夢は第2の人世である 第144回
西暦2024年葉長月蝶人酔生夢死夢百夜
左の膝をハタと打つと、その夜にみた夢のあらましが、ありありと浮かび上がってくるのだった。9/1
成績優秀なタクちゃんを採用しようと、AB2つの会社がPVを作成した。前者は会社挙げてタクちゃんを熱望していることが整然と示されており、B社は女社長のタクちゃんへの熱愛が如実に示されたラブレターのようのもので甲乙つけにくかったので、持ち帰って再度検討することになった。9/2
だいぶ前に他界したタツミ君が、うちの近所に居酒屋を開店したというので、ちょっと覗いてみたら、懐かしい顔ぶれが思い思いに陣どっていたので、酒類はドクターストップのおらっちだったが、これもサービスだと思ってジャック・ダニエルのボトルキープを頼んでしまった。9/3
ふぁっちょんの深化とか退化とかは紙一重。例えば製作過程の1プロセスを無意識に飛ばしてしまうとそれは退化といわれるが、意識的に飛ばすと、逆に大いなる深化と評価され、時には「完成された未完成」と褒め称えられたりするのであるよ。9/4
また台風が来襲して集中豪雨だというので、エイヤっと畳をめくってみたら、床下を轟轟と泥水が流れていた。9/5
おらっちのインタビューでは、あの歴史的な敗戦日に昭和天皇の訳の分からぬ念仏を聞きながら性交していた男女は少なからず存在した模様であるが、かというて、彼ら彼女らが天皇制に反対だったのかといえば、そんなことはさらさらないようだった。9/6
アサイナ会社のバーゲンで特別びっくり玉手箱を5千円で販売するというので、買おうとしたら、その値段は明日からで、今は8千円だというので諦めた。9/7
だんだん食欲がなくなってきたので、毎日水ばかり飲んでいるのだが、それでけっこう元気に暮らせるので、どれくらいもつか試してみようと思っているのよ。9/8
モーレツに広い敷地を、モニターに映る範囲でシャッターを切り、フィルムに収めようと早朝から撮りまくっているのだが、夕方になっても、ほんの一部しか撮影できていないのだ。9/9
「我らが身近な宝物」という企画趣旨は、とても興味深いものがあったが、ドイツ中世の農民たちのお化けが紹介され、天井から巨大な足長人形が吊り降ろされてくると、はて、これはなんじゃらほい、という思いが湧き出してくるのだった。9/10
いたるところに地雷が埋められた坂道を、猛スピードで下り降りる黒いボデイスーツの美少女を、おらっちは、ハラハラしながら見つめていた。9/11
敵に暗殺されたからというて、こちらが敵を殺すことはないし、敵を殺したからというて、自死する必要もないと、おらっちは、そのとき考えた。9/12
そうか、世の中のひとはなーんもしないので、自分がなんかするほかないのじゃ、と、おらっちは、そのとき分かったのじゃった。9/13
敵の間者を捕まえて「お前を拷問するぞ」と脅したら、即秘密事項をべらべら喋り始めたのはいいが、こっちの間者も捕まって拷問されて、秘密事項をべらべら喋っているというので、「これは困った、あいこじゃないか」と、おらっちは思った。9/14
元の図像が徐々に姿かたちを変えて、現像されるまでのプロセスを、一目で把握できるような多重複層図像を、デゾルブと呼ぼうかと、さっきから考えている。9/15
久し振りに家族一同で楽しく夕餉をとっていたら、舞の海などの黒覆面の日本会議のファシスト連中が殴りこんできたので、カラシニコフ機関銃で皆殺しにしてやった。9/16
いつの間にかモザールが終わって、気がつけばバッハに似ているが、微妙に異なるハッハが奏されていた。9/17
私が愚かしい政治ごっこから足を洗って、西園寺公の真似をして公邸に引き籠ると、もはや誰も訪ねて来なくなったので、毎日のように床屋に通っている。9/18
ガザの住民がやってきて、空からはミサイルが降ってきて、陸地からは戦車が攻め込んできてどんどん人が殺されています。助けてくださいと訴えられたが、おらっちは「自分はイスラエル担当ではないので」というて逃げ出したのよ。9/19
親友がこの界隈の秩序を破るのが心配で心配で、それがおらっちの気弱い神経をずたずたに切り苛んでいる、そんな剣呑な状況がいつまでも続く。9/20
朝から温泉に入っていたら、色っぽい熟女がしきりに余を誘うので、仕方なく奥の奥まで突っ込んでしまったが、結局1ミリも精が出なかったようなので、挨拶もそこそこに朝食を食べにいったのよ。9/21
誰もみていない「徹子の部屋」に、なんたら女王という女性が出ていたので、こいつはエリザベス女王の隠し子か、SⅯの女王様だと思ったのだが、そのどちらかは、ついに分からなかった。9/22
時の第一人者が嫌で嫌で、故国を脱出したおらっちだったが、5年ぶりに帰国してみたら、世界でも指折りのキョウフの独裁政治が敷かれていた。9/23
2029年9月9日の午前9時に、おらっちは、綾部大橋の真ん中から、由良川の激流に飛び込んだのよ。9/24
「主体の行動が不在の時空は虚妄である」と、誰かが託宣しておるのが、枕の下から聞こえる。9/25
港川人と蝦夷が、南北から攻め上がってくるというので、わいらあ、名古屋城で、じっと待ち受けておる。9/26
「お若いの、娘さんにちょっかい出すのはやめなはれ」と自分も若者のつもりで声をかけたのが運の尽き。おらっちがガンベルトから拳銃を抜き出す、その時早く、かの時遅く、彼奴の2丁拳銃から飛び出した弾丸は、おらっちの心臓を2か所も射抜いていた。9/27
珠玉を転がすようなコロラトゥーラの美声が、天空の遥か彼方まで駆け上ったかと思うと、猛烈な勢いで地表すれすれにまで急降下してきたので、おらっち、正直頭の中がクラクラしちまったのよ。9/28
集英社のパーティでヤマモトダイスケに挨拶してから朝日のアルガさんと来週の大阪行きの話をしていたら、毎日のホリウチさんと日経のコスギさんが割り込んできたので困っていたら、講談社のトミタさんと小学館のウメザワさんが、おらっちをうまく連れ出してくれた。9/29
この会社では、毎日ランチとウエアが無料で支給されたが、出張の際にはウエアが届けられないので、あらかじめ申し出ておかねばならんかった。9/30
悪人を知事に選んだ人たちよこれからたんと後悔しなはれ 蝶人