米国従属経済 雇用③ 日本の慣行が標的に
米国が要求する労働規制緩和の焦点は、「雇用の流動化」にあります。「流動化」は、事業や産業の再編(構造改革)に伴う労働者の再配置や再編を容易にすることを目指すものです。
企業が労働者の解雇や異動などを自由にできるようにし、また、正規雇用から低賃金の非正規雇用へ置き換え、人件費の大幅削減と労働の効率化を図り、利潤拡大を追求する狙いです。
黒字であっても
1980年代から90年代にかけて、米国の労働市場は、グローバル化の進展や規制緩和などを通じて、雇用の「流動性」を高めてきました。
機関投資家による企業株式の大口所有が増加し、株主による企業経営への影響力が高まったことから、収益性を重視した企業経営や企業合併・買収(M&A)が行われました。グローバル化の進展で競争が激化し、企業は、収益性を確保するため、コスト削減と生産効率の上昇を目的とするリストラに着手しました。
製造業などの大企業を中心に、不採算部門からの撤退が行われ、ダウンサイジング(減量経営)により効率的な企業経営が志向されました。IBMは6万人、ボーイングは3万人規模の人員削減を行いました。経営効率化のため、黒字であっても人員削減をする企業もありました。
そして、正規労働者の非正規労働者への置き換えを実行し、低賃金で不安定な非正規労働者を雇用することで固定コストの負担を回避していきました。企業のニーズに見合った知識・技能を持たないとみなされた労働者は解雇され、賃金体系も労働者の知識・技能に応じて変化し、賃金格差が拡大しました。
また、多くの企業は、賃金コストの負担軽減のため、従来会社内で行われていたさまざまな業務を外部の企業に委託するアウトソーシングを実行。外部委託された業務は、事務、販売、研究開発など広範囲に及びました。結果、外部委託される業務の受け皿となる企業向けサービス業が飛躍的に拡大、人材派遣サービスやIT(情報技術)業務などの雇用者が増加しました。内閣府の2000年度「世界経済白書」によると、米国の人材派遣サービスの雇用者数は、1980年の54万人から、2000年には372万人に増加しています。
製造業は、高賃金部門を外部委託し、安価な労働力を求めて生産拠点の海外移転を行いました。製造業の就業者数は減少、サービス業への「労働移動」が活発になりました。
こうして、米国では、「流動性」の高い労働市場が形成されました。米国企業は「雇用の流動化」によって、低コストで労働者を雇い、高利潤を上げる体制をつくり上げました。
「正社員があたり前の社会を」と訴える中央メーデー参加者=5月1日、東京都内
規制を取り払う
この「雇用の流動化」を日本に持ち込み、米国企業が日本に進出し、大もうけができる体制を整えるため、米国はあらゆる方策で日本政府に労働規制緩和を要求しました。雇用を「流動化」させるためには、終身雇用や年功序列賃金といった日本的な雇用慣行が邪魔になります。こうした邪魔な規制を取り払うために、労働規制緩和を必要としたのです。
米国が押し付ける「雇用の流動化」について、桜美林大学の藤田実教授は、「日本に進出した米国の人材派遣会社にとってビジネスチャンスになる。それ以外の企業にとっても自由にビジネスを展開できるという非常に大きなメリットがある」と指摘します。
労働規制緩和は、雇用破壊をもたらし、大量の失業者、非正規労働者を生み出し、平均賃金を引き下げ、貧困と格差を拡大させました。多国籍企業の利益追求により労働者が犠牲にされたのです。
藤田教授は、公的職業訓練制度など含めた社会政策・社会保障政策や、解雇に関する規制の網をかける必要があるとし、「そういう仕組みをつくらないまま、労働規制緩和が進んでいくと、失業率が高まるだけ。労働者にとって苦しみ以外の何物でもない」と警告します。
米国や財界・大企業の横暴によるこれ以上の雇用破壊を許さないため、人間らしい暮らしと働き方を保障するルールをつくることが求められます。
(おわり)(この項は柳沢哲哉が担当しました)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2013年5月28日付掲載
「雇用の流動化」と銘打って、派遣労働や非正規労働が導入されました。
それ以来、「即戦力」や「自己責任」が労働者に求められ、本来あるべき雇用者の労働者に技術を身に付けさせ、育て上げるという雇用者側の責任がないがしろにされてきました。
労働者側にとっては、働き方の自由どころか、雇用条件の悪化に苦しむことになります。
米国が要求する労働規制緩和の焦点は、「雇用の流動化」にあります。「流動化」は、事業や産業の再編(構造改革)に伴う労働者の再配置や再編を容易にすることを目指すものです。
企業が労働者の解雇や異動などを自由にできるようにし、また、正規雇用から低賃金の非正規雇用へ置き換え、人件費の大幅削減と労働の効率化を図り、利潤拡大を追求する狙いです。
黒字であっても
1980年代から90年代にかけて、米国の労働市場は、グローバル化の進展や規制緩和などを通じて、雇用の「流動性」を高めてきました。
機関投資家による企業株式の大口所有が増加し、株主による企業経営への影響力が高まったことから、収益性を重視した企業経営や企業合併・買収(M&A)が行われました。グローバル化の進展で競争が激化し、企業は、収益性を確保するため、コスト削減と生産効率の上昇を目的とするリストラに着手しました。
製造業などの大企業を中心に、不採算部門からの撤退が行われ、ダウンサイジング(減量経営)により効率的な企業経営が志向されました。IBMは6万人、ボーイングは3万人規模の人員削減を行いました。経営効率化のため、黒字であっても人員削減をする企業もありました。
そして、正規労働者の非正規労働者への置き換えを実行し、低賃金で不安定な非正規労働者を雇用することで固定コストの負担を回避していきました。企業のニーズに見合った知識・技能を持たないとみなされた労働者は解雇され、賃金体系も労働者の知識・技能に応じて変化し、賃金格差が拡大しました。
また、多くの企業は、賃金コストの負担軽減のため、従来会社内で行われていたさまざまな業務を外部の企業に委託するアウトソーシングを実行。外部委託された業務は、事務、販売、研究開発など広範囲に及びました。結果、外部委託される業務の受け皿となる企業向けサービス業が飛躍的に拡大、人材派遣サービスやIT(情報技術)業務などの雇用者が増加しました。内閣府の2000年度「世界経済白書」によると、米国の人材派遣サービスの雇用者数は、1980年の54万人から、2000年には372万人に増加しています。
製造業は、高賃金部門を外部委託し、安価な労働力を求めて生産拠点の海外移転を行いました。製造業の就業者数は減少、サービス業への「労働移動」が活発になりました。
こうして、米国では、「流動性」の高い労働市場が形成されました。米国企業は「雇用の流動化」によって、低コストで労働者を雇い、高利潤を上げる体制をつくり上げました。
「正社員があたり前の社会を」と訴える中央メーデー参加者=5月1日、東京都内
規制を取り払う
この「雇用の流動化」を日本に持ち込み、米国企業が日本に進出し、大もうけができる体制を整えるため、米国はあらゆる方策で日本政府に労働規制緩和を要求しました。雇用を「流動化」させるためには、終身雇用や年功序列賃金といった日本的な雇用慣行が邪魔になります。こうした邪魔な規制を取り払うために、労働規制緩和を必要としたのです。
米国が押し付ける「雇用の流動化」について、桜美林大学の藤田実教授は、「日本に進出した米国の人材派遣会社にとってビジネスチャンスになる。それ以外の企業にとっても自由にビジネスを展開できるという非常に大きなメリットがある」と指摘します。
労働規制緩和は、雇用破壊をもたらし、大量の失業者、非正規労働者を生み出し、平均賃金を引き下げ、貧困と格差を拡大させました。多国籍企業の利益追求により労働者が犠牲にされたのです。
藤田教授は、公的職業訓練制度など含めた社会政策・社会保障政策や、解雇に関する規制の網をかける必要があるとし、「そういう仕組みをつくらないまま、労働規制緩和が進んでいくと、失業率が高まるだけ。労働者にとって苦しみ以外の何物でもない」と警告します。
米国や財界・大企業の横暴によるこれ以上の雇用破壊を許さないため、人間らしい暮らしと働き方を保障するルールをつくることが求められます。
(おわり)(この項は柳沢哲哉が担当しました)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2013年5月28日付掲載
「雇用の流動化」と銘打って、派遣労働や非正規労働が導入されました。
それ以来、「即戦力」や「自己責任」が労働者に求められ、本来あるべき雇用者の労働者に技術を身に付けさせ、育て上げるという雇用者側の責任がないがしろにされてきました。
労働者側にとっては、働き方の自由どころか、雇用条件の悪化に苦しむことになります。