労基法の危機 全労連・伊藤圭一さんに聞く(上) 狙う“労働者使い放題”
政府・厚生労働省が「労働基準関係法制研究会」などの有識者会議を設置し、労働法制の改悪に向けた動きを進めています。狙いと危険性を全労連雇用・労働法制局長の伊藤圭一さんに聞きました。(玉田文子)
―労働基準法(労基法)の抜本的見直しを視野に入れた議論が始まっています。政府と財界の狙いは何ですか。
一言でいうと労基法を有名無実化し「絵に描いた餅」にすることです。法律に規制はあるけれど「守らなくていい仕組み」をつくり、使用者にとって目の上の瘤(こぶ)である労働基準監督署を気にせず、好き勝手に労働者を使える社会にしようというのが狙いです。
裁量労働制の拡大など、これまで行われてきた規制緩和と根本的に違うのは労基法そのものの考え方を変える壮大な改悪を構想しているということです。
弱い立場守る
―労基法とは、どんな法律でしょうか。
第1条にある通り、労働者が人たるに値する生活を営むための労働条件の最低基準を定めた法律です。
民法では「契約自由の原則」といって、誰と契約するか、どんな内容にするかは双方の合意で決めるのが基本です。しかし労働契約の場合、当事者の合意任せでは使用者より立場の弱い労働者が、長時間、安い賃金で働くことを強いられてしまいます。これは歴史の教訓であり原則です。
労使の力関係の違いから労働者を保護する必要があるなど労働契約は他の契約にない特色があることから「契約自由の原則」を制限し、労使が合意していても下回ってはいけない最低基準が罰則と行政指導付きで設定され、使用者はこの基準を守る必要があります。
■既に労基法の中にある主なデロゲーションの仕組み
政府・財界の壮大な改悪構想
法の魂を抜く
―労使の合意よりも労基法の最低基準が優先されるということでしょうか。
そうです。当事者の合意を優先する任意法規と異なり、労基法は強行法規といって当事者の意思とは関係なく強制的に適用される規定です。労使が合意して結んだ条件でも労基法に反する内容は無効になり、労基法が定める最低基準に置き換える効果があります。
例えば労基法第28条に基づいて定められた最低賃金法も強行法規です。時給300円で働くと労使合意で決めても、その契約内容は無効となり、地域の最低賃金まで上げさせる強行性があります。
使用者はこうした一律・一定の基準で労働者保護を図る労基法が邪魔で仕方がないわけです。
最低基準を上回る労使合意は労基法も推奨し、その努力をするよう求めています。しかし今回、厚生労働省の所管する有識者研究会で提案されているのは「最低基準を下回る労使合意を尊重しろ」という、労基法の存在そのものと真っ向から対立する暴論です。労基法の魂を抜いてしまうこれまでにない危険があります。
―「デロゲーション」という言葉が使われていますが、どういう意味ですか。
聞きなれない言葉ですが適用除外という意味です。一定要件を満たした場合、本来は無効となる最低基準以下の労働条件に罰則を科さず、認める仕組みです。意外に思われるかもしれませんが、労基法にはこの仕組みが既にあります。
例えば、1日8時間・週40時間の労働時間の原則に対して一定要件(労使協定を結び、労働基準監督署に届け出る)を満たせば協定の範囲まで時間外労働・休日労働ができます。
1カ月・1年単位の変形労働時間制や、裁量労働制、高度プロフェッショナル制度もデロゲーションです。強制貯金の例外、賃金全額払いの例外などもそうですが、使用者はこれでは足りないのです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年5月30日付掲載
労使の力関係の違いから労働者を保護する必要があるなど労働契約は他の契約にない特色があることから「契約自由の原則」を制限し、労使が合意していても下回ってはいけない最低基準が罰則と行政指導付きで設定され、使用者はこの基準を守る必要があります。
当事者の合意を優先する任意法規と異なり、労基法は強行法規といって当事者の意思とは関係なく強制的に適用される規定。
―「デロゲーション」という言葉が使われていますが、どういう意味ですか。
聞きなれない言葉ですが適用除外という意味です。一定要件を満たした場合、本来は無効となる最低基準以下の労働条件に罰則を科さず、認める仕組みです。意外に思われるかもしれませんが、労基法にはこの仕組みが既にある。
時間外労働を認める36協定はその代表例。
政府・厚生労働省が「労働基準関係法制研究会」などの有識者会議を設置し、労働法制の改悪に向けた動きを進めています。狙いと危険性を全労連雇用・労働法制局長の伊藤圭一さんに聞きました。(玉田文子)
―労働基準法(労基法)の抜本的見直しを視野に入れた議論が始まっています。政府と財界の狙いは何ですか。
一言でいうと労基法を有名無実化し「絵に描いた餅」にすることです。法律に規制はあるけれど「守らなくていい仕組み」をつくり、使用者にとって目の上の瘤(こぶ)である労働基準監督署を気にせず、好き勝手に労働者を使える社会にしようというのが狙いです。
裁量労働制の拡大など、これまで行われてきた規制緩和と根本的に違うのは労基法そのものの考え方を変える壮大な改悪を構想しているということです。
弱い立場守る
―労基法とは、どんな法律でしょうか。
第1条にある通り、労働者が人たるに値する生活を営むための労働条件の最低基準を定めた法律です。
民法では「契約自由の原則」といって、誰と契約するか、どんな内容にするかは双方の合意で決めるのが基本です。しかし労働契約の場合、当事者の合意任せでは使用者より立場の弱い労働者が、長時間、安い賃金で働くことを強いられてしまいます。これは歴史の教訓であり原則です。
労使の力関係の違いから労働者を保護する必要があるなど労働契約は他の契約にない特色があることから「契約自由の原則」を制限し、労使が合意していても下回ってはいけない最低基準が罰則と行政指導付きで設定され、使用者はこの基準を守る必要があります。
■既に労基法の中にある主なデロゲーションの仕組み
・第18条第2項(強制貯金の例外) |
・第24条1項(賃金全額支払いの例外) |
・第32条の4第1項(1年単位の変形労働時間制) |
・第36条第1項(時間外及び休日の労働)(36協定) |
・第38条の3第1項(専門業務型裁量労働制) |
・第38条の4第1項(企画業務型裁量労働制) |
・第41条の2第1項(高度プロフェッショナル制度) |
政府・財界の壮大な改悪構想
法の魂を抜く
―労使の合意よりも労基法の最低基準が優先されるということでしょうか。
そうです。当事者の合意を優先する任意法規と異なり、労基法は強行法規といって当事者の意思とは関係なく強制的に適用される規定です。労使が合意して結んだ条件でも労基法に反する内容は無効になり、労基法が定める最低基準に置き換える効果があります。
例えば労基法第28条に基づいて定められた最低賃金法も強行法規です。時給300円で働くと労使合意で決めても、その契約内容は無効となり、地域の最低賃金まで上げさせる強行性があります。
使用者はこうした一律・一定の基準で労働者保護を図る労基法が邪魔で仕方がないわけです。
最低基準を上回る労使合意は労基法も推奨し、その努力をするよう求めています。しかし今回、厚生労働省の所管する有識者研究会で提案されているのは「最低基準を下回る労使合意を尊重しろ」という、労基法の存在そのものと真っ向から対立する暴論です。労基法の魂を抜いてしまうこれまでにない危険があります。
―「デロゲーション」という言葉が使われていますが、どういう意味ですか。
聞きなれない言葉ですが適用除外という意味です。一定要件を満たした場合、本来は無効となる最低基準以下の労働条件に罰則を科さず、認める仕組みです。意外に思われるかもしれませんが、労基法にはこの仕組みが既にあります。
例えば、1日8時間・週40時間の労働時間の原則に対して一定要件(労使協定を結び、労働基準監督署に届け出る)を満たせば協定の範囲まで時間外労働・休日労働ができます。
1カ月・1年単位の変形労働時間制や、裁量労働制、高度プロフェッショナル制度もデロゲーションです。強制貯金の例外、賃金全額払いの例外などもそうですが、使用者はこれでは足りないのです。
(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年5月30日付掲載
労使の力関係の違いから労働者を保護する必要があるなど労働契約は他の契約にない特色があることから「契約自由の原則」を制限し、労使が合意していても下回ってはいけない最低基準が罰則と行政指導付きで設定され、使用者はこの基準を守る必要があります。
当事者の合意を優先する任意法規と異なり、労基法は強行法規といって当事者の意思とは関係なく強制的に適用される規定。
―「デロゲーション」という言葉が使われていますが、どういう意味ですか。
聞きなれない言葉ですが適用除外という意味です。一定要件を満たした場合、本来は無効となる最低基準以下の労働条件に罰則を科さず、認める仕組みです。意外に思われるかもしれませんが、労基法にはこの仕組みが既にある。
時間外労働を認める36協定はその代表例。