コロナ禍と資本主義 見えざる鎖② 貧困賃金 借金頼みの生活
貧困賃金―。長時間働いても、あまりにも賃金が低いため、生活ができない賃金水準のことです。十分な食料を買えず、住宅は劣悪で、必要な医療を受けられません。そこにあるのは、空腹と病気、慢性的な睡眠不足です。
カナダの慈善団体(SHF)が今年1月、「最低限必要なものでさえない」と題する報告書を発表しました。バングラデシュの労働者の声がまとめられています。
縫製工場の最終工程で働くバドシャさんは、家族6人を養っています。残業をこなし、給料は多いときで195カナダドル(約1万7300円)です。10代の娘2人は、両親と田舎に住んでいます。娘たちの教育費と父親の心臓の薬をまかなうために給料のほぼ半分を送金しています。そのほか、家賃に50カナダドル、NGOや高利貸しから借りているローンの返済に月々31カナダドルが消えていきます。手元に残るのは16・5カナダドルだけです。
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ロックダウン中にもかかわらず操業する工場から昼食休憩に出てきた縫製労働者=7月6日、ダッカ(ロイター)
月半ばには
「計算すれば、月の半ばまでに私たちに何も残っていない、ということがわかるでしょ。私は、店からクレジットで購入しなければならない」と言います。
報告書によると、大多数の人は、月の第3週までに現金を使い果たし、地元の店からクレジットで食料品など生活必需品を買わなければならないといいます。残業が少ない月は、自分の食事の量を減らしてしのいでいます。
ある生産工場の労働者は、2交代制で働いています。朝7時30分に始業し、夜7時30分に終わります。1日12時間労働。隔週で夜勤務に入ります。
「長い労働時間の交代制は気になりません。でも、夜勤は残酷。夜になると、人の体は自然と休憩をほしくなります。でも、私たちは、機械のように働かなければなりません。午前1時ごろの食事休憩を除いて、私は、ずっと立ったまま」。最終工程で働いているラヘラさんは言います。「ときどき、倒れそうになります。休憩時間には、極度の疲労で、床に寝転がっています。多くの人たちが、夜勤のせいで病気になり仕事を辞めました」
アメマさんは、朝5時30分に起き、その日の食事の準備をし、衣服を洗濯し、ほかの家事を終わらせます。「歩く距離が長く、始業時間に間に合うように、7時15分までに家を出なければなりません」。14時間の勤務もあります。
残業は強制
「目を閉じることができるのは、ほとんど午前1時半です。眠りについたと思ったら、すぐに起きる時間」
ところが縫製労働者たちは、働いた全労働時間の賃金を得ていません。工場管理者は、実際の労働時間を把握しません。労働者が3時間と20分残業したとしたら、受け取るのは3時間分のみ。残り20分間は、支払われません。これは、40分、50分でも同じことだといいます。
生産のピーク時には2~5時間の残業を強いられています。ブランド側に合わせた流行の変化や、需要の変動、土壇場での企画の変化に対応するためです。
残業は事実上の強制です。しかも、女性労働者には夜勤を拒否するかどうかの選択肢すらありません。
裁断部門で働く労働者は、証言します。「1週間でも夜勤をしたくないと言うと、彼らはこう言います。『なぜわざわざ仕事に来るのですか?』と。気分が悪くなったり疲れたりしても、高熱などの目立った症状がない限り、職場に出向かなければなりません」
国際労働者の権利フォーラムが2015年に発表した「私たちの声、私たちの安全」には、28歳のミシンエの声が紹介されています。
「私たちの過失はただ一つ。それは、私たちが貧乏に生まれたということ。それが私たちの罪」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年7月15日付掲載
月末までもらった賃金がもたない。毎月借金、クレジットでの自転車操業的な暮らし。
しかも一日10時間を超える勤務ですらこの賃金。19世紀の工場法の規制よりも劣悪。
しかも、20分、30分と労働時間のピンハネがされているという。
貧困賃金―。長時間働いても、あまりにも賃金が低いため、生活ができない賃金水準のことです。十分な食料を買えず、住宅は劣悪で、必要な医療を受けられません。そこにあるのは、空腹と病気、慢性的な睡眠不足です。
カナダの慈善団体(SHF)が今年1月、「最低限必要なものでさえない」と題する報告書を発表しました。バングラデシュの労働者の声がまとめられています。
縫製工場の最終工程で働くバドシャさんは、家族6人を養っています。残業をこなし、給料は多いときで195カナダドル(約1万7300円)です。10代の娘2人は、両親と田舎に住んでいます。娘たちの教育費と父親の心臓の薬をまかなうために給料のほぼ半分を送金しています。そのほか、家賃に50カナダドル、NGOや高利貸しから借りているローンの返済に月々31カナダドルが消えていきます。手元に残るのは16・5カナダドルだけです。
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ロックダウン中にもかかわらず操業する工場から昼食休憩に出てきた縫製労働者=7月6日、ダッカ(ロイター)
月半ばには
「計算すれば、月の半ばまでに私たちに何も残っていない、ということがわかるでしょ。私は、店からクレジットで購入しなければならない」と言います。
報告書によると、大多数の人は、月の第3週までに現金を使い果たし、地元の店からクレジットで食料品など生活必需品を買わなければならないといいます。残業が少ない月は、自分の食事の量を減らしてしのいでいます。
ある生産工場の労働者は、2交代制で働いています。朝7時30分に始業し、夜7時30分に終わります。1日12時間労働。隔週で夜勤務に入ります。
「長い労働時間の交代制は気になりません。でも、夜勤は残酷。夜になると、人の体は自然と休憩をほしくなります。でも、私たちは、機械のように働かなければなりません。午前1時ごろの食事休憩を除いて、私は、ずっと立ったまま」。最終工程で働いているラヘラさんは言います。「ときどき、倒れそうになります。休憩時間には、極度の疲労で、床に寝転がっています。多くの人たちが、夜勤のせいで病気になり仕事を辞めました」
アメマさんは、朝5時30分に起き、その日の食事の準備をし、衣服を洗濯し、ほかの家事を終わらせます。「歩く距離が長く、始業時間に間に合うように、7時15分までに家を出なければなりません」。14時間の勤務もあります。
残業は強制
「目を閉じることができるのは、ほとんど午前1時半です。眠りについたと思ったら、すぐに起きる時間」
ところが縫製労働者たちは、働いた全労働時間の賃金を得ていません。工場管理者は、実際の労働時間を把握しません。労働者が3時間と20分残業したとしたら、受け取るのは3時間分のみ。残り20分間は、支払われません。これは、40分、50分でも同じことだといいます。
生産のピーク時には2~5時間の残業を強いられています。ブランド側に合わせた流行の変化や、需要の変動、土壇場での企画の変化に対応するためです。
残業は事実上の強制です。しかも、女性労働者には夜勤を拒否するかどうかの選択肢すらありません。
裁断部門で働く労働者は、証言します。「1週間でも夜勤をしたくないと言うと、彼らはこう言います。『なぜわざわざ仕事に来るのですか?』と。気分が悪くなったり疲れたりしても、高熱などの目立った症状がない限り、職場に出向かなければなりません」
国際労働者の権利フォーラムが2015年に発表した「私たちの声、私たちの安全」には、28歳のミシンエの声が紹介されています。
「私たちの過失はただ一つ。それは、私たちが貧乏に生まれたということ。それが私たちの罪」(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2021年7月15日付掲載
月末までもらった賃金がもたない。毎月借金、クレジットでの自転車操業的な暮らし。
しかも一日10時間を超える勤務ですらこの賃金。19世紀の工場法の規制よりも劣悪。
しかも、20分、30分と労働時間のピンハネがされているという。