
照る日曇る日 第1357回
本箱の奥から昔の友人の処女詩集が出てきました。1982年の出版で、なんと自分で発行もしています。
くれないはあかきが故にさみしくておどろなるゆえまぶしく恋し
くれない」という題名につちなむいくつかの歌が巻末に掲げられていますが、私が知る作者はここに歌われている通りの炎のような女性でした。
いつもいつも渇える湖を持ちいたり傾くけしすべて砕けたる日より
若き日は読み過ごしたる「アンナ・カレーニナ」冒頭の洞察われを圧せり
大学を卒業してから結婚した男性と4年後に別れ、子供を育てながら家業を営む日常の中に、日夜胸を刺す強烈な自責の念。
すべあらば君に告げたし罪はわれ君にはあらず責はわれのみ
異国の血流るるひとに愛さめてその血いとわしくなるは恐ろし
青春のただなかにいて青春は何もなしと言いし卒業のころ
君といし4年をはるか遠ざかり吾子育ちゆく吾が手の6年
わが愛すエメラルドグリーンのTシャツを売りたるあとの薄き空間
そして青春の日の鮮烈な思い出が火花のように飛び散ります。
文学部スロープ下の03部室一文社研よ今ミュージカル研
名誉ある反逆なさんと宣したる大口議長オセロの風貌
スト解除の学生大会何もせぬ女子学生の黄色い紙の花
自殺すと聞きたる革マル自治会の高島 君よやすらかに眠れ
そして集中の圧巻は、やはりアララギの伝統を想起させる「会津のうた」でしょうか。
累々と畳々とまた悠々と千載の山天を押し上ぐ
天よりの津波のごとき山脈は頭を高くかかげ見るべし
一つずつ山の形を終わらせず稜線は次の山に捉わる
やまなみを二十重に集め山となしその山をつなぐやまなみ
福島の駅の近くに「くれない」のアチャコを訪ねたキタジマ君と 蝶人