西暦2016年卯月蝶人酔生夢死幾百夜
会社の事務の人が今日でお別れだというのに、その課の人が誰も誘わないので、一緒に食事をした。はじめてちょっと話をしただけだが、優秀な人だと思った。4/1
僕たち3人の山岳兵はファシスト政権軍と戦っていたが、そのうちの1人が負傷したので、ひとたびは見捨てて立ち去ろうとしたが、思い直して2人で、山奥の隠れ場に退避し、彼の傷が癒えてから、再び前線に立ちもどった。4/2
酒池肉林の限りを尽くしたあとで、この世の別天地のような桜花爛漫の国についた私は、紅白の桃の花を咲かせる1本の樹の下で、夢のようなひとときを過ごした。4/5
私の城に遊びにやってきたパバロッティの前で、私が彼のライヴァルであったドミンゴとカレーラスのLDばかり映し出していると、次第に怒りをあらわにして、額に青筋が立ってきた。4/5
社食で昼食をとろうとしたら、ランチメニューが品切れで困っていたら、他のメニューの惣菜をかき集めて急遽新ランチを作るので、あと10分待ってほしいとアナウンスがあった。4/6
カール・ヘルムのジーンズを身に付けた私は、リングの上で黒人にヘッドロックされて息も絶え絶えになっていたが、シンヤ君がいたので、「今度LAに行ったらジーンズを2本買ってきてくれないか?」と頼んだ。
シンヤ君が「いいすよ。ブランドはなににしますか?」と聞くので、私は「ちょっと待ってくれよ。いまこいつをやっつけながら考えてみるから」と返事すると、それまで黙って話を聞いていた黒人が、「やっぱりカールヘルムがいいんじゃないすか」というた。4/6
何ヶ月振りかで登校して、シンジョウ教授の教室に入っていったら、いきなり仏文和訳を命じられたので、目を白黒させて脂汗を流していると「キミは予習をしてこなかったんだな。そおゆう不届きな者は、私の授業に出る資格はない。とっとと出てゆけ!」と激怒せられた。
これは私が悪かった。仕方なく退室しようとしたら、怪しい男が可愛い女の子と一緒に教室に入ってきた。
鈍く光るナイフを突き付けられて蒼ざめているのは、なんと私の昔の恋人ヨイコではないか。私はいきなりヨイコの腕を摑んで、教室の外へ飛び出した。
すると男もあわてて私らの後を追ってくる。
私らはキャンパスの坂道を転がるように駈け下りて全速力で走ったが、男に追い付かれそうになってしまった。
あわやというその瞬間、ヨイコは持っていたバッグの中から財布を取り出し、ありったけのお金をばら撒くと男は夢中になって拾い集め、それを自分のバッグに入れた。
そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくするとまたしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、ヨイコは持っていたバッグの中からiPhoneを取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾った。
そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくするとまたしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、ヨイコは持っていたバッグの中から六つ子おそ松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になっておそ松君を追いかけ、やっと追い付くと自分のバッグに入れた。
そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくするとまたしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、ヨイコは持っていたバッグの中から一松君を取り出し、その場に抛り投げると、男は夢中になって彼らを追いかけ、拾い集めた。
そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくするとまたしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、ヨイコは着ていたジャケットを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。
そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくするとまたしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、Y子は着ていたセーターを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。
そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくするとまたしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、Y子は着ていた「天使のブラ」を脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。
そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくするとまたしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、Y子は着ていたスカートを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると、男は夢中になってそれを拾い、自分の身につけた。
そのすきに私らは全速力で逃げ出したが、しばらくするとまたしてもその男に追い付かれそうになった。あわやというその瞬間、Y子は身につけていた黒いパンティを脱ぎ捨て、その場に抛り投げると男が夢中になってそれを拾おうとしたので、私は思わずヨイコの手を離し、それを拾って素早く身につけたのだった。
ロンドンまで逃げた私たちだったが、執拗に追ってきたトランプ大統領の手下どもにとうとう捕まってしまった。古くて狭いパブに監禁されている私たちを助け出そうと大勢の支援者が駆けつけ、「一緒に戦おう!」と誓ってくれた。4/8
再び北海道への移住が許可され、私は12人の希望者のひとりとなった。別荘にはスエーデン人の令嬢を同伴していったが、私は彼女に日夜精を吸いとられたために、ほとんど仕事にならなかった。
敵が放つ刺客の暗殺を恐れていた私は、いつも従者を私の身代わりにしていたのだが、ある日その男が私の目の前で暗殺されてしまったので、世を儚んだ私は、すぐさま出家して仏門に帰依した。4/8
私はアイスクリーム店を経営して金儲けしようと、普通の家の改装を業者に頼んだのだが、見積もりを大幅に値切ったせいか、カウンターがあまりにも高くて、お客さんの手が届かないために、せっかく店開きしても、誰も買いに来なかった。4/10
せっかく田舎から上京してここ文藝本部を訪ねてくれたというのに、俳諧部の連中は全員銀行、いや吟行に出かけてしまったので、仕方なく私たち和歌部で対応したのだが、微妙なところで話がバルバロイになって、お互いに消化不良に陥った。4/12
急に腹が痛くなって下痢しそうになった。急いでトイレに走ったが、2人も先客が待っている。ようやく1人待ちになったが、こいつがなかなか出てこない。もう限界と思った時、ヒグマ君がボックスを揺すって、そいつを抛り出してくれたので助かった。4/13
デスクに戻ると黒板の左上に小さな字で「次期WHD担当は佐々木さんです」と白いチョークで書いてある。WHDっていったいなんだ? 私はなにをすればいいんだ?誰かに尋ねようと思うのだが誰一人いない。4/14
2つの大都会の中間部の田舎の小さな町で、私は誰からも知られずにひっそりと暮らしていた。おそらくこのまま無名のままで、地上から消え去っていくのだろう。4/14
「なんとか教」の宣教師は、その聖なる教えについて滔々と御託宣を並べ立てたのだが、私はその間じっと項垂れて、2筋に分かれて放水するオシッコを、なんとか1本にまとめようと腐心していた。4/15
南太平洋の楽園に到着した私は、その島に上陸することになったが、旅の途中で荷物もバッグも財布も無くしてしまったので、この世の極楽と呼ばれるそのリゾートに着いても、てんで嬉しくなかった。4/17
すると落ち込んでいる私に同情したのか、1人の親切な島民が、南洋特産の極彩色の魚を呉れたが、その魚は「私を殺さないでください」とでもいうように、一度も目を閉じないでじっと私を見つめているのだった。4/17
試写室を出ると知り合いのハーフの女の子がいたので、しばらく雑談した。十分に魅力的な容貌と肉体の持ち主だったが、いかんせんあがってしまって、話の継穂が尽きたので「じゃあね、バイビー」と唐突に別れを告げた。4/18
それから私は、女と同棲していた高級アパルトマンの5階の部屋へ帰ろうとしたのだが、突然何年も帰っていない女房のことを、あの懐かしいみそ汁の味と共に思い出し、踵を返して元の古巣への道を辿っていった。4/18
その中国人は見事な料理の達人で、空中からいきなり卵を取り出すと、美味しい卵焼きを即座に作ってみせた。4/19
会社で働いている私に、「電話ですよ」とギャルがいうので、受話器を取って「もしもし佐々木ですが」と喋るや否や、受話器の小さな穴から水が猛烈な勢いで流れ出し、オフィスはたちまち大洪水になってしまった。4/20
自称寛永生まれの「オオサンショウウオお婆さん」のピアノ・コンサートを聴いた。なんでもフジコ・ヘミングウエイとかいうお婆さんの演奏があまりにも酷いので、それなら自分がちゃんと弾こうと思った、のだそうだ。4/20
思いもよらぬところで、偶然昔の恋人と再会した。聞けば離婚した後に再婚し、明日新しい亭主と外国へ旅立つという。私たちは恐らくもう2度と会えないだろうと思いながら軽く抱擁して別れた。4/21
「もしかするとあなたは「ここに1着のセーターがあります」という例のたとえ話を持ち出すんじゃないでしょうね」と彼女が言うので、私はまんまとその挑発に乗って「ここに1着のセーターがあります」で始まる長い長いたとえ話を語り始めた。4/22
彼は昔は私と同じような貧乏人だったのに、最近どんどん金持ちになっていく。「どうして?」と尋ねたら「水道の蛇口からどんどん10円玉が出てくるので、それを貯めてお金持ちになったんだ」と事情を打ち明けた。4/23
CMは細く長く打つのがいいか、それとも資金のありったけを投じて一気に流すのがいいか、大先輩のイマイさんに尋ねたら、「そりゃ断然後者だよ」というので、私は朝から晩まで全局でCMを流し続けた。4/24
進駐軍に差し押さえてられていたオケが、ようやく解放された。指揮者がいないこのオケでコンサート・ミストレスを務める母は、久しぶりにコンサートができる嬉しさを全身で現しながら、上体と頭を激しくゆり動かしつつ、音楽に没入していた。4/26
本日をもって競馬のジョッキーの世界から足を洗ったH氏は、心機一転料理学校に通うことにしたそうだ。4/27
バカ田大学の近所に住んでいた私が、朝早く駅に急いでいると、キャンパスに通学する無数の学生たちが、ワンサカワンサカ大河のように流れてくるので、私は身動きできなくなってしまった。4/29
長らく陰険な上等兵と2人で行動していた私だったが、ようやく上官から独立行動を許され、「アラン・ラッド似の謎の男を追跡せよ」という命令に従って、全国を流浪することになった。4/30
配所の海に血書経を投じ天狗となりて天下滅亡を祈りし崇徳帝 蝶人