技能実習法2年② 安上がりの労働力でなく
愛知県労働組合総連合顧問(前議長)榑松佐一さんに聞く
外国人技能実習生の数はさらに増加し、今年は38万人にもなっています。中小企業の人手不足はさらに厳しくなり、外国人労働者なしでは国産の農産物が食べられなくなるというのも、あながち誇張ではありません。
外国人技能実習制度は、さまざまな問題点が指摘されます。もちろん、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(新法)をきちんと守っている会社も少なくありません。「新法」を徹底できるどうか、技能実習制度は正念場を迎えていると思います。
「新法」の主な点は、①監理団体を許可制にして監督を強化②実習生を保護するため、労働法に加えて、「新法」による罰則を設け、実習生に申告権を付与③法務省と厚生,労働省が所管する技能実習機構(OTIT)の設置―などです。
400ページに及ぶ運用要領には、詳細な規定が決められています。機構のホームページには、実習生のために、労働基準法、労働災害、年金など、8力国語で説明があります。私もこれを使って、外国人に説明しています。母国語による相談も、不正の申告(告発)も、インターネットでできるようになっています。日本語もついているので、日本人が手伝ってあげたり、代理で申告したりすることもできます。
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自分でつけた労働時間と貫金のメモを手にするベトナム人実習生=2018年9月2日、愛知県
弱い機構の権限
昨年の母国語相談は2600件で、活用されてきてはいます。しかし、その存在がまだまだ知られていないのが現状です。これをもっと多くの実習生に知らせ、簡単に訴えることができるようになれば、不正は減っていくと思います。
技能実習機構の業務統計によると、同機構は2018年度、実習企業789ーカ所を調査し、そのうち技能実習生の待遇に関する違反が1270、件ありました(表)。
一方で、「新法」の課題も明らかになってきています。一つは、「機構」の権限が弱いことです。機構の調査はほとんどが「任意」で、労働基準監督署、出入国在留管理庁のような強制調査がなかなかできません。これだけの不正があっても、実習生を受け入れ、実習先への紹介と指導を行う監理団体に対しては、処分は数件にとどまっています。
実習生の多くが、母国で多額の借金をしてきています。日本国内では、実習生に対する実費以外の請求は不正となります。しかし、外国にいる送り出し機関やその他のブローカーなどには、日本の罰則は適用されません。「新法」が、海外の機関にも適用される2国間協定ではなく、「覚書」「取り決め」で運用されているためです。日本に本拠地を持つ国際人材ビジネスが、海外の業者と提携して、あの手この手でもうけを狙っており、国内法だけでは対応できません。
技能実習生の待遇に関する不正
(技能実習機構業務統計から作成)
産業政策が必要
今年度、新たな「特定技能在留外国人」制度が始まりました。それに伴い、入国管理局を改組して出入国在留管理庁が発足し、体制が強化されました。しかし、事後規制だけでは、外国人労働者の急増に全く追いつきません。特定技能外国人の受け入れ対象になっている農業、建設業、縫製業など14分野の産業をどう発展させるか、産業労働力政策をもって外国人労働者の受け入れに責任を持つことが必要です。
日本が、多くの労働者がやってくるアジア諸国から信頼される必要があります。安上がりの労働力としてではなく、彼らが安心して働けるよう、ともに生活する人間、日本の共同社会の市民として受け入れていくことが必要だと思います。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2019年12月5日付掲載
技能実習生の保護に関する新法が施行されても、実際に徹底させていくことが求められます。また、外国からの送り出し機関が過大な手数料などを取ったりすることが規制できない弱点も。
彼らが安心して働けるよう、ともに生活する人間、日本の共同社会の市民として受け入れていくことが必要。
愛知県労働組合総連合顧問(前議長)榑松佐一さんに聞く
外国人技能実習生の数はさらに増加し、今年は38万人にもなっています。中小企業の人手不足はさらに厳しくなり、外国人労働者なしでは国産の農産物が食べられなくなるというのも、あながち誇張ではありません。
外国人技能実習制度は、さまざまな問題点が指摘されます。もちろん、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」(新法)をきちんと守っている会社も少なくありません。「新法」を徹底できるどうか、技能実習制度は正念場を迎えていると思います。
「新法」の主な点は、①監理団体を許可制にして監督を強化②実習生を保護するため、労働法に加えて、「新法」による罰則を設け、実習生に申告権を付与③法務省と厚生,労働省が所管する技能実習機構(OTIT)の設置―などです。
400ページに及ぶ運用要領には、詳細な規定が決められています。機構のホームページには、実習生のために、労働基準法、労働災害、年金など、8力国語で説明があります。私もこれを使って、外国人に説明しています。母国語による相談も、不正の申告(告発)も、インターネットでできるようになっています。日本語もついているので、日本人が手伝ってあげたり、代理で申告したりすることもできます。
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自分でつけた労働時間と貫金のメモを手にするベトナム人実習生=2018年9月2日、愛知県
弱い機構の権限
昨年の母国語相談は2600件で、活用されてきてはいます。しかし、その存在がまだまだ知られていないのが現状です。これをもっと多くの実習生に知らせ、簡単に訴えることができるようになれば、不正は減っていくと思います。
技能実習機構の業務統計によると、同機構は2018年度、実習企業789ーカ所を調査し、そのうち技能実習生の待遇に関する違反が1270、件ありました(表)。
一方で、「新法」の課題も明らかになってきています。一つは、「機構」の権限が弱いことです。機構の調査はほとんどが「任意」で、労働基準監督署、出入国在留管理庁のような強制調査がなかなかできません。これだけの不正があっても、実習生を受け入れ、実習先への紹介と指導を行う監理団体に対しては、処分は数件にとどまっています。
実習生の多くが、母国で多額の借金をしてきています。日本国内では、実習生に対する実費以外の請求は不正となります。しかし、外国にいる送り出し機関やその他のブローカーなどには、日本の罰則は適用されません。「新法」が、海外の機関にも適用される2国間協定ではなく、「覚書」「取り決め」で運用されているためです。日本に本拠地を持つ国際人材ビジネスが、海外の業者と提携して、あの手この手でもうけを狙っており、国内法だけでは対応できません。
技能実習生の待遇に関する不正
宿泊施設の不備(私有物収納設備、消火設備等の不備等) | 764件 |
食費、居住費、水道・光熱費等の技能実習生が負担する金額が不適正 | 147件 |
計画どおりの報酬が皮払われていなかったもの | 90件 |
残業代が適切に支払われていなかったもの | 237件 |
報酬の額が日本人と同等以上でなかったもの | 27件 |
入国後講習に専念するための措置を講じていなかったもの | 5件 |
産業政策が必要
今年度、新たな「特定技能在留外国人」制度が始まりました。それに伴い、入国管理局を改組して出入国在留管理庁が発足し、体制が強化されました。しかし、事後規制だけでは、外国人労働者の急増に全く追いつきません。特定技能外国人の受け入れ対象になっている農業、建設業、縫製業など14分野の産業をどう発展させるか、産業労働力政策をもって外国人労働者の受け入れに責任を持つことが必要です。
日本が、多くの労働者がやってくるアジア諸国から信頼される必要があります。安上がりの労働力としてではなく、彼らが安心して働けるよう、ともに生活する人間、日本の共同社会の市民として受け入れていくことが必要だと思います。
(おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2019年12月5日付掲載
技能実習生の保護に関する新法が施行されても、実際に徹底させていくことが求められます。また、外国からの送り出し機関が過大な手数料などを取ったりすることが規制できない弱点も。
彼らが安心して働けるよう、ともに生活する人間、日本の共同社会の市民として受け入れていくことが必要。