あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

羽田竹美文・長谷川和子絵「たんじょうびがきえた」を読んで

2020-02-29 11:07:25 | Weblog


照る日曇る日 第1363回

お誕生日のカレンダーからその日の数字が消えたというので、主人公がかいじゅうの助けであちこち探して、とうとう見つけ出して、めでたし、めでたし、というお話なのですがあ、プロットも絵もいまいち、いまに、かな。

   鎌倉の松林堂が「3末で閉店します」と別れの挨拶 蝶人

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

岩波版「定本漱石全集第24巻書簡下」を読んで

2020-02-28 10:38:02 | Weblog


照る日曇る日 第1362回

なんとなあ「大文豪!」が毎日毎日律義に手紙を書くことよ。縁もゆかりもない無名の読者に対しても、病苦に悩み執筆に追われて超多忙な中、几帳面に返信しているのには驚くほかはない。

それにしても当時の郵便局はそれらを1日に何回も迅速に配達していたことよ。
「木曜会」の出欠について前日の水曜日の午後の配達で用を足せたんだから、今とは雲泥の差ずら。年毎に行政サービスは悪化しているらしい。

書簡を読んで痛感するのは、当時の漱石が朝日新聞の文芸部門に対して発揮していたスーパー編集者的な手腕。担当の山本笑月をハンドリングしながら、自分が書かない時の作家の提案や掲載条件、ギャラの交渉までやってのけている。

それにしても50歳に満たずに胃潰瘍出血で卒去とは、なんと早死にであったことよ。せめて「明暗」の完結を見たかったが、この未完の遺作の執筆意図について大石泰蔵の糾弾に答える形で詳しく自説を披瀝しているのは良かった。

最晩年の手紙を読む限り、漱石に死の予感も「則天去私?」の心境もさらさらない。その証拠に、それまで「小生」や「私」を主語にしておっとり綴っていた文章が、大正5年8月5日の和辻哲郎宛ての書簡辺りから、若々しい「僕」に突然変わる。

恐らく神戸の若い僧侶(鬼村元成、や芥川ら「新思潮」の作家からの刺激を受けて、新しい人世の展開に余裕を懐きつつ新たな意欲を燃やしていたのだろう。それだけに、猶更突然の死が惜しまれるのである。

京の女将磯田多佳の不実を詰る手紙にもうたれるが、書簡集の白眉は芥川、久米宛の4本の書簡であるが、芥川宛の9月2日、「牛になれ」と励ます8月24日と共に、8月21日の末尾が感動を誘うのは、文と生死と詩が、まるで奇跡のように三位一体になっているからだろう。これが漱石の真骨頂だ。

「私はこんな長い手紙をただ書くのです。永い日が何時迄も続いてどうしても日が暮れないという証拠に書くのです。さういふ心持の中に入っている自分を、君等に紹介する為に書くのです。夫からさういふ心持でいる自分を、自分で味わってみるために書くのです。日は長いのです。四方は蝉の声で埋まっています。」

   熟議なく熟慮もせずに打ち出せり小中高校臨時休校 蝶人
   安倍蚤糞が言うたからというてその通りにやる必要はない 蝶人

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「アズテック・カメラ」ふたたび

2020-02-27 14:31:10 | Weblog
音楽千夜一夜第445回

毎朝NHKのBSで英国の70年代、80年代のポップスのライヴを放送しているので、録画しておいて時々みることにしているのだが、こないだ「アズテック・カメラ」が出てきたので懐かしかった。

斬新な名前を持つこのバンドは、1980年にスコットランドで立ち上がり、ネオ・アコーステックサウンド&ポストパンクの元祖的存在!?らしいのだが、そんなことはどうでもよくて、私はロディ・フレイムの掻きならすギターとあえかな歌声が織りなす無国籍青春歌謡曲をこよなく愛しているのであるんである。

  ピアニストになりたかった銀行員が空港で弾くショパンのノクターン 蝶人


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

聖書協会共同訳2018年版で旧約聖書「サムエル記上」を読んで

2020-02-26 12:00:27 | Weblog


照る日曇る日 第1361回

士師時代のイスラエルの低迷と停滞を破って登場したのが少年サムエルである。少年サムエルは長じてペリシテを屈服させ、王となってイスラエルを治めた。そのあとを受け継いだのがサウルである。サウルは30歳で王位につき、12年間イスラエルを統治したが、どうもその性格が陰険で人を容易に信用せず、息子のヨナタンのみならず先王サムエル、そしてサウルの後継者となるダビデとも再三再四にわたって悶着を引き起こし、生涯の終わりにはペリシテ軍に敗れ、息子たちと共にさながら新田義貞のごとき悲劇的な最期を迎えるが、物語文学的にはなかなか興味深い人物である。

しかしイスラエルの神は、なんでこんな善悪相殺する超不安定な人物を王様に仕立て上げたのだろう。いやしくも神様なら最初から生かすなり殺すなりせよといいたくなる。

なお本記の途中から主人公として登場するダビデは、ユダのベツレヘム出身のエフラタ人で、エッサイという人の息子だったが、当時一世を風靡していたペリシテ最強の武者ゴリアト(所謂ゴリアテ)をだだ一個の投石で斃して後世に名を上げ、終生に渉るヨナタンの支援と友情に支えられ、サウルによる殺害の危機を何度も乗り越えて、ついに覇王となるのである。

ミケランジェロの彫刻であまりにも有名なダビデであるが、勇者ゴリアトと尋常に勝負せず、投石を巨人の額に食い込ませて勝利したという実話は、なんとなく卑怯者大夫のように思うのは私だけだろうか?

  「クラスター」なる英語をバラまいて民草を煙に巻かんとするか 蝶人

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世の中みんな、障ぐわい者

2020-02-25 14:34:48 | Weblog


これでも詩かよ 第279回

ぐわあい、ぐわあい、障ぐわい者
世の中みんな、障ぐわい者
健常者なんて、一人もいない

目が見えない人 手足がない人、
聞こえていても、しゃべれない人
名前を呼ばれても、微動だにしない、できない人

遺伝子に異常がある人、帯状疱疹で激痛が走る人
腰が痛くて歩けな人、頭の中が水だらけの人
ケガや病気でなくても、加齢で耳が遠くなった人

ガンのステージ4で、吐きながら抗がん剤を飲んでいる人
何の因果か新型コロナウイルスに感染して、死にかけている人
朝から晩まで身動きできずに、ベッドで垂れ流している人

生まれながらに障ぐわいのある人は、たくさんいるのよ
外から見ても、障ぐわいがあるかないか分からない人も、多いのよ
人はみな、歳をとれば、障ぐわい者になるのよ

だから、人はみな障ぐわい者
よしんば五体満足でも、きみがすんごく評価しているトランプはんのように
悪魔に魅入られて、狂気に取り憑かれた人もいるのよ

万が一、きみがまた街頭に躍り出て
障ぐわい者たちを、次々皆殺しにしたならば
地球の上には、誰もいなくなる

残ったのは、きみ一人
立派な純正健常者の、きみ一人
あんたが夢見た、理想の世界だ

ぐわい、ぐわい、障ぐわい者
世の中みんな、障ぐわい者
健常者なんて、一人もいない

  「あ」と言う間に障害者になる男「障害者皆殺し」を説く 蝶人
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

電光影裏に春風を斬る~二の太刀

2020-02-24 10:31:36 | Weblog

これでも詩かよ 第278回

コウ君が「プールがプールを食べていますよ」というので、
見に行ったら、3月で閉鎖になるはずの栄プールを、
港南台プールが、がぶがぶ呑んでいた。

しばらく眺めていると、
その港南台プールを、
としまえんプールが、がぶがぶ呑んでいた。

ややあって、
ハリー・ポッターが、
としまえんプールを、がぶがぶ呑んでいた。

そんでもって、
クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号が、
ハリー・ポッターを、がぶがぶ呑んでいた。

それでどうなったかというと、
クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号を、
金髪花札男*と安倍蚤糞が、がぶがぶ呑んでいたので、また驚いた。

  *さとう三千魚氏の命名によるトランプ大統領の別名。

「アルファロメオに乗る奴だけは許せん」と怒りしナカノ君フォードに乗る 蝶人

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

電光影裏に春風を斬る~一の太刀

2020-02-23 11:40:03 | Weblog
これでも詩かよ 第277回

少女が「大変、大変、大変よお」と叫んでいるので、
見に行くと、赤坂が、乃木坂と欅坂を、むしゃむしゃ喰うていた。

少年が「大変、大変、大変だお」と叫んでいるので、
見に行くと、赤坂を歩いていたキツネ、クジャク、オオカミ、ハクビシンを、
ヒトが、むしゃむしゃ喰うていた。

おばさんが「大変、大変、大変だよ」と叫んでいるので、
見に行くと、キツネ、クジャク、オオカミ、ハクビシンを喰うたヒトが、ヒトビトをむしゃむ喰うていた。

おじさんが「大変、大変、大変じゃん」と叫んでいるので、
見に行くと、ゴジラとキングコングが、ヒトビトをむしゃむしゃ喰うていたので、驚いた。

   ほんとかな役者同士が本番を撮影中にやっちゃうというは 蝶人
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

人類滅亡まで終末時計残り100秒

2020-02-22 14:22:17 | Weblog
これでも詩かよ 第276回


「人類滅亡まで終末時計残り100秒」の声を聞いて、
こんな詩が出来た。

料理は、できない。
車の運転は、できない。
確定申告は、できない。
停電になると、どうしていいかわからない。
テニスは、できない。
仕事は、できない。
暗算は、できない。
外国語は、しゃべれない。
封は切れずに、指を切る。
缶詰は、開けられない。
スマホは、使えない。
古稀を過ぎ、ウインドウズが10になっても、捉音が打てない。
「ウっ」「グっ」「げっゲゲッ」「ぐっぐわッッ」

人類滅亡まで終末時計残り100秒
おらっち、人類滅亡残り3秒辺りまで粘りに粘って、
ゆっくり、ゆっくり、死んでいきたいな。

   我が父母は劇的な死を死にたれば我の願いは普通に死ぬこと 蝶人

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

柿本幸造絵・金井直文「フルフル」を読んで

2020-02-21 11:32:46 | Weblog


照る日曇る日 第1360回

しだれやなぎに風が吹くとフルフルという音を立てながら川に落ちていく。

川に落ちた柳がシシャモになったというアイヌの伝説に基づいた浪漫的な絵本です。


    年に一度すべての死者が蘇らば諸人挙りて歓喜するべし 蝶人
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

柿本幸造絵・三田村信行文「しゅっぱつしんこう!」を読んで

2020-02-20 14:07:21 | Weblog
照る日曇る日 第1359回


電車大好きの子供が、動物たちを乗せて海水浴場まで生き返りする楽しい絵本なり。

私は子供の頃に連れて行ってもらった若狭和田や高浜までの夏の風景を思い出した。まだ原発銀座になる以前のなつかしい牧歌的な光景です。

そういえば私も1冊だけスポンサー付きの絵本の文章を書いたことがあったが、動物を主人公にするといろんなイメージが湧いてきて塩梅がよろしい。

  新型のコロナのごとき悪性のウイルス伝染りて人類滅ぶよ 蝶人
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

五味太郎著「挨拶読本」を読んで

2020-02-19 13:32:33 | Weblog


照る日曇る日 第1358回

おはようございます、こんにちは、さようなら、世の中を生きる人間の基本である「あいさつ」を巡って絵と文で子供たちおよび無知で無教養な大人たちに知らしめる、面白くて為にもなる絵本である。

前半はまあ基礎編であるが、後半の応用編になるほど作者の個性が発揮されて面白い。

 3か月毎に老齢年金7900円を払えと言うなり国家権力 蝶人
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

菅野朝子詩集「くれない」を読んで

2020-02-18 14:37:47 | Weblog
照る日曇る日 第1357回

本箱の奥から昔の友人の処女詩集が出てきました。1982年の出版で、なんと自分で発行もしています。

くれないはあかきが故にさみしくておどろなるゆえまぶしく恋し

くれない」という題名につちなむいくつかの歌が巻末に掲げられていますが、私が知る作者はここに歌われている通りの炎のような女性でした。

いつもいつも渇える湖を持ちいたり傾くけしすべて砕けたる日より
若き日は読み過ごしたる「アンナ・カレーニナ」冒頭の洞察われを圧せり

大学を卒業してから結婚した男性と4年後に別れ、子供を育てながら家業を営む日常の中に、日夜胸を刺す強烈な自責の念。

 すべあらば君に告げたし罪はわれ君にはあらず責はわれのみ
異国の血流るるひとに愛さめてその血いとわしくなるは恐ろし
青春のただなかにいて青春は何もなしと言いし卒業のころ
君といし4年をはるか遠ざかり吾子育ちゆく吾が手の6年
 わが愛すエメラルドグリーンのTシャツを売りたるあとの薄き空間

そして青春の日の鮮烈な思い出が火花のように飛び散ります。

文学部スロープ下の03部室一文社研よ今ミュージカル研
名誉ある反逆なさんと宣したる大口議長オセロの風貌
スト解除の学生大会何もせぬ女子学生の黄色い紙の花
自殺すと聞きたる革マル自治会の高島 君よやすらかに眠れ

そして集中の圧巻は、やはりアララギの伝統を想起させる「会津のうた」でしょうか。

累々と畳々とまた悠々と千載の山天を押し上ぐ
天よりの津波のごとき山脈は頭を高くかかげ見るべし
一つずつ山の形を終わらせず稜線は次の山に捉わる
やまなみを二十重に集め山となしその山をつなぐやまなみ

福島の駅の近くに「くれない」のアチャコを訪ねたキタジマ君と 蝶人
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

聖書協会共同訳2018年版で旧約聖書「ルツ記」を読んで

2020-02-17 11:32:33 | Weblog


照る日曇る日 第1356回

はなはだ不出来で問題の多い士師たちがイスラエルを治めようとしていた時期の小さなエピソードを読むとなんとなく心がほんわかとする。

飢餓でベツレヘムからモアブの野に逃れた男の一員となったルツが、尾羽うち枯らした姑のナオミと共にベツレヘムに戻ってからの苦労話であるが、姑に尽くす善き嫁ルツは、幸いにも心優しき隣人に救われて第2の人世を始めることになるが、この小さな1歩が、何代目かの後にイスラエルの王、ダビデを生み出すことになるのである。

  「金メダル20個めざす」というておる別にゼロでも構わんだろう 蝶人

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

聖書協会共同訳2018年版で旧約聖書「士師記」を読んで

2020-02-16 11:52:11 | Weblog


照る日曇る日 第1355回

士師とはヨシュア没後にイスラエルの民を指導した(中にはてんで指導どころではなかった連中もいるが)預言者、(中には預言者の名に値しない連中もいるが)、の列伝である。

「士師記」の前篇でせっかく神がイスラエルに味方して他民族を圧倒し敵地を支配したのに、愚かなイスラエルの民はバアルやアシュラといった別の神(しかし民俗学、宗教学的にはユダヤ教と全く等格の)に目がくらんで浮気に走ったために、正規の?神の怒りをかって、えらい苦労を強いられるのだが、これは文字通りの自業自得というほかない。

この神様は、よりによってどうしてこんなに信仰も定見も主体性もない愚かな民族を「選んで」しまったのだろう、と私などの門外漢は思ってしまうが、もしも日本人に白羽の矢が立ったら、もっと悲惨なことになっていたに違いない。

しかし士師の中には窮境を跳ね返して剣をもって奮戦したギデオンという立派な義士もいた。この勇者の名前を冠した国際ギデオン協会という1899年に設立された組織があり、わが国にも支部があって、昔からホテルや病院、刑務所などに聖書を寄付している。

私の祖父、佐々木小太郎の晩年はこの義援運動に捧げられ、彼は1962年6月21日、大津びわこホテルにおいて、信徒会の席上自分の抱負を語りつつ「イエス、キリストは………」の言葉を最後に倒れ、78歳で天に召された。

また士師の中には、美女デリラに騙されて囚われの身になったあの有名な剛力サムソンもいた。次第に髪の毛が生えてきたサムソンは、神に祈ってダゴンの神の神殿に居合わせたペリシテ人もろとも崩落死を遂げるが、「士師記」の著者は、死者の中にデリラがいたかどうかについて記していない。

 浮気したり葉っぱを吸いたる罰として楽園を追放されるアダム&イヴ 蝶人
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今井和也著「カタチの歴史」を読んで

2020-02-15 11:11:47 | Weblog


照る日曇る日 第1354回

副題にあるとおり古代エジプトの昔から現代まで数千年の歴史を持つ「建築とファッションのただならぬ関係」についての考察を一本にまとめたものである。著者は本書執筆の動機を、「サンピエトロ大聖堂の設計に携わったミケランジェロが、聖堂の衛兵のユニフォームもデザインした」と知った時であると述べているが、まずその着想が面白い。

それで、両者の相関関係を章別に一語で言い表すと「古代エジプトは三角形」、古代ギリシアは「矩形」、古代ローマは「半円形」、ビザンチン帝国は「モザイク」、ロマネスク時代は「ずんぐり型」、ゴシックは「垂直線」、ルネサンスは「釣り鐘型」、バロックは「重層装飾」、ロココは「植物曲線」、新古典主義は「幾何学」、19世紀後半は「鉄骨空間」、世紀末は「アール・ヌーボー」、20世紀初頭は「アール・デコ」、30年代は「流線型」、60年代以降は「ポスト・モダン」という塩梅で、簡単明瞭に総括されているだけでなく、その各論の具体的な裏付けも見事なものである。

「建築とファッション」の相互関連性については、近世から現代については世界各国で多くの研究がなされているが、著者がいうように、古代から近世まではほとんど皆無であり、その点でも画期的なアプローチであると評せるだろう。

ちなみに著者はリーマン時代の私の上司で、無名の慶大医学部生小林亜星を発掘してあの「わんさか娘」のCⅯを作った稀代の宣伝マンでもあるが、37年間のアパレル企業勤務の後、大学でファッション史を講ずるようになって後のただならぬ労作が、本書なのである。

本書の第一稿は帝京大学の紀要に掲載されたが、その抜き刷りを私に見せながら、「こないだエジプトのスフインクスを見に行ったんだけどね、パピルスの茎を切ったら、中が三角なんだ」と少年のように目を輝かせながら語った今井さんも、去年の秋に88歳で旅立たれた。

「少しの事にも先達はあらまほしきものなり」と言われているが、本書を読みながら、「君もそろそろ人世の落とし前を付けたらどうなの」と言われているような気がしたのであった。

    青龍、朱雀、白虎、玄武 四神現れ夢枕に立つ 蝶人
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする