あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

チャイコフスキーは2度死ぬ~横須賀芸術劇場にて鎌倉交響楽団第114回定期演奏会をきいて 

2019-11-30 22:24:17 | Weblog


蝶人物見遊山記第326回 &音楽千夜一夜第439回


歯医者のついでに久しぶりのカマキョウです。じつはここんとこ鎌倉芸術館が工事中なので横浜や横須賀で引っ越し公演をやっているそうです。横須賀なんてガラガラかと心配していたら、横須賀交響楽団に匹敵するくらいお客がいたので驚きました。

まずはいつのもように名曲中の名曲「鎌倉市歌」を名コンマス五味氏のリードで。彼氏ちょっと肥ったかな。好漢自重せよ。

お次は初めて耳にするリヒャヤルト・シュトラウスの「歌劇薔薇の騎士組曲」。歌劇の5年後の曲だそうですが、あの管楽器があれになってあそこに突っこむという露骨で卑猥な性交描写からはじまり、山あり谷ありの30分の難曲を、わいらの鎌響が見事に演奏してのけたので、びっくりポン。いつのまにこのオケは腕を上げたのでしょうか。

指揮者はと見ると何度か見聞きしたことのある横島勝人選手。音楽愛に溢れたこの人は、自分の音楽への思いや自分の解釈を、身ぶり手ぶりでじつに分かりやすく情熱的に演奏者に伝えます。そのさまは、見ていても気持ちがよろしい。鎌響もついていきやすいのではないでしょうか。

2曲目は佐藤友紀選手をフューチャーしたハイドンの「トランペッット協奏曲変ホ長調」。なんかはじめは神経質に楽器をいじっていたので、半世紀前の大昔、当時のN響の首席奏者の演奏会にいって、あまりにも無残なその演奏に耳を覆った悪夢の夜を思い出しましたが、まったくの杞憂で、佐藤選手が奏でるトランペットは正確無比。堂内狭しと鳴りわたるその朗々たる歌いっぷりは、まことに見事というも愚か。天晴れな晴れ姿でありました。

それにしても誰が考えたのか知らないが、シュトラウスの次にハイドンを持ってくるなんて、なんと大人なプログラムなんでしょう。しかも名演奏。なのに聴衆の拍手が少ない。土曜の午後のマチネとあってグウグウ寝ている奴もいる。猫に小判とはこのことでしょう。

休憩をはさんだトリには、チャイコフスキーの交響曲第6番という大曲を持ってきましたが、これが手に汗握る超熱演、(しかも聴きどころ満載、終始音楽性豊かな)で、すでに棺桶に片足掛けたおらっちは、涙が飛び出るほど感動しました。

今までカラヤンやムラビンスキーの録音を聴いてそれなりに満足していたのですが、目の前で実演、しかも名演奏を聴かされるとなんちゅうか異次元の感動を覚えます。

チャイコ選手はこの曲を書いてすぐにコレラで死ぬわけですが、実はそうではない。この曲を聴いていると第3楽章のチェレスタが鳴るところで一度死に、第4楽章のクライマックスで、もういちど死ぬ。2度も自殺していることをありありと分からせてくれる理智的にして情熱的な大演奏でありました。

ああそれなのに、3楽章の大盛り上るで拍手しちまうのはまあ許されるとして、4楽章の終りの終りで拍手しちまう馬鹿野郎は殺されても仕方ないでしょうね。

はしなくも私は、小池光氏の有名な短歌「佐野朋子のばかころしたろと思ひつつ教室へ行きしが佐野朋子をらず」(『日々の思い出』)を思い出しちまいましたよ。

まあそんな次第でたった1000円のコンサートでこれほど心身が満たされてよいのかというくらい充実のライヴでしたが、余事ながらホルンの首席はそろそろ若手と交代されたほうが御自身と楽団の為ではないかと思った次第です。

 小津安の映画のような歌を詠みたしという小池光の言に頷く 蝶人

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聖書協会共同訳で「レビ記」を読んで

2019-11-29 13:29:22 | Weblog


照る日曇る日第1317回


エジプトを出てシナイ山に着いたものの、その麓で壮大な幕屋構築に血道を上げはじめたのはモーセとアロンでもなく、2人の指導者に従うイスラエルの民でも無く、ほかならぬ神自身であるから驚く。

神は、このベースキャンプにおいて動物や穀物などの生贄の供え方をモーセに詳しく伝授し、モーセは、それをそのまま祭司長に任命されたアロンと民草に口移しで伝える。

神の指示は微細にわたり、「パン種の入ったパンを食べてはいけない」とか「動物の血や脂肪は不可」とか、「反芻するだけか、あるいはひづめが割れているだけの動物(例えばラクダ、岩狸、野兎、豚)は食べてはならない」などと、今考えれば殆ど不条理な内容である。

つけつけと物云う神の民草への命令は、食物についてだけではない。精液や月経などの穢れの清め方とその儀式が定められ、合意なしに人妻と姦淫した者、獣姦、同性姦、安息日を破った者はみな絶たれなければならない。

そして事あるごとに「私は主である。あなたかたの神である」と恫喝し強要するのであるが、こういう神とは新約聖書に出てくる神とは相当異なる種類の神のように思われる。


  600歳で箱舟を作りしノアは950歳で死んだ 蝶人
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聖書協会共同訳で「出エジプト記」を読んで 

2019-11-28 16:25:47 | Weblog


照る日曇る日第1316回


イスラエル人でありながらエジプトで善政を敷いたヨセフが110歳で亡くなり、新世代が勃興するようになると、ヨセフなんかてんで知らないエジプト人たちは、大繁殖しているイスラエルの民を抑圧し始め、ファラオは男子の新生児を殺戮する。本記の主人公モーセはそんな弾圧の隙間を縫って成長し、神から選ばれてエジプト脱出の指導者になるのである。

神とヨセフはイスラエル人を脱出させようと企むが、ファラオはイスラエル人から富と権勢を奪い取ってエジプト人の奴隷にしたいから、「出たい」といううても「ああそうですか」とは言わない。

そこで神はイスラエル人地区を除くエジプト全土に蛙やブヨやアブやバッタをばら撒いたり、病気をはやらせたり雹を降らせたり、しまいには長子を虐殺したりしたので、人々はやっと脱出できるようになる。

神が支えるモーセ(とその兄アロン)の説得を受け入れ、ファラオの暴虐に耐えかねて脱出に合意したわけだが、なんせエジプト滞在430年に及ぶ民草にとって、出エジプトの決意と労苦は並大抵のことではなく、いくら天からマナが降ろうが、神が海を切り開いて逃げ道を作ろうが、はたまた両側から波が押し寄せてエジプト軍が全滅するという奇跡を見せようが、その不満と不平は折りに触れて激しく吐出して神とモーセを往生させるのであった。

ようやっとシナイ山の麓に辿りついた成人男子だけでも約60万人の大部隊に向かって、モーセを代理人とする神は、あの有名な「十戒」を授けるが、モーセが山から下りてくると兄のアロンと民草は黄金の子牛像を作って崇拝しているのだから油断も隙もありゃしない。選良どころかイスラエル人はけっこう性悪の民なのである。

いったんは怒り狂った神とモーセであったが、気を取り直してもういちど新たな「十戒」ボードを拝受したモーセは、今度は神を接待する幕屋の建設に取り掛かるが、これに対する神の注文は物凄く細かく、とても我が国の大嘗宮なんかちっちゃくってまるで勝負にならない。

されど大嘗宮のなかにいます天照大神がヤマト民族だけの神様であるように、「出エジプト記」の神も、イスラエル民族だけの神様であることは間違いないのである。


 そういえば梅原千里・万里のコンビありあの千里が上沼恵美子なりしか 蝶人
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ディディエ・デニンクス文・PEF絵「お父さんはどうしてヒトラーに投票したの?」を読んで

2019-11-27 14:32:19 | Weblog


照る日曇る日第1315回


1950年パリ、サンドニ生まれの推理小説作家が綴った文章に、ジャーナリストのペフが装画をつけたドキュメンタリータッチの戦争警告絵本である。

ヒトラー政権が1933年から大戦が終わる1945年までのわずか12年間にドイツで起こったことを、簡単な歴史年表を付けくわえながらいきいきと描き出している。

はじめは既成政党のていたらくに不満を覚えてナチ支持に傾いっていった中年の父親も、招集されて命からがら帰国し、ミュンヘンの瓦礫の山にへたりこんでいるところに、ヒトラーの肖像画を拾い出した息子が、「お父さんはどうしてヒトラーに投票したの?」と訊ねる。

日本帝国の場合は、1931年の満州事変から37年の日中戦争、41年の真珠湾攻撃を経て敗戦に至るまでざっと15年だから、「お父さんはどうして翼賛選挙に投票したの?」というところか。

新たな戦争への道をバクシン中の今の日本なら「お父さんはどうして安倍蚤糞に投票したの?」というところかな。


 「自国第一」でみな頑張ればおのずから戦争することになるだろう 蝶人

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半蔵門で通し狂言「孤高勇士嬢景清-日向嶋-」を見物するの巻

2019-11-26 14:22:52 | Weblog


蝶人物見遊山記第326回


昨25日に千穐楽を迎えた歌舞伎興行を雨の金曜日に見物しました。

源氏と壮烈なゲバルトを繰り広げた平家の荒武者、悪七兵衛景清を巡る伝説は能、舞、浄瑠璃と数多いが、今回の公演は「大仏殿万代楚」と「嬢景清八嶋日記」をミックスしたものでげす。

前者では東大寺の大仏開眼に出席した源頼朝の暗殺を狙った景清が、源氏への帰服を説かれて同ぜず、かというて反抗せぬ印に両眼を潰すのだが、どういう風の吹き回しでそおゆう展開になるのか、頼朝ならずとも驚くほかはない。

後者では盲目ゆえに落魄した景清が、南海の孤島で閉塞しているところを、娘が探し当てる。彼女が父のために遊女に身売りして大金を作ったことを知った景清は、ここで一大決心をして源氏への帰順を表明し、頼朝と面会すべく大船に乗り込んで勇ましく鎌倉に向かうううジャンジャン。

というところで大団円を迎えるのですが、それにしても序幕から4幕までの展開が余りにも唐突で、いくら中村吉右衛門が、あの聞き取りにくい超高音の裏声で泣いても喚いても、平家から源氏への転向の苦悩や悲劇の人間的な葛藤がおいてけぼりになる。

通し狂言なのにバラバラ狂言になる。ドラマがドラマとして描き尽くされないで、宙ぶらりんになる。期待が見事に肩透かしとなる残念な結果に終わりやした。



  ジャッキー・チェンがいた頃の香港警察は人殺しはしなかった 蝶人
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新潮日本古典集成新装版「蜻蛉日記」を読んで 

2019-11-25 14:40:06 | Weblog


照る日曇る日第1315回


しがない受領の娘が、エリート貴族にのぞまれて玉の輿に乗ったはいいいが、一夫多妻の世の中なれど、かてて加えて色好みの夫に「夜離れ」の憂き目にあわされ、いくつかの喜びの夜はあれども涙に暮れる日々多く、「こんなのありかよ、これが平安の女の一生なのか」、と臍を噛みつつ、「出世と女色に現をぬかす浮気男のことなんか忘れっちまえ」とばかりに、一粒種の長男のラブレターの代作までやってのける。

行く末短い自分を看取ってくれるかも、と深窓の養女を見つけたが、それをつけ狙うヒヒジジイが現れ、必死で防戦したり、そのジジイがとんでもない重婚野郎と判明して引き下がったり、その合間にも亭主は位人臣を極める割には、こっちはこれっぽっちも報われず、とかくするうちに長き冬の日は暮れていくのでした。

平安時代の小説やエッセイはどことなく非現実的なものが多いが、「更級日記」の親戚にあたる藤原道綱の母が書いたこの半自叙伝は、喜びも悲しみも現代ドキュのように超リアルだ。


 次々に怪我人が出て休場し上位が敗れる九州場所だ 蝶人
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聖書協会共同訳で「創世記」を読んで

2019-11-24 11:37:46 | Weblog


照る日曇る日第1314回


信者の方には怒られそうだが、聖書は読むたびにいろいろな発見(無知な私にとっての)があって興味深い。

他の神話にあたってみたわけでもないが、旧約聖書の創世記では、神は安息日を含めて7日間で天地を創造している。中国の古典や我が国の古事記でも基本的には1日のほんんの一瞬か二瞬くらいで世界創生が終了するので、この計画性、構築性がいかにも古代近東あたりの民族性だと思うのである。

創世後の神様は、アダムとイヴをつくり、そこから人類が派生するが、人類科学史的にはこれがアフリカに誕生したホモ・サピエンスの元祖に相当するのだろうか。創世記の6章には「神の子が美しい娘を妻とした」と記されている。その子は「ネフィリム」と呼ばれたというが、これって殆ど後のギリシア・ローマ神話の世界だね。

しかしこの人間というやつは、そんな昔から今に至るも地金が悪いらしく、悪がはびこってたちまち腐敗堕落してしまう。

そこで神様は怒り狂って殲滅を図ろうとするが、「待てよ、優良分子だっているはずだ」と思いなおしたときに登場するのが「ノアの箱舟」で、これが実際にトルコのアララト山上で発見されたという報道が流れた時には、神話と事実の同致にいたく驚いたものだ。

神に選別されたノアが、(どのようにしてだかは詳らかにしないが)、2組ずつの生き物を選別し、箱舟に搬入した段階で、全地球を覆う大洪水が地球上の全生物を殲滅するが、湖沼に住む魚などはきっと放置されたのだろうね。

いずれにせよ、実際に古代に何度か起こったというこの「大洪水」こそが、キリスト教、あるいはユダヤ教のキーワードで、世界と世界内存在を一回チャラに初期化したからこそ、その後の全世界一元化の宗教ロジックが完成できた。

科学者たちは全地球上を覆い尽くすほどの大洪水の実在を疑っているようだが、よしんばそれがフィクションにせよ、これを神話上のキモに流用したことによって、「唯一絶対の世界宗教」として名乗りを上げることができたのである。なんともうまくやったものだ。

それから、この時代の人々の寿命が長いことにも驚く。「ネフィリム」は120年と相場が決められていたが、アダムは930年、セトは912年、ノ600歳で箱舟を作ったノアは950歳で死んだそうだが、ギネスブックには載っているのだろうか。


     アダム930年、ノア950歳、昔の人は長く生きたり 蝶人
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続 初冬の東京で展覧会を見物する

2019-11-23 12:58:33 | Weblog


蝶人物見遊山記第325回



昨日3つの展覧会をみたとレポートしましたが、都美術館で他にも駆け足で2つみたことを思い出しました。「松本力 記しを憶う」、と「子どもへのまなざし」です。

東京都写真美術館のコレクションを中心にした前者では、劇画のいくつかの画面を拡大投射して動かしたりしていましたが、まあ、なんともうしましょうかあ、「それがどうしたの?」と私が云えば、恐らく松本選手も黙り込んでしまうような作品でした。

都美術館による「上野アーティストプロジェクト2019」の一環として開催されている後者では、6人の作家がそのテーマに沿った作品を並べていましたが、わずかに私の関心をひいたのは、豊澤めぐみ選手による女子中学生、あるいは高校生の世界に肉薄した何枚かの作品でした。

すでに歴史的評価が確定した後期印象派の作品などと違って、こういう若手の現代作品は、それこそまだ海のものとも山のものとも相場が決まっていないがゆえに魅力的ですが、個人的に「これは凄い!」と思えるような作家と作品は数少ないのがとても残念です。


 丸腰の学生目掛け拳銃をぶっ放すのは香港警察 蝶人
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初冬の東京で3つの展覧会を見物する

2019-11-22 20:47:14 | Weblog


蝶人物見遊山記第324回



1)都美術館にて「コートールド美術館展」

快晴の水曜日に上野に行ったらシルバー無料日で大助かり。そのうえ「魅惑の印象派」てふ惹句なんざあふふんとせせら笑っていたのに、思いのほかの充実ぶりに驚く。これはキャッチフレーズ通りの素敵な展覧会でした。

まず入り口に並んだゴッホの「花咲く桃の木々」の精妙な色彩美にうっとり。続くモネの2作、セザンヌの9連発!!に完全にノックアウトされちまいやした。セザンヌの「カード遊びをする人々」は、家にある画集でみて、陰気でつまらないな絵だと思っていたのですが、その実物がなんと生気と深々とした色彩に満ちた魅力的な名品だったことか!向き合った2人の男の性格まで描き出しているようでした。

思いがけない邂逅に胸がときめいたのはわが偏愛の日曜画家ルソーの「税関」。自分の職場であるはずが、この世のどこにもない時空を超えた不可思議な現象として成立してしまっている魔術的玄妙さにいたく感嘆しました。

その他ルノワールの傑作「靴紐を結ぶ女」、「座敷席」、ドガの「舞台上の二人の踊り子」、ロートレック、スーラ、モディリアーニ、ゴーガンなどの名品がずらずら並ぶ。これらの作品を選んだコートールド選手はよほどの目利きだったのでしょうね。

彫刻はロダンの傑作が出品されていましたが、ドガとルノワールの小品が珍しいだけではなく彼らならではの個性と魅力を伝えていて持って帰りたいほどでした。(12月15日まで)

2)上野の森美術館の「ゴッホ展」

いつものように1000円払うはずの都美術館がタダになり、そのうえ中身が抜群のコレクションだったのに気を良くして、上野の森美術館のゴッホ展も見物したのですが、こちららはなんと入場料が1800円もする。おまけに会場はいつものことながら古くて狭くて暗い。

肝心のゴッホは40点弱しかなく、有名な「糸杉」は来ていたが別にどうという感銘も無く、私的には1988年の「男の肖像」を除けばまあどうということもないいわば寄せ集めでした。

「ハーグ派」の画家たちの影響を受けたゴッホが、農民画家に憧れるが、やがてパリ、次いでアルルに赴いて真の自己に目覚め、人知れず天才を発揮するまでの経緯を証しだてようとする狙いは分かるのですが、その割に材料が乏しくて説得力も無い。その大半がハーグ&クレラー=ミューラー両美術館からの出品ですが、これほど失望落胆したゴッホ展もありまへんでした。産経新聞、金返せ!(来年の1月13日までどすえ)

3)「SEI HASHIMOTO新作絵画展」

それから、上野を後にして訪ねた新宿伊勢丹6階のアートギャラリーで私の昔の上司、SEI  HASHIMOTO氏の新作絵画展を観賞しました。

「パリ、多くの細道」という副題がついているとおり、パリのあちこちの懐かしい風景を描いた味わい深いパステル画と版画を愛するファンは多いようで、初日だというのに何点かには早くも売約済みの印がつけられていました。

久しぶりに拝見したのですが、以前と比べて大家らしい堂々たる風格も漂うようになっったようです。

なお同展は来る11月26日まで好評開催中。


    民草を守るはずの警察が香港にては学生を殺す 蝶人


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香港上空への手紙

2019-11-21 10:48:16 | Weblog


これでも詩かよ第270回&蝶人狂言綺語輯&バガテル―そんな私のここだけの話op.330


在天のH・Mさん、その後いかがお過ごしですか?

こちら下界はいま晩秋。今日は少し寒いけれど快晴ですが、そちらの雲の上でも四季はあるのでしょうか?
季節はなくても五風十雨、もう毎日原稿を書くこともないし、高い税金を納める必要もないからいいですね。

きっと穏やかであるだろうそちらに比べて、下界では大変なことになっていますよ。

アメリカでは再選を目指すトランプ大統領が、民主党の対立候補をやつけようとウクライナの大統領に頼んだり、二酸化炭素を抑制する国際的な取り決め、パリ条約を脱退したりの大活躍。
これによって地球温暖化の勢いは加速され、アメリカではより多くのハリケーンが、わが国ではより多くの台風が、列島を襲撃することになるでしょう。たまったものではありません。

最近ホワイトハウスでは、全政府機関における「NYタイムズ」と「ワシントンポスト」の定期購読の廃止を命じたそうですが、自分に不都合な情報をすべてフェイクニュースとして退けるという前代未聞の狂気の振る舞いは、世界をますます分断し、余計な対立と混乱をまき散らしていくに違いありません。

そうそう、生前あなたが活躍されていた香港では、中華人民共和国による民草への民主化規制が一段と強化され、「5大要求」の実現を求めて立ち上がった学生や市民への弾圧は、丸腰の学生に対して武装警官がいきなり拳銃を発射するところにまでエスカレートしています。あのジャッキー・チェンも、さぞや驚いていることでしょう。

もしもあなたが香港に在住いていたら、きっと学生たちと一緒に戦っていたことでしょうね。いや、きっとあなたの魂は、香港理工大学のバリケードの中にあるのでしょう。

横暴と専制では、わが国の安倍首相も負けてはいません。
公職選挙法なにするものぞと、地元の後援会の大勢のメンバーを「桜を見る会」に送り込んだり、先日行われた天皇就任祝賀パレードでは、なにを勘違いしたのか、自分も車に乗り込んで沿道に向かって手を振ったり、最早やりたい放題なのに、誰も止めようとはしません。

金八先生の「3年B組」に出演して有名になり、自民党の参議院議員になって国会で「八紘一宇」礼賛演説をしてさらに名を上げた元女優は、「この国の政権を握っているのは、総理大臣だけですよ」と断言し、全国民を唖然とさせました。

外交・安保、経済などの誤謬に満ちた政策展開にもかかわらず、三権を利権と忖度で固める強権維持体制を確立したことによって、陰険かつ凶悪な安倍独裁体制は当分続いていくのでしょう。

でも、暗くて憂鬱な話ばかりでもありません。
先日はラグビーのW杯で日本チームが思いがけず善戦健闘して全国を沸かせましたし、野球チームが世界選手権で見事優勝しました。

我が家では、昨日の午後、庭で芝刈りをしていたら、子狸と鉢合わせしました。
「ほらこっちへおいで」と呼びかけたのですが、子狸はちょっと小首を傾げてから、納屋の裏手にトコトコ歩み去りました。

それがあんまり可愛かったので、私は「タンタンタヌキのタヌサブロー」と名付けてやりました。またタヌサブローと交歓できたら、とひそかに願う今日この頃です。

とりとめのない手紙になりましたが、詩一篇を同封しましたので、ご笑覧ください。
またお便りいたします。それまでどうか愚かな私たちを温かく見守っていてください。



カルタゴ、滅ぶべし!

佐々木 眞

香港は、いま真夏、
秋も終わりだというのに、
朝から真っ赤な太陽が、
ギラギラと燃え盛っている。

百千の雨傘は、ワラワラと花開き
「自由」と「民主」の理想は、
地上で最後のオオムラサキのように
虹色に輝く。

カルタゴ、滅ぶべし!
巨悪は、腐敗しているぞ。  
カルタゴ、滅ぶべし!
正義は、君らの頭上にあるぞ。

戦え!
戦さ上手のカルタゴと戦え!
殷鑑遠からず
君らの内なるカルタゴとも戦え!
さらば自立への道は、
おのずから切り開かれん。

目を開け!
走れ!
どこからも、助けなんか来やしないぞ。
遠くまで走り続けよ。
彼方へ! 彼方へ!

カルタゴ、滅ぶべし!
いま君らの高鳴る心臓が、夢見ているものは、
まだ誰もみたことがない、新しい時代の到来の予感か。

もしかすると、これが民主主義というやつか?
いくたびも多くの国で人々が味わい、
味わっては、やっぱり挫折してきたという。

そう。
あの奇跡の高揚を、
おそらくは、生涯でたった一度の瞬間を
君らは、その戦い疲れた全身で、抱きしめよ。

カルタゴ、滅ぶべし!
カルタゴ、滅ぶべし!

若者よ、行け!
いまは迷うことなく、
ジャッキー・チェンのいない国際警察に向かって、
クリストファー・パッテン総督のいない香港政庁に向かって、
まっしぐらに突撃せよ!


   連敗は絶対しないぞと白鵬は眦決して朝乃山屠る 蝶人
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夢枕獏原作・岡野玲子作「陰陽師6 貴人」を読んで

2019-11-19 11:43:08 | Weblog


照る日曇る日第1313回



本巻では安倍清明のよる陰陽五行説が図解され、火、土、金、水、木の相関関係を描いた五芒星に基ずいて十二支がひきだされ、壮大な宇宙観が展開される。

しゃあけんど、ゆうたらなんやけど、まことに退屈。それ以降に登場する源高明の故事もなんだか竜頭蛇尾の中途半端で終わってしまう。

相変わらず流麗な筆致で、巻末には五芒星の作図法や五行大義の解説まで添付されているが、いったい誰が読むんかいな。


 「カワカワノコウチャンケンチャンミエコサン」と言いながら去りゆく男 蝶人
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蝶人霜月映画劇場  

2019-11-18 15:56:57 | Weblog


闇にまぎれて tyojin cine-archives vol.2065、66,67、68、69


1)マーティン・ブレスト監督の「ミッドナイト・ラン」
「賞金稼ぎ」のデ・ニーロがやっさもっさするが、最後には正義に味方してメデタシメデタシとなる犯罪活劇の一幕物。

2)リュク・ベッソン監督の「レオン」
麻薬捜査官のくせに気分次第で人殺しをする。ハードボイルドと分かってはいても、無闇に人を殺す映画はどうかと思う。ヒロインの少女は可愛いが、弟を殺されたからといって復讐命にはしるのは頂けないずら。

3)ジャン=ポール・ラプノー監督の「コニャックの男」
ジャン=ポール・ベルモンド主演のドタバタ喜劇だがどたばたするだけでちっとも面白くない。

4)陳凱歌監督の「さらばわが愛 覇王別姫」
時代に翻弄された京劇役者と愛人の悲劇。紅衛兵の糾問の前に親友を裏切る心情が痛々しい。日本軍の将校がなんとなく好意的に描かれているのは不思議だ。

5)イアン・ソフトリー監督の「光の旅人K-PAⅩ」
謎の惑星からやって来た謎の男の正体は、本当の宇宙人か、それとも殺人事件に巻き込まれた地球人か? 最後まで謎が残る不可思議な魅力をもつSF映画なり。


  頼むから引きずり下ろしてくれないか安倍蚤糞を政権の座から 蝶人
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金子兜太句集「百年」を読んで

2019-11-17 11:22:33 | Weblog


照る日曇る日第1312回



2018年に98歳で他界した作者最後の句集である。

で、どういう作品かというと、ざっと以下の通り。



人のためにこの人あり春怒濤

弱者いたぶる奴等狼に喰わす

胡蝶翔ひらき閉ず被爆なき国を

熊谷の暑さ極わまり美しき

暗闇の大王烏賊と安眠す

鹿の眼に星屑光る秩父かな

谷に猪眠むたいときは眠るのです

放射能売り歩く人夏の鳶

生臭く小さく人間蟬しぐれ


いずれにせよ「プレバト」で行き来する俳句とは、正反対の世界である。


 羽蟻を殺虫剤で殺すなり面白いほど死んでいくなり 蝶人
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小池光歌集「梨の花」を読んで

2019-11-16 11:25:56 | Weblog


照る日曇る日第1311回


とって72歳の作者の最近作であるが、歳の割には老成の陰影が濃く、世の中老人だらけなのだから、それほど早く枯淡の隠者にならずとも、という気がする。

でもこの人が「小津安二郎の映画のような歌が詠みたい」と呟いたり、鴎外や茂吉や仏蘭西革命をしたたかに生き抜いたジョセフ・フーシェに惹かれる気持ちは、とてもよく分かるのである。

集中の歌では

 めんどりの腹を割らけば順々に生まれるたまご連なりありき

 裸木の欅の高きところにて忘れられたる鳥の巣がみゆ

というそれこそアララギ直伝の謡い振りが、映像が眼前にありありと広がってくる秀逸な写生歌で、新たな衝撃を受けた。

 おもしろき事を語らぬひとの歌おもしろからず歌は人にて

もののふは名こそするどくひびきけり梶原源太景季といふ

三丈一間にふたり棲めるか「神田川」きくときつねにうたがひにける

にも、思わず膝を打つ。ほんでもって、

 子なきゆえ生にさほどの執着なしとぽつりと言ひし吾子をかなしむ

とし老いし渚ゆう子が懸命に歌ふを見るはかなしかりけり

という風に歌われると、こちらも悲しくなってしまう。また作者が、世間の常識に逆らって歌の最後に喜怒哀楽をはっきり歌うことにも共感を覚える。

歌には、次のような遊び心が大切だ。

「しろくま」といふ名のクリーニング店ありて美的女性が勤務してゐる

照國といふ横綱がむかしをり桜餅など食べて居るかな

頼山陽、頼三樹三郎おやこにて酒汲むときはたのしかるべし


ほんでもって、1首だけ選べと言われたら、やはりこれか。

トンネルに出口あることをうたがはず時速二百キロ「はやぶさ」突つ込む


  人は皆デスマスクの如き顔をして眠っているらしどこの家でも 蝶人
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夢枕獏原作・岡野玲子作「陰陽師5 青龍」を読んで 

2019-11-15 13:22:18 | Weblog


照る日曇る日第1310回

仲が悪かった藤原兼通と兼家の兄弟の争いに伊勢物語の在原業平の鬼に喰われた女の逸事をからめた見事な王朝怪異ロマネスク。原作に光彩と想像力の輪を加えた岡野玲子の構成と作画が素晴らしい。


 君が代もわが世の春に取り込んでほくそ笑むのは安倍蚤糞 蝶人
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