あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

笹井宏之歌集「てんとろり」を読んで

2022-08-31 11:05:38 | Weblog

照る日曇る日第1780回

 

26歳の若さで2009年に惜しまれつつ急逝した歌人の最後にして2番目の歌集です。

 

おらちはこおゆうのんが好きかな。

 

 あんぱんがたべたいひととあんぱんのあいだに物凄い滝がある

 

 わたしだけ道行くひとになれなくてポストのわきでくちをあけてる

 

 くだもののように熟れつづけるひとをとりあえず新聞にくるんだ

 

  さいころにおじさんが住み着いている 転がすたびに大声がする

 

  したいのに したいのに したいのに したいのに 散歩がどういうものかわ 

  からない

 

  鳥取に鳥を求めるひとなどをほんとうは愛していたかった

 

  ほんとうにわたしは死ぬのでしょうか、と問えば杉並区をわたる風

 

 

   法師蝉鳴けばつくづく思わるる葉月は悲しきことばかりなり 蝶人

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エーリヒ・ケストナー著・高橋健二訳「動物会議」を読んで

2022-08-30 09:10:33 | Weblog

照る日曇る日第1779回

 

ヒトラーが支配する悪い時代に、最後まで忍耐強く雌伏しながら生き抜いた作家の1949年の作品なり。

 

人間どもの阿呆莫迦加減にどたまにきた動物たちが、大同団結して対抗。ついに子供たちを人質にとるという非常手段に訴えて、国境、軍隊、武器、爆弾を廃止し、子供たちの教育に力を入れるという約束を引き出すのであったあああ。

 

この本を読んでいるとつい昨日、ロシアの反対でついえた国連核不拡散条約会議の決裂を思わずにはいられない。

 

巴里羽田たった一人で飛んできたシルビー・ヴァルタンを迎えに行きしも今井氏 蝶人

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重信房子歌集「暁の星」を読んで

2022-08-29 10:37:13 | Weblog

照る日曇る日第1778回

 

日本赤軍の革命運動、なかんずく反イスラエルのパレスチナ解放闘争を主導し、懲役20年の服役を終えT22年5月に出獄した作者の第2歌集である。

 

  塹壕の司令部室の空薬莢一輪挿のムスカリの花

 

  カラシニコフ抱きて砂漠に寝転びて流れる星の多さを知りぬ

 

「愛と革命に命を投げ出した」とは彼女のためにあるような言葉だから、1首1首に込められた思想や行動の重さに思わずたじろいでしまうようなこともある。

 

 殺されて殺され続けて奪われて尚空爆下のガザに住む民

 

 喉仏ごくりとひとつ動かして弁解もせず去りし友あり

 

一時代の貴重な証言、あるいは、いまなお破天荒の人世を驀進しつつある、一人の勇気ある女性の内奥の声として、貴重な作品も多いようだが、おらっちの好きな歌はこれ。

 

 津波燃え人家逆巻き雪しきり煉獄の闇 生き延びし朝

 

 吾亦紅竜胆鶏頭女郎花獄に届きて秋を貪る

 

シルビーのヴァルタン嬢がレナウンのワンサカ娘を歌ってるこのCMは今井和也氏の企画なりしが 蝶人

 

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葛原妙子歌集「原牛」を読んで

2022-08-28 10:16:57 | Weblog

葛原妙子歌集「原牛」を読んで

 

照る日曇る日第1777回

 

「ひなげし充つる」「原牛」「灰姫」「劫」「黄道」からなる昭和34年刊行の歌集である。

 

 みどりのバナナぎつしりと詰め室をしめガスを放つはおそろしき仕事

 

作者は化学の仕事をいていたらしく、それにまつわる歌は興味深い。

 

もしかすると作者は基督者であったのかもしれない。

 

 二十四本の肋骨キリストなるべし漁夫は濡れたる若布を下げて

 

もしかすると作者は基督者であったのかもしれない。

 

 厚き聖書と鍵を具ふる卓の上ホテルは一人の旅人のため

 

おそらく赤茶色の表紙の和英対照のギデオン教会の聖書であろう。私の祖父はこの聖書の寄贈のために最後の力を振り絞って琵琶湖ホテルで客死したのであった。

 

 原牛の如き海あり束の間 卵白となる太陽の下

 

日本海の荒海をみたおりの感想らしいが、さながらランボーを引用したゴダールの映画のラストのような情景である。

 

 さびしき學者晩年になししひたすらになしし「割れ目」の研究

 

物悲しくもあるがユーモアもある一首なり。

 

 ひと夜われむかひていたりゴヤ描く「巨人」なる畫のおそろしけれど

 

ゴヤの絵は確かに怖ろしいが、それと一夜まむかう作者のほうが怖ろしくもなる。もしかすると作者は基督者であったのかもしれない。

 

  コロナ禍で感染したる我なるが俄かに下痢してパンツを汚せり 蝶人

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西暦2022年葉月蝶人映画劇場その2~アキ・カウリスマキ特集

2022-08-27 12:38:01 | Weblog

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2998~3004

 

1)アキ・カウリスマキ監督の「パラダイスの夕暮れ」

1986年の労働者階級物の第1弾。ゴミ収集の男と、若きカティ・オウティネンとの紆余曲折とラストの船旅。新婚旅行だというが大丈夫なのだろうか?

 

2)アキ・カウリスマキ監督の「真夜中の虹」

労働者階級物の1988年の第2弾。炭坑の閉鎖から始まる不幸な男の南への脱出の物語。3本のワ-カー物には生真面目と悲哀はあってもユーモアとペーソスはない。

3)アキ・カウリスマキ監督の「マッチ工場の少女」

1990年公開の労働者階級物の第3弾。薄幸の女カティ・オウティネンが最後追い詰められて鼠捕り薬で人殺しをしてしまう。

 

4)アキ・カウリスマキ監督の「レニングラード・カウボーイ・ゴー・アメリカ」

奇妙なコサック風の格好をしたフィンランドの楽隊がメキシコ、アメリカをドタバタ巡業するが、どことなくトボケタ味わいがあって飽きない。

         

5)アキ・カウリスマキ監督の「浮き雲」

1996年公開の「弱者シリーズ」の第1作。最近の本邦と同様、通貨価値が下落したフィンランドを襲った民草の困窮。共稼ぎの夫婦が二人とも失職しながら悪戦苦闘、なんとかレストランを開業するまでの日々をを等身大で描く。カティ・オウティネンが素晴らしい。

 

6)アキ・カウリスマキ監督の「過去のない男」

2002年公開の「弱者シリーズ」の第2作。暴徒に襲われて記憶喪失した男が救世軍のカティ・オウティネンなどの助けで自己を回復していく「愛」の物語。

 

7)アキ・カウリスマキ監督の「街のあかり」

2007年公開の「弱者シリーズ」の第3作。美女を使った悪者の陰謀に陥れられて無実の罪で牢屋にまだ入ってしまう元夜間警備員の愚かな若者が主人公。終始温かく見守ってくれた女性だけが味方だが、その未来に果たして明かりは灯るのだろうか?

 

「特効薬」を勧められしが生命の安全までは保証しないというので辞退す 蝶人

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高橋文樹著「途中下車」を読んで

2022-08-26 09:57:45 | Weblog

照る日曇る日第1776回

 

2001年に「第1回幻冬舎NET学生文学賞」を受賞した当時の新進気鋭による恋愛小説。

 

世間がなんといおうが断固妹を熱愛し続けていくという意思表明をする、いわば「命懸けの反モラル物語」らしいが、選考委員の村上龍、唯川恵、石原正康などの諸士が口を揃えて激賞しているのが、おらっちにはさっぱり理解できなかったずら。

 

「コロナですね」と医師より言われて余は三十八万人のコロナ患者の一人となれり 蝶人

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木下龍也著「あなたのための短歌集」を読んで

2022-08-25 09:32:08 | Weblog

照る日曇る日第1775回

 

ゲイジュツはなんでもそうだが、詩で食べていくのは難しい。もちろん本屋さんもそう。ところがナナロク社の社長は知恵者で、谷川俊太郎の詩が、半年間封書で届くという商売を考案したそうだ。

 

短歌の方では枡野浩一という歌人が、発注者の名前を詠み込んだ短歌をメールで納品するという「名前短歌」という新商売を発明して儲けた?らしい。

 

んで、その2つを受けて2017年に木下選手が開発した「依頼者からのメールに人生相談さながらに答えるようにして返信する「あなたのための短歌1首」」からセレクトしたのが本書で、本当は契約も勘定も終わっていた私短歌が彼の印税放棄とかいろんな経緯で公刊されたんである。

 

まあメデタシ、メデタシ。

 

なんたって木下選手はテダレであるから私短歌といえどもその作品の切れ味は鋭く、例えば、「18歳から72年間詩を書き続けて90歳になった人間を面白がらせる短歌を読みたい」という谷川選手に対して、「言葉ってくすぐったいね靴下を脱いで芝生を歩くみたいに」とおめず臆せず返歌してのけるのだから、立派なものである。

 

それにしても、ナナロク社の村井光男選手は、もしかすると幻冬舎やら新書館やらブロンズ新社の社長より切れ者かもしれないな。

 

  この国の1465万2612人目のコロナ感染者となりし我 蝶人

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穂村弘作・木内達郎絵「あかにんじゃ」を読んで

2022-08-24 09:27:30 | Weblog

照る日曇る日第1774回

 

赤という色を手掛かりにして、忍者、カラス、蝶、おじさん、そして真っ赤なう夕焼けへと場面を転換していく手際は、即興を交えて、まことに鮮やかなものだ。

 

「自宅にて療養せよ」と偉そうにいうだけでなにかしてくれるわけでもなし 蝶人

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永田和宏著「歌に私は泣くだらう」を読んで

2022-08-23 10:10:59 | Weblog

照る日曇る日第1773回

 

妻、河野裕子の10年間の癌闘病であるが、この2人の壮絶極まりなき愛の物語の世界は異様なまでの迫力を備えていて、いかなるどんな私小説も裸足で逃げ出すだろう。

 

本筋の話も感動的だが、著者が恩人の市川さんと永訣の別れを告げる場面は並みの映画そこのけの感動が押し寄せてきて、おらっち涙なしには読めないのである。

 

  二十年師でありつづけ「永田君、吸呑に茶を」と言いて死にたり 和宏

 

また妻の河野裕子が唯一心を許した精神科医、九村先生との最後の別れも印象に残る。

 

  この人とはもう今生は会はざらむ八十四歳の握手求め来  裕子

 

 それにしても、ご家族は勿論のこと、我々もまっこと得難い歌人をなくしたものだ。

 

  もう見えぬ私の背中にいつまでも手を振り続けたりあの日の妹 蝶人

 

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鈴木志郎康著「続・鈴木志郎康詩集」を読みて、歌える

2022-08-22 13:31:26 | Weblog

 

 

照る日曇る日第1772回

 

生きる意欲が、急に減退してきたとき、

詩が、まるで書けなくなってしまったとき、

おらっちが思わず手に取る1冊、

それが、この詩集だ。

 

とりあえず、パラパラと頁をめくろう。

思潮社の現代詩文庫の121号だ。

パラ パラ パラ パラ パラ パラ

すると、こんな一節にぶつかる。

 

言葉を探せ!

ムッグゥーッ 声帯から血

舌からも血

血は口腔内に氾濫する*1

 

よりによって、この<スズキ詩>が転がり出てくるとは、驚いた。

 

じつは西暦2022年7月29日、

つまり今日のお昼前のこと、

電気コードに躓いた妻が、

床に倒れて、顔を強打したんだ。

 

彼女の顔の下から、とろーり、とろーりと流れ出て、

たちまち床に小さな人造湖をつくった、真っ赤あ赤な鮮血が

あまりにも、艶っぽく、あまりにも、美しすぎて、

おらっち、正直彼女を助け起こすのも忘れて、じいーっと見入ってたのよ。

 

言葉の前に、美を探せ!

ムッグゥーッ 顔から血

とろーり、とろーりと流れ出て、床に真っ赤な人造湖

美は、リビングルームに氾濫する。

 

ここで突然、おらっち、志郎康さんの助言を思い出す。

「書けない時は、なんでもいいから、とりあえず書いてみること。」

「短くてもいいから、なにかを書くこと。」

そうなんだ、詩は、簡潔さこそが、命なのよ。

 

爆裂する路上性交!

温順おまわり、私の絶頂する身体にさわるな

これは、温順詩人の悲愴なのだ。*1

 

そうなんだ。

悲愴でも、思想でも、歯槽でも、

まずは最初の言葉を探すことだ。

なんでもいいから、ひとつ言葉を、書いてみよ。

 

「萬犬、虚に吠ゆ」

 

そうそう、いいぞ、ワンワン、なかなかいいぞ。

 

そして、次へ行く。

何がなんでも、次へ行くんだ。

 

おや、傍から誰かが、おらっちにアドバイスしてくれているようだ。

おらっちの好きな詩人、ブコウスキー選手みたいだ。

 

 次の1行は常に待ち受けていて、

その1行こそ遂に何かを見つけだし、

遂に言いたいことを言っている1行となるかもしれないのだ。*2

 

その通りだ。

アイドルを探せ!

次の1行を探せ!

 

おらっちの、次の1行。

おらっちの、次の1歩。

おらっちの、真っ白白な未来。

 

*1 鈴木志郎康「爆裂するタイガー処女キイ子ちゃん」より

*2 チャールズ・ブコウスキー著・中川五郎訳「死をポケットに入れて」より

 

「コロナだね」と医者に言われし私は5億8541万6617人目の感染者 蝶人

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チャールズ・ブコウスキー著・青野聡訳「町でいちばんの美女」を読んで

2022-08-09 11:07:13 | Weblog

照る日曇る日第1771回

 

表題作がヒットして次々に短編を手掛けるようになったのんだくれ詩人の作品集なり。

 

冒頭作では人の世の儚さをニルアドミラリに切って捨てていい味を出していたのに、「犬の糞を除いたら私の糞がいちばん臭い」なぞというクサイ箴言を載せている「10回の射精」あたりからヨレヨレになってくる。

 

「あるアンダーグラウンド新聞の誕生と死」、「慈善病院での生き死に」を経て「白いあごひげ」とか「レイモン・ヴァスケス殺し」なんかになると、余りにも話柄(だけ。文章は素晴らしい!)がおぞましいので、登場人物と一緒に、トイレでゲエゲエ吐いてしまいたくもなる。

 

さりながら、アンドレ・ブルトンと思しき有名仏蘭西詩人の別荘で、主人公をブルトンと勘違いした男女を相手に、もんの凄えファックシーンを繰り広げる「ジェームズ・サーバーについて話した日」は、この作家にしかモノせない痛快作だろう。

 

訳者の青野聡は本書の「あとがき」で、「じゃあな、チャールズ、とうぶんあんたの顔をみたくないよ」と漏らしているが、ったく同感である。

 

  両の目の目尻の奥のその奥に固まりありて嗅げば臭し 蝶人

 

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「夢は第2の人世である」あるいは「夢は五臓六腑の疲れである」第112回 

2022-08-08 11:41:48 | Weblog

 

西暦2022年如月蝶人酔生夢死幾百夜

 

三連沼に棲むオオウナギが、村人たちを襲ったので、おらっちは、長靴で沼の中に入っていって、オオウナギの大きな顔を、ズタズタに引き裂いたので、彼奴は、村役場のビルのエスカレーターに乗って、逃亡したようだ。2/1

 

オルハインと少年は、昨夜から一緒に過ごしていたんだが、面倒くさいので、昼間も一緒に過ごすことになってしまった。2/2

 

久し振りに銀座電通主催の新年会に出たのだが、相変わらず専務のフルカワちゃんが三色ホースを持ち出して、「鼠退治だあ!」と喚きながら、3色の汚水を撒き散らすので、フロアはたちまち水浸しになってしまった。2/2

 

昔むかし、田舎の森の中の巨大な岩壁の下に、広大な空間が発見されたが、そこは、とても音響効果が優れていることが、分かった。2/3

 

そして今、そこは町内で唯一、というか全国随一のコンサートホールとして生まれ変わり、第一発見者であるおらっちは、そのホールの支配人に選ばれたので、ブレンデルとマリナー指揮アカデミ―室内管を呼んで、モザールの協奏曲全集を再録音したのよ。2/4

 

コンミューン最後の日に、同志たちが一人また一人と墓地で処刑される姿を悲涙を呑みつつ胸に畳んでから、半年間寝床を共にした男女(♂♀)と別れ、深い森の中を一晩中歩き続けて露でぐっしょり濡れた体で村に入ると、村人たちが朝餉を準備する物音に交じってヤマガラの囀りが聞こえてきたので、なにやら生きる力が湧いてきたようだった。2/5

 

若い頃、戯れに天井からぶら下った巨大な三角形を燃やして、危うく、大火事にしてしまうところだったずら。2/6

 

どこかで鳴くアブラゼミの声が響き渡る両国駅。そこからは、遠く白い三角形をした富士山の山頂が望まれたが、おらっちは、その長い長いプラットフォームの反対側のその先を、どんどんどんどん進んで行った。2/7

 

おらっちはなぜだかお大尽だったので、立派な神輿のような乗り物にのせられ、4人の苦力に担がれて急な坂を登り、カブトムシやクワガタが群がっている栗林を過ぎて、高い高い山の中に入っていく。

 

おらっちは病気なのか、それともどこかを怪我しているのか? 胸に手を当てて考えてみたがさっぱり分からない。山のてっぺんを過ぎた神輿は、今度は急なヒヨドリ坂をいっさんに下っていくようだ。

 

山の麓には小さな村があり、村の真ん中の道に沿って一軒の古本屋があり、物珍しいので神輿から降りて中に這入ってみると、中世の古文書と江戸時代の黄表紙ばかりが整然と並んでいるので、店主に挨拶もしないで飛び出すと、完全武装した数人の米軍の兵士がぶらぶら歩いていた。2/7

 

眼前に宇宙戦争が迫ってきた。宇宙人の地球攻撃には各家庭で対応して下さいと阿呆莫迦政府がいう。「地下に潜ったら」と町内会長がいうので、おらっちはトラクター借りてきて、地面に防空壕を掘り、一家でその中に閉じこもることにしたのよ。2/8

 

教会が作っているカボチャやキュウリやナス、トマトを提供することになり、牧師夫人が「どうご自由にお持ちください」というた時には、モジモジしていた貧民たちだったが、彼女が姿を消すや否や、我勝ちに獲物に殺到し、獰猛な男どもは、女子供が持つ野菜を無理矢理ひったくるのだった。2/9

 

おらっち、殺人公社の専属スナイパーなんやけど、「殺傷対象が反社会的存在なら、勝手に判断して殺してもよろしい」と上司がいうんやけど、「自由に殺してもええ」と言われれば言われるほど、引き金を引けんようになっていくんや。2/10

 

北欧某国のデザイナーⅩ氏は、デザイン後進国のこの国で、ふぁっちょんから車、文房具、ビルジングまで、デザインと名のつくもののすべてを、超高値で引きうけて、荒稼ぎして来たのだが、最近ようやくメッキと化けの皮が、剥がれてきたようだ。2/11

 

韓国の山奥の珍しい景色をビシバシ写真に撮っていると、突然画面の右から左に、長い葬列が延びてきた。きっと、どこかの貴人の葬式なのだろう。2/12

 

キタカマのケンチョウジの北側は低山なのだが、なぜだか池の向こうが砂浜になり、そこからいきなり海になっている。おらっちはその海を見渡す厳島神社もどきの「立って半畳み、寝て1畳」の陋屋に住んでいたのだが、いつのまにか男好きのする女が棲みついてしまった。2/13

 

よく見ればまだ若い女なので、さぞや夜には、性欲的オーラを寝屋に発散しているのだろうが、なんせこちとらは、生まれながらのインポテンツなので、彼女がおらっちに跨って挑発しても、隆起の兆しはなかったのだが、最近は「もしかすると」という感じになってきたかも。2/13

 

会社の新しい上司が、社長のドラ息子になったのだが、こいつが嫌な野郎で、もうイヤデイヤデ仕方がない。出来るだけ話をしないよう、顔も見ないようにしているのだがあ。2/14

 

椿姫が亡くなったので、おらっちは彼女の遺言どおり、広大な庭の真ん中に本の紅白の椿の木を植えたのだが、今ではそれが亭々と茂る大樹となって、大空に聳え立っている。2/15

 

イシガキ医師は余の主治医であり、なおかつガンで余命半年の宣告を自らに下しながらも、10時間に及んだ余の右肩ガン手術を成功させ、予言どおり半年後に命終された。216

 

映画のラストで、主人公を海底深く沈めてしまうか否かについて激しく迷った監督のおらっちだったが、ここで美貌のヒロインを殺してしまえば、本作の印象は強化されても、続編の依頼が来なくなってしまうことを懼れて、やっぱ生かすことにしちゃったのよ。2/17

 

おらっちはケータイで、その都度「しんたんソフト」を駆使して、要所要所を微分積分したが、しばらくすると、その後にはなんにも残っていなかった。2/18

 

ここは大英博物館の地下だと思うのだが、なんとだだっ広い墓場に似たうすら寒い空間なんだろう。おらっちの仕事は、ここをなんとか無理やりにでも「活性化」させることなんだけど、ちょっと難しいなあ。2/19

 

わいらあワイラー監督の戦争映画を手伝っているのだが、彼は連合軍内部の因果応報を描くシーンを、みなカットしてしまったので、ついつい疑惑の暗雲が湧いてきたのよ。2/20

 

夜中にずきずき頭が痛むのだが、これが一体夢の中の頭痛なのか、それとも実際の頭痛なのかが分からず、朝になれば分かるだろう、と思っていたのだが、起きてみると頭痛はなかったずら。2/21

 

由緒ある大寺の床下で古布団にくるまって寝ていたら、真夜中に住職がやって来て「何か困っていることがあるのか?」と聞くので、「最近前向きに生きられないのです」と答えると、「そういう時には家ごと歩けばいいのじゃ」という。気がつけばおらっちは、大寺の地面毎前進していた。2/22

 

おらっちは新聞社に入って、あこがれの記者になったのだが、上司がいう公正公平な記事というやつが、何年経っても書けないので、擱筆、退職して郷里に帰ったのよ。2/23

 

最難関の洋裁学校を首席で卒業するために、私は毎朝早起きして、イの一番にミシンを磨き、イの一番に仕立てに必要な着分の生地を、全生徒の机の上に並べたのだった。2/24

 

「でもあんた、怪我はしたけど、死ななくてほんとに良かった。持って生まれた強運の星のお陰よ。ノーブルなサラブレッドはいつまでも走り続けるのよ」、とか言われると、おらっちも、だんだんその気になってくるのだった。2/24

 

あったかい宮殿でふんぞり返って「キエフを目指せ!ゼレンスキーの首を獲れ!」、などど矢継ぎ早に命令を下されたロシア軍兵士たちは、極寒の地で阿呆らしくなり、全員が戦車や戦闘機から降りて、投降したのよ。2/24

 

コロナ患者対応で、きりきり舞い。疲労困憊して、、金欠病の町医者たちに、おらっちが、金の延棒を呉れてやると、彼らは、たちまち、らんらんと目を輝かせ、勇気百倍、燃える闘魂、元気溌剌、になるのだった。2/25

 

そこであたいがしゃしゃり出て、「さあさ修学旅行帰りの皆さん、長旅でさぞやお疲れでしょう。でもこの我が家の特製麦茶を一口飲めば、ああら不思議、疲れなんてどっかに吹き飛んでしまう。さあ、1口いかが?」と2/26

 

知恩院前のバスに向かって呼びかけると、超ミニスカートの女生徒が、「あたしの目尻の皺を見て、まるで郷里のお母さんだと思って、一斉に駆け寄って来て、原価ほとんど無料の番茶が、バンバン売れちゃうの」と、商売の秘訣を語ってくれたずら。2/27

 

とうとう戦争になった。時代物の旧型長谷川戦車を駆使したおらっちは、3台の敵戦車を破壊したけれど、あっと言う間に殲滅されちゃったずら。2/28

 

 インフルより死亡率重症化率引き上げてこれでどうだとオミクロンが言う 蝶人

 

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マリオ・バルガス=リョサ著「ケルト人の夢」を読んで

2022-08-07 10:42:01 | Weblog

照る日曇る日第1770回

 

およそ1世紀前の実在の外交官を主人公に、彼の波乱に満ちた数奇な生涯を描く、超超大河小説ずら。アイルランド生まれのロジャー・ケイスメントは英国を代表する領事としてアフリカのコンゴ、ついでブラジルに渡り、西欧資本主義国家がいかに残酷非人道的に植民地に生きる原住民たちを搾取し、生殺与奪の暴力を駆使しているかを世界に暴きだして、一躍英雄となる。

 

しかしその非人間的な支配・被支配の搾取構造は、彼が禄をはむ英国と、彼の母国愛蘭にも相通じていることを知り、我らがヒーローは欲も得も投げ捨て、敵国ドイツからの軍事支援を企図して乾坤一擲のギャンブルに打って出るのだが、大小説のラストにふさわしい死刑台へとおもむろに足を運ぶのであったあ。

 

男色を記した有名な「ブラックダイアリー」を含め、汗牛充棟の資料を鮮やかに駆使し、膨大なエネルギーと時間をおしみなく投入して紡がれた500頁を越える老ノーベル賞作家の大著であるが、今時なんでまたこのような大きな物語を綴りたくなったのか、おらっちにはいまいちよく分からない文芸大作ではあったあ。

 

  あるものがこわれてしまうとまた別のものが次々こわれていくような 蝶人

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家族の肖像~親子の対話その84

2022-08-06 10:02:36 | Weblog

ある晴れた日に 第676回

 

お母さん、受け止めるって、なに?

ああそうだねって、認めてあげることよ。

 

ミーティングって、なに?

話し合いよ。

 

お母さん、おみそれって、なに?

「あらまあ、びっくり」、よ。

 

イグサ、「たたみ」でしょ?

そうだね。イグサで出来てるね。

 

ぼく「みんなの歌」好きですお。

お母さんも。

お父さんもだよ。

 

めった刺しって、なに?

めちゃくちゃに刺すことだよ。

めった刺し、嫌ですねえ。

嫌だねえ。

 

ぼく、名越のプール、好きでしたお。

お父さんも。あのプール、良かったね。

 

またオオヤさんに会える?

きっといつかどこかで会えるよ。

 

お買い得って、なに?

買って得することよ。

 

更生のこう、更にの更でしょう?

そうだね。

 

停電したためって、なに?

停電したから、よ。

 

ぼく2段ベッド好きですお。

そうなんだ。

上が好き?それとも下?

両方ですお。

 

とりあえず、「一応」のこと?

そうだね。

 

果てしなくって、なに?

どこまでもずーっと、よ。

 

お母さん、特別扱いしちゃだめでしょう?

そうねえ。

 

あした定期買いに行きますお。

行こうね。

 

私は壇ふみです。

こんにちは壇ふみさん・

 

金曜日、お赤飯と豚汁にしてくださいね!

分かりましたあ!

 

今日コンスープとシャケご飯にしてね、お母さん。

分かりましたあ。

 

人間同士って、なに?

人間、みんなお友達よ。

 

 お茶ボトルを5杯も飲むな1日に3杯までだと言うてきかせる 蝶人

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「夢は第2の人世である」あるいは「夢は五臓六腑の疲れである」第109回 

2022-08-05 12:04:25 | Weblog

西暦2022年睦月蝶人酔生夢死幾百夜

 

おらっちはパーティで与太話をしていた貴族から、その街を発展させる計画についての感想と協力を求められたので、すぐさま断ったのだが、それは、そんな難しいことなんか、自分で出来っこないと分かっていたからだった。1/1

 

私は大阪城を大掃除していたおばはんの実態が、掃除婦ではなく、腕利きの印刷屋であると知ったので、新しい1万円札が出回る前に、偽札作りに協力してほいいと頼んだが、あっさり断られてしまったのよ。1/2

 

歯が痛い、歯が痛いと七転八倒する息子を見ていると、可哀想になって来て、そうだ日々を無為に過ごしている父親の自分が替わってやろう、と思いついたのだが、どうすれば入れ替わることが出来るのか分からなくて、往生している。1/3

 

正月になっても、朝から晩まで町内をほっつきまわっている夫婦がいるので、「どうしたの?」と訊ねると「暮れからうちの愛猫が行方不明なので、正月どころではないんです」と答えてから、またあちこち探し続けるのだった。1/4

 

犬派と猫派のふた手に別れて新春大討論会が開かれたのだが、両者相譲らず、まるで革マルと中核派のように武装して、時ならぬ大ゲバルト大会が始まった。1/5

 

「雨が降っても、雪が降っても、槍が降っても、おらっちは断固として前進するぞ!」と息巻いていたら、本当に雨と雪と槍が降ってきたので、ちと驚いている。1/6

 

若輩ながら販売チーフに抜擢されたおらっちは、年長の先輩たちに天文学的な売り上げノルマを課したので、たちまち総スカンを喰らい、その会社から追放されちまった。1/7

 

ここは陸軍の散髪屋なのだが、軍隊刈りのショートカットにあこがれる大勢の市民が、門前市をなして詰めかけている。1/8

 

明日からダム工事が始まって、村は湖底に沈められてしまうので、おらっちたちは、三々五々涙をぬぐって、住み慣れた襤褸家を後にした。1/9

 

生来おっちょこちょいのおらっちは、よせばいいのに両組の出入りの最先端に飛び出したので、あっというまに全身をなますのように切り刻まれて、儚いいのちを散らせてしまった。1/10

 

「「フィガロの結婚」を聴く前に、お互いの言い分を言いあって手打ちにしようぜ」と、敵の親分が提案したのだが、その時遅く、かの時早く、オペラの序曲が始まってしまった。1/11

 

その戦士は、女子供には傷一つつけないで、敵の男どもを皆殺しにしていくのだった。1/12

 

横浜市では毎年スポーツ大会を開いているので、それをそのまま毎年五輪に昇格することにしたそうだ。1/13

 

リュウホウ部長が、「企画のヒサミツ課長と相談して、新ブランドのPR案を考えてくれ」というので、おらっちは急遽、中目黒に出向いたのよ。1/14

 

木造の古いモナコホテルには、無数の貧民たちが住んでいるのだが、ここに30年以上住み続けると、その部屋を無料で払い下げてくれるので、とても人気があった。1/15

 

われひとは、何故か人世に失敗したのではないか、という疑いにとらわれて、城門の傍らで長く立ちずさんでいた。1/16

 

街中を歩いていたら「相撲取りになりませんか?」と勧誘されたのだが、人から勧誘されたのは生まれて初めてなので、「相撲取りになってみようか? どうしよう?」と、ずっと悩んでいるのよ。1/17

 

ゲーム カナリチ エニンシア カーターなどになって叩く僕。1/18

 

ボク、紅衛兵用の新品マスクを付けて「気をつけー!」で 「エライ、エライ」と、誉めてもらった。1/19

 

おらっちは新入社員なので、先輩たちに「おはようございます」と挨拶すると、「おい、そういう月並みの挨拶をしていると、すぐに社長から首にされるぞ」と警告された。1/20

 

八幡様の二ノ鳥居の傍で休んでいると、左側に自転車に跨ったセイさん、右側には仲間と連れだって歩いているセイさんがやってきたので、おらっちはどっちに声を掛けようかとしばらく考え込んでいた。1/21

 

そのマラソンレースは、ちと風変わりで、走者は、1キロ走る毎にシェークスピアの芝居のせりふ、例えば「生きるべきか、死ぬべきか」を喋らなければならないのだった。1/22

 

毎年大学を留年ばかりしているので、今年こそは卒業するぞ、と心に誓って久しぶりに登校したが、自分に必要な単位と講座がさっぱり分からないので、ただただキャンパスの中をうろうろしているのよ。1/23

 

新しいCMの製作を依頼されて、まずその企画内容の予告編を作らなければならないのだが、じつはおらっちビデオの撮影はやれても編集作業なんてやったこともないので、ひどく消耗しているとこ。1/24

 

どういう風の吹き回しか、おらっちはリーマンになっている。総務から机と椅子や文房具一式が届けられたので、とりあえず座ってあたりを見回してみると、なんだか嬉しくてたまらぬ。こんなに仕事がしたくなったのは、じつに生まれて初めてのことである。1/25

 

しかしここはどういう組織で、どういう仕事をすればいいのだろう。そもそもこの会社の名前はなにで、どういう職種に属するのだろう?誰かに聞いてみようと思うのだが、みな忙しそうに立ち働いているので聞けない。そうこうするうちにお昼になったので、弁当を使ってお茶を飲んだ。1/26

 

眠くなったので昼寝をしようかと思ったのだが、ふと午後いちで試写会があったことを思い出し、急いで会社を出てから地下鉄に乗って銀座で降りて試写会場に入ったら、顔馴染みのキサラギさんがいたので、ちょっと会釈して安楽椅子に座って映画鑑賞しているうちに眠ってしまった。1/27

 

しまった、これは申し訳ないことをしてしまった。試写会で見る映画は9割がたは詰まらない映画なのだが、今日のはそれほど酷い映画ではないので、ちゃんと終わりまでみようと思っていたのに、寝てしまった。これで感想文を頼まれても書けない。困った、困った。1/28

 

どうしたものかと考えてみたら、さいわいまだ試写は数回あるので、また来ればいいやと思いついて外に出たら、もう誰もいない。みんな3時半からの試写に行ってしまったのだ。おらっちも負けてなるものか、と銀座の別会場の試写会に駆けつけて、今度は居眠りしないで最後までしっかり見届けた。1/29

 

終って外に出たらもう5時半だ。これで会社に戻っても仕方がない。6時からはクロコダイルでロック、渋公でパンク、武道館では松田聖子のコンサートがあるので、急がなくっ茶。明日から午前中に会社の仕事をして、午後からは映画とお音楽にしようと決めた。1/30

 

ふぁっちょんライターのおらっちが久しぶりに巴里に行ったら、今年の秋冬のトレンドガ「ステルス・ろまんちっく」から「極超レアル」に180度大転換している、という話だったので、こないだアンアンに書いたお洒落速報を書き直そうと連絡したのだが、もうデリバリー済だった。1/31

 

  来る筈はなかった7波がやって来てなにも出来ずにただうろたえる 蝶人

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