カミナリ様の不思議 続編
大阪大学大学院教授
河崎善一郎
さて、実際に雷の被害に遭わないためには・・・。実際に即して、いわゆる迷信も暴露しながら説明していきます・・・。
③落雷の被害は?
その瞬間に絶命や心肺停止が多い
落雷は、普通の家庭で消費する1カ月か2カ月分の電力量を、1秒にも満たない一瞬で消費してしまう現象である。つまりとんでもないパワーとエネルギーが、瞬きする間に消え去ってしまうのである。
それゆえ、例えば我々人間が雷に撃たれると、大概の場合絶命する。運よく絶命に至らない場合でも、撃たれた瞬間に心肺停止におちいる事が多い。とはいえ、迅速な対応・処置、そして運の強い人なら、助かる場合もあるので、今日は落雷による被害と救急処置について語ってみたい。
落雷にあうと一口でいっても、その出あい方は大きく二通りに分類できる。一つ目は、直撃雷と言われる被雷で、文字通り落雷に直接撃たれる場合である。他の一つは、側撃雷と呼称される被雷で、樹木などの直下にいて、最初その樹木に落雷した後、樹木の幹に沿って流れている雷撃電流が、そばにいる人間に飛び移る場合である。いずれの場合も、とてつもなく大きい電流、例えば30000アンペア、が人間の体を走り抜ける事になる。走り抜け方としては、主として体の表面に沿う場合と、体の内部を通る場合の二通りがあり、一見すれば、衣服が焦げかつ裂かれている体の表面を沿った場合の方が、被害の程度が甚だしい。さらにこの場合、電紋と呼ばれ、電流の走ったであろう経路を皮膚に残すことになり、落雷電流によるやけどと併せて、被害の程度の甚だしさを強調する事になる。

一方、体の内部を雷の電流が通り抜ける場合、落雷電流の入った点と、大地に抜け出て行った点の2点が、ともに小さな痕跡として残るだけで、専門外の方には、被害の程度が極めて軽く映る場合が多いようである。さらにこの場合、まれに心肺停止もしておらず、一見いまにも起きだしてきそうといった感じであるとの報告もある。実際はこの時すでに、落雷電流により脳内での出血が起こっており、数時間後には高熱を発し、やがて絶命する事となるのである。
このような場合はさておき、先に述べ,た心肺停止に陥った時には、当然ながら人工呼吸と心臓マッサージによる蘇生術を試みるべきである事は当然である。この種の蘇生術処置の恩恵も含め、被雷した場合の生存率は5割程度はあろうかというのが筆者の印象である。
なお、直撃雷に比べ側撃雷の方が致死率が高いとの報告もあるが、統計的誤差の範囲程度しか差はなく、筆者は同程度と見ている事を書き添えておきたい。
(水曜掲載)
「しんぶん赤旗日刊紙」2009年7月8日付掲載
④安全な避難場所は?
自動車や家屋の中以外にはない
雷放電を研究していると、専門外の方々から「安全な避難場所はどこですか?」といった質問を、いただくことが多い。ただこの種の質問には、本音で答え難い。
というのも、確実に安全な場所といえば、自動車の中とか、家屋(鉄筋コンクリート)の中とかしかないのだか,ら…。このように答えると、多くの方は「いえいえ、そういう質問ではなく、例えば野外活動中に急に落雷が起こった場合、どこに避難すればという意味で尋ねているのです」と、ある状況下での避難場所を尋ねたいのだと、補足説明を付け加えられる。
天の邪鬼な私は「いきなり落雷なんてあり得ないですよ。少しずつお天気が悪くなって、そのうちまっ黒な雲が頭上を覆ってしまって、ピカッ、ゴロゴロと来るのが普通ですから…」と応え、尋ねてくださった方の反応を楽しむ事になる。
自分自身でも、皮肉屋にすぎないかとの気持ちもあるけれど、質問いただく真意がある程度見えるだけに、皮肉屋にならざるを得ないというのも、本当のところなのである。

質問いただく真意と迂遠(うえん)な表現をとっているが、「安全な避難場所はどこですか?」の質問を、私なりに噛み砕いて表現するなら、「雷活動発生の予想されるお天気の良くない日に、野外活動をやる場合、ぎりぎりまで活動を続けたい。そしていざ雷放電が始まったら果たしてどこに避難すればよいでしょう?」といったふうになるのであろう。
そして、こういった質問をされる方は「高い木から3~4メートル離れてしゃがみこんでください。遮蔽角(しゃへいかく)が守ってくれますよ!」という、専門家の答えを期待しているに違いない(遮蔽角=高い木の梢を見上げたとき、見上げ角45度以上となる範囲)。
実際そのように答える我々の同業者もいるけれど、遮蔽角そのものは完全ではなく、時には遮蔽失敗が起こる以上、人命を守るという立場からは、少なくとも私はすすめることができない。
百歩も千歩も譲って、どうしようもない状況下の緊急避難が、樹木や避雷針を利用しての遮蔽角利用である事を強調するためにも、意地悪にならざるを得ないのである。
だからくどいようだが、安全な避難場所は、自動車や家屋の中以外にはないのである。
(水曜掲載)
「しんぶん赤旗日刊紙」2009年7月15日付掲載
大阪大学大学院教授
河崎善一郎
さて、実際に雷の被害に遭わないためには・・・。実際に即して、いわゆる迷信も暴露しながら説明していきます・・・。
③落雷の被害は?
その瞬間に絶命や心肺停止が多い
落雷は、普通の家庭で消費する1カ月か2カ月分の電力量を、1秒にも満たない一瞬で消費してしまう現象である。つまりとんでもないパワーとエネルギーが、瞬きする間に消え去ってしまうのである。
それゆえ、例えば我々人間が雷に撃たれると、大概の場合絶命する。運よく絶命に至らない場合でも、撃たれた瞬間に心肺停止におちいる事が多い。とはいえ、迅速な対応・処置、そして運の強い人なら、助かる場合もあるので、今日は落雷による被害と救急処置について語ってみたい。
落雷にあうと一口でいっても、その出あい方は大きく二通りに分類できる。一つ目は、直撃雷と言われる被雷で、文字通り落雷に直接撃たれる場合である。他の一つは、側撃雷と呼称される被雷で、樹木などの直下にいて、最初その樹木に落雷した後、樹木の幹に沿って流れている雷撃電流が、そばにいる人間に飛び移る場合である。いずれの場合も、とてつもなく大きい電流、例えば30000アンペア、が人間の体を走り抜ける事になる。走り抜け方としては、主として体の表面に沿う場合と、体の内部を通る場合の二通りがあり、一見すれば、衣服が焦げかつ裂かれている体の表面を沿った場合の方が、被害の程度が甚だしい。さらにこの場合、電紋と呼ばれ、電流の走ったであろう経路を皮膚に残すことになり、落雷電流によるやけどと併せて、被害の程度の甚だしさを強調する事になる。

一方、体の内部を雷の電流が通り抜ける場合、落雷電流の入った点と、大地に抜け出て行った点の2点が、ともに小さな痕跡として残るだけで、専門外の方には、被害の程度が極めて軽く映る場合が多いようである。さらにこの場合、まれに心肺停止もしておらず、一見いまにも起きだしてきそうといった感じであるとの報告もある。実際はこの時すでに、落雷電流により脳内での出血が起こっており、数時間後には高熱を発し、やがて絶命する事となるのである。
このような場合はさておき、先に述べ,た心肺停止に陥った時には、当然ながら人工呼吸と心臓マッサージによる蘇生術を試みるべきである事は当然である。この種の蘇生術処置の恩恵も含め、被雷した場合の生存率は5割程度はあろうかというのが筆者の印象である。
なお、直撃雷に比べ側撃雷の方が致死率が高いとの報告もあるが、統計的誤差の範囲程度しか差はなく、筆者は同程度と見ている事を書き添えておきたい。
(水曜掲載)
「しんぶん赤旗日刊紙」2009年7月8日付掲載
④安全な避難場所は?
自動車や家屋の中以外にはない
雷放電を研究していると、専門外の方々から「安全な避難場所はどこですか?」といった質問を、いただくことが多い。ただこの種の質問には、本音で答え難い。
というのも、確実に安全な場所といえば、自動車の中とか、家屋(鉄筋コンクリート)の中とかしかないのだか,ら…。このように答えると、多くの方は「いえいえ、そういう質問ではなく、例えば野外活動中に急に落雷が起こった場合、どこに避難すればという意味で尋ねているのです」と、ある状況下での避難場所を尋ねたいのだと、補足説明を付け加えられる。
天の邪鬼な私は「いきなり落雷なんてあり得ないですよ。少しずつお天気が悪くなって、そのうちまっ黒な雲が頭上を覆ってしまって、ピカッ、ゴロゴロと来るのが普通ですから…」と応え、尋ねてくださった方の反応を楽しむ事になる。
自分自身でも、皮肉屋にすぎないかとの気持ちもあるけれど、質問いただく真意がある程度見えるだけに、皮肉屋にならざるを得ないというのも、本当のところなのである。

質問いただく真意と迂遠(うえん)な表現をとっているが、「安全な避難場所はどこですか?」の質問を、私なりに噛み砕いて表現するなら、「雷活動発生の予想されるお天気の良くない日に、野外活動をやる場合、ぎりぎりまで活動を続けたい。そしていざ雷放電が始まったら果たしてどこに避難すればよいでしょう?」といったふうになるのであろう。
そして、こういった質問をされる方は「高い木から3~4メートル離れてしゃがみこんでください。遮蔽角(しゃへいかく)が守ってくれますよ!」という、専門家の答えを期待しているに違いない(遮蔽角=高い木の梢を見上げたとき、見上げ角45度以上となる範囲)。
実際そのように答える我々の同業者もいるけれど、遮蔽角そのものは完全ではなく、時には遮蔽失敗が起こる以上、人命を守るという立場からは、少なくとも私はすすめることができない。
百歩も千歩も譲って、どうしようもない状況下の緊急避難が、樹木や避雷針を利用しての遮蔽角利用である事を強調するためにも、意地悪にならざるを得ないのである。
だからくどいようだが、安全な避難場所は、自動車や家屋の中以外にはないのである。
(水曜掲載)
「しんぶん赤旗日刊紙」2009年7月15日付掲載