あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

池上彰・佐藤優著「激動日本左翼史」を読んで

2021-12-31 10:48:03 | Weblog

照る日曇る日第1692回

 

「巨悪が蔓延る濁世に、権力者共を打倒して社会正義を打ち立てたい」と願うある種の倫理的浪漫主義が流行し、それが降り積もって実際に様々な政治組織の内奥で活動し始めると、たちまち「どんな正義を、どのようにして実現するのか」を巡って激しく理論闘争を繰り返すようになり、それが度重なると今度は問答無用の暴力で相争うようになる。

 

多種多様な党派が「おのが仏」を崇め奉るあまり、その権威を認めない反対者の存在を肉体的に抹殺するようになるのだ。

 

「彼奴は敵だ。敵を殺せ」、世界の人類史で至る所で何度となく繰り返されてきた政治的、宗教的争闘は、本邦の60年から70年代の左翼の間で熾烈なものになったが、その刃が権力よりも身内に向かったところに悲劇があった。

 

本書は、はじめはいわば処女の如く始まった左翼的運動が、内ゲバを繰り返し、1972年の「あさま山荘事件」と共に脱兎のごとく壊滅していくまでを丁寧に辿って、その道行の悲劇的必然性を白日の下で晒している。

 

しかしなぜ優秀な知性の持ち主を擁しながら、新左翼は後世に「一億総ノンポリ化」を残して全く無意味に自滅したのか? それともどこかの誰かの他山の石や哀しい反面教師くらいの意味はあったのか。

 

本書の最後で佐藤は「最終的な命取りになったのは、彼らが官僚化しないことでした。現代の政治は官僚化しないとできないものなのです」と語っているが、素直に頷くことが出来ない結論である。

 

東京教育大の入試中止でやむを得ず慶應でマル径を専攻した池上彰と、わが丹陽教会の牧師であった緒方純雄先生の愛弟子で同志社大神学部闘争を沙青同の一員として戦った佐藤優による対談であるが、目配りが行き届いていて好感が持てる。

 

  感染したウガンダ人はウガンダへ亡命希望のビルマ人は日本に留めよ。蝶人

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マギー・オファーレル著・小竹由美子訳「ハムネット」を読んで

2021-12-30 11:09:13 | Weblog

照る日曇る日第1691回

 

昔からシェークスピアにまつわる謎は多いが、彼の家族についての謎はもっと多い。

そこで作者はこの小説でもっぱら後者、とりわけ彼の妻アン・ハサウェイについての誤解を払拭しつつ、全く新しい女性像を力強い想像力を駆使して再創造しようとしている。

 

その結果は目覚ましいもので、“未来の大劇作家を篭絡した8歳年上の悪女”という従来のアン像は、知的で原初的な生命力に溢れ、海のものとも山のものとも知れぬ一介のラテン語教師を芸術の檜舞台に押し出す「愛の精霊」のごとき存在へと一変したのであった。

 

また愛児ハムネットのペストによる急死に大きな衝撃を受けた彼は、異名同義の名作「ハムレット」を創造することによって、2人の愛の結晶に永遠のいのちを付与したのであった。

 

        面舵をいっぱいにして日本丸師走の海に沈みゆくなり 

 

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主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.96」

2021-12-29 12:39:15 | Weblog

蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第404回

 

○上司の還暦を祝うスピーチ

吉田部長本日はおめでとうございます。

 

実はわたくし甚だ教養に乏しい男でありまして、還暦とはいったいどういうことであるかくわしく知りませんでした。そこで昨夜こっそり辞書を引きましたら、なんでも干支には60種類の組合せがあって、60年が経過しますと再び生まれた年の干支に還るから「還暦」というネーミングになっていると、そう書いてありました。

 

ともかく大変おめでたいイベントでございますが、*1、そんなことよりわたくし吉田部長は50代前半とばかり思っておりましたので実際は数えの61歳と知っていささか驚きました。しかしビジネスは見かけや年齢ではありません。内容と実力であります。*2

 

若者をしのぐエネルギッシュな行動力と統率力で後輩をリードして下さる吉田部長が、本日の歴史的なイベントをきっかけにますますお元気で活躍されまして、われわれを末永く愛の鞭で厳しくしごき続けて頂きますようお願いいたしまして、お祝いの言葉とさせて頂きます。

 

○アドバイス

  • 1「還暦」を迎えた本人はまだまだ若々しく、これから円熟した壮年期を迎えようと決意している。スピーチの内容もそうした心理に相応しく、年齢を越え元気はつらつとした「未来志向」でまとめたい。
  • 2会社の上下関係があるからといって、あまり気にせず、堅苦しくならず、ちょっとしたユーモアも交えてーー

 

   巨大なるアンテナ建ててCQCQ無線に励む男がまだいる 蝶人

 

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呉座勇一著「頼朝と義時」を読んで

2021-12-28 12:43:50 | Weblog

照る日曇る日第1690回

 

NHKの「その時歴史は」などで鋭いツッコミをみせて注目されながら、前代未聞の恥ずべきセクハラ事件でこの業界からパージされた若手中世史研究者による新書本である。

 

鎌倉幕府の基礎を立ち上げた頼朝と、その存在を確固たる姿形にして一族に遺した義時の事業を、編年体ではなく小テーマ毎に考察した、読みやすく、分かりやすく一般向けに解説している。

 

とはいうものの、いくら寄る辺なき流浪の貴種だからというて、兄弟や親族を次々に亡き者にしていく猜疑心100%の頼朝、それから、後鳥羽上皇に刃向かったのは良しとしても、頼朝の妻の弟の分際で、姉と一緒に次々に有力御家人を屠ってゆく冷酷無慈悲な義時のどちらも、おらっちはあんまり好きになれないな。

 

特に北条義時については、和田合戦や実朝暗殺の折りに、なんで殺されなかったのか。悪運の強い奴めと呆れ果てながら読み終わったことよ。

 

   愛猫が行方不明になったとて捜索ビラを張りまくるひと 蝶人

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樋田毅著「彼は早稲田で死んだ」を読んで

2021-12-27 14:02:21 | Weblog

樋田毅儲「彼は早稲田で死んだ」を読んで

 

照る日曇る日第1689回

1972年11月8日、早稲田大学文学部のノン・セクト学生、川口大次郎君は、革マルの集団リンチによって撲殺された。本書はその暴挙に衝撃を受け、革マルの暴力による恐怖支配に対して「非武装言論闘争」だけで立ち向かった著者による、背筋が寒くなるような告白録である。

 

大学を去ってからの早稲田大学文学部の惨状がこれほど酷いものだとは、恥ずかしながら知らなかった。当時大学院に通っていたK君などは、文学部のスロープ辺りでフランケンシュタインに恫喝?されたなどと語っていたが、よくも殺されずに高田馬場から離脱で来たものだと思うばかりである。

 

ある段階からは、目には目、歯には歯、やられたらやり返せ、とばかりに、どこのセクトも武装して徹底的なゲバルトを実行するようになってしまったが、革マルは主要敵である国家権力や警察に刃向かうよりも、本来は大同団結すべき左翼系セクトに対して近親憎悪的ゲバルトを差し受けることが得意な、特異な党派であったが、早稲田では、なんと一般学生にまでその毒牙を剥きだしていたのである。

 

その殺人集団革マルの暴虐に最後まで素手で対抗した著者であったが、そんなガンジー張りの寛容主義者に対しても革マルは、情け容赦なく鉄パイプで滅多打ちにして、入院を余儀なくさせる。

 

川口君虐殺の後、いったんは自治会から追放された革マルだったが、著者が主導する新自治会勢力をテロで屈服させ、1973年7月13日の文学部急襲以後は、再び早稲田を戒厳令下に置くことになったのだが、その日研究室に逃げ込んだ女学生を守るために、毅然と対応した江戸文学専門の神保五弥氏は、男として立派だと思った。

 

本書の白眉は、川口事件が起こった当時の革マル一文自治会副委員長の大岩圭之助(現在の明治学院大学教授、辻信一)との対談であるが、4時間に及ぶ討論の中で明かされる大岩選手の思想と人間像は、著者の誠実さとは対照的で、なるほどこういう人物が「スローライフ」の元祖になりおおせたりしているのか、といささか鼻白んた次第である。

 

 「30年後にはこうなる」というけれどどうでもよろし我は死んでる 蝶人

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主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.94」

2021-12-26 09:17:19 | Weblog

蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第402回

主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.95」

 

蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第403回

 

○取引先の社長の還暦を祝うスピーチ

茂原社長、本日は還暦を迎えられましておめでとうございます。*1

 

茂原さんが会社を設立されたのがちょうど30年前。本日は、会社創立30年、社長生誕60年のおめでたさ二乗の日でございます。

 

ひとくちに30年、60年と申しますが、印刷屋の商売もハラハラ、ドキドキの連続で、なかなかにスリリングな自転車操業であったようです。ここだけの話ですが、社員思いの茂原さん、給料が払えずサラ金に走ったこともあったとか。わたくしも小さなデザイン会社を経営しているものですから他人事とは思えません。*2

 

先日も茂原社長いわく。よくぞ30年やってこれた。でも子供が後を継いでくれないのが淋しいよ。とコップ酒をあおりつつ仰っておりました。ところがご長男の一郎君がいつのまにかお父さんのお手伝いをされているようなので、まずは一安心。

 

茂原さん、どうかこれからも飲みすぎにだけは注意して、これまでどおり頑固商売一筋で頑張ってください。わたくしもおよばずながら応援させて頂きます。

 

○アドバイス

  • 1 祝い事のスピーチでいちばん大切なのは、当人の気持の内部に深く入り込んで、「ともに心からよろこぶ」精神である。
  • 2 ①還暦を迎えた当人の気持を想像し、②当人と自分の交友歴を振り返り、③印象深いエピソードを記憶の中から呼び起こし、その幾つかを披露しよう。

 

  「いつまでも元気に働くんだよ」と送りだされぬ最近の家電 蝶人

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鏑木清方美術館にて「華やぐ舞台と女性展」をみて

2021-12-25 11:35:53 | Weblog

蝶人物見遊山記第338回7&鎌倉ちょっと不思議な物語第424回

 

毎年この季節になると、この小さな建物の中でささやなひと時を過ごすことにしている。

 

そこは喧噪の小町通りから一筋入った横丁に隠れるように建っていて、昔は鏑木画伯の邸宅であったところだが、そこがそのまま美術館になるという理想的なかたちなのである。

 

そうおもうとなんで小林秀雄や大仏次郎旧邸がそうならなかったのか、中也ならまだ可能であるのに、とすこぶる残念なんであるが、それはさておき、会場にずらりと並んだ華やかな押絵羽子板を眺めていると、そこはかとなく新しい春の香りが漂って来るような気持になるから不思議である。

 

なお本展は同館にて明年1月10日まで開催ちう。

 

    鎌倉の小町通りの横丁で誰を待つやら鏑木清方 蝶人

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長野ヒデ子作「えんそくねんねこ」を読んで

2021-12-24 09:55:16 | Weblog

照る日曇る日第1688回

 

12匹のネコちゃんがお弁当持って楽しい遠足に出かけます。ラララ、ウララ、楽しいな。

 

でも、何だか変。だってこの本裏表紙から始まってるんだもん。しかも「本文中の♪の付いているところでは、♪いとまきまきの節で「らんらん ねこねこ らんらん ねこねこ おべんと もって えんそくだ! おお!」(長野ヒデ子作詞)と唄うようにと指示されているからなんですね。

 

別におかしくないか。

 

それで12匹のネコちゃんが「らんらん ねこねこ らんらん ねこねこ おべんと もって えんそくだ!」と唄いながら大行進を続けて山に登ると、山の向こう側から大きな熊さんたちが現れて、みんな喰われてしまうのではないかと逃げ出すのですが、実は熊さんたちも遠足に来たことが分かって、2つのグループはみんなで仲良くおべんとを食べるのですのですが、「くまさん くまさん はい おんま。はい ぱか ぱか ぱ。はい ぱか ぱか ぱ。」のところで、ねこさんがくまさんいにまたがっておうまぱかぱかしている絵を見ていると、なんだか脳みそがくらくらしてくるんだよ。もう。

 

   もういちど言うておきます長野ヒデ子はほとんどパンク 蝶人

 

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長野ヒデ子作「いちわのからす」を読んで

2021-12-23 10:04:53 | Weblog

照る日曇る日第1687回

 

「いちわのからすがかあーかあー」で始まって「「にーわの「にわとりこけこっこー!」と語呂合わせで三の魚、四のしらがのおじーさんと色々登場するのも面白いが、全員揃ったのが一度全員退場して、また全員出てくるのがシュールでポップで最高なり。

 

滅多にない素晴しい絵本ずら。

 

 ファッションの自己表現を抹殺し自己アピールする就活学生 蝶人

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主婦の友社版「誰もが泣いて喜ぶ愛と感動の冠婚葬祭その他諸々挨拶&スピーチ実例集No.94」

2021-12-22 15:01:39 | Weblog

蝶人狂言綺語&バガテル―そんな私のここだけの話第402回

 

  • 古希のお祝いでの本人のあいさつ

皆さん、本日はお忙しいところをかくも大勢の方がご参集賜りまして、ありがたく厚くお礼申し上げます。*

 

1いまや人生100年時代。かつて中国の詩人杜甫さんが「人生70年、古来稀なり」とのたまわった時代ははるか昔のことになりました。古希だかなんだか知らんが大げさなことは止めてもらいたいとせがれに申し入れましたら、*2

 

お父さんの意見なんか関係ない、お母さんがやれというからやるんですといわれて観念した次第です。最近は少し耳の聴こえが悪くなりましたが、*3

 

町内の陰口、悪口ばかりはすぐに聴こえてくるので困ったものです。お陰さまにて足腰も達者で、年内には*2家内と二人で四国の巡礼に出かけようかと話しております。この歳になってインターネットを始めましたら結構はまりまして、*3

 

最近14歳のメル友ができました。おじさんいくつですかと聞かれたので、つい還暦だよ。還暦って何歳と聞かれたので、良く知らないけど50歳くらいだよ、となんと通算20歳もサバをよんでしまいました。

 

日々是好日、お陰さまで元気でやっておりますのでご休心ください。

 

  • アドバイス
    • 1還暦、古希も老齢を感じさせない「若い老人の時代」になった。そんな自分であると自覚している方のための例文。
    • 2間接的な言い回しのなかに、愛妻への感謝と尊敬を匂わせる。
    • 3年齢を超えた若々しさをことさらに演出して、列席者の笑いをとってしまおうというスピーチである。どうせしゃべるなら自分が楽しまなくちゃ損。

 

    なんとなく心は楽しただ君がわたしの傍に居てくれるだけで 蝶人

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ヨシタケ シンスケ作「それしかないわけないでしょう」

2021-12-21 09:39:57 | Weblog

 

照る日曇る日第1686回

 

へりくつ作家が自問自答する奇妙奇天烈なシリーズだが、なかなか面白い。

今回は未来に対して悲観的な大人たちに対する壮大な反論絵本である。

 

台所でお母さんがムスメに「たまごがあるんだけど、めだまやきとゆでたまご、どっちがいい?」と尋ねるとムスメが「それしかないわけないでしょう?もっといろいろあるでしょう」と反撃する。んで飛び出してくるアイデアはオムレツ、たまごやき、に始まってうでごけいたまご、にらみたまご、おへそたまご、ねこたまご等々滔々と答えるのだが、母親からそれでもいいけど、どれにしると迫られると「今日はゆでたまごにしようかな」と答えるところが可愛らしい哀しい。

 

   沖縄の米兵どもが垂れ流すオミクロン株に抗議せよ政府 蝶人

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真木和泉著「私の東京教育大学」を読んで

2021-12-20 10:07:34 | Weblog

 

照る日曇る日第1685回

 

政府自民党の筑波大学構想の陰で、なんと廃学の憂き目に遭った作者による、半世紀前の大学闘争の手記的小説である。

 

本書を読んで知ったのは、まず作者は、あの有名な幕末の志士ではなく、篤実な代々木系の一活動家であること、教育大の当時の文学部自治会はゴリゴリの民青だったこと、彼らが時折実力闘争で対決していたのがなんとまあ革マルだったということ!

これでは当時「暴力学生」シンパだった私の出る幕はなんか無い。

 

しかし政治的主張によってのみ人世を語ることは慎まなければならない。寮生活をしていた作者をはじめ、登場人物の大半はみな貧しく、みな真面目であり、青春真っ只中を苦悩しながら生きていた。

 

もちろん私も同様だったが、彼らにはセクト間の対立以上に大学強制移転との闘いがあった。69年1月の東大に続いて2月には教育大に機動隊が入り、警察、国家権力と一体になった大学側のロックアウト体制が敷かれ、同年7月24日には移転強硬派が筑波移転を最終決定し、母校の廃学が現実のものとなった。

 

闘争がより悲惨で熾烈なものになっていくなか、作者は卒業後は、予備校などの講師として生計を立て、一家を養ったらしいが、それは教育大で福原鱗太郎選手から学んだ後、どこか田舎の学校で「坊ちゃん」のように暮らしてみたいと密かに願っていた私のどこか分身のようにも思えるのである。

 

  「いつまでも元気に働くんだよ」と送りだされぬ最近の家電 蝶人

 

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ジョン・バルビローリ指揮の「シベリウス交響曲全集他」を聴いて

2021-12-19 09:04:56 | Weblog

 

音楽千夜一夜第489回

 

こないだ朝日新聞の音楽欄の年間総評を読んでいたら、吉田なんとかという担当者が、邦人新人やが指揮するN響の演奏を高く評価しており、なかんずく老大家ブロムシュテットの凡演「運命」を神品の如く絶賛していたので、いったい何を聴いているのだろうと大いなる違和感を覚えた。

 

政治と同じで「目明き千人目暗千人」だから仕方がないが、この人の文章もオラッチと同様性根入れぬ修辞が多く、軽薄のそしりは免れないと感じたので、よってもって買い置きのCDを眺めると、昔よく聴いたバルビローリのシベリウスが6枚もあるではないか。

 

気分治しに聴いてみたら2番もフィンランデイアも素晴らしく、なにが素敵に聞こえるのかと考えてみると、この老練指揮者とその手兵ハレ管弦楽団の奏でる音楽は、いずれも率直にしてどこか朴訥で、今では殆ど死語になった手作りの真情に満ちているのである。

 

手作りの真情というたって、もちろんそれこそただの修辞に過ぎないが、例えばブロムシュテットの面妖な「運命」には無くて、ワルターの「田園」には横溢している何か、とでもいえばよいだろうか。

 

バルビローリは2番も良いが、今回4番や5番や6番、7番の交響曲まで、さながらあんこがつまった鯛焼きみたいに美味しかったのであった。

 

   大阪で一番愛され尊敬される発達障害のコンサル返せ 蝶人

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高浜虚子編著・岩波文庫版「子規句集」を読んで

2021-12-18 08:57:44 | Weblog

 

照る日曇る日第1684回

 

こないだ正岡子規の短歌をまとめて読んでみたら、それこそ想定外に詰まらなかったので、正直にそういう感想を述べたら、ある人から「あんさん、松江に行ったら気をつけよなはれ」と警告されたのだけれど、コロナだし、カネも無いし、もう晩年だし、ヤクルトじゃないけど、絶対行かないから大丈夫。

 

でもしばらくしたら、以前学友のニシムラ君が、「子規はやっぱ短歌より俳句だね」というておったのを突如思い出したので、その本丸の俳句をまとめて読んでみたのだが、案に相違して、これが子規が軽蔑していたいわゆる「月並み」ばかりなので、またまた驚いてしまった。極端なことをいうと、有名な辞世の3句を除いて、心に響かない駄句ばかりなのだ。

 

急いで何度も読んだことのある「古今集」と「新古今」を読み返してみたのだが、「蝶よ、花よ、ホトトギスよ!」と技巧を尽くした言葉の上だけで実感のない空虚なウソを連発しているだけで、(西行の一部の作品を除いて)、じつに無味乾燥な作品ばかりだと歎じるのみ。きっと4月に交通事故に遭って以来、おらっちの頭がどうにかなってしまったのだろう。

 

そこで色々考えたのだが、今回はとりあえず、こおゆうことにさしておいてもらいたいのである。

 

「正岡子規はもとより秀歌秀句の類を作ったが、その何百倍もの箸にも棒にもかからないつまらない作もたくさん詠んで、恥じらいもなく後世に残したことがなにより素晴らしい。妙な話だが、質より量、一握の秀句より凡句の蓄積の方が価値があることも多いのである。」

 

  我愚かなりといえども君たちの愚かさとはちと違うと言いたし 蝶人

 

 

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西暦2021年師走蝶人映画劇場その2

2021-12-17 09:55:34 | Weblog


闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.2709~19

 

1)デヴィッド・クローネンバーグ監督の「危険なメソッド」

フロイト、ユング、ザビーナ・シュピールラインを巡る愛と精神分析学の興味深い物語を2011年に映画化。

 

2)ジョエル・シュマッカー監督の「評決のとき」A Time to Kill

グリシャムの原作を1996年に映画化。再終弁論は胸を打つが、娘の惨死の報復に2人を殺害した父親が無罪放免でいいのだろうか?

 

3)溝口健二監督の「お遊さま」

谷崎の名作「蘆刈」を1951年に溝口が田中絹代と乙羽信子で映像化したが、原作の素晴らしさの1割も生かされていないのでいたく失望。

 

4)田中絹代監督の「月は上りぬ」

1955年製作の田中の第2作は小津の脚本と斎藤高順の音楽に導かれた小津調。しかし中盤の北原三枝をうまく使ったコメデイが思いがけない笑いを生み、監督の個性が輝く。

 

5)田中絹代監督の「乳房よ永遠なれ」

性と生の歌人、中条ふみ子をフューチャーした田中監督の1955年の代表作。ここでは小津調などはかなぐり捨てられている。運命に抗いながら死の床で恋人を「抱く」ふみ子を月丘夢路が熱演。

 

6)ジョルジュ・メリエス「月世界旅行」&セルジュ・ブロンベルグ監督の「メリエスの素晴らしき映画魔術」

前者は1902年世界最初の劇映画のカラー版。後者はその修復作業の舞台裏を明かす2011年の作品。

 

7)リン・ラムジー監督の「ビューティフル・デイ」

元FBI捜査官と少女の腐れ縁を描く2017年のサスペンス映画だが、もっともらしい、けったいな長回しが鼻につく。何かありそで無さそで結局なんもないのである。

 

8)ブレノ・シルヴェイラ監督の「フランシスコの2人の息子」

長年の苦労が実って息子を大ヒット歌手に育て上げた父母の苦労話だがそれがどうした。2005年のブラジル映画。

 

9)ミミ・レダー監督の「ディープ・インパクト」

地球に激突寸前の彗星をなんとか軌道修正させようと無い知恵を必死に編み出す地球人。老練飛行士のロバート・デュバルが渋い。されどいつか地球は彗星激突で滅ぶだろう。1998年の製作。

 

10)橋本光二郎監督の「羊と鋼の森」

宮下奈都の原作を2018年に映画化。調律師を主人公にしたのが新鮮だが、それ以外はどうということもない。

 

  次々にガンになりゆく人々を次々に切るドクターⅩ 蝶人

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