性犯罪刑法改正③ 被害者保護 充実が課題
検討会の開始に当たり、座長の井田良(まこと)中央大学法科大学院教授は次のように表明しました。「より効果的な被害者保護を可能にするとともに、無罪推定の原則をはじめとする伝統的な刑事法の基本原則をゆるがせにすることのない、新たな性犯罪処罰の在り方を模索し、その将来像を描く」
世界的な流れに
冤罪(えんざい)など国家権力の不当な介入を排除しつつ、被害者保護を強化するという法改正の課題は、各国もまた、1970年代以降、取り組んでいるものです。
米国では74年、ミシガン州が全米初となる強姦(ごうかん)罪の全面改正を実施。犯罪成立のために「最大限の抵抗」を要求したそれまでの「強姦罪」を改め、教師と生徒の地位関係など不同意を示す客観的な構成要件に変えています。
「先進国」といわれるスウェーデンでは、数度の法改正をへて2018年に「自発的に参加していない者との性交」を処罰化。自発的関与とみなされないケースとして暴行や脅迫とともに、睡眠や酩酊(めいてい)、地位関係などを示しました。
日本が参考にしてきたドイツ法も16年、「他人の認識可能な意思に反して」の性交を犯罪とし、それまでの「暴行・脅迫」の要件は「撤廃」して、刑の加重の要件へと改められました。
齊藤豊治・甲南大学名誉教授(刑法)は、「1960年代以降の人権の拡張を背景に、性暴力の圧倒的な被害者である女性らが声をあげ、法改正が重ねられた」と指摘。米国の改正が起点となり、カナダと英国、他の欧州、アジア諸国へと法改正の動きが拡大しました。
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スウェーデン政府担当者(右から2、3人目)から同国の法改正について学ぶHRNなど市民団体=1月22日、国会内
市民団体も提案
こうした各国の法改正を調査した国際人権団体「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)や性暴力の根絶を目指す市民団体でつくる「刑法改正市民プロジェクト」は昨年11月、具体的な条文案を発表。構成要件の「暴行・脅迫」を改め、「認識可能な意思に反して」の性交などを「不同意性交等罪」(懲役3年以上)とし、暴行・脅迫を用いた場合は、刑を加重すると規定しました。
さらに今年6月のHRN独自の同案改訂案では、刑の加重をなくして「不同意性交等罪」を懲役5年以上とし、同意がない典型例として、「有形力の行使、脅迫、威迫、不意打ち、偽計、欺罔(ぎもう)、監禁」を挙げています。
検討会では、委員やヒアリングを行った刑事弁護に携わる弁護士から、刑事裁判で「個人の内心」への検察官=国家権力の介入や冤罪を防止するため、客観的で明確な構成要件の必要性が述べられました。
刑事弁護に長年携わってきた加藤健次弁護士は、HRNなどの条文案について「『同意がない』場合が客観的な要件として明確に示され、法改正に慎重な意見にもしっかり応える内容」だと述べました。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年8月25日付掲載
睡眠や酩酊(めいてい)、地位関係などを利用しての性行為。有形力の行使、脅迫、威迫、不意打ち、偽計、欺罔(ぎもう)、監禁などをあげて、刑に問うとしています。
検討会の開始に当たり、座長の井田良(まこと)中央大学法科大学院教授は次のように表明しました。「より効果的な被害者保護を可能にするとともに、無罪推定の原則をはじめとする伝統的な刑事法の基本原則をゆるがせにすることのない、新たな性犯罪処罰の在り方を模索し、その将来像を描く」
世界的な流れに
冤罪(えんざい)など国家権力の不当な介入を排除しつつ、被害者保護を強化するという法改正の課題は、各国もまた、1970年代以降、取り組んでいるものです。
米国では74年、ミシガン州が全米初となる強姦(ごうかん)罪の全面改正を実施。犯罪成立のために「最大限の抵抗」を要求したそれまでの「強姦罪」を改め、教師と生徒の地位関係など不同意を示す客観的な構成要件に変えています。
「先進国」といわれるスウェーデンでは、数度の法改正をへて2018年に「自発的に参加していない者との性交」を処罰化。自発的関与とみなされないケースとして暴行や脅迫とともに、睡眠や酩酊(めいてい)、地位関係などを示しました。
日本が参考にしてきたドイツ法も16年、「他人の認識可能な意思に反して」の性交を犯罪とし、それまでの「暴行・脅迫」の要件は「撤廃」して、刑の加重の要件へと改められました。
齊藤豊治・甲南大学名誉教授(刑法)は、「1960年代以降の人権の拡張を背景に、性暴力の圧倒的な被害者である女性らが声をあげ、法改正が重ねられた」と指摘。米国の改正が起点となり、カナダと英国、他の欧州、アジア諸国へと法改正の動きが拡大しました。
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スウェーデン政府担当者(右から2、3人目)から同国の法改正について学ぶHRNなど市民団体=1月22日、国会内
市民団体も提案
こうした各国の法改正を調査した国際人権団体「ヒューマンライツ・ナウ」(HRN)や性暴力の根絶を目指す市民団体でつくる「刑法改正市民プロジェクト」は昨年11月、具体的な条文案を発表。構成要件の「暴行・脅迫」を改め、「認識可能な意思に反して」の性交などを「不同意性交等罪」(懲役3年以上)とし、暴行・脅迫を用いた場合は、刑を加重すると規定しました。
さらに今年6月のHRN独自の同案改訂案では、刑の加重をなくして「不同意性交等罪」を懲役5年以上とし、同意がない典型例として、「有形力の行使、脅迫、威迫、不意打ち、偽計、欺罔(ぎもう)、監禁」を挙げています。
検討会では、委員やヒアリングを行った刑事弁護に携わる弁護士から、刑事裁判で「個人の内心」への検察官=国家権力の介入や冤罪を防止するため、客観的で明確な構成要件の必要性が述べられました。
刑事弁護に長年携わってきた加藤健次弁護士は、HRNなどの条文案について「『同意がない』場合が客観的な要件として明確に示され、法改正に慎重な意見にもしっかり応える内容」だと述べました。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年8月25日付掲載
睡眠や酩酊(めいてい)、地位関係などを利用しての性行為。有形力の行使、脅迫、威迫、不意打ち、偽計、欺罔(ぎもう)、監禁などをあげて、刑に問うとしています。