2021年展望② 外交展望 大国にモノを言う姿勢を 爆買い・領海侵犯・領土返還、解決のため
「米国とは史上最良の関係だったが、近隣諸国とは停滞し、行き詰まっていた」
昨年9月に退陣した安倍晋三前首相の下、官邸で外交・安全保障を取り仕切ってきた谷内(やち)正太郎・前国家安全保障局長の、「安倍外交」に関する証言です。(昨年12月5日、国際安全保障学会)
■同盟“強化”
ただ、「史上最良」の実態は、安倍氏がトランプ米大統領の要求に対して譲歩を積み重ね、恥ずべき「米国いいなり」外交の結果によるものです。
菅義偉首相も昨年11月の米大統領選でバイデン前副大統領の勝利を受け、「日米同盟をさらに強固にする」と表明。12月には、安倍前政権の「米国製武器爆買い」による負の遺産である、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に代わるイージス艦2隻の建造を閣議決定しました。導入費用は陸上イージスより1000億円以上も割高です。
米軍「思いやり予算」では、特別協定の交渉が越年しましたが、来年度予算案に今年度を上回る2017億円を計上。沖縄県民の民意を踏みにじり、名護市辺野古の新基地建設を継続しています。
バイデン氏は伝統的な同盟の再強化を掲げ、同盟国には「正当な分担」を要求。アーミテージ元国務副長官ら「知日派」も復権しました。軍事費の増額や、自衛隊の役割・任務分担拡大が要求される可能性が高く、菅政権の対応が試されます。
▽主な外交日程
1月20日 バイデン氏が米大統領に就任
1月22日 核兵器禁止条約が発効
5月24日 WHO(世界保健機関)総会(スイス・ジュネーブ)
5月25~28日 世界経済フォーラム特別年次会合(シンガポール)
7月23~8月8日 東京五輪
8月24~9月5日 東京パラリンピック
8月 NPT(核不拡散条約)再検討会議
9月21~27日 国連総会(米国・ニューヨーク)
10月30~31日 G20首脳会合(ローマ)
11月1~12日 国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議(COP26)(英国・グラスゴー)
11月8日の週 APEC首脳会議(バーチャル形式)
■“弾圧”無視
一方、「停滞・行き詰まり」の近隣外交は、いっそう深刻化しつつあります。
「一部の真相をよく知らない日本の漁船が絶え間なく釣魚島(尖閣諸島)の周辺の敏感な水域に入っている。これに対して中国側はやむをえず必要な反応をしなければならない」。訪日した中国の王毅(おう・き)外相と茂木敏充外相との共同記者会見(11月24日) で、王毅氏の発言が波紋を呼びました。日本が実効支配している尖閣諸島を中国のものとし、中国の領海侵犯を正当化した発言です。ところが茂木氏は、その場でこの発言に抗議しなかったのです。
香港やウイグルでの人権弾圧をめぐっても、日本政府はまともに抗議していません。こうした中国への対応は、根が深いものであることが、昨年12月23日に公開された外交文書で露呈しました。中国天安門事件直後(1989年6月23日)の一連の文書によると、日本側は天安門事件について、「純粋に中国の国内問題」であり、「一部の扇動分子が、人民共和国の転覆を図ったもの」「(中国共産)党・政府は、これに断固反撃」などと、野蛮な人権弾圧を事実上、全面的に支持する内容となっているのです。
ロシアとの関係ではどうか。日本政府は、「領土不拡大」という第2次世界大戦後の大原則を踏みにじって千島列島を占領した旧ソ連の不公正を一度もただすことなく、「4島返還」論に立って交渉してきました。ところが安倍前政権はそれさえ投げ捨て、事実上の「2島決着」の立場を打ち出して成果を急ぎました。しかし、プーチン政権はこれを一蹴。ロシアは憲法を改定し、領土割譲を禁止。谷内氏は「もはやロシアは領土を返す気がないようだ」と悲観的な見方を示しました。
元徴用工問題をめぐる安倍政権の対応で史上最悪の状態に陥った日韓関係も、昨年末に韓国で予定されていた日中韓サミットが延期になるなど、打開の道は見えていません。
ビデオ形式で開かれたG20・リアドサミット=2020年11月21日~22日
■軍拡の口実
対米外交にせよ、近隣外交にせよ、共通しているのは大国に正面からモノを言えず、相手の顔色をうかがうことで成果を得るという屈従外交です。こうした外交姿勢はもはや限界に達しています。しかも、中国に対しては人権じゅうりんや主権侵害に正面から抗議しない一方、「中国脅威」をあおって大軍拡や憲法違反の敵基地攻撃能力保有の口実にしています。
こんな姑息(こそく)なことはもうやめて、だれに対しても、間違っていることは間違いだと主張する。そのことが、真の平和と友好への一歩になります。
■危機と変化
2021年は、新型コロナウイルスの感染拡大という、未曽有の危機の中で迎えます。首脳会談をはじめとした訪問外交や国際会議は、中止やビデオ形式への切り替えを余儀なくされました。
「対面」し、顔を突き合わせて機微な対話を行う外交活動は、すべての国が大打撃を受けました。感染防止を進めながら外交を再建していく1年になりますが、今年も少なくない国際会議の日程が未定であり2年連続でビデオ形式になるなど、容易ではありません。
日本政府は東京五輪の開催という難題を抱えています。菅政権は「開催ありき」の姿勢を変えていません。しかし、ワクチンの普及や効果も見通しがたたない中、それでいいのか。総選挙への有利な流れをつくりたいという政局的な思惑から、「開催ありき」の姿勢に固執することは許されません。
今年最初の大きな変化は、史上初めて核兵器を違法化した核兵器禁止条約の発効(22日)です。市民団体は今後、署名・批准国を着実に増やし、核保有国をさらに孤立させる運動を強めます。その中で問われるのが、核の傘に入っている国々です。ベルギー、オランダ、ドイツなどでは世論調査で過半数が核兵器禁止条約を支持。ベルギー政府は核禁条約を「重要な一歩」だとする前向きな声明を出しています。
そうした中、唯一の戦争被爆国でありながら、条約に背を向け続け、米国の「核の傘」に固執する日本政府の道理のなさは、いっそう鮮明です。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年1月3日付掲載
米国の大統領がトランプからバイデンに変わることで、アメリカ国内の政策の改革は進むでしょう。
でも、日米安保体制に変化は期待できません。辺野古基地も高額兵器の押しつけも続きます。
その時、アメリカであれ、中国であれ、ロシアであれ、爆買い・領海侵犯・領土返還について、理を尽くして主張することが大事です。
「米国とは史上最良の関係だったが、近隣諸国とは停滞し、行き詰まっていた」
昨年9月に退陣した安倍晋三前首相の下、官邸で外交・安全保障を取り仕切ってきた谷内(やち)正太郎・前国家安全保障局長の、「安倍外交」に関する証言です。(昨年12月5日、国際安全保障学会)
■同盟“強化”
ただ、「史上最良」の実態は、安倍氏がトランプ米大統領の要求に対して譲歩を積み重ね、恥ずべき「米国いいなり」外交の結果によるものです。
菅義偉首相も昨年11月の米大統領選でバイデン前副大統領の勝利を受け、「日米同盟をさらに強固にする」と表明。12月には、安倍前政権の「米国製武器爆買い」による負の遺産である、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に代わるイージス艦2隻の建造を閣議決定しました。導入費用は陸上イージスより1000億円以上も割高です。
米軍「思いやり予算」では、特別協定の交渉が越年しましたが、来年度予算案に今年度を上回る2017億円を計上。沖縄県民の民意を踏みにじり、名護市辺野古の新基地建設を継続しています。
バイデン氏は伝統的な同盟の再強化を掲げ、同盟国には「正当な分担」を要求。アーミテージ元国務副長官ら「知日派」も復権しました。軍事費の増額や、自衛隊の役割・任務分担拡大が要求される可能性が高く、菅政権の対応が試されます。
▽主な外交日程
1月20日 バイデン氏が米大統領に就任
1月22日 核兵器禁止条約が発効
5月24日 WHO(世界保健機関)総会(スイス・ジュネーブ)
5月25~28日 世界経済フォーラム特別年次会合(シンガポール)
7月23~8月8日 東京五輪
8月24~9月5日 東京パラリンピック
8月 NPT(核不拡散条約)再検討会議
9月21~27日 国連総会(米国・ニューヨーク)
10月30~31日 G20首脳会合(ローマ)
11月1~12日 国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議(COP26)(英国・グラスゴー)
11月8日の週 APEC首脳会議(バーチャル形式)
■“弾圧”無視
一方、「停滞・行き詰まり」の近隣外交は、いっそう深刻化しつつあります。
「一部の真相をよく知らない日本の漁船が絶え間なく釣魚島(尖閣諸島)の周辺の敏感な水域に入っている。これに対して中国側はやむをえず必要な反応をしなければならない」。訪日した中国の王毅(おう・き)外相と茂木敏充外相との共同記者会見(11月24日) で、王毅氏の発言が波紋を呼びました。日本が実効支配している尖閣諸島を中国のものとし、中国の領海侵犯を正当化した発言です。ところが茂木氏は、その場でこの発言に抗議しなかったのです。
香港やウイグルでの人権弾圧をめぐっても、日本政府はまともに抗議していません。こうした中国への対応は、根が深いものであることが、昨年12月23日に公開された外交文書で露呈しました。中国天安門事件直後(1989年6月23日)の一連の文書によると、日本側は天安門事件について、「純粋に中国の国内問題」であり、「一部の扇動分子が、人民共和国の転覆を図ったもの」「(中国共産)党・政府は、これに断固反撃」などと、野蛮な人権弾圧を事実上、全面的に支持する内容となっているのです。
ロシアとの関係ではどうか。日本政府は、「領土不拡大」という第2次世界大戦後の大原則を踏みにじって千島列島を占領した旧ソ連の不公正を一度もただすことなく、「4島返還」論に立って交渉してきました。ところが安倍前政権はそれさえ投げ捨て、事実上の「2島決着」の立場を打ち出して成果を急ぎました。しかし、プーチン政権はこれを一蹴。ロシアは憲法を改定し、領土割譲を禁止。谷内氏は「もはやロシアは領土を返す気がないようだ」と悲観的な見方を示しました。
元徴用工問題をめぐる安倍政権の対応で史上最悪の状態に陥った日韓関係も、昨年末に韓国で予定されていた日中韓サミットが延期になるなど、打開の道は見えていません。
ビデオ形式で開かれたG20・リアドサミット=2020年11月21日~22日
■軍拡の口実
対米外交にせよ、近隣外交にせよ、共通しているのは大国に正面からモノを言えず、相手の顔色をうかがうことで成果を得るという屈従外交です。こうした外交姿勢はもはや限界に達しています。しかも、中国に対しては人権じゅうりんや主権侵害に正面から抗議しない一方、「中国脅威」をあおって大軍拡や憲法違反の敵基地攻撃能力保有の口実にしています。
こんな姑息(こそく)なことはもうやめて、だれに対しても、間違っていることは間違いだと主張する。そのことが、真の平和と友好への一歩になります。
■危機と変化
2021年は、新型コロナウイルスの感染拡大という、未曽有の危機の中で迎えます。首脳会談をはじめとした訪問外交や国際会議は、中止やビデオ形式への切り替えを余儀なくされました。
「対面」し、顔を突き合わせて機微な対話を行う外交活動は、すべての国が大打撃を受けました。感染防止を進めながら外交を再建していく1年になりますが、今年も少なくない国際会議の日程が未定であり2年連続でビデオ形式になるなど、容易ではありません。
日本政府は東京五輪の開催という難題を抱えています。菅政権は「開催ありき」の姿勢を変えていません。しかし、ワクチンの普及や効果も見通しがたたない中、それでいいのか。総選挙への有利な流れをつくりたいという政局的な思惑から、「開催ありき」の姿勢に固執することは許されません。
今年最初の大きな変化は、史上初めて核兵器を違法化した核兵器禁止条約の発効(22日)です。市民団体は今後、署名・批准国を着実に増やし、核保有国をさらに孤立させる運動を強めます。その中で問われるのが、核の傘に入っている国々です。ベルギー、オランダ、ドイツなどでは世論調査で過半数が核兵器禁止条約を支持。ベルギー政府は核禁条約を「重要な一歩」だとする前向きな声明を出しています。
そうした中、唯一の戦争被爆国でありながら、条約に背を向け続け、米国の「核の傘」に固執する日本政府の道理のなさは、いっそう鮮明です。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年1月3日付掲載
米国の大統領がトランプからバイデンに変わることで、アメリカ国内の政策の改革は進むでしょう。
でも、日米安保体制に変化は期待できません。辺野古基地も高額兵器の押しつけも続きます。
その時、アメリカであれ、中国であれ、ロシアであれ、爆買い・領海侵犯・領土返還について、理を尽くして主張することが大事です。