あまでうす日記

あなたのために毎日お届けする映画、本、音楽、短歌、俳句、狂歌、美術、ふぁっちょん、詩とエッセイの花束です。

「即物入魂」の法悦境

2023-04-30 10:24:20 | Weblog

これでも詩かよ 第299回

 

豊田市美術館『ねこのほそ道』展で、8枚のぞうきん連作をみて、歌える*

 

新幹線の 名古屋駅から 45分

2つ乗り換えて 辿り着いたは 生まれて初めて 訪ねる 豊田市 美術館

人造湖 まで ある 広大な 敷地に 聳える 広い 広い 美術館 じゃった

 

そこで お目にかかったのは 2匹の ねこ

飼いたくても 飼えず 画家が 泣く 泣く 手放した 可憐な こねこ チャンと

目玉が 爛爛と輝く ペルシア絨毯付きの 立派な ねこの 「しいたけ」君 じゃった

 

じゃった じゃった ねこ ふんじゃった

大小 2匹 の

ねこ じゃった

 

『ねこのほそ道』 展 だから

ねこじゃ ねこじゃ の オンパレード か と 思って たら

そうでは なくて ねこ以外 のほうが 多かった

 

タオル バスマット バスタオル

のれん テーブルクロス 大きいテーブル

8種類も 並んだ ぞうきん 特製 コレクション!

 

もの じゃった もの じゃった

揃いも 揃って もの じゃった

みんな 見慣れぬ もの ばかり

 

立派な 絵描きさん なら

油絵 なんかで

ぜったい 描かない もの ばかり

 

ところが どうでい そんな ガリガリ博士の 無機物を

たとえば 画幅を はみ出す 灰色の ぞうきんなんか を じっと 見てると

驚く なかれ ぞうきん はん が もの を いうでは ないです か

 

 

 

第1のぞうきん、かく語りき。

 

あら、ご主人が、あたしの濡れた体を、ギュッと絞らないので、また奥さんに怒られてる。

 

 

第2のぞうきん、かく語りき。

 

ネエ、ネエ、聞いて、聞いて。

あたしんチのご主人ときたら、朝からポカポカ陽気なもんだから、

道路に長々と寝そべっている蛇を見つけて、「ギャッ!」と叫んで、「蛇だ! 蛇だ!」と大騒ぎして、腰を抜かしながら、それでも蛇さんを川に追い落とそうとして、

右足でキックしたら、

見事空振りして、すってんどお。

奥さんに、ケラケラ笑われてたわ。

 

 

第3のぞうきん、かく語りき。

 

あの人、白内障で、左の目が見えなくなったからかなあ?

でも白内障で失明してしまった飼い犬のムクの晩年の苦労が、少しはわかってきたらしいよ。

世の中、ケアとかヤングケアラーとか、何でも横文字になったら初めて考えてみるのが大流行みたいだけど、おらっち、昔ながらの「同病相哀れむ」とかの日本語の方がいいな。

台所の片隅に張り付いたままで、それなりに満ち足りた一生を送る、わいらあ「健常ぞうきん」から見たら、世間なんて「2足歩行という名の障害者」、「晴眼者という名の障害者」、「五体満足という名の障害者」でみちみちて、チャンチャラおかしいね。

 

 

第4のぞうきん、かく語りき。

 

あのご主人、こないだある指圧の名人から、

「目とは不思議な組織で、大宇宙的な要素がはまり込んだりしています。ちょうど鯉のぼりの鯉の目のように、眼球の中に眼球、さらに眼球、さらに眼球、とイメージしながら、手首を指圧してみてください、重複構造の良い方の層が、悪い方の層と交流しあい、目の改善に役立ってくれる筈です」

と教えられたので、毎日一生懸命に、自分で自分の指圧に励んでいるそうよ。

 

 

第5のぞうきん、かく語りき。

 

最近外車では、ボルボが増えて来たようだね。

隣のおにいちゃんも、ボルボを乗り回しているけど、あれはスウェーデン製の頑丈な車なんだ。

むかし、ご主人の親戚のおじさん2人が、夜の京都の比叡山ドライブウェイで、運転を誤って、谷底に転落したけど、怪我ひとつしなかったのは、あの頑丈な車に乗ってたかららしいよ。

 

第6のぞぞうきん、かく語りき。

 

谷底で思い出すのは、鎌倉の杉本観音から逗子岩殿寺までの巡礼古道ね。

ここは高台になっていて、昼間なら遥か富士山を見渡すこともできるのよ。

ご主人の奥さんに聞いた話だけど、鎌倉殿の頼朝と政子は、長女大姫の長のわずらいに心を痛め、百鬼疾病退散を祈願して、「100日間毎夜毎晩のお百度参り」を夫婦一緒に敢行したけれど、とうとう治らずに、20歳で亡くなってしまった。

そりゃそうよね、婚約者の木曽義仲の息子、義高を惨殺したのは、他ならぬ頼朝自身。その罰が当たって、落馬して死んじゃったのよ。

 

 

第7のぞうきん、かく語りき。

 

きのうの夜、噂のお騒がせ主人が、3年越しの大詩集の最後の最後の校正をしていたら、

どういう風の吹き回しか、自作の巻頭の詩が消え失せて、香港の民主派の新聞『りんご日報』2021年6月24日附の1面トップの、

 

「雨の中香港の人にお別れする。また会いましょう!」*

 

という、最期の記事が載っかってたんだって。

まっこと、面妖な話じゃね。

 

 

第8のぞうきん、かく語りき。

 

ああ、いい匂い!

奥さんが台所で、夏蜜柑の皮を煮詰めて、ジャムにしてる。

柑橘類の実を食べると、皮を捨てる人が多いけど、ほんと勿体ないわね。

おや、ご主人が「緑のそよ風」*を歌いだした。

下手糞だけど、とてもいい歌ね。

さあ、みんな揃って、歌いましょ!

 

 

 

ああ 驚いた 驚いた

ぞうきん には ぞうきん なりの 人世が あった のだ

 

物 には 言葉 が あった のよ

物 には 命 が 宿ってた のさ

 

ぞうきん だけ では ありま へん

画家の 描いた もの ども が 次から 次に もの を いう

 

アベノ マスク プラスチック フィルム

石 防災 シート ブルー シート 画家の 自画像が 描かれた 椅子 まで も

思い 思いに もの を いう

 

これぞ これ 世にも 不思議な カタリ カタリの 物語り

世 にも 真摯な 展覧会

「即物入魂」 の 法 悦 境

 

実 相 感 入 真 実 在

山 川 草 木 悉 皆 成 仏

「シン・もの派」 の ワンダー ランド と でも 言うべき か

 

 

 *豊田市美術館『ねこのほそ道』展(2023.2.25~5.21)における佐々木健氏の油画連

  作「ぞうきん」に触発された作品です。

 **2021年6月24日テレビ朝日ANNニュースより引用。

 ***「緑のそよ風」は、作詞清水かつら、作曲草川信による1948年の童謡。

 

   微かなる揺れにも我らは反応しぐらり揺れると獣に戻る 蝶人

 

 

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牧野富太郎著「植物学九十年」を読んで

2023-04-29 13:42:06 | Weblog

 

照る日曇る日 第1891回

 

げんざい朝ドラで放送中の牧野選手の本が図書館に並んでいたので借りてきたら、これが昭和31年、富太郎が翌年94歳9か月の長い生涯を閉じる前年、東京神田の宝文館から出た本で、なんと反権力派の正木ひろし弁護士の寄贈本であった。

 

まあそんなこたあどうでもよろしいが、文字通り生涯「在野」の牧野選手の天衣無縫の「草木愛」と、そんな桁外れの学者を、襤褸布を纏いながら、死ぬ迄面倒を見た愛妻寿衛子の無償の献身には驚くほかはない。

 

機会があれば「家守り妻の恵みやわが学び」「世の中のあらんかぎりやスエコ笹」の句碑の傍らに植えられたスエコ笹を拝見がてら、谷中掃苔と洒落込みたいものである。

 

明治29年、寿衛子の励ましで1カ月の台湾植物採集旅行に出発し、火の車に追いまくられながら富太郎が土産に買って帰った美しい花かんざしに、寿衛子はそっとくちづけをしてから、鏡台の引き出しに仕舞い込んだくだりは、涙なしには読めなかった。

 

しかし、あれほど邪気のない植物命の項人物が、何度も名指しで非難している2人の東大教授の学問的圧迫と非人情には、別の2人の東大教授に怨みがある小生も、深甚なる怒りを覚えると同時に、一抹の同情を禁じえなかった。

 

最初は田舎出の植物少年と思って可愛がっていた小僧が、みるみる頭角を現し、自分の縄張りを遠慮会釈もなく荒し回るに到って思いがけない嫉妬が芽生え、人間らしい優しさと同情が、いつしかもっと人間らしい敵意と反発に変わったのだろう。

 

明治26年、富太郎が土佐の実家の酒屋を整理して東大総長のお声がかりで講師に任命されたときの月給は15円。ちょうどその頃、陸羯南の「日本」で働き始めた正岡子規の月給は30円。2人ながらに生活は苦しかったが、世界に冠たる不朽の業績を残して死んだ。

 

  あちらでは激しく戦争してるのにこちらは呑気に花見などして 蝶人

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西暦2023年卯月蝶人映画劇場その5

2023-04-28 12:45:07 | Weblog

西暦2023年卯月蝶人映画劇場その5

 

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.3282~86

 

1)塚本晋也監督の「KOTOKO」

Cocooが主演する終始珍紛漢紛尾の時間と金が無駄な2012年のロクデナシ映画。

 

2)久保田誠二監督の「CⅯタイム」

飲料メーカーの新製品のテレビCⅯ製作を巡る2011年のドタバタ喜劇だが三谷幸喜ならもっと面白く仕上げただろう。

 

3)赤堀雅秋監督の「その夜の侍」

山田孝之に妻を轢き殺された堺雅人がチビチビ復讐する2012年のお話だが演出がかったるくて見るに堪えない。

 

4)成島出監督の「八日目の蟬」

角田光代の幼女誘拐の2人の母物語が2012年に映画化されたが演出がとろくてイライする。

 

5)山崎貴監督の「永遠のゼロ」

国家より家族愛を闡明する生き方は立派だが、その主人公がなんで特攻に志願したか、なんで故障機を後輩に譲ったか、なんで後輩に家族を託したかが不可解な2013年の戦争映画。

 

6)高橋伴明監督の「TATTOO刺青あり」

宇崎竜童、関根恵子主演の1982年のヤクザ映画。この頃の2人はなかなか面白かったずら。

7)大森一樹監督の「ヒポクラテスたち」

京都府立医大の学生たちの青春を描く1980年の群像劇だが、紅一点の女子学生の自殺がいつまでも気になる。

 

    大谷のホームランを見てる間に着々進む戦の準備  蝶人

 

 

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永井路子著「北条政子」を読んで

2023-04-27 10:29:00 | Weblog

照る日曇る日 第1890回

 

ご存じ鎌倉殿の尼将軍の半生を描いた長編小説であるが、公暁に拠る実朝暗殺の時点で突如終了してしまうのがもったいない。その後の弟義時との2人三脚に拠る武家政権の統治こそが彼女の本領発揮の時期であったにもかかわらず。

 

著者の叙述の特色は、様々な資料、歴史書を読み込み、その学問的な知識を踏まえての物語展開、そしていかにも女性作家ならではの登場人物の鋭い心理分析にあるといえよう。

 

しかしながら、あとがきで反省しているように「吾妻鏡」の周辺文献の読み込みを怠った結果、政子が伊豆目代、山本兼隆の求婚から逃げて頼朝に走ったとする叙述は完全な誤りであった。(ところがその過誤をそのまま受け継いだのが、2022年の最新版政子伝をものした永井紗那子著「女人入眼」で、彼女は大先輩の代表作すら読まない不勉強な作家であることが、はしなくも暴露されたわけである。

 

またさりながら本書の「黒幕三浦義村による実朝暗殺説」は一介の作家の妄想にとどまらず、当時の中世史研究の権威、石井進氏の採用するところとなり、学会の大論争のきかっけとなった。この事実ひとつを以てしても、いかに彼女がアクチュアルな歴史研究に本格的に取り組んでいたかが窺い知れるのである。

 

         春雨や大江光はどうしているか  蝶人

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にしむらあつこ作「ぴよぴよぴっぴっぴー」を読んで

2023-04-26 10:31:34 | Weblog

照る日曇る日 第1889回

 

一匹のひよこがお散歩。それから2匹になり、3匹になったところで、植木鉢の中にいた大きなカエルを助け出し、4匹揃ってみなお友達、

ぴっぴっぴーという流れだが、オノマトペの使い方も含めてこざかしさ、わざとらしさが気になる展開なり。

 

  トラウトとジャッジを合わせた値打ちあり2刀流の大谷翔平 蝶人

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泥ホテル

2023-04-25 10:32:24 | Weblog

 

これでも詩かよ 第298回

 

冷蔵庫が 壊れてもうたさか

テレビも 壊れた

 

 ―言 言 言

  言葉が多いぞ シェクスピア

 

ジパングが 壊れてもうたさか

おらっちも 壊れた

 

 ―音 音 音

  音符が多いぞ モーツァルト

 

ようやく ここまで やってきたけど

おらっち すっかり くたびれちまった

 

 ―きのう 仏の座とハナニラで覆われていた 原っぱが

  今朝は 泥ホテルに 変わってた

 

泥ホテル

泥 泥 泥の 泥ホテル

 

目玉の奥にも

眼 眼 眼

 

泥の奥にも 泥 泥 泥

泥 泥 泥の 泥ホテル

 

朝飯抜きの 木賃ホテルで

ルパン のように 眠ろう

 

泥ホテルで 朝まで 眠ろう

泥泥ホテルで 死ぬまで 眠ろう

 

「新しき戦前」を「戦時」に変えるべく暗躍続けるネオナチ「維新」 蝶人

 

 

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西暦2023年卯月蝶人映画劇場その4

2023-04-24 13:40:55 | Weblog

西暦2023年卯月蝶人映画劇場その4

 

闇にまぎれてtyojin cine-archives vol.326~81

 

1)石井輝男監督の「セクシー地帯」

吉田輝男、三原葉子が出る1961年の作品ずら。

 

2)石井輝男監督の「白線秘密地帯」

宇津井健、三原葉子が出る1958年の作品なりい。

 

3)早川千絵監督の「PLAN75」

75歳になれば楢山へ行って死んでもらうという法案が可決されることがあれば、おらっちなんか従容と従うかもと思わされた2022年の問題作。

 

4)山崎貴監督の「アルキメデスの大戦」

戦艦大和建造の秘密に迫る2019年のVFⅩ超大作。漫画家三田紀房の原作、主演の菅田将暉や脇役の芸達者まで熱演する面白映画の快作。

 

5)熊井啓監督の「サンダカン八番館娼館 望郷」

山崎朋子の原作を死にゆく田中絹代、まだ生きてる小巻、高橋洋子が熱演する1974年の懐かしの邦画。

 

  陰嚢を診てもらった女医さんの眼を見て話すことはできねえ 蝶人

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こかぜさち文・わきさかかつじ絵「ぷーん!」を読んで

2023-04-23 10:38:50 | Weblog

 

照る日曇る日 第1888回

 

赤い小型飛行機が、

 

「ぼくは ひこうき ぷるん ぷるん ぷーん!」

 

と、どんどんまっすぐ飛んでいく。

 

「とりさん、どいて どいて ぷるるるる」

 

と、左から右に向かって飛んでいくだけの展開なんだが、単純明快ですこぶる気分がよろしい。

 

これぞ絵本!というてもよろし。

 

 窒素は葉リン酸は実でカリウムは根に良い肥料となると教えられたり 蝶人

 

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林原玉枝文・及川賢治絵「おやすいごようです」を読んで

2023-04-22 11:43:10 | Weblog

 

照る日曇る日 第1887回

 

大工さんが忘れたはりがね君が、ハンガーになったり、うるくる歯車になったりして大活躍。ちょうど材木を結わえるところだった大工さんにも「おやすいごとうです」と役だってメデタシ、メデタシ、たって。

 

しゃあけんど、ちょっと発想が安直に過ぎないかなあ。

 

   発語して1分経てばなにもかも忘れるための会話の練習 蝶人

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柴田ケイコ作「パンとどろぼう」を読んで

2023-04-21 11:19:53 | Weblog

 

照る日曇る日 第1886回

 

食パンのお面をかぶった、パン大好きなネズミが、「世界一おいしい森のパン屋」さんのパンがえらく不味かった。

 

そこで、そこのパン屋さんと一緒に「本当に世界一おいしい森のパン」を作ったので、大行列ができるというお噺なんだが、そんな絵本のどこがいいんだか、さっぱり分からないいずら。

 

むかし会社に柴田慶子さんという女子がいたので、彼女が描いたのかなと思ったが、ケイコ違いだったようだ。

 

   誰がなんといおうが嫌いなり男のくせに化粧するやつ 蝶人

 

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中沢啓治作「はだしのゲン第10巻」を読んで

2023-04-20 14:12:38 | Weblog

 

照る日曇る日 第1885回

 

卒業式に出たゲンは、「君が代」の君とは戦争犯罪人の天皇だから、そんな男の賛歌など口が裂けても歌えない啖呵を切り、その代わりにみんなで「青い山脈」を合唱するのだが、それは昔からおらっちが唱えて提案とまったく同じなので、ちょっと驚いた。

 

この最終巻では、ヤクザの大親分を退治した隆太と勝子、そして主人公のゲンも、新天地の東京を目指すのだが、果たしてどのような運命が彼らを待っていたのかは、彼らよりも我々自身が熟知しているところである。

 

いずれにしても、ゲンや作者の中沢啓治の清く、正しく、美しい政治思想と社会観は、日本校憲法と共に、もはや時代遅れの骨董品と化したように映ってしまうのは、ある意味では仕方が無いと思う。

 

そういう意味では、戦後民主主義の原石のような本書が、腐敗堕落した現在の権力者や国家機関や民草から排斥されるのもムベなるかな。

 

さりながら、私はゲンや中沢選手と共に、静かにこの世から消え去りたいと希むひとりである。

 

   

      この国も私も壊れているためにテレビが壊れ洗濯機も壊れる  蝶人

 

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中沢啓治作「はだしのゲン第9巻」を読んで

2023-04-19 16:16:50 | Weblog

 

照る日曇る日 第1884回

 

ゲンと隆太の奮戦むなしく、思い出の我が家は引き倒されてしまうが、この漫画を通じて顕著なことは、権力の横暴に対して主人公が表明する大きな怒りと叶わぬまでの実力行使である。

 

平和と民主主義どころか、民草の基本的人権すら根絶やしにしようと攻勢をかける権力に対して沈黙し、いっさい抗わず、なすすべもなく奴隷のように臣従する我々は、せめて本書を読んで、ゲンと隆太のの垢でも煎じて呑まねばならぬ。

 

 スタジオで帽子をかぶっている歌手にろくなやつなど一人もいない 蝶人

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中沢啓治作「はだしのゲン第8巻」を読んで

2023-04-18 11:22:03 | Weblog

 

照る日曇る日 第1883回

 

1950年に勃発した朝鮮戦争によって空前の好景気に転換した日本経済が、敗戦国民の生活や非戦の倫理を急激に破壊し始めるなかで、姉の病状は悪化し、教育環境も右傾する。

 

しかしゲンとその仲間は、頑ななまでに平和と民主主義の砦に立てこもり、市当局による我が家の強制取り壊しに抵抗しよう、と立ち上がるのだった。

 

  優勝のどさくさにまぎれうん百億もの大金を外国にばらまく異次元男 蝶人

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中沢啓治作「はだしのゲン第7巻」を読んで

2023-04-17 10:10:07 | Weblog

 

照る日曇る日 第1882回

 

敗戦直後の耐乏生活をたくましくけなげに生き抜くゲンや隆太などの活躍を描く本巻では、再度描写される原爆投下直後のドロドロの人体の惨状が目を覆いたくなるほどに生々しい。

 

今や1等国民に成り上がった朝鮮人の朴さんの力添えもあって、原爆症に苦しむ作家の遺著の出版に成功するが、とうとうゲンの母が亡くなってしまう。

 

焼場で納骨しようとしたゲンだったが、ピカドンに全身を侵された彼女の骨は、ひとかけらも残っていなかった!

 

    じぇじぇえとあまちゃんのように鳴く燕かな 蝶人

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甘糟りり子著「鎌倉の家」を読んで

2023-04-16 09:20:06 | Weblog

甘糟りり子著「鎌倉の家」を読んで

 

照る日曇る日 第1881回

 

甘糟という名字は珍しい。以前マガジンハウスに同じ名字を名乗る有名な編集者がいたのだが、私は関東大震災の折に大杉栄、伊藤野枝を虐殺した軍人の親類だと勝手に思い込んで長く敬遠していたのだが、良く見ると同じカスでもあちらは甘粕、こちらは甘糟。全く赤の他人。そそっかしいおらっちの、あらぬ誤解だった。どうか許してたもれ。

 

半世紀近く前から江ノ島、極楽寺に近い稲村ケ崎の山辺の古家に起居するその編集者の娘さんが書いたこの本には、昔ながらの鎌倉で生活する人々の暮らしぶりや、近所の海山野原公園、学校、料理、食べ物、菓子屋、レストランやバーのあれやこれやの具体的な固有名詞が出てきて、ああそういえば紀ノ国屋の右隣には丸山亭があったなあ、などと、懐かしかった。

 

巷にあふれる観光客とは無縁な世界、地元に長く住んで来た人でないと分からない感覚だ。

 

「味覚カレンダー」という味の歳時記には、春夏秋冬のその時期に、彼女がどこのお店のどんな銘品を愛用しているかが事細かに列記されていて、そのプチブルぶりにうならされる。同じ土地に同時代を過ごした妻も指を銜えて羨む豊かな暮らしぶりだが、こうなるともはや嫉妬羨望してみてもはじまらない。

 

少女時代の広い彼女の家には作家の澤地久枝が長期滞在して書き物をしていたり、8月10日の花火大会には東京から向田邦子、植田いつ子、加藤治子がやってきて早めの夕食を摂ってから家族と一緒に由比ケ浜へ繰り出し、あの幻想的な水中花火を見物する光景が描かれているが、まるで夢のように美しい特権的な瞬間がさりげなく描かれていて、面掛行列、稲村ケ崎公園、サーフィンの思い出の記述と共に胸に残る。

 

それにてもあの頃のマガジンハウスでは、スコッチを呑みながら会議をやっていたんだなあ!

 

  ミサイルがもし北海道に墜ちたなら俺たちどうすればいいのだろう 蝶人

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