あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

聖書協会2018年版新約聖書で「ルカによる福音書」を読んで

2020-09-30 13:17:58 | Weblog

照る日曇る日第1473回

聖書は神様がみずからお書きになったという説を唱える人がいるが、それは明らかな間違いで、やっぱり同時代かそのちょっと後の弟子や信奉者が書いたのだろう。もしも神様だったら、同じ話をマタイやマルコやこのルカ伝にダブリで載せるはずがない。
新約聖書の冒頭がマタイ伝で次はマルコ、このルカ伝は3番目になるが、前の2書と同じ話が3回も繰り返し出てくると、村上春樹ではないけれど「やれやれ」と言いたくもなる。
しかし仔細に検討すると、このルカ伝独自のコンテンツも「伝道のために弟子72人を各地に派遣する」、「善きサマリア人」「マリアとマリア」(10章)、「愚かな金持ちの譬え」(12章)「安息日に腰の曲がった老女をえ癒す」(13章)、「客と招待する者への教訓」、(14章)、「無くした銀貨、いなくなった息子の譬え」(15章)「不正な管理人」、「金持ちとラザロ」(16章)「徴税人ザーカー」(19章)などかなり多いので、信者の方から叱られるかもしれないが読み物としては最高に楽しい。
けれどもいちばんの驚きは、冒頭のイエスの先達である洗礼者ヨハネの誕生余話である。
イエスの母となるマリアに処女懐胎を告げた大天使ガブリエルは、狼狽するマリアを落ち着かせようと、「大丈夫あなたの親類の老女エリザベトさんにも赤ちゃんが生まれるんだから、ガタガタ言いなさんな」と変に励ます。するとここがマリアの可愛らしいところだが、彼女は早速エリザベトの家を訪ねて「賛歌」を歌い、なんと3か月も滞在したというのである。
これを「同病相憐れむ」などと書いては、また信者の方からお叱りを受けそうだが、倶に主から大いなる祝福を享けた同じ運命の2人の女性は、3か月の間にすっかり打ち解けて世紀の奇跡をしっかり受け入れる準備ができたに相違ない。
イエスの死後、12弟子は逃亡したが、ガリラヤからやって来た女たちは、終始イエスに付き添い、からっぽの墳墓の前に座っていた。その女たちとはマグダラのマリアであり、ヨハナであり、イエスの母マリアなどであった。
男は逃げたが女は逃げなかったのである。


  世の中の詩集や歌集の殆どが私費出版とは知らなかったな 蝶人
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主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集NO.31」

2020-09-29 13:19:14 | Weblog

西暦2020年葉月蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話第347回


○ 新年名詞交換会/幹事のあいさつ
*1皆さま、あけましておめでとうございます。博通エージェンシー代表取締役社長の渡辺常男でございます。旧年中は皆々さまより格別のお引き立てをたまわりましてありがたく厚く感謝致しております。

*2さて本年の経済界は、IT革命と米国経済の失速によりまして一部ではデフレ不況、世界同時不況が懸念されるという、いささか前途茫洋として心もとない局面を迎えたようでございます。

*3しかし弊社のシンクタンクであります博通総研の21世紀中長期経済予測によりますと、遅くとも本年後半より米国経済はふたたび右肩上がりに転じ、これに伴い欧州、アジアそしてわが国のGDPも大きく改善されるであろうと確言いたしております。

*4因みに、気象庁の天気予報と違いまして、わが博通総研はかつて1度たりとも予測を外したことはございません。どうか皆さま、この明るいご託宣を積極的に信用し大いに活用して頂き、今年1年を良い年にして頂きますよう祈念いたしまして恒例の名詞交換会のご挨拶とさせて頂きます。

○ アドバイス
* 1新年会では、実情はともかくできるだけ明るいムードで財界活動のスタートを飾りたい。大きな声で元気よく発声して欲しい。
* 2全篇の構成としては「序」の段階。ある程度のシビアな現状認識を淡々と示す。
* 3ここで一転して「破」の段落に入る。世間の常識とちょっと外れた材料と認識を提示して出席者の関心を引く。
* 4ここからが「急」。一気に結論部へと急速に畳み掛けるのである。

    ナンバーを見ればお人が分かります007 555 蝶人
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西暦2020年長月蝶人映画劇場その5

2020-09-28 13:58:59 | Weblog

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2343~47

1)山本薩夫監督の「戦争と人間第一部」
昭和の初めから大陸への侵攻を開始する日帝と軍部の実態を、振興財閥の一族を軸に立体的に描き出す全国民必見の戦争大河ドラマ。1970年製作、原作は五味川純平だがあいうえお順の出演者クレジットが新鮮。

2)山本薩夫監督の「戦争と人間第二部」
昭和6年の満州事変から12年の盧溝橋事件までの中国戦争を舞台に男女のどうしようもない恋と愛を描く。五代財閥の芦田伸介とヒロインの浅岡ルリ子の存在感が抜群。この人の上唇の真ん中に境界線となる膨らみがある。

3)山本薩夫監督の「戦争と人間第三部」
いま注目のノモンハン戦争の大敗北が全篇のハイライト。旧ソ連軍の協力によって撮影された戦闘シーンが大迫力である。阿呆莫迦関東軍参謀本部の無謀無為無策暴走暴威によって前線の指揮官もこの物語のヒーロー北大路欣也は戦死し、2等兵山本学は八路軍に投降するが、いまこそ若者たちに一番みせたい映画である。

4)堀川弘道監督の「軍閥」
2・26から沖縄玉砕までを描く1970年の戦史物。音楽は私の好きな真鍋理一郎だが他はどうってことないが、最近はこういう映画さえ製作されなくなってきたなあ。

5)小森白監督の「大虐殺」
関東大震災の時に勃発した町内会の民草や陸軍兵による朝鮮人大量虐殺、憲兵隊、陸軍上層部による大杉栄と伊藤野枝、橘宗一惨殺事件、そしてそれに反発して決行されたギロチン社による白昼テロルを描く天知茂主演の貴重な1960年の大蔵映画。虐殺などなかったとうそぶく緑のタヌキなど手合いは必見。


  3密も自粛もどこかへ投げ捨てて命懸けの旅を薦める 蝶人
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カリ・ファハルド=アンスタイン著・小竹由美子訳「サブリナとコリーナ」を読んで

2020-09-27 12:59:44 | Weblog

照る日曇る日第1472回

昨年の4月にアメリカで刊行され数々の文学賞を受賞した気鋭の閨秀?作家の短編集が、翻訳の小竹氏のアリス・マンローゆかりの目利きと肝いりで今年の8月に邦訳され、わたくしはそれをコロナ第2波終焉間近、第3波爆発寸前のこの国で読んでいるわけだが、そうじてまるで夢のような話ではある。

本書には「シュガー・ベイビーズ」以下「幽霊病」まで、表題作を含めて11の短編を収めているが、その登場人物の大半が、1986年に作者が生まれ、育ったコロラド州都デンバーの歴史と風土と空気感を色濃く反映している。
デンバーという名を聞けば、“驚異の薄型雑誌”「ポパイ」の編集長木滑良久氏がその創刊コンセプトを練った“爽風吹く高原の街”という洒落たイメージしかなかった愚かな私だが、この地の住民の3割は作者と同じヒスパニック系なのだそうだ。
しかもヒスパニックにも様々な階層があり、かれら同士、そして白人(アングロ)との経済的、社会的な格差や歴史的対立も複雑な様相をみせ、それらのぜんたいが、この高原都市に生きる住民の暮らしとカルチャーに深刻な苦悩と緊張をもたらしている。ようだ。

けれども作者の小説にとって、それらはあくまでも外在的な要素のひとつなのであって、彼女の分身としての、孤独な少女や愛に飢える人妻や聡明な老婆は、それらの外部から独立した“生きた内部生命”としてつよい光芒を放っている。
その光芒とは、暗黒の現在をなんとか凌いで、未来に向かってえんやこら押し上げていこうとする激烈なエネルギーであり、そこに私はアリス・マンロオやカーソン・マッカラーズにはない、若さの力を見るのである。

本書の3番目の短編は、不慮の事故で視力を失う娘の物語であるが、その題辞には「マルコ伝」の最も感動的な一節が掲げられており、この一事をもってしても、作者の恐るべき芸術創作力を推し量ることができるだろう。
―すると、盲人は見えるようになって、言った。

「人が見えます。木のようですが、歩いているのが分ります。」
(マルコによる福音書8章24節 新共同訳)


 スミシーとポーラがひしと抱き合えば「心の旅路」のラストでみな泣く 蝶人
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カーソン・マッカラーズ著・村上春樹訳「心は孤独な旅人」を読んで

2020-09-26 13:17:48 | Weblog

照る日曇る日第1471回

この本は昔文庫本で出たらしいのだが、アマゾンで結構な高値がついているのでいったいどんな小説なのだろうと長い間気になっていた。ところへ村上春樹の新訳が出るときいたので、得たりやおうと飛びついたわけ。
んで、どんな小説なのかというと、時は欧州でヒトラーやムッソリーニが台頭する1930年代の後半であるが、舞台はアメリカ南部の小さな町である。
そして例えば、作者自身を思わせる魂に音楽を孕んだ女性ミック、ホッパーのナイトホークスの生まれ変わりのような24時間営業の深夜バーの主人ブラノン、アナーキーな活動家ジェイク、黒人の伝道師のような医師コープランド、大天使ガブリエルのように英知に満ちた聾唖の男シンガー、などの個性的な人物が登場して、群像劇さながらの交通関係を繰り広げるのであるが、作者の主眼はもっぱら彼らの内面の孤独を描き尽くすことにある。
しかしてその実体は、文字通り「心は孤独な旅人」という題名の通りの内容なので驚くのだが、もっと驚くのは、そんな微妙で難しい中身を完璧に操って、とうとうゴールまで飛行させるという抜群の創作力を保持する作者が、たった23歳!の女性だということで、これには仰天してしまう。
本当に唯一無二の素晴らしい作家であり、翻訳者が告白しているように、じつに深く心を打たれる作品だ。

  大リーグで活躍しているのはダル前田他の選手はみなダメですね 蝶人
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家族の肖像~親子の対話 その61 

2020-09-25 13:18:54 | Weblog

ある晴れた日に 第621回

僕、映画村好きですお。
映画村ってどこにあるの?
西日本ですよ。
コウくん行ったことあるの?
修学旅行で行きましたお。
そうなんだ。お父さんも行きたいな。
お母さんも行きたいな。コウ君と一緒にまた行きましょうか?
嫌ですお。
ヒタイ、オデコでしょ?
そうだよ。
ヒタイ、どこ? これ?
そうだよ。
×は止めるでしょ?
そうだね。
キケンは止めるでしょ。
そだね。
お父さん、「なんで」の英語は?
WHYだよ。
おどろくって、びっくりする、のことでしょ?
そうだよ。
お父さん、タケちゃんのラーメン屋さん、閉店したの?
そうなんだよ。残念だね。
タケナカさん、体調崩したんですお。
そうなんだ。
疫病神って、なに?
良くないことをひきおこす人だよ。
セイザブロウサン、「ヘーツト」と言ったよ。
そうなんだ。お父さんと同じね。
お父さん、将棋の英語は?
SHOGIだよ。
お父さん、ふきのとう舎は大和だよ。
そうだよね。
お母さん、ケチって、なに?
お金を大事にすることよ。
ぼくはお昼寝しますよ、お母さん。
分かりました。
立派って、なに?
偉いことよ。
オーケストラ、音楽でしょう?
そうね。
必死って、なに?
一生懸命に、だよ。
コウ君、お昼寝したの?
しましたお。
いっぱいしたの?
少ししましたお。
自治医大、栃木でしょ?
え、そうなの?
そうですお。
ショックは、びっくり、でしょう?
そうだね。
ぼく、グリーン牧場好きですお。
グリーン牧場って、どこにあるの?
渋川だお。
コウ君、行ったことあるの?
ありますよ。
ぼく、帰ってから、手をシュッシュしましたお。
お、いいね、いいね。
ぼく、静かにしようね、っていったお。
そうなんだ。静かにしてね。
サクランボは、果物でしょ?
そうだね。
サクランボ、サクランボ、サクランボ
カズエちゃん、お母さん痛いの?
痛くないけど、歩けないのよ。
花盛りは?
お花がいっぱい咲いている、よ。
酸は二酸化酸素の酸でしょ?
そうだね。
お母さん、マナーモードって、なに?
ちょっと待ってね、いまやってあげるよ。ほら呼び出し音がしないでしょう?
分かりましたあ。もういいですよ。
パは、ハと○だよね?
そうだね。
お腹いっぱい、の英語は?
アイアムフル、かな。
フルフルフル。
神様って、なに?
上の方で、コウ君を見守っているひとだよ。
お歳暮って、なに?
「ありがとう」のしるしよ。
お母さん、日本一って、なに?
日本で一番、よ。
人身事故で、電車遅くなってしまうね?
そうだね。
平凡て、なに?
ふつうの生活よ。
お父さん、今日ビデオとってね。
分かりましたあ。
そう言ってるよ、お母さん。
良かったね。
お父さん、「裏切者」って言っちゃ、ダメでしょう?
それはいわないほうがいいね。コウ君言ったの?
いいませんお。
お母さん、今日の晩御飯は、すき焼きにしてください。
え、すき焼きですか? わっかりましたあ。
強敵って、なに?
強い敵だよ。
ワイドドアって、たくさんの人が利用できるようにしてあるんでしょう?
そうだね。
ドアを広くしてあります。
そうだね。
キシモト先生の前は、ミズカワ先生ですお。
コウ君の親知らずを4本いっぺんに抜いた聖ヨセフの先生ね。コウ君、頑張ったね。
ぼく、頑張りましたお。
ゲスト、お客でしょう?
そうだよ。
ボク、マリオ好きだったよ。
そう。
こんど、マリオやりたいですお。
そう。じゃやろうね。
いやですお。

    台風はいつものように北上す南大東島を睨んで 蝶人
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「夢は第二の人生である」或いは「夢は五臓六腑の疲れである」第90回

2020-09-24 11:04:01 | Weblog

西暦2020年卯月蝶人酔生夢死幾百夜

中国の銀行に一度入金すると帰ってこない懼れがあるので、私は金庫に潜入してそれがどこにあるか確かめることにしている。今回は「永久凍結」と書かれた麻袋に入っていたので一安心した。4/1
ある日、ふと思い立ってバスに乗って駅前の広場に行って、街角で思いの丈を歌ったら、自分の歌声が他人の声だったので、驚いた。4/1
「若い時には苦労をせにゃならん」と誰かが言うておったので、私はインドネシアの孤島のジャングルで独り暮らしをして、ひどい孤独にじっと耐え続けた。4/2
私の口から飛び出した数字は、数珠玉のように連なって、部屋の窓から出て、屋根を超え、空高く、登りに昇って、成層圏を離脱して、250万光年先の、遠く遥かなアンドロメダ星雲まで、続いていた。4/3
進駐軍に雇われた私は、南京虐殺に加担した、或いはさせられた兵隊からの聞き取りを、何冊もの帳面に書きつけたが、その内容は、彼らが家族はもとより神仏にさえ告白しないだろうと思われる、一読慄然とさせるに足るものだった。4/4
思いっきり辺鄙な山奥に移住して、およそ10年。毎日「ポツンと一軒屋」の取材が来るのを、今か今かと待ち構えているのだが、いつまで経っても、誰ひとりやって来ない。4/5
私は、ついに百年目に、その悪党と巡り合ったので、そいつを、ギタギタに八つ裂きにして、積年の恨みを晴らしたのよ。4/6
たまたま百人一首を暗記していたので、私は「素人かるた大会」で、全部の札を独り占めしたものだから、大勢の善男善女の、激しい恨みを買うことになってしまった。4/7
「自粛せよ、自粛せよ、なにがなんでも自粛せよ」と、その猪八戒に似た醜い男は、誰も聞いていないのに、ぺらぺらへらへら朝まで喋り続けるのだった。4/8
新幹線に乗っていたら、車内呼び出し放送があったので、受話器を取ると、死んだはずのサカイ君が、「2課の営業がやって来て「クラシックマガジンに2Pで280万円のタイアップ広告を出して欲しい」というてきているが、どうしますか?」と尋ねる。4/9
朝から晩までヘンデルを聞いていたら、頭がヘンデルになった。4/10
大阪の心斎橋そごうの子供服売り場の前で、子供が踊り狂っているので、何事かと思って近寄ってみると、私がつくったCMのビデオが売り場で放映され、ブルーハーツが「リンダリンダ」を歌っているからだった。4/11
コロナ騒動でガラガラの電車に乗ったら、向かい側の席に座っている客の、頭と胸と下半身はじっとしているのに、胴体だけが、左から右に猛烈な勢いで流れているのだが、これは恐らく最近証明された「ABC予想」の動かぬ証拠なのだろう。4/12
久しぶりに42度の高熱が出たので、検診してもらったら、案の定陽性だったが、医師も看護師もみな逃げ去ってしまったので、仕方なく私は帰宅した。4/13
私はコロナで生活に窮したので、自分の原稿には、従来の値段の他に著作権料5%をプラスして請求しようと思った。それはいいのだが、問題は、どこからもさっぱり注文が来ないことだった。4/14
コロナコロナ、自粛自粛で、窮死寸前にまで追い詰められた私は、完全にブチ切れ、全裸で公道に躍り出て、完全感染、他力本願、霊肉一体、酒池肉林の一大イヴェントに参加したのよ。4/15
またしても、突然の地震で、列島全体が完膚なきまでに破壊されてしまったので、コロナ騒動も、無かったことに、なってしまった、とさ。4/16
その小僧が、「おいらは1年間一生懸命福祉職員をやったから、来年は本来の仕事の寿司職人に戻らせてくれよ」と必死の面持ちで訴えるので、私は仕方なくそれを許してやった。4/17
有名な総合電機メーカーに雇われて、その会社が経営する「のんき村」の支配人になったのだが、その村の住人たちから、毎月いくら賃貸料を取ったらいいのか、誰も教えてくれない。4/18
私は勝手に教室のレイアウトを変えて、生徒たちを、好きなところに座らせ、私の指揮で私がつくった最新の曲を演奏させた。4/19
妻が「早く早く」と呼ぶので、急いで玄関先に出てみたら、春先のこんな日には珍しくナミアゲハでもクロアゲハでもなくアオスジアゲハでもない、黒い綺麗なアゲハチョウが花にとまっていたという。恐らく春型のカラスアゲハならん。惜しいことをした。4/19
「夢見る部屋」に入ろうとすると、入口が、「一般人用」と、「婦人用」の2つに分かれていたが、その理由は誰も知らなかった。4/20
匿名の篤志家に雇われた私は、衰えかけた「世界貴族連盟」の人々を救済するために、毎月米1俵に味噌醤油を添えて、地元の郵便局から世界中の貴族たちに送り届けていた。4/21
開拓者たちが、この公民館に到着してから、だいぶ時間が経つが、誰一人身動きもしないので、仕方なく私が台所に立って、雨水の湯を沸かし始めたところ。4/22
電車が驀進して来たので、仕方なく線路の下にある大鉄傘の上に滑り降りようと、何度も試みているのだが、果たして間に合うだろうか?4/23
「台湾の新幹線や地下鉄はみんな日本製だ」と、なんの根拠も無く言い放ってしまった私は、「ああまた放言しちゃったなあ」と後悔したが、時すでに遅かりし由良之助。4/24
宣伝課の春の社員旅行のバスに乗り遅れた私は、懸命に後を追いかけたが、あともう少しというところで、ギュンとスピードを上げたバスは、たちまち左側の壁に激突し、その場で大爆発を起こして、炎上してしまった。4/25
「だいたいよう、おらっち平民だけが、朝から晩まで汗水たらして働いて、糞高けえ税金を払ってるちゅうに、おめえたち坊主や貴族どもは、たらふく喰らって、1円も税金を払わないなんて、これほどおかしな話は聞いたこともないぜよ」と私がぶちかますと、彼らは逃げ去った。4/26
彼は、誰かに頼まれて「筍」という歌をうたったところ、その場の人たちがいたく感動して、100万円近い投げ銭をしてくれたので、「そんなことはよくあるの?」と聞いたら、「たまにありますよ」と答えた。4/27
「皆さん、この紅い小さなポーチの中に、10億円が入っています。吉原のトルコ嬢が何十年もかかって貯めた汗と涙の結晶です」とその男が言うたが、くだんのトルコ嬢との関係は分からなかった。4/28
その茶室には、いつもさっきまで主人と客人が対坐して喫茶していた気配が残っているのだが、何度訪れても無人であり、いわば「無の定型」とでも称すべき空間を構成しているのだった。4/29
「1日」、「2日」、「3日」と清書されて順番に並んでいる標的を、私は、ただただ機械的に、射撃していた。とてつもなく消耗だった。4/30

   テレマンの無伴奏フルート聴きおれば宙外に遊ぶ心地こそすれ 蝶人
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西暦2020年長月蝶人映画劇場その5

2020-09-23 11:37:11 | Weblog

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2338~42

1)ジョン・フォード監督の「モガンボ」
1932年製作の「紅塵」を1953年にリメイクしたアフリカを舞台の恋愛映画。ヒーローのクラーク・ゲイブルを妖艶エヴァ・ガードナーと清楚グレース・ケリーが取り合うという贅沢なキャストだが、よくアフリカくんだりまでロケしたものだ。
道中蛇や猛獣やゴリラが出てきたりして大騒動、さいごは逆転でエヴァちゃんが勝利を収めることになっているんだが、ちょっとグレイスがグレるんではないかいな。エヴァの衣装が素敵ずら。
2)ウディ・アレン監督の「女と男の観覧車」
ケイト・ウィンスレット主演の2017年の愛憎劇であるが、ほんとうの主役は全世界を憎悪しつつ放火する少年だろう。ウィンスレットって、美人かブスか分からなくなる俳優だなあ。
3)ジョセフ・フォン・スタンバーグ監督「上海特急」
戦乱の中国を舞台に謎の美女ディートリヒが大活躍する1932年の恋愛活劇映画だが、ラストが無理矢理帳尻合わせしたような感じずら。
4)デミアン・チャゼル監督の「ファースト・マン」
人類史上初めて月面を歩いた宇宙飛行士ニール・アームストロングの半生を描く2018年のハリウッド映画。半世紀前の歴史的挑戦を主人公の内面を視点にクールに描くが、死んだ娘や妻だけでなく、もっと同僚たちとの関係や軋轢も立体的に描き出して欲しかったずら。
5)ジョン・スティーヴンソン監督の「プラハのモーツァルト」
2017年のチェコ&英国映画だが、「アマデウス」と同様プラハで撮影しながら、なんとまあ下らない映画だろう。金も時間も無駄な映画ずら。

   テニスより大事なことがあるという大坂なおみの全米オープン 蝶人
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聖書協会2018年版新約聖書で「マルコによる福音書」を読んで

2020-09-22 11:53:52 | Weblog

照る日曇る日第1470回

なんでも先行する「マタイ伝」は、2番目におかれたこのマルコ伝に他の情報を加えて収税人マタイによって編まれたらしいのだが、そこに散見される論理矛盾や説明不足はともかく、「これが本物のメシアだ!これがローカルなユダヤ教ではなく世界宗教としてのキリスト教なんだあ!」というマタイ選手の確信、そして全篇に漲る「厳粛さ」と「真実らしさ」は、旧約ぜんたいに流れる「とろさ」とは対照的で、これにゆいいつ比肩できるのは「創世記」の創出くらいだろう。

そんな、私のような無信仰の者でも思わずキリスト教を信じてしまいそうになるド迫力に満ちたマタイ伝を読まされた後では、いくら「先輩はこっちだよ」と注意されても、同じ話の多いマルコの斬新さが後退してしまうのはやむを得ない。
詠んで気になることは多々ある。例えば第3章のバルゼブル論争では、どこが論点なのかてんで分からず、最後にイエスが「精霊を冒涜する者は永遠に赦されず、永遠の罪に定められる」と恫喝して終わるのも唐突に過ぎよう。第7章の「昔の人の言い伝え」もみょうちきりんだ。

イエスと12弟子たちが汚れた手で食事するのを、パリサイ派と律法学者がとがめたら、イエスは「あなた方は神の戒めを捨てて、人間の言い伝えを固く守っている」と反論するのだが、これは論点のすり替えである。
よしんばイエスたちが彼らと違って神の戒めを破っていても、食事の前に手を洗わないほうがいいという理屈にはならない。新型コロナなんかきたら一発で全滅だろう。

11章や13章では、いちじくの話が出てくる。空腹を覚えたイエスがいちじくを食べたいと思ったのだが、まだ実が生っていなかったので怒って「今から後いつまでも、お前から実を食べる者がないように」と呪いの言葉をかけたら翌朝には枯れていた、というのだが、これって神の子ともあろう人にしては全く理不尽な八つ辺りではないだろうか。
いちじくが可哀そうだ。

14章ではイエスを逮捕しに来た連中の前にユダ以外の弟子たちはみな逃げ出し、ペテロは3度主を否むが、素肌に亜麻布をまとってイエスについてきていた一人の若者が布を棄てて逃げ出すのであるが、私はなぜかこの若者の気持ちがよく分かるのである。

 万が一死んじゃうことも覚悟してさあ出かけよう半額の旅 蝶人
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弥生書房版・松浦直巳訳「ディラン・トマス詩集」を読んで

2020-09-21 10:24:56 | Weblog

照る日曇る日第1469回


「悲しみの一瞬まえに」や「悲歌」などを一読すると、この人(1914-1953)はあえて分かりやすく「男根派」というてもいいだろう。恐らく強靭なる巨寝の持ち主だったのだろう。

が、どうせ陽根や子宮などの性的用語やその隠喩を多用するなら、わが敬愛する詩人鈴木志郎康氏の「処女プアプア」のポップな先端まで穿って欲しかったが、作品にそこまでの鋭さはない。
まあ代表作のひとつ「悲歌」が猥褻のカドでBBCから占めだされる50年代の保守的な英国では仕方なかったのだが。

ちなみに「男根派」の反対が「子宮派」で、むかし酔っぱらうと「子宮を見せる」「子宮を見ろ」と迫ったコンドウ嬢はディラン・トマス選手のむこうを張っていたのだろう。


「GoGoGo!万が一死出の旅路になる時は自己責任ですからそのおつもりで」 蝶人
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窪美澄著「トリニティ」を読んで

2020-09-20 11:01:55 | Weblog

照る日曇る日第1468回


平凡出版、マガジンハウスの編集者や雑誌、ライター、イラストレーターなどの活躍からインスパイアーされて描かれた、と思しき3人の女性の物語である。
男社会の壁と抗いながら自己表現の世界を獲得していく先駆者の歩みには作者共々拍手を惜しむものではないが、読み物としては冒頭から途中までの流れがぎこちなく、全体の構成がきちんとしていないために、安心して活字に目を委ねられない。
3人が生きた時代背景も書かれてはいるが、それはどこか紙芝居のセリフや映画の台本のト書きに似ていて、この作家独自の文体による生きた文章とはいえないのである。
そんななか全篇のハイライトは、1968年10月21日の国際反戦デーに主人公の3人が「参加」するシーンであるが、新宿駅騒乱の只中で「普通の」女性にインタビューしたり、服装をスケッチしたりできると考える作者の常識を疑わざるをえない。


    今一度復活せよ羽生九段藤井渡辺全盛の世に 蝶人
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2018年版聖書協会共同訳絵で新約聖書「マタイによる福音書」を読んで

2020-09-19 14:05:21 | Weblog

照る日曇る日第1467回

旧約を読み終えて新訳に入ると、最初に待ち構えているのがマタイである。そしてマタイはアブラハムからイエス・キリストまでの系図を、物凄い勢いでしゃべりまくる。
すなわち「全部合わせるとアブラハムからダビデまで14代、ダビデからバビロンへの移住まで14代、バビロン移住からキロストまで14代である」と、超早口で要約するのであるが、3つのエポックを全部14で区切るなんて、ちょっと待て、ほんまかいなと眉に唾したくなるのは私だけだろうか。
真偽のほどはともかく、ここでマタイがさしたる科学的根拠もなく強調しているのは、メシアたるキリストが、あの創世記のヴアダムとイヴ以来の、万世一系、長大にして格調高いアブラハム一族の、正当にして真正の継子であること。これである。
そしてついに男を知らなかったマリアの腹から、新約聖書の主人公、イエス・キリストが誕生するのであるが、「これらすべてのことが起こったのは、主が預言者を通して言われたことが実現するためであった」。
つまりここでマタイは、あの膨大な旧約の予言、ユダヤ教の教典を、たった2行で超短い新約、キリスト教の経典へと転轍するのである。
その時、旧約を経て新訳に辿り着いた読者の脳髄に、目が眩むように一挙に呼び戻されるのは、あの何万頁のにも及んだ膨大な旧約の歴史と物語だ。そしてこの時、旧約は前史として死に、死んだ前史は新約として一気に蘇る。
なんという鮮やかなトリックだろう。この路線の切り替えは大成功したが、コーランの読者は、これと同じ老練の手つきが、もういちど頭のいいイスラム教徒によって繰り返されたことを知るだろう。
旧約から新訳への厳粛な歩みは、スメタナのモルダウやドボルジャークの新世界交響曲の新鮮な希望に満ちた大展開にちょっと似ている。マタイ伝と共に我々は、「神話」から「現実」へ、「古代」から一気に我々と同時代の「現代」という空間へと、一挙になだれ込むのである。

 世界にはいろんな国と人がいる空港ピアノで知る世界の今 蝶人
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アルフレッド・ヒッチコック特集~西暦2020年長月蝶人映画劇場その3

2020-09-18 14:19:21 | Weblog

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2330~37


1)アルフレッド・ヒッチコック監督の「暗殺者の家」
英国時代の1934年の製作だが、原題は「知りすぎていた男」なり。
1956年にアメリカで撮った「知りすぎていた男」とは同工異曲で、似ているところもあるが、だいぶ違う。そして後者のほうがうんと面白い。

2)アルフレッド・ヒッチコック監督の「サボタージュ」
コンラッドの「密偵」を1936年にヒッチが映画化したサスペンス映画だが、映画館主が独協力スパイになる動機も、妻に殺される成り行きも、奇妙なハッピーエンドもさっぱり納得がいかない駄作ずら。

3)アルフレッド・ヒッチコック監督の「第3逃亡者」
1937年英国製作のサスペンス映画ずら。
殺人犯に間違われた青年が、警察署長の娘の助けを得ながら真犯人を突き止めてハッピーエンドを迎えるのだが、プロットの出来がいまいちで、道中いささかかったるい。

4)アルフレッド・ヒッチコック監督の「断崖」
1941年のサスペンス映画で終始悪人とばっかり思っていたロック・ハドソンが最後の最後でなんと善人ということになるのだが、到底信じらんないぜよ。
ハドソンならともかく、全く魅力のないジョーン・フォンテインが、なんでアカデミー賞をもらえるのか不可解ずら。

5)アルフレッド・ヒッチコック監督の「パラダイン夫人の恋」
ヒッチ1947年の作品であるが弁護士のグレゴリー・ペックがアリダ・ヴァリの妖しい魅力に籠絡されて、地獄に落ちる怖いお話だが、脚本が強引過ぎる。
この頃のヴァリは、まあ美人だった。

6)アルフレッド・ヒッチコック監督の「山羊座のもとに」
英国の植民地であった豪州を舞台に描く1949年のメロドラマなり。
同じアイルランド出身の下層階級出のジョゼフ・コットンと貴族の娘イングリッド・バーグマンの大恋愛だが、特に前半のヒッチの切れ味は鈍いずら。

7)アルフレッド・ヒッチコック監督の「舞台恐怖症」
1950年の殺人事件映画でマレーネ・デートリッヒが光るが、なんだか冴えない演出である。
観終わってどうにもスッキリしない。ヒッチの出来栄えには、けっこうムラがあるなあ。

8)アルフレッド・ヒッチコック監督の「引き裂かれたカーテン」
昔はヒッチの映画は大好きだったが、最近はそうでもない。
昔から脚本に欠陥がある作品が多いのである。東西冷戦を象徴する1966年のこの作品でも東ドイツで完成した新型ミサイルの理論をぱくろうとアメリカの物理学者ポール・ニューマンがスパイになって偽装亡命を図るというプロットがどう考えても阿呆らしく、いくらスリルとサスペンスがいっぱいで、ジュリー・アンドリュースが愛らしくても、鼻白んでしまうのである。
本作をもって音楽の相棒バーナード・ハーマンと決別したのもそのせいではなかろうか。

いつ誰に何を言われるか分からない障害児も親も常に身構える 蝶人
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カラヤンDG&DECCAオペラ録音集(70CD)を聴いて

2020-09-17 10:57:05 | Weblog

音楽千夜一夜 第453回

オペラの名人カラヤンの、グラモフォン、デッカ、フィリップスのオペラ録音をようやっと聴き終わりました。

ヴァルディ、プッチーニ、モザール、シュトラウス、ワーグナーからビゼー、ムソルグスキー、レハールまで全29曲70枚、管弦楽曲と違って退屈な録音は一枚もありませんが、最終的に耳に残ったのはミラノスカラ座と録れたマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーニ」でした。

1956年の古い録音ですが、若き日のコソット、ベルゴンツィの歌唱と、カラヤン18番の抒情性とロマンチシズムが見事に溶け合って、未聞の感動的なオペラ美学を創造しています。じゃんじゃん。


     国道で恋に狂うて輪舞する雌雄の揚羽轢き殺されつ 蝶人
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山尾三省著「火を焚きなさい」を読んで

2020-09-15 17:31:18 | Weblog

照る日曇る日第1465回

長男の太郎が単身孤島を出て東京へ行くというので、父親の三省が家では稀にしか口に出来ない、しない贅沢品のパンについて歌う。言うて聞かせる。

 「半年あるいは一年 あるいは三年か四年して
 食卓の上にのせられたひときれの食パンを みすぼらしい食べものと感じるときが 
 必ずやってくる
 その時
 おまえが私の血を受けた私のただひとりの長男であるならば
 (よく覚えておいてほしい)
 その時は
 父親の私の思想が死に瀕している時であり
 父親でも私でもない ひとつの真理が死に瀕している時である」(「食パンの歌」より)

この時山尾三省は二宮尊徳、いやマックス・ウエバー、いな丹波の国の丹陽教会の塩見牧師その人になっている。
これを言い聞かされた長男は、その後どうなったんだろう。

   総員に「死に方用意」の命下る艦隊特攻戦艦大和 蝶人
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