あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

西暦2017年睦月蝶人花鳥風月狂歌三昧

2017-01-31 11:51:47 | Weblog


ある晴れた日に 第429回


云々をでんでんと読む総理でんでん太鼓の御屠蘇気分のおめでたき人

いにしえにの黄金の日々は遠ざかりゆるやかに没落する佐々木家のわたし長男

源氏はモノフォニー平家はポリフォニーで貴族と武士の興亡を歌う

カナー氏はカナー症候群をアスペルガー氏はアスペルガー症候群を発見したり
 
モザールもアインシュタインも耕君も味噌糞一緒に「発達障がい」 

楚々として見目麗しきひとなりき東京五輪開会式の青空の下 
 
鎌倉の島森書店傍の宝籤7億円が出たので我らも行列

7億円が当たった売り場で2匹目を狙うたけれどはずれてしもうた

どんな時も笑わなかった大関のあの細き目より流れる涙

「アメリカ第一」などと抜かしているが結局は「てめえ第一」の権力亡者

最高月給が1000万円を超えるなんてどう考えても異常な世界だ

わが妻が丹精込めて育てたるすべての柚子を栗鼠が喰うたり

実は捨てて柚子の皮を喰い散らす台湾栗鼠は悪い奴なり

鎌倉の動植物を喰い散らす台湾栗鼠を殲滅すべし

またしてもヤオフクの入札に敗れてしまったぐやじいぐやじい

お、なぜかヤフオクの値下げ交渉が成功したぞよかったヨカッタ

軍配はあっという間に返りたりドドッと塩に走る勢

権力と戦う人減りて権力に与して戦う人ばかり

「虐殺」と「殺害」は違いますむごたらしく殺されたのか普通に殺されたのか

自民党はいたるところにビラを張る選挙ある日も選挙のない日も

家電製品は国産に限る海外メーカーはサービス修理が劣る

窮したるわれの身体に祖父小太郎遺愛の聖書を押しつけて助けてやって下さいと祈りし妻よ

3月の「魔笛」公演を予約したということは3月までは死なないつもり 

お客さんドダメルの指揮のどこがいい具体的に言うてみなさい言えないだろうが

おもむろに尻を拭きつつ思うことこんなに柔らかでいいんだろうか

洗うたんびにどんどん縮む赤いセーター縮み止まりはしないのだろうか

強風に逆らいながら舞っているよくも出会った雌雄のキチョウ

そこここに生魂宿る菊人形

この日までとっておきたる涙かな

あの鬼の目から流れる涙かな


  蟷螂にいくら言い聞かせてもノコノコと道を歩いて車に轢かれる 蝶人

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片桐ユズル・中山容訳「ボブ・ディラン全詩集」を読みて歌える~これでも詩かよ第198番

2017-01-30 10:21:32 | Weblog



ある晴れた日に 第428回


西暦2017年1月23日、ギャラプの世論調査によれば、トランプ大統領の就任直後の支持率は45%で、調査を始めた1953年以来過去最低を記録したそうだ。

この日大統領は、「TPP交渉から米国が永久に離脱するよう」指示した。

永久?永久?永久?
お前さん、まさか永久に大統領を続けるつもりやないやろな。
死んでも永久に生き続けるつもりかいな。

とわいが驚いとると、あの「プラトーン」のオリバー・ストーン監督が、「トランプを良い方向にとらえよう」とツイッターで呟いたそうや。

来日した彼は、朝日新聞24日朝刊のインタビューで、
「ヒラリー・クリントンが勝っていれば、危険だと感じていました。米国による新世界秩序を欲し、他国の体制を変えようとする彼女が大統領になっていたら、第3次大戦の可能性さえあったと考えます」
なんちゅうことを平然と語っておるので、またまたびっくらこいてると、
突如、わいの目の前にメリーゴーランドが現われ、ゆっくり、ゆっくり回りはじめた。

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

「トランプ氏は“アメリカ・ファースト”を掲げ、他国の悪をやっつけに行こうなどと言いません。米軍を撤退させて介入主義が弱まり、自国経済を機能させてインフラを改善させるなら、すばらしいことです」

などとストーン監督はのたまうんやけど、その嘘ほんまかいな?嘘かいな?
ちょいとばかし楽観的にすぎるのではないかいな。

そういえば、わが国の東京都知事も、盛んに「都民ファースト」を呼号しとる。
そういえば、だいぶ前から食い物はファースト・フードやし、アパレルはファ(ー)スト・ファッションが大流行やし、なんでもかんでも速攻自己中心の“ファースト主義”の時代になったんやろうか。

ほな早速、ボブ・ディランはんに聞いてみましょ。

「半分の人間は、いつもなかばは正しい。
 何人かのひとはときどき完全に正しい。
 しかしみんなのひとがいつも正しいことはありえない」
やて。

そりゃそうやけんど、そもそもオリバー・ストーンはんは、正しい人か?
トランプは悪魔か、それとも正義の味方か? ボブ・ディランはんは、どっちの半分や?
わいらあ、だんだん自信がのうなってきたよ。

するとボブ・ディラン選手がまたあらわれて、わいにウインクしながらこう言うた。
「いまの勝者は、つぎの敗者だ。
 第一位は、あとでびりっこになる。
 とにかく時代はかわりつつあるんだ」

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

なんか人世が厭になってしもうたわいがテレヴィをつけると、かつて「米国抜きのTPPはあり得ない」と語っていたアベ・シンゾウが、まるで猪八戒のような顔を30度傾けて、参院本会議場で演説しとる。

「トランプ大統領は、自由で公正な貿易の重要性は認識していると考えており、TPP協定が持つ戦略的、経済的意義についても腰を据えて理解を求めていきたい」

なぞと、目玉をキョロキョロさせながら、ゴーストライターの書いた原稿をほとんど聞き取れない猛烈なスピードで読みあげている。

しかし肝心のトランプが「永久に」蹴ってしまった交渉の座席に、「腰を据えて理解を求め」るなんて、世界中の誰にもできっこないだろう。

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

民放にチャンネルを切り替えると、横綱昇進が決まった稀勢の里が、今まではほとんど開けなかった目玉をぐっと見開いて、

「これから、ますます強くなります。土俵入りは不知火型ではなく、雲竜型で行きます!」
と威勢よく語っている。まるで血液型が変った別人23号のようだ。

別のチャンネルに切り替えるとかの「仁義なき戦い」で有名な俳優、松方弘樹はんが、脳リンパ腫で74歳で亡くなったと悼んどる。

ここで急遽、元妻の仁科亜希子はんの言葉が紹介される。

「このたびの、訃報を聞き大変驚いております。私が本気で愛し、2人の子どもを授かり、20年以上も共に歩んでまいりました方です。今は、安らかにおやすみくださいますよう、心よりお祈り申し上げます 合掌」

わいらあその「私が本気で愛し」に完全に痺れてしもうた。
こういう赤裸々な告白を、芸能人、いや世間の人々から聞くことはめったにない。
恐らく別れた後で、「ホントウニ愛シ」ていたことが分かったのだろう。ええ話や。

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。

すると、よせばいいのに、またアベ・シンゾウが出てきた。

アベは、共謀罪の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法の改正案について、「捜査の相互協力などを定めた国際組織犯罪防止条約の締結に必要だ」と強調。
「国内法を整備し、条約を締結できなければ東京五輪・パラリンピックを開けないと言っても過言ではない」と述べたそうや。

なら、オリンピックなんて止めちまいな。謹んで返上してしまいな。
だあれも困りはしないよ。
なあ、ボブ。

そこでボブは、立ち上がる。
立ち上がって、歌う。

「何回弾丸の雨がふったなら、武器は永遠に禁止されるのか?」
「何人死んだら わかるのか あまりにも多く死にすぎたと?」
「おい戦争の親玉たち。あんたがたにいっておきたい。あんたがたの正体はまる見えだよ」

いいぞ、いいぞ、ボブ、ええやんか。

「それで ひどい ひどい ひどい ひどい雨が降りそうなんだ」

回れ、回れ、メリーゴーランド。
ゆるゆる回れ、メリーゴーランド。
僕らを乗せて、ゆるゆる回れ。


*トランプ大統領、オリバーストーン監督、安倍首相の発言は西暦2017年1月24日付朝日新聞、ボブ・ディランの発言は片桐ユズル・中山容訳「ボブ・ディラン全詩集」の「第三次大戦を語るブルース」「時代はかわる」「風に吹かれて」「戦争の親玉」「ひどい雨が降りそうなんだ」より引用。


  鎌倉の島森書店傍の宝籤7億円が出たので我らも行列 蝶人
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林望「謹訳平家物語四」を読んで

2017-01-29 11:31:03 | Weblog


照る日曇る日第930回



河出版日本文学全集の古川日出男による「平家物語」の濃厚放胆訳の離れ業を読んだ後では、こちらの元祖謹訳がいささか謹厳実直な淡白質に感じられてちと残念だが、同じ原作でこれほどまでの温度差濃淡差があるということは、翻訳の恐ろしさと奥深さを同時に物語ているようだ。

それでも平家直系最後の男、六代御前の最期には涙がちょちょ切れる。

16歳の六代は文覚上人のアドバイスに従って出家し、高野山に詣で、父維盛が滝口入道に見守られながら入水した熊野に赴き、山成の島に渡ろうとして果たせず、京の高雄に戻った。

文覚は頼朝が亡くなった直後に謀反を起こそうとしたが露見し、後鳥羽帝の御世に齢80超の高齢で隠岐島に流されたが、鎌倉政権に反旗を翻したその御鳥羽上皇が、同じ隠岐に島流しになって果てるとは、両人とも夢にも思わなかったことだろう。

文覚上人の骨折りの結果、27歳まで生き延びたものの、あわれ六代御前は、肝心のスポンサーの流罪が災いして召し捕られ、鎌倉に護送される途中、田越川付近で斬られ、ついに平家は滅亡してしまった。

六代の墓は、私の妻が毎週月曜日に通っている逗子のスイミングクラブのすぐ裏手にあるが、残念ながらここに詣でる人を見かけたことはない。


  最高月給が1000万円を超えるなんてどう考えても異常な世界だ 蝶人


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半蔵門の国立劇場で「通し狂言しらぬい譚」千穐楽をみて

2017-01-28 11:24:04 | Weblog


蝶人物見遊山記第228回


久方ぶりの東京でしたが猛烈な風に閉口しました。これが春一番ならいいのですが。

歌舞伎はやはり開始直後よりも千穐楽やテレビ中継が入る日がいいようです。全然空気と台詞の入り方が違います。たとえばいまでは完全に死んだ形態模写と化してしまった演技の最後で見得を切るところの気合い、など。

ということで、今回もわざわざ楽日を選んでの見物でしたが、尾上菊五郎、中村時蔵の両御大に加えて、今回は大友家の遺児、若菜姫に扮した尾上菊之助の再度にわたる「筋交い」(斜の)宙乗りを見物することができました。

客席の上を細い鋼線によって全身の安全を託して飛翔し、上下左右に移動しながら踊り、語り、あまつさえ怪しの蜘蛛糸を四方に投げつけるなどという行為は、やはりバンジージャンプに似た命懸けの投身行為で、その自己投企の美学に酔うからこそ、役者も観客も興奮するのでしょう。

国立劇場にあんな巨大な化け猫の造り物が在庫しているというのも驚きで、これに比べたらピコ太郎の乱入など下らないおためごかしの一語に尽きます。
ぬいぐるみの「くろごちゃん」とかこういうファッドにはあまりかかわらないほうが、国立劇場らしくてよろしいのではないでしょうか。

それはともかく正月興行ということで、猛烈に美しい綺麗どころがロビーにさんざめいており、嗚呼やはり大和撫子の着物姿と襟足は世界一エロチックだなあ、と見惚れてしまったことでした。


 「アメリカ第一」などと抜かしているが結局は「てめえ第一」の権力亡者 蝶人
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刑事コロンボの妻~これでも詩かよ第197番

2017-01-26 14:24:15 | Weblog


ある晴れた日に 第427回



ちちんぷいぷい ぶぎぶぎぶぎ
ちちんぷいぷい ぶぎぶぎぶぎ
あはあ、うへえ、ぶよよよーん!

嘘から出た真、瓢箪から駒、、驚きももの木、サンショの木。
ヒラリーおばはんに、みんごとババをつかませて、
世界一下品でえげつないサイテー男が、ほんとに米国の第45代大統領になっちゃった。
なっちゃった。

よ、大統領!
や、大統領!
古来稀なる大統領!

万歳、万歳、マンセイ、万世!
今年で古稀のトランプ新大統領!
暴風雪、高波、大雪低気圧も押し寄せて、
今日は世界万国、ほんとにおめでたい。

「2017年1月20日は、国民が再びこの国の支配者となった日として記憶されるのです」
やて。

いいね、いいね、すごくいいね。
ハート印の特大の「とってもいいね!」を押してあげる。
ケネディ以来、久しぶりに登場したイカス大統領だ。

ちちんぷいぷい ぶぎぶぎぶぎ
ちちんぷいぷい ぶぎぶぎぶぎ
あはあ、うへえ、ぶよよよーん!

「私たちの国で忘れ去られた男性、女性は、もう見捨てられることはありません。すべての人々が皆さんに耳を傾けています」
やて。

よ、大統領! 
や、大統領!
古来稀なる大統領!

おんとし70歳の老大統領が、今日から同じ年寄りや、貧乏人や障がい者、社会的弱者、先住民、移民などの「忘れられた人々」に、明るい光を与えてくれる。
やて。

アーメン、ソーメン、冷そうめん
南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
ああ、ありがたや、ありがたや。

すると、泉下でミヤザワ・ケンジの懐かしい声がした。

「おれたちはみな農民である。
ずいぶん忙しく、仕事もつらい。
もっと明るく、生き生きと生活する道をみつけてもらいたいもんだ」

すかさず、トランプ爺が答えた。

「私たちは、雇用を取り戻します。
私たちは、国境を取り戻します。
私たちは、富を取り戻します。
そして、私たちは夢をも取り戻すのです」

急いでミヤザワ・ケンジがたしなめる。
新大統領の能天気な空理空論を、どうせなら広大な宇宙的視野の元でじっくり見直せ、と提言したのだ。

「新たな時代は、世界が一の意識になり、生物となる方向にある。
正しく強く生きるとは、銀河系を自らの中に意識して、これに応じていくことなんだ。
われらは、世界のまことの幸福をたずねよう。
求道すでに道である」

ちちんぷいぷい ぶぎぶぎぶぎ
ちちんぷいぷい ぶぎぶぎぶぎ
あはあ、うへえ、ぶよよよーん!

知らん顔して、老獪なトランプは、タメを張る。

「私たちは大きなことを考え、より大きなことを夢見なければいけません。
米国では、私たちは国が頑張っている時だけ、国が存在し続けると理解しています。
私たちは口先だけで、何も行動しない政治家はもう受け入れないでしょう。
絶えず文句を言いながら、そのことに対処しない人たちです。
中身のない話をする時間はおしまいです。行動する時がやってきました」

再びケンジが、くぎを刺す。グサッと刺す。

「われらの古い師父たちの中には、さういう人々もたくさんいた。
でも、世界ぜんたいが幸福にならないうちは、個人の幸福はあり得ないんだ」

ちちんぷいぷい ぶぎぶぎぶぎ
ちちんぷいぷい ぶぎぶぎぶぎ
あはあ、うへえ、ぶよよんよーん!

しかし、ミスタ・ドナルド・トランプの世界観と幸福論は、ミヤザワ・ケンジとは正反対だ。

「この日から、新たなビジョンが私たちの地を統治します。
この日から、「米国第一」だけになるのです。米国第一です」

よ、大統領! 
や、大統領!
古来稀なる大統領!

「私たちは、失敗しませーん。この国は再び繁栄し、豊かになりまーす」

お、いいね、いいね。
懐かしのモンロー主義の再来だ。
マリリン・モンロー甦れ!
そろそろニッポンも、日米奴隷同盟解体の時かしら。

すると突然うちのカミさんが、テレビに向かって噛みついた。

「米国第一ですって!
あのねえ、あんた、それを言っちゃあ、おしまいよ。
もしもお腹の中でそう思っていても、絶対に口に出さないのがプロの政治家ってもんでしょう」

思いがけない反撃を受けた第45代米国大統領は、チチチチと歯軋りし、
右手の人差し指と中指を、せわしなく揺り動かしながら、監視カメラに向かって喚いた。

「そ、そういうあんたは、いったい誰なんだ?」

私のよれよれのレインコートのボタンをつけ直しながら、うちのカミさんが答えた。
「刑事コロンボの妻ですが、なにか?」

ちちんぷいぷい ぶぎぶぎぶぎ
ちちんぷいぷい ぶぎぶぎぶぎ
あはあ、うへえ、ぶよよよーん!


*宮沢賢治の言葉は「農民米術概論綱領」、トランプ大統領の言葉は、西暦2017年1月21日「朝日新聞」夕刊付の就任演説からそれぞれ引用し、ごく一部を修辞しました。


      云々をでんでんと読む総理でんでん太鼓のおめでたき人 蝶人
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私は旧作映画が好き

2017-01-25 14:26:41 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1130、1131、1132、1133


○ジョー・ライト監督の「ハンナ」をみて
ケイト・ブランシェット扮する悪魔のように冷酷な悪女マリッサがこの世に生み出した遺伝子改児ハンナが世界中を駆け回って最後の最後に復讐を遂げる御苦労さんなアクションスリラー映画であるが余りにも嘘くさくて見るに堪えない。


○ブライアン・シンガー監督の「ユージュアル・サスペクツ」をみて

一番の悪は臆病でノロマで冴えないやつだったんだけど、そういうドンデンガエシにはほいほいとついて行けないずら。

○フィリップ・ノリス監督の「ソルト」をみて

アメリカのCIAに潜入しているロシアのスパイ、アンジェリーナ・ジョリーが超人的かつ不死身の大活躍をして米ロの大勢のスパイを殺しまくるもはや誰にも訳のわからない猛烈アクション映画。

○ジョン・グレン監督の「007オクトパシー」をみて

007役がロジャー・ムーアに代わっているので詰らないが、最近のなんだか荒涼とした世界よりははるかに牧歌的な活劇を楽しく、かつアホらしく見物することができる。特に最後の美女軍団大活躍の場が素晴らしい。


   どんな時も笑わなかった大関のあの細き目より流れる涙 蝶人
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今井義行著「SWAN ROAD スワンロード」を読んで

2017-01-24 11:26:38 | Weblog


照る日曇る日第929回



1991年1月17日、私はモンテゴベイのハーフムーンビーチでプカプカ浮かんでいたらドイツ人のような顔つきをした青年が近づいてきて「ねえ、世界はこれからどうなるんだろう?」と尋ねたので、私は「分からない。てんで分からない」と答えた。

その夜ホテルのロビーに集まった世界各国からやって来た観光客に混じって、私もその青年も父ブッシュの湾岸戦争の宣戦布告を告げる演説を聞いたのだが、その時初めて私は、「これから世界はとんでもないことになっていくに違いない」という、その後は世界中でお馴染みのものになっていく不穏な思いに摑まれた。

そしてちょうどその年、極東の島国でひとりの青年が出版した第一詩集の奥底に澱んでいる感情も、私があの時に体感した、胸の奥に澱のように沈みこんでいく灰色の不穏な思いではなかっただろうか。

それはともかく、手にとれば思わずため息が出るような美しい書物である。

いまどき珍しい凝りに凝った特製仕様で、吟味された和紙のような柔らかな用紙、洋書なのに特別の意匠で2重の帙で収められた造本、フランス装の挿入など、生涯で最初の詩集をこんなにも贅を尽くした繊細な装丁で、これを世に送った人の感受性と豪儀さに脱帽せざるを得ない。

わたくし的にわりあい素直に入り込むことができた「MIO」、「ダリアの場合」「星座館」などなど、全部で17の詩篇が格納されているが、その多くは作者28歳当時の生々しい青春の生と性の息吹、切れ味鋭いレトリックと独特の言語感覚に花冠されていて、ああ、ここがかの恐るべき詩人が離陸していった地点なのだなと頷ける。

しかし「静謐な翅」あたりから開始された作者の詩と詩形を巡る実験的冒険は、最後に置かれた「硝子曜日のパラダイス」において最高潮に達する。

そこでは2次元の平面に並べられていた詩の言葉が図像と衝突し、個性豊かなグラフィック・デザインによって旧い意味が捻じ曲げられたり、倒置されたり、突如変容増殖して三次元的な曼荼羅世界が展開され、その姿形はあたかも吉増剛造の「怪物君」のアヴァンギャルドな試行錯誤のさきがけのようにも思われたのだった。


    楚々として見目麗しきひとなりき東京五輪開会式の青空の下  蝶人

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河出版日本文学全集09・古川日出男訳「平家物語」を読んで

2017-01-23 11:08:19 | Weblog

 
照る日曇る日第928回

900ページになんなんとする古川選手畢生の「平家物語」の現代語訳である。

訳者はこの中世を代表する戦記物語を、単なる歴史物語や源平の戦記物語、宮廷政治や宗教・社会権力の闘争史ではなく、それらの諸要素のすべてを包含した革新的な全体小説と位置付け、人間の運命の総体を鳥瞰と微視の超絶的・魔術的な往還をおそるべき情熱とエネルギーを保ちつつ全速力で敢行している。

そのために訳者は叙述の主体をあるときは男性、あるときは女性、琵琶法師、笛吹き、田楽師、またあるときは運命を司る神仏におのれを擬して、その自在な文体と話法でこの広大な物語世界の美と真実をあからめようとしているのである。

「源氏物語」がモノフォニーの長大なカタリであるのに対して、「平家物語」は、武士、皇族、貴族、僧、民草のそれぞれの個個人が、あるときはソロで整然と、またあるときは男女混声で入り乱れ、複合的な多声部で想いのたけを歌うポリフォニーの一大交響楽なのである。

「平家物語」の作者は誰だか分からないが、何よりも魅力的なのはその視線が、弱きもの、躊躇逡巡するもの、最後まで生に執着し、揺れ動きながら敗北し、自滅していく人間の悲哀にぴたりと据えられていることで、まるで現代の先端的な作家がするようにその行状をあますところなく開陳された宗盛、維盛、六代、義仲も以て瞑すべしではなかろうか。


 「源氏」はモノフォニー「平家」はポリフォニーで貴族と武士の興亡を歌う 蝶人


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タイタン映画2本立てずら

2017-01-22 11:12:08 | Weblog

闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1128、1129



○ルイ・レテリエ監督の「タイタンの戦い」をみて

タイタン族をせん滅したゼウス(ローレンス・オリヴィエ)の子である半神のペリセウスが主人公。なぜか神ではなく人間の側に立って戦うのだが、困った時にはゼウスが助け、その代わりにゼウスの危機をペリセウスが救うという持ちつ持たれつの関係なのである。キリスト教の神は単一神だが、ギロシア・ローマの神々はやおろずの神ほどではないが多士済々で演劇的かつ映画的で面白い。


○ジョナサン・リーベスマン監督の「タイタンの逆襲」をみて

「タイタンの戦い」の続編で、今度こそ巨人族が登場してゼウスやハデスはおろかその息子世代のペリセウスを全滅させようとするが、おっとどっこい奇跡の逆転チームワークでなんとか巻き返すのである。前作と併せて見物すると、タイタン→ゼウス→神々の黄昏から人間への権力移譲の道行きが学習できるという重宝な劇画ずら。


 モザールもアインシュタインも耕君も味噌糞一緒に「発達障がい」 蝶人

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自由律詩歌その15

2017-01-21 11:07:21 | Weblog


ある晴れた日に 第426回


いいいいいい


いういういう

いえいえいえ

いきいきいき

いくいくいくく

いけいけいけ

いこいこいこ

いざいざいざ

いしいしいし

いそいそいそ

いたいたいた

いちいちいちち

いついついつ

いていていてて

いないないな

いぬいぬいぬ

いねいねいね
いのいのいの

いひいひいひひ

いふいふいふ

いまいまいま

いみいみいみ

いむいむいむ

いめいめいめ

いもいもいもも

いやいやいやや

いらいらいら

いりいりいりり

いるいるいる

いろいろいろ


  勢はドドッと塩を取りに行く制限時間はいっぱい待ったなし 蝶人

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夢は第2の人生である 第39回

2017-01-20 11:49:43 | Weblog


西暦2016年如月蝶人酔生夢死幾百夜


米ソ冷戦下の時代にアメリカンのホテルに泊まったソ連の子供たちは、黒人のフロント係に、ソ連のホテルに泊まったアメリカの子供たちは、イワンの馬鹿のようなフロント係にそれぞれ懐いて、とても満足して帰国したそうだ。2/1

国連にロシアと日本が大枚の寄付をしたという噂を耳にして、「その嘘ほんまかいな」と思いながら電車に乗ると、電車の中刷りに「タケシがやって来る」と書いてあったので、「タケシなんかより、さんまのほうがずっとがいいな」と私は思っていた。2/2

ジャイアント馬場を化け物のようにしたような怪物が、チーフとサブの2人をさんざんな目に遭わせたあと、屋上の洗面所で上着を脱いで水を飲んだりしているのを見つけたので、私はぐったりしている2人にそのことを伝え、3人で復讐しようと図った。2/3

洗面所の外で待ち伏せしていたら、お化け馬場がやってきたので、3人で立ち向かい、2人が大きな体を押さえている間に、私が股間に何度も猛烈キックを加えると、さしもの怪物もたまりかねて、8階の階段の上からまっさかさまに転がり落ちた。2/3

これは夢の中だから大丈夫だな、と思って頭にシャワーをかけたが、案の定濡れなかった。2/4

僕の腹と腰には、びっしりとパイプ爆弾が巻かれている。僕のお師匠さんがいう。「あいつは悪魔だ。悪魔はこの世から取り除かねばならない。あいつを殺せば、世の中はたちまち平和になるだろう。そして君は永久に神から賛美されるだろう」2/4

とても面白そうな夢を見たので、真夜中にその内容をメモしたはずだが、朝起きてみたら手帳には何も書かれていなかった。2/5

時間が押していたので、「ではこの執行部案でよろしいでしょうか?」と尋ねると、バラバラという拍手のはざまから2、3本の手が上がったので、私は失敗したことに気付いた。「ではこの執行部案を拍手でご承認ください」と言うべきだったのだ。2/5

早く彼奴を潰さなきゃ、と思ってキック、キックでぶっ潰してやった。2/6

新幹線の先頭の2人しか入れない空間に、無理矢理5人で乗り込んだ。2/6

痩せたデビッド・ボウイそっくりの軍人が遥々私を訪ねてきたので、家の外へ出ると、ボウイは、いきなり私の口を吸いながら、その勢いで、私の肉を全部吸いこんでしまった。2/7

逃亡中に新しいケトルを5個買って、それで茶を飲もうとした首領は、「まず煮沸した熱湯でケトルを消毒してから、湯を捨て、もういちど煮沸した熱湯に、茶を入れろ」と手下に指示した。2/7

道路の真ん中を、中身が空気だけのかりそめの人々が大勢歩いていたが、私もまったく同じような、かりそめの人だった。2/9

官憲は、私たちを逮捕しようと待ち構えていたが、私らは別に悪いことをした覚えはさらさらないので、平然とその場に居直り、彼奴らにつけいる隙を与えなかった。2/9

橋本と名乗ったその男は、激しく降る雨の中を、ずぶぬれになって踊り狂っていた。2/10

「君はよく戦った。もうそれくらいでいいだろう。武器を捨ててそこから出てこい」という聞き覚えのある上官の声がしたので、私はたった一人で閉じこもっていた塹壕から、のっそりと、まぶしい光の中へ出た。2/11

雨宮氏は、彼が大切にしていたルイ14世風の、華麗にして重厚なデザイン画を、ことごとく売り払って出家した。2/12

「君のパンツが、また濡れてる。お気の毒だね」と慰めたら、そいつは「そんなこと、お前の知ったことか」といきなり逆上したので、ついかっとなった私は、彼奴を殴り殺してしまった。2/13

プロのカメラマンが、私のその「万感の思い」というやつを撮影したいというので、私は大いに戸惑っていた。2/14

或る男が、銀の取っ手を世界最高速度で製造することに成功したというので、その町工場ではささやかなお祝いをした。2/15

この男は大物なので、当局はしばらくは拘束せず放置していたのだが、洞窟の中で生活を共にするうちに、私はその人物の重厚な存在感に圧倒されるようになっていた。2/16

半ズボン姿の息子と、山際に建つ高層マンションの階段を自転車を転がしながら、上へ上へと登っていくと、てっぺんで行き止まりになった。ここで引き返そうと、車輪を戻そうとしたとき、いきなり息子が、ひらりと身をひるがえして空に飛び出し、地表にどすんと叩きつけられたので、驚いて見守っていると、しばらくして元気に立ち上がったので、やれやれと胸を撫で下ろした。2/17

その男は、みなから嫌われていたので、こそこそと立ち去っていこうとすると、みんなは口を揃えて、「せっせっせえーのよいよいよい。バルバロイ、バルバロイ、あいつは変態バルバロイ!」と大声で歌いだした。2/18

その歌は、「あいつは人からお金を借りても、決して返さない。その癖ションベンしてると早く出せ、早く出せと催促する変な奴。バルバロイ、バルバロイ、あいつは変態バルバロイ!」というような内容だった。2/18

夜、小便をしようと講談社の編集部に立ち寄り、いつもの便器の前に立ってズボンを下ろそうとしたら、いつのまにか隣に知らない男が立っていて、「やあ軽薄短小君、君はなにをしごいてこれからなにをしようというの」と歌い出したので、私は出なくなってしまった。2/19

するといつのまにか紛れ込んでいた女子が、「そういうあんたこそ、女の前で裸になったら、なにもできないくせに、偉そうなことを抜かすな。ボケナス」と罵ったので、くだんの男はすごすごと便所を出ていった。2/19

それから私は、広大なキャンパスの中で途方に暮れていた。昔一度大学に合格していたにもかかわらず、事務所で手続きするのが面倒臭くなって、そのまま郷里に戻ってしまったことがあったが、今度こそちゃんと入学しようと心に決めて、朝から歩きまわっているのである。

しかしなんという人間の多さか。人波に酔って疲労困憊した田舎者の私は、しばらくベンチで寝転んでいたが、急に空腹を覚えたので、よろよろと立ちあがって、学生食堂に行ってランチを食べようと思った。

あらかた喰い物は無くなっていたが、食堂のおやじさんが親切な人で、「ランチは終わったけど、残り物なら出してやろう」と言ってくれたので、ほっと一息ついた。するとおやじが、「ところであんた、これからどこへ行くの?」と私に尋ねた。

「医学部の大学院で入学手続きをするんだ」と答えたら、「なら飯どころじゃない、すぐに行かないとヤバイ」と脅かすので、一口も出来ないまま再びキャンパスに飛び出す。人に聞き聞き走りまわって、ようやく大学院の事務所に辿りついた。

ところが事務所のおばはんは、「手続きはもう終了したけれど、午後4時半からパーティがあるから、そこへ行って学部長に頼めばなんとかしてくれるかもしれないよ」という。「場所はどこだ?」と聞いたが、「それは分からない」という。喉は乾くし、腹は減るし、頭はクラクラするので、もう諦めて下宿へ帰ろうかと思ったのだが、田舎の両親のことを思ってもう一度がんばろうと思った。2/19

勤務しているお笑い会社で、初めて映画をつくることになり、参考にするためにみんなで大阪のアチャラカ物をみた。会長がみんなの感想を聞きたいというのだが、誰もなにも言わないので、私が「作るとすれば、非上方的で洗練されたユーモアのある映画ですな」といったら、「そんならお前が監督をやれ」といわれた。2/20

わが社の会社案内カタログがやっと完成したというので、手に取って開いてみたが、はじめのほうに4/6という数字が印刷してあるだけで、中身は真っ白だったので、社員は呆然としてペラペラとページを繰っていた。2/21

寿司屋で野菜寿司を注文したら、店主が「今日は野菜がないから、お前さんの右足を折ってくれないか」というので、折って差し出したら、それを美味しい天ぷらにしてくれた。2/22

世界中が困窮したので、我が国でもそれに準じて貧富の差が著しくなってきて、両階級は事あるごとに大殺戮を繰り返し、格差どころか人口そのものが激減してきたので、万やむを得ずお互いに妥協して、背中合わせにくっつきあうようになってきた。2/23

貧者たちは、冨者が所有するあらゆるビルや住宅の内部に勝手に侵入するようになり、野球場やサッカー場、とりわけ企業の会議室で終日ごろごろするようになったので、冨めるビジネスマンたちは、彼らの隙間を縫って打ち合わせするほかなかった。2/23

朝の4時頃に私の声が聴こえた、とリョウちゃんがいう。「そんなはずはない、その時間は私は眠っていたよ」というと、「かわかわの耕ちゃん!」と叫んでいたという。どうやら寝言が電波で鎌倉から浦和まで飛んで行ったらしい。2/24

ジコチュウでトランプ的不適切発言を繰り返していた歌手が、ついにイオニアレスト社を退社したので、社長も社員もほっとした。2/25

修学旅行の夜にホテルのトイレに行くと、小便器があまりにも高い位置についているので、チンポコが届かない。ふと便器の下を見ると、点点と血糊がついており、人間だか鳥獣だかよく分からない目玉や肉片も散らばっている。2/27

これは駄目だ。小便どころではない。早く自分の部屋に帰ろうとするのだが、ホテルの廊下は真っ暗闇で、どこにあるのかも分からない。2/27

キリノと2人で巨大なクマと戦っている。最初は私が黒クマで、キリノが白クマ相手だったが、いつのまにか相手が入れ換わり、私が鍬を白クマの頭にぶちあてると、真っ赤な鮮血が迸り、脳天の白い骨が見えたので、私は急に白クマが可哀想になった。2/28


カナー氏はカナー症候群をアスペルガー氏はアスペルガー症候群を発見したり 蝶人

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辻和人著「息の真似事」を読んで

2017-01-19 11:52:06 | Weblog


照る日曇る日第927回

私のように古稀になってから詩を書こうと思い立ったおく手の人間にとって、どういう詩をどうやって書けばいいのかというのはじつに難しい問題で、それから2年経った現在も頭を悩ませられる難問です。
しかしこの詩人のこの詩集を手にとって読んでみると、詩ってどんなことをどう書いてもいいんだな、という妙に楽な気持ちになれるから不思議です。

たとえば作者は「ダンスの話」でトイレの話を書いています。職場で猛烈な腹痛に襲われ、激痛に耐え、冷汗を流しながらながら便器に座っていると突然2人のあまり好きでもない同僚がトイレに入って来て、小便をしながら人物の月旦をしている。

便器に腰かけながら作者は、隙間から覗く揺れる薄い影と扉越しに響いてくるちょぼちょぼいう軽い音を聞いているうちに、「音と光のダンスの輪」に入っていうような軽い酩酊感に捉えられて、「死んだ後の世界がこんなだったら どんなにいいだろうな」と思ってしまうという詩です。

私自身は経験したことはないが、作者の語りを聞いているうちに、さもありなん、という気持ちになってくる。

「忘れない」は山手線に乗っていた作者が、原宿駅から乗り込んできたタケノコ族の若者たちと遭遇して、彼らを微細に観察しながら、全身で青春を謳歌表現している彼らに感動する。「山手線を走る電車が原宿を通過する限りぼくは君たちを忘れない」と固く決意する詩です。

つまり作者は日常生活で遭遇するほんの些細な出来事を対象として、それを何気なく観察しながら言葉に置き換えていくのですが、その過程でどこかから新しい光が差し込んできて、ゆくりなくも作者の明日への歩みを照らし出すのです。

しかし作者は、眼前のどんな素材でも、鼻歌交じりに勝手気ままに詩にしているのではありません。

この2篇を読んだ私は、なぜだかラ・フォンテーヌの「寓話」を思い出しましたが、それは上に挙げた2作品に限らず、この詩集の作品の基本的な構造が、「対象化→観察→省察→箴言抽出」というフォンテーヌ流の哲学的なシェーマによってひそかに支えられているからです。

そこで私は作者のことを「平成のムッシュウ・ラ・フォンテーヌ」と呼ぶことにしたのですが、どなたか面白がって頂ける方はいらっしゃるでしょうか。


   家電製品は国産に限る海外メーカーはサービス修理が劣る 蝶人

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鳥居著「キリンの子」を読んで

2017-01-18 13:59:24 | Weblog


照る日曇る日第927回



鳥居というのは神社の鳥居ではなく歌人の名前である。恐らく斉藤斎藤選手のように鳥居鳥子さんとかいうのがフルネームなのだろうが、思い切って省略したのではないだろうか。

この人の経歴が凄い。本書のプロフィールによると、

「2歳の時に両親が離婚、小学5年の時には目の前で母に自殺され、その後は養護施設での虐待、ホームレス生活などを体験した女性歌人。義務教育もまともに受けられず、拾った新聞などで文字を覚え、短歌についてもほぼ独学で学んだ。「生きづらいなら、短歌をよもう」と提唱し、その鮮烈な印象を残す短歌は人々の心を揺さぶり、支持を広げ始めている。義務教育を受けられないまま大人になった人たちがいることを表現するためにセーラー服を着ている」

ということになっていて、おまけに本書のカバーはセーラー服を着た著者が向こうに歩いている写真が載っているのだから、これを買わずにいらりょうか。これを読まずにいらりょうか、となる。

私もその一人なのだが、読んでみると(あえて引用はしないが)、独学で身につけたとは思えないような成熟した表現技法が駆使されており、本書がプロの歌人からも高く評価されたことが頷ける。

私(たち)は彼女の経歴が彼女の短歌の前提になっていることを疑わないので、その短歌のインパクトが経歴の重さによっていやが上にも高められ、悲愴な感動に酔ってしまったりもするのだが、それはもしかするといささか邪道の短歌鑑賞かもしれない。

プロフィールから入ってしまった読者には時すでに遅しなのだが、本来ならば彼女の経歴を含めたいっさいの予備知識なしにこれらの短歌に接しなければ、作品の本当の藝術的価値を味読することはできないのではなかろうか。

しかしもしもこの歌集が前記の衝撃的な半生の経歴抜きで発売されたとしたら、これほどのベストセラーになったとは思えないのである。

だろうか?
本文に収められた優れた短歌を全部読んでしまったあとで、改めて前掲のプロフィールを読むと、後者のインパクトが前者のそれを大きく凌駕していると私は思わざるを得なかった。

      鎌倉の動植物を喰い散らす台湾栗鼠を殲滅すべし 蝶人


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音楽の友社刊「レコード芸術12月号」を読んで

2017-01-17 11:44:35 | Weblog


音楽千夜一夜第383回&照る日曇る日第926回

三浦淳史、吉田秀和、宇野功芳両氏が亡くなってからというもの、ほとんど読むことも無くなってしまたクラシック専門誌であるが、戯れにそのページをパラパラと繰ってみると、「究極の名盤50」選定会議というのを3名の音楽ライターが鼎談していて、モザールの交響曲はマッケラス&スコットランド室内管が本命、対抗がアーノンクール&コンセルトヘボウ管だというので、マッケラスは悪くないけどやっぱベーム&ベルリンフィルに比べたら一籌を輸するだろうし、アーノンクールの糞坊主なんぞ犬にでも喰われろワンワンと吠えながら、さらにページを繰って行くと30年以上続いた「欧米4カ国の音楽評論家におる最新レポート」を終了するという告知が出ていたのでちと驚いたが、この欄では欧米と我が国の音楽についての関心のありかや価値観がずいぶん異なることを教えられてきたので、これを廃めるくらいなら前田昭男という男の旧態依然たるウイーン自慢噺を止めたらどうなんだと思ったくらいだが、前田選手に限らず大勢の人々がレコード批評やエセイ、小論文なぞを書き連ねていて、不幸なことに冒頭の3氏のような心を刻む名文章を書ける執筆者はたったの一人もいないので、おらっちは声を大にして「クラシックでもジャズでもポップスでも、音楽評論の命は、内容よりも文章にあるということがてんで編集者には分かっていないから、こういう体たらくに陥るんだ」という逆説を叫んでみたくなったのさ。

    実は捨てて柚子の皮を喰い散らす台湾栗鼠は悪い奴なり 蝶人
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新春邦画3本立てずら

2017-01-16 10:47:39 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.1125、1126,1127


○山田洋次監督の「男はつらいよ 奮闘編」をみて

本作では寅次郎の母親、ミヤコ蝶々が登場するがもっと注目すべきは榊原るみ扮する今の言葉で言う知的障がい児の存在で、彼女に同情するあまり、寅さんは引き取りに来た先生役の田中邦衛に怒りを覚えるのである。「学校」などをみても分かるようには昔からこういう社会的弱者に対して暖かい視線を注いでいた山田洋次が社会的埒外的存在の寅さんとの接近を描いたことは興味深い。


○森田芳光監督の「わたし出すわ」
61歳で死んだ森田の最後から3つめの作品で函館をそれと知らせずに幻想的に撮っている。主演の小雪はミスキャストだと思うが、株で儲けた金をかつての級友たちにどんどん提供するという不思議な役どころ。不思議な脚本による不思議な味わいの映画ずら。


○佐々部清監督の「半落ち」をみて

主役の寺尾聡をはじめそうそうたる脇役が出演する感動的な刑事物語だが、内臓のドナー提供者とその手術を受けた者とが、それと知って邂逅するというプロットは人為的にすぎるのではないだろうか。


  わが妻が丹精込めて育てたるすべての柚子を栗鼠が喰うたり 蝶人


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