ある晴れた日に 第364回
今朝、死体を見た。
滑川の橋の下の魚たちが大好きな窪みの上で
それは、冷たい水に浸かっていた。
昨日白鷺の夫婦が、長い首をつんつん動かしながら
ぎくしゃく歩いていた小さな川に
蒼ざめたマネキンのように、ぽっかり浮かんでいた。
かろうじて水面からのぞかせた顔は、蝋のように白く
半ば閉じられた両の眼は
昇り始めた朝日をじっと見つめている。
祈ろうとして胸を目指していた両の手は、
その願いを果たせなかったらしく
水面に掲げられて行き場を失っている。
それは英国の画家ミレイが描いた
水藻の間を流れゆくオフィーリアに似ている。
叶わぬ恋に身を投げた高貴な少女の最期の姿に。
あくまでも恋人の抱擁を求めようとして、微かに開いた口からは
いつかどこかで聴いた尼寺の歌が聞こえてくるようだ。
寿限無寿限無海砂利水魚と泡立つ音に合わせて。
しっ、静かに!
水底で黙って耳を傾けているのは、
午後の太陽をじっと待っているハヤの七人家族。
せっかちな翡翠は、青の残像を残して慌ただしく飛び去り
白鷺の夫婦は、小魚探しに余念なく
寝坊助の亀次郎は、長い冬眠からまだ醒めない。
こんな児は世間じゃ誰も可愛がらない妻と二人で可愛がってやる 蝶人