の中身が昔懐かしいおとぎ話に転化しているところが、まあ新しいのではないでえしょうかあ。ま、別に新しくなくてもいいんだけどさ。
で、今回の主人公は、母親から見捨てられた可哀想な盲人、とわちゃんである。
彼女は、ゴミだらけのおんぼろ家で消しゴムまで食べてしまうという食うや食わずのルンペンにまで身を落とすのだが、そこから親切な友人や盲導犬のジョイ君などに助けられ、なんとか夢とか希望の持てる地平にまでたどり着くので、読者としてはやれやれである。
されど、なんで母親がヒロインの2人の兄を殺害して家の中に隠していたのかがよく分からず、屋根裏部屋で同居していたはずの謎の女性ローズマリーが、その後どうなったのか、を含めて、ほとんど記述されていないのも謎である。
まあ、どうでもええけど。

   有線を無線のLANに切り替えるすべを知らずに鶯を聴く 蝶人
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主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.56」

2021-03-28 11:33:35 | Weblog

蝶人狂人綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第381回

○ 退職社員送別会/幹事のあいさつ

本日は皆さまご多忙のところ木村太郎さんの送別会にご出席いただきましてありがとうございます。
木村さんは総務部株式課の超ベテランとして私たち後輩を根気良く、暖かく導いてくださり、わが社の成長発展に尽くされたのですが、残念ながら退職されることになりました。
申し遅れましたが、私本日の送別会および慰労会の幹事を勤めさせていただきます株式課の須永です。*1
総務とか株式とかのセクションは、企画や営業のように華やかなスポットライトが当たるセクションとは違って、ともかく地味で縁の下の力持ちのような職場です。
しかし*2年に1度の株主総会こそは企業にとって最重要行事であり、この大切な仕事を歴代社長と共に、35年の長きにわたって木村さんがほぼ独力で成功裏に運営されてこられたことはサラリーマンとしては畢生の大事業であったと思います。
このような大役を黙々と果たされた木村さんを失うことは残念ですがどうか木村さんがお元気で「第2の人生」を切り拓かれますようお祈りして開会のごあいさつとさせていただきます。

○ アドバイス
*1会社の中で誰がどんな仕事をしているのかは他のセクションの人はほとんど知らないことが多いので、この種の紹介は有益である。
*2主賓のおとなしく地味な性格の下で埋もれていた大きく輝かしい業績にスポットライトを当て、フィナーレを美しく飾ろうとする幹事の気配りが透けて見えるあいさつである。

  綾部まで墓参りに行く妹に八大龍王雨やめたまえ 蝶人
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高橋源一郎著「たのしい知識」を読んで

2021-03-27 11:22:15 | Weblog

照る日曇る日 第1554回

「ぼくらの天皇(憲法)」「汝の隣人」「コロナの時代」の三部からなる力の籠った最新エッセイである。
第1部では各国の憲法との比較が興味深いが、長谷部恭男、加藤典洋などの思索に啓発されて、現行憲法から天皇条項を切り離し、軍隊を国連軍に贈与するという改正案に辿り着くのだが、それは昔からの私案とほぼ同じなので驚く。
第2部では茨木のり子の「ハングルへの旅」に導かれた源チャンが、日韓の間に横たわる問題について、に1945年に福岡刑務所で謎の夭折死を遂げた尹東柱(ユンドンジュ)の詩と生涯に思いを寄せて感動的である。
第3部ではカミュの「ペスト」やジョルダーノの「コロナの時代の僕ら」などを引用しながら、人類と感染症の相関関係について深く思いを致している。

   春や春、山には山桜里には染井吉野、狭庭には大島桜咲く 蝶人
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本日休業 

2021-03-26 13:34:43 | Weblog

 何ひとつやる気も失せていたずらに大島桜の白を見ている 蝶人
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半藤一利著「歴史探偵 忘れ残りの記」を読んで

2021-03-25 15:02:53 | Weblog

照る日曇る日 第1553回

今年2021年1月に幽冥境を殊にしたばかりの著者の遺著がその翌月に出た。お得意の歴史探訪とは違って、森羅万象にまつわる何でもありのエッセイ、短文集である。
著者の文章作法の心得は、故井上ひさしの色紙ゆかりの「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをゆかいに、ゆかいなことをまじめに書くこと」らしいが、これがそれであるとはなかなか思えないのが哀しい。
さてその中に「銀座特集」のコーナーがある。銀座の文春社員であった著者は、毎年新入社員の歓迎会を出雲橋の今は亡き料理屋「はせ川」で開催したというが何故か男性社員のみが参加して毎回大暴れしたらしい。
床が抜けるのを心配するおかみさんに「大丈夫だよ、静かにやるから」と約束するがおかみさんはまったく信用せずにこう言うのである。「なにをおっしゃる半兵衛さんよ。自分が誰よりも裸踊りで大狂いするくせに。私存じているのよ、でっかいアレを。毎年見てるんだから」。
「東京は向島の下町生まれの悪ガキ育ち」のアレは、でっかかったのだなあ。
それはさておき、心からご冥福をお祈りします。


    各党の支持者たちがやって来て市会議員の選挙が近い 蝶人
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現代詩文庫「北村太郎詩集」を読んで

2021-03-24 14:43:44 | Weblog

照る日曇る日 第1553回

「センチメンタル・ジャーニー」の感想文で書いたように、作者は突然の海難事故で潮干狩りに行った妻子をもろともに喪失してしまい、それを受けて「終わりのない始まり」という弔詩を書く。
「骨をひろう人たちよ、どうか泣かないでください。泣いて鉄の箸に挟んだ昭彦の骨を落としたりしないでください。」という詩だが、これ以上引用していると泣きそうになるので、しません。
それからやはり「センチメンタル・ジャーニー」のあとがきに、北村選手は戦争中海軍の暗号解読係をしていたせいか、恋人への愛の言葉(「かずちゃん きみをあいす かわいいひと」など)を盛り込んだ詩を何篇か(「冬を追う雨」「5月の朝など」)書いているそうだが、これはおらっちも絶対真似したいと思いましたね。
なお巻末には、鈴木志郎康氏による「危機意識から日常性へ生きて来た精神を辿ってみる」というタイトルの精緻な作品論が付されています。

  議会制民主主義の世の中に登場したりヒトラー、トランプ 蝶人
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レオ・レオーニ作・藤田圭雄訳「あおくんときいろちゃん」を読んで

2021-03-23 13:29:29 | Weblog

照る日曇る日 第1552回

偉大なるアートディレクター、レオーニが製作した素敵な絵本がこれ。
青と黄色を混ぜると緑に変わるというマジックを上手に生かして、友愛と差別のありようまで示唆した、それこそ面白くて為になる作品である。

  3人のテノールもメータも若かった90年のローマ・コンサート 蝶人
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北村太郎著「センチメンタルジャーニー ある詩人の生涯」を読んで

2021-03-22 11:32:33 | Weblog

照る日曇る日 第1551回

鮎川信夫、田村隆一などと共に「荒地」派を代表する現代詩人の自伝であるが、前半第1部を書きあげたところで1992年に70歳で病死し、残る第2部は、生前のインタビューを正津勉氏がまとめたものである。
戦後の大混乱の中から、いわゆる戦後詩が立ちあがって来る様を詩人たちとの交友ともどもつぶさに叙述した貴重な伝記が面白くない訳がないが、とりわけ愛する妻子を不慮の海難事故で失って衝撃を受けるところ、その後は平凡なリーマン生活を送っていたところに出現した人妻に突如心を奪われ、大恋愛の末に家を出て新生活をはじめるところなど、まさに波乱万丈の生涯といえるだろう。
大恋愛の相手とは他ならぬ親友田村隆一の妻君(彫刻家高田博厚の娘)なのだが、それを主題としたねじめ正一の小説「荒地の恋」や同名のテレビドラマと違って、完全な匿名を貫いて淡淡といるところが潔い。


「どうやって絵描きは食べていくんだろうね」「そんなこたあどうでもええやん」蝶人
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佐藤賢一著「日蓮」を読んで

2021-03-21 11:30:41 | Weblog

照る日曇る日 第1550回

仏蘭西革命やナポレオンなど一連のおふらんす物では定評がある佐藤選手が、なんと本邦の宗教家、それも日蓮の小説を上梓したというので、ちと驚きました。つい最近まで「小説新潮」で連載されていたそうですが、んなこたあ全然知らんかったなあ。
私は他の事と同様、仏教にはえらくうとい人間であるが、親鸞や法然、道元、空海や最澄に比べて、どうもこの日蓮という人はいうことなすことみな過激で、稀代の熱血漢ではあるが、どことなく胡散臭い感じがして、どことなく敬して遠ざけていたが、それは本書を読んで少し変わった。かなあ。
鎌倉新仏教の浄土教や浄土真宗では、阿弥陀如来に額づき「浄土三部経」を聖典と仰ぎ、「南無阿弥陀仏」を唱えれば極楽往生できる、と説くようです。
に対して、日蓮選手は、「彼岸で極楽へ行っても遅すぎるじゃん、こ、こ、この此岸で幸福にならずに、にんげん一体どうしろというのか?」と説くのです。
「諸君の拝む仏は、本尊の釈迦如来に比べたらひけをとる2流、3流で、依拠する教典も「法華経」に比べたら超マイナー。邪教を倒して「南無阿弥陀仏」を即時「南無妙法蓮華経」に変えよ!」と絶叫するのです。
日蓮は釈尊自身が真の教典と説くのは「法華経」だけで、それ以前の諸経は「仮」物であると断言するのですが、されどこれってどこかに論拠があるのかおらっちには分からないずら。
日蓮は、佐渡流罪など再三再四の弾圧に次ぐ弾圧にもめげず、汗と血と涙の布教に努めた結果、執権北条時宗に認められ、「蒙古調伏」の祈祷を頼まれるのだが、他教の参加を拒否して強情を張るものだから、使者の平頼綱も匙を投げてしまう。ここらあたりの論理的正当性の追求振りが評価の分かれるところでせう。
ところで本書ですが、蒙古襲来の予言をぴたりと当てた日蓮が文永11(1274)年、鎌倉松葉ヶ谷を出て甲斐の身延山に到着したところで突然終わってしまうので、そのあまりの唐突さに驚いてしまう。
出来うべくんば、弘安5(1282)年に60年の波乱の幕を閉じる生涯のおわりまでを、引用文献付きでぜひとも書き上げてほしいものだ。

 「温暖化で地球もそろそろ終わりだね」「そんなこたあどうでもええやん」 蝶人
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主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.55」

2021-03-20 14:56:40 | Weblog

蝶人狂人綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第380回

○部長就任式/本人のあいさつ
*1本日は忙しいところを参集して頂いてありがとう。1週間ほど前に人事部長より内示を受けました。その時、嬉しいという気持は全く無いというと嘘になるけれど、ほとんどなくて、これは大変なことになった、さあどうしよう、果たしてこの自分に勤まるだろうか、と次々に胸に不安が湧いてきました。しかし、会社が決めてしまったのだから、もうどうしようもない。僕も全力でやりますから、みなさんも覚悟してついて来て下さい。
ご承知のように会社はいま9期連続の赤字で売上、利益、株価と3拍子揃って低迷し続けております。毎年給料も下がるし、ボーナスもろくろくでない。うちに帰るとカミサンが文句ばっかりいう。どうもお互いにひどい会社に入ったものであります。*2しかし皆さん、ものは考えようです。いま何か新しいビジネス・シーズにチャレンジすれば、必ず実効が出ます。何もやらなければ、このままずっと奈落の底に沈みっぱなしになるのです。逆説的に言うと、失うものが何もないという強みこそ、われわれの最大の武器なのです。新任部長としての僕にとって、部下となった皆さんにとってこれほどのビッグチャンスがまたとあるでしょうか。
*3明日の自分、明日の会社、明日のお客様のために新しい夢を想像(イマジネート)し、夢を創造(クリエート)する。それが僕たちの新しい仕事です。会社に元気が無ければ、自分で元気になればいい。ひとりひとりがそう思い、何かにトライした瞬間に会社ははじめてほんとうに元気になるのです。これは精神論に過ぎませんが、基本精神の全社標準すらないところに技術は育つ訳がありません。
*4さて、ここで朗報がひとつあります。昨日、わが社は米国のバイオ・ベンチャートップのセレーラ社との業務提携に成功しました。わが社の株価が一夜にして363円も急伸した理由はそこにあります。かねてよりわが社は、国内よりは海外の投資家の評価が高かったのですが、太平洋の彼方から大きな味方がやって来たようです。僕らは最悪時代をようやく脱しつつあります。過去5年間にわたって僕たちが体験した悪戦苦闘と辛酸がやっと報われ、真っ暗なトンネルの向うに、かすかな希望の灯が見えてきました。会社は、経営活動の最先端に位置するわれわれ営業企画室に期待しています。僕は自慢ではありませんが、課長時代から元気だけがとりえです。元気な僕についてきてください。そして会社再建のためにいっしょに頑張ろうではありませんか。

○アドバイス
*1 新しい組織の長としてのリーダーシップを最大限に示す。聴衆の中の話者に必ずしも好意的でない者も巻き込んでしまう迫力が必要。
*2リーダーシップの表現は一律ではない。自分の個性、行き方を基本にして、どうやったら部下やスタッフの理解、共感、共鳴を獲得できるかを考える。
* 3 こういう場面では「知に訴える」よりも「情に訴える」ほうが所  期の目的を達成しやすい。オジサンの浪花節風ではなく、素直に共感してもらえる身近な話題を織り込みながら自分の思いのたけをぶつけるのが秘訣。
*4精神論だけでなく、具体的な材料で持論を補強することが必要。それを最後にもってきたレトリックは参考になる。

   四匹のメダカが甕に棲んでいて四つの個性を発揮するなり 蝶人
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西暦2021年弥生蝶人映画劇場その2

2021-03-19 14:11:31 | Weblog

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2508~17

1)伊丹万作監督の「赤西蛎太」
志賀直哉の原作を1936年に伊丹万作が映画化。その洗練された脚色と演出、クラシックを多用した高橋半の音楽は素晴らしい。赤西と原田甲斐の2役を務める片岡千恵蔵の代表作でもある。一部映像が欠けているが鑑賞に支障はない。上山草人が按摩役で出ている。
2)田坂具隆監督の「土と兵隊」
火野葦平の小説を1939年に映画化したもの。大部隊が行軍するシーンはリアルだが、小説を読んでいないとどこでだれがどのように戦っているのかさっぱり分からない。
3)鈴木清順監督の「肉体の門」
田村泰次郎の原作を1964年に映画化。私の好きな富永美沙子と嫌いな野川由美子が出ていて、2人とも素っ裸でしばかれる。
4)野村芳太郎監督の「砂の器」
1974年製作の松本清張原作の映画。出雲地方にもズーズ―弁があるという事実に立脚した前半部分はスリリングだが、後半の犯人加藤剛の人物像が明快に浮かび上がらず、お涙頂戴のハンセン病になだれ込んで行く展開やラフマニノフもどきの3流ピアノ協奏曲の演奏などにいたく鼻ジロむ。
5)佐伯清監督の「昭和残侠伝 唐獅子牡丹」
1966年の健さんのこのシリーズ第2弾のヤクザ映画。最初から義理と人情に縛られた殴り込みと敵討の世界なので、ともかく斬って斬って斬りまくるしかないのだが、この種の映画ではなんでもっと拳銃やライフルを活用しないのだろう。と子供の時から思っていた。
6)若松節朗監督の「空母いぶき」
かわぐちかいじの原作を大きく改編した2019年製作の架空海戦サスペンス。敵が中国から謎の某国に変わったのはそれこそ政治的配慮からだろうが、尖閣を巡る最近の情勢を頭に置きながらこれをみると、現場での感情的現実的流れの中でたちまち戦闘が戦争に拡大してしまう危険がいっぱい。これが恐らく現実だと思うとすごく怖い映画だ。
7)溝口健二監督の「雪夫人絵図」
丹羽文雄の原作を1950年に映画化。男の男性にどうしようもなく崩れてゆく弱い女の女性を木暮三千代があえかに演じて出色であるが、あれほど暴君だった夫(柳永二郎)が突如としてぐにゃぐにゃになってしまうのが不可解ずら。
8)矢崎充彦監督の「Go!」
ピザ屋の高校生の主人公が好きになった女性に会いたいと新宿から長崎まで突っ走る2004年のオートバイムービー。時々出てくる山崎努のライダーが面白い。
9)沖田修一監督の「モリのいる場所」
熊谷守一の晩年の暮らしを描いた2018年の作品。有名なアリの歩き方の観察が出てくるのはいいが、もっと大きなアリでないと見分けられないだろう。草むらの傍の小道にイモリがいるのもおかしい。
10)濱口竜助監督の「寝ても覚めても」
柴崎友香の小説を2018年に映画化したものだが、退屈かつ陳腐。今回のベルリン映画祭で賞をとったそうだが、いったいどこがいいんだか。

 セクハラで指揮棒折られしジェームズ・レヴァイン尾羽打ち枯らし77で死す 蝶人
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主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.54」

2021-03-18 11:33:07 | Weblog

狂人綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第379回

●入社式/本部長のあいさつ
皆さん、本日はおめでとうございます。
さて、先ほど社長よりお話がありましたように、現在わが社は非常に重要な時期、一歩道を誤りますと取り返しのつかない危険な時期にさしかかっております。*1

昨年は私どもの業界の一部におきましても余儀なく帰休、減産、従業員の削減を迫られた有力な競争相手もございました。しかし幸いにも業界トップの座を堅持するわが社におきましては、売上こそ昨年対比1%増でしたが、経常利益は7%アップと非常に良好な成果をおさめることができました。*2

そこで、本年度は全社売上3%、利益10%のアップを目標としまして各事業部毎に立案しました具体的なアクションプランを実行すべく、ただいま社員一同日夜全力を上げております。社長からも注意がありましたように「業界トップ」という美辞麗句にうぬぼれることなく、謙虚に、自己鍛錬を怠ることなく、一日も早く私たち現場の最前線に立ってください。*3

皆さんは「着眼大局、着手小局」という中国の諺をご存知でしょうか。皆さんと一緒に力をあわせて、一歩一歩着実に前進してゆきましょう。

○アドバイス
*1何人かでスピーチする場合には、あらかじめ広報室や秘書が、会長、社長、本部長などのあいさつ内容を、発言者の立場を考慮し、重複がないよう調整しよう。
*2現場指揮官の場合は、空理空論に陥らないよう、現場の実践的な雰囲気をダイレクトに伝えよう。
*3諺や決り文句を効果的に使おう。


 「渡辺の直美のオリンピッグだって」「いかにも広告屋の発想だわな」 蝶人
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長野ヒデ子作「せとうちたいこさん ふじさんのぼりタイ」を読んで

2021-03-17 14:09:51 | Weblog

照る日曇る日 第1549回

この人の絵本を、はじめて手に取りました。
海から見上げてかっこいいと思ったタイたちが、一同うち揃ってその富士山に登る話であるが、やたらデテールを細かく描写してあるんのです。
登山の準備道具のあれこれや、富士山の仲間や頂上にかかる雲のいろいろは、それは確かに上級生のお勉強の材料にはなるだろうが、それがなんとなく知識過剰の「印象を与えるし、面倒くさいしうざったい。
もっと「富士山の本質」にずばり踏み込んだ絵本に挑戦してほしかったなあ。


  昼メシを喰うておれば上の歯が突然バキンと音立て激痛 蝶人
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