異次元緩和破たん② 株価つり上げ格差拡大
日銀は今回の追加緩和で株価指数連動型の上場投資信託(ETF)の買い入れペースを年間3・3兆円(保有残高)増から6兆円増に2倍に引き上げました。ETFは株価に連動して価格が変動するリスク性の金融商品です。中央銀行である日銀が買い入れを増やせば、市場で値上がりは確実。公的資金を使って株価を押し上げる政策です。企業業績や景気に無関係に株価が上がる―ゆがんだ金融市場です。
富裕層に利益
「異次元の金融緩和」は大量の資金供給に期待した投機的な動きを活発化させ、円安と株高を急速に進めました。巨額の利益を得たのが富裕層や大企業です。米経済誌『フォーブス』の集計によると「日本の富裕層」上位40人の資産総額は、この4年間で7・2兆円から15・4兆円に増加しました。
株価上昇の恩恵を最も享受するのが、日本の株式市場で売買の7割を占める外国投資家です。多国籍企業は、急激に進んだ円安により、巨額の為替差益を手にしました。
その一方、労働者の実質賃金は低下し、消費税増税で消費が冷え込みました。経済の6割を占める個人消費が2年連続マイナスとなる深刻な状況の下、日銀が民間銀行に大量のお金を供給しても、企業への貸し出しにはつながらず、民間銀行にたまる一方です。銀行などが保有する日銀当座預金の残高は、安倍政権発足前の40兆円規模から、7倍以上の303兆円(6月末)まで増加しています。
実体経済が改善されず、今年に入って、株価の下落傾向も生じる中で異次元緩和の行き詰まりが明らかになってきました。日銀は1月、異例のマイナス金利政策に踏み切りました。日銀当座預金の一部にマイナス金利を適用することで、さらなる金利低下と融資の活発化をねらったものです。しかし、金利は低下したものの、貸し出しが活発化することはなく、銀行がマイナス金利による損失を顧客にしわ寄せし、国債の利回り低下で資金運用が困難になるなど、弊害の方が強くあらわれています。
東京証券取引所のマーケットセンタ=東京都中央区
買い入れ限界
日銀が長期国債の保有残高を毎年80兆円も増やす大量買い入れを行っているため、国債市場の取引量が減っています。いずれ日銀が買う国債も枯渇します。国際通貨基金(IMF)は15年8月に発表した報告書で、日銀の国債買い入れは17~18年に限界に達すると指摘しました。
打つ手がなくなる中で取り沙汰されているのが「ヘリコプターマネー」です。日銀が返済不要の資金を供給し、政府がそれを使って財政支出を増やすという手段です。ヘリで上空からお金をばらまくに等しいことなので、こう呼ばれます。
中央銀行がこのような政策を実行すれば、際限のないインフレに陥ります。日銀は「ヘリマネ」を否定していますが、こうした無責任な手段がメディアで議論されること自体、金融政策の混迷を示しています。
異次元緩和をこれ以上続け、さらに大量の国債を抱え込めば、緩和政策からの脱出も困難になります。日銀は9月の次回金融政策決定会合で異次元緩和の総括的検証を行います。そこでなすべきことは、新たな金融緩和の検討ではなく、破綻が明らかな異次元緩和から転換することです。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年8月3日付掲載
日銀が国債を抱え込むという邪道から脱却すべきです。
マイナス金利という禁じ手もやめるべき。
日銀は今回の追加緩和で株価指数連動型の上場投資信託(ETF)の買い入れペースを年間3・3兆円(保有残高)増から6兆円増に2倍に引き上げました。ETFは株価に連動して価格が変動するリスク性の金融商品です。中央銀行である日銀が買い入れを増やせば、市場で値上がりは確実。公的資金を使って株価を押し上げる政策です。企業業績や景気に無関係に株価が上がる―ゆがんだ金融市場です。
富裕層に利益
「異次元の金融緩和」は大量の資金供給に期待した投機的な動きを活発化させ、円安と株高を急速に進めました。巨額の利益を得たのが富裕層や大企業です。米経済誌『フォーブス』の集計によると「日本の富裕層」上位40人の資産総額は、この4年間で7・2兆円から15・4兆円に増加しました。
株価上昇の恩恵を最も享受するのが、日本の株式市場で売買の7割を占める外国投資家です。多国籍企業は、急激に進んだ円安により、巨額の為替差益を手にしました。
その一方、労働者の実質賃金は低下し、消費税増税で消費が冷え込みました。経済の6割を占める個人消費が2年連続マイナスとなる深刻な状況の下、日銀が民間銀行に大量のお金を供給しても、企業への貸し出しにはつながらず、民間銀行にたまる一方です。銀行などが保有する日銀当座預金の残高は、安倍政権発足前の40兆円規模から、7倍以上の303兆円(6月末)まで増加しています。
実体経済が改善されず、今年に入って、株価の下落傾向も生じる中で異次元緩和の行き詰まりが明らかになってきました。日銀は1月、異例のマイナス金利政策に踏み切りました。日銀当座預金の一部にマイナス金利を適用することで、さらなる金利低下と融資の活発化をねらったものです。しかし、金利は低下したものの、貸し出しが活発化することはなく、銀行がマイナス金利による損失を顧客にしわ寄せし、国債の利回り低下で資金運用が困難になるなど、弊害の方が強くあらわれています。
東京証券取引所のマーケットセンタ=東京都中央区
買い入れ限界
日銀が長期国債の保有残高を毎年80兆円も増やす大量買い入れを行っているため、国債市場の取引量が減っています。いずれ日銀が買う国債も枯渇します。国際通貨基金(IMF)は15年8月に発表した報告書で、日銀の国債買い入れは17~18年に限界に達すると指摘しました。
打つ手がなくなる中で取り沙汰されているのが「ヘリコプターマネー」です。日銀が返済不要の資金を供給し、政府がそれを使って財政支出を増やすという手段です。ヘリで上空からお金をばらまくに等しいことなので、こう呼ばれます。
中央銀行がこのような政策を実行すれば、際限のないインフレに陥ります。日銀は「ヘリマネ」を否定していますが、こうした無責任な手段がメディアで議論されること自体、金融政策の混迷を示しています。
異次元緩和をこれ以上続け、さらに大量の国債を抱え込めば、緩和政策からの脱出も困難になります。日銀は9月の次回金融政策決定会合で異次元緩和の総括的検証を行います。そこでなすべきことは、新たな金融緩和の検討ではなく、破綻が明らかな異次元緩和から転換することです。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2016年8月3日付掲載
日銀が国債を抱え込むという邪道から脱却すべきです。
マイナス金利という禁じ手もやめるべき。