蝶人物見遊山記 第334回
朝日新聞の「天声人語」に行きたかったフランシス・ベーコン展の紹介が出ていた。
遠くからの来訪客が予想されたので、すぐに予約して駆け付けたらまだ駐車場も空いていたし、それほど多くの観客でもなかったので、ゆっくり鑑賞できて良かったずら。
フランシス・ベーコン(1909-1992)といえば2013年5月の国立近代美術館での展覧会が、夢に出てくるほど圧倒的に素晴らしかったので、今回も期待してでかけたのだが、あれはいったい何?
新聞に掲載されたモノクロ写真(その中には有名人も数多く含まれる)を素材にして、その上から、引っかいたり、グワッとグワッシュしたり、クレヨンや色鉛筆でちょちょっとドローイングしたり、あちこちを切断したりしている小品が大半で、竹橋の時のような巨大な油彩画なんか一点もない。
シュルレアリズムの影響を受けた時代の小ぶりの油彩が何点かあったが、これがいかにも大人しい普通の油絵で、面白くもおかしくもなかったずら。
ゴッホやミックジャガーや対戦するボクサーや、「戦艦ポチョムキン」に出てくる乳母の映像の上から、遊び半分で悪戯描きしたりコラージュしたような「作品」は、ちゃんとした立派な完成品とはいえない。本来は画家の練習帳か試作品のような「その他大勢」を延々と並べて有難がるような趣味は、よほどのファンやマニアならともかく、私には全くない。
ので、「ああ詰まんなかった」と思って、入口のほうに戻ったら、「イギリス・アイルランドの美術展」が同時開催されていて、なんとウィリアム・ブレイクの「神曲」や「ヨブ記」の挿絵があるではないか! ブレイクの版画のなんと精密微細にして真に迫って美しいことよ。これは私にとっては「聖書」や「神曲」そのものよりも神々しくありがたい作品であった。
さらに同展では、東京に生まれ学習院中等科を経て倫敦の美術学校で学び、詩人エズラ・バウンドと交わり欧米で活躍しながら関東大震災で30歳の若さで夭折した画家久米民十郎(1893-1923)の作品をはじめて目にすることができ、これはコロナ禍の中の眼福であった。
なお本展は来る4月11日まで同館にて開催中。参考までに前回のベーコン展の感想文を貼付しておこう。
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1901503443&owner_id=5501094
自由とか民主主義とかがない国を愛せと言われて誰が愛せる? 蝶人