夏は、カミナリの季節です。毎年、雷による被害を報道されています。「しんぶん赤旗」に雷を科学的に紹介した記事が連載されています。
おって紹介することにします。
カミナリ様の不思議
大阪大学大学院教授 河崎善一郎
①カミナリのしくみ
稲妻の温度は2~3万度近も
夏の風物詩として知られている雷は、雲の中に蓄えられた電気が、放電という過程を通じて無くなってしまう現象である。
読者の皆様は電気に正と負のあることはご存じであろう。実は雷の電気、雲の中では正の電気が多い場所と、負の電気の多い場所が適当に離れて存在している。
通常の雷雲は、正の電気は雷雲の頂部8キロメートル~10キロメートル付近に、負の電気は地上6~7キロメートルの高さ付近にある。先に述べた「無くなってしまう」現象は、正確には「正と負の電気が一緒になって中和する」とでもいうべきなのである。さらに放電は、離れて存在する正と負の電気を1カ所に集めるため、電気を通さないはずの空気を、通りやすいプラズマという状態に変えてしまう現象である。
放電は1秒にも満たない短時間で終わるのが普通で、おどろおどろしいまでの轟音と、まばゆいまでの閃光を伴う。前者を雷鳴、後者を稲妻とよび、これら二つが雷の特徴で、どちらも怖がられる存在である。たとえば稲妻の温度は、2~3万度近くもあるし、付近への落雷による雷鳴なら地響きすら感じることがあるのだから、昔の人たちに畏敬の念を持ってあがめられたのも当然かもしれない。
さてその放電、雷雲の中だけで起こる場合と、雷雲と大地の間で起こる場合の二通りがあり、それぞれ雲放電、対地放電(落雷)と呼んでいる(写真)。どちらも紛れもなく雷(神鳴り)で、雲放電と対地放電の発生頻度は、統計的には5:1~10:1程度であるとされている。
ここまで読まれてきた読者は、「あれ中和と言ったのに、対地放電は、雲の電気が何と中和するのだろう?」と、不思議に思われなかったであろうか?
雲放電の場合、雲の中には正と負の電気の両方があるため、これらが一緒になるという説明でわかりやすいであろう。が、対地放電の場合どう考えたら良いのだろう?実は対地放電、正の電気が地面に運ばれる場合と、負の電気が運ばれる場合の二通りがある。そして大地は金属とほとんど同じで、正の電気が落ちてくれば負の電気が自然と集まって来て、うまい具合に中和されるのである。負の電気が落ちる場合、正の電気が集まってとの説明は同様である。そしてこれが我々に被害を及ぼす雷、すなわち落雷なのである。
(水曜掲載) 「しんぶん赤旗」日刊紙(2009年6月24日付)
②どこに落ちる?
雷の電気の通り道に近く、高い物に
雷からの被害を避けるには、落ちやすい場所や落ち方について知っていただくのが一番である。
その答えを一言で言うなら「高い物に落ちやすい!」という事になる。
前回、雷の負の電気は地上6~7キロメートル辺りにためられていると紹介した。そんなに高いところから見れば、地上の人、家、樹木等々はそれこそ点みたいに小さいため、それらを標的にして落雷して来るなんぞとはとても言えない。それでも「高い物に落ちやすい!」と断定したのにはそれだけの根拠がある。
少しくどくなるが以下に説明しよう。
落雷の開始は、雷雲内の電気の都合できまり、直径10~15キロメートルある電気分布の広がりの中で、一番たくさん電気の貯まっていそうな場所から開始する。ちなみに10~15キロメートルは、通常の雷雲のおおよその直径である。決して大地上の何かの影響を受けて、つまり必然的な根拠があって、放電が開始するわけでないことに注意していただきたい。
次に強調したいのは、開始した後の放電の進み方である。正負落雷の極性によって若干の違いはあるものの、実は進展と休止を繰り返しながら、大地に向かって下りてくるのが普通である。進展の時間は100万分の1秒、休止の時間は2万分の1秒が、それぞれの平均で雷雲から大地に至るまで、おおよそ100回程繰り返し、全時間にして10分の1秒程度というのが観測を通して知られている。ついでながら100万分の1秒の進展時間の間に、おおよそ数十メートルほども進むから、落ちてくる速さはとんでもなく速い。
さらに目に映る放電路と我々が呼んでいる雷の電気の通り道、落ちてくるときには直径が数メートルの円筒状で、専門外の方が信じておられるよりはるかに太い。ということは、その太い範囲に含まれるあらゆるものが標的の候補者になり得るということである。とはいえ、ずいぶんと地面に近づいてから、ようやく標的の候補者がはっきりしてくるというのが実情である。
磁石が鉄釘を引きつけるように、雷雲から落ちてくる直径数メートルの電気の棒が、地面のあらゆる尖ったものを引きつける。このとき、いくつかの標的の候補者のどれか一つが、雷雲から下りてくる電気の棒に引きつけられ、つながった瞬間、他の候補者はそれ以上引きつけられる事がない。私は面白がって、落雷の標的はいわば、完全小選挙区制と表現している。落ちてくる棒に少しでも近い、高い物が落雷を受けやすいと言えば理解していただけるであろうか?(水曜掲載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 (2009年7月1日付)
おって紹介することにします。
カミナリ様の不思議
大阪大学大学院教授 河崎善一郎
①カミナリのしくみ
稲妻の温度は2~3万度近も
夏の風物詩として知られている雷は、雲の中に蓄えられた電気が、放電という過程を通じて無くなってしまう現象である。
読者の皆様は電気に正と負のあることはご存じであろう。実は雷の電気、雲の中では正の電気が多い場所と、負の電気の多い場所が適当に離れて存在している。
通常の雷雲は、正の電気は雷雲の頂部8キロメートル~10キロメートル付近に、負の電気は地上6~7キロメートルの高さ付近にある。先に述べた「無くなってしまう」現象は、正確には「正と負の電気が一緒になって中和する」とでもいうべきなのである。さらに放電は、離れて存在する正と負の電気を1カ所に集めるため、電気を通さないはずの空気を、通りやすいプラズマという状態に変えてしまう現象である。
放電は1秒にも満たない短時間で終わるのが普通で、おどろおどろしいまでの轟音と、まばゆいまでの閃光を伴う。前者を雷鳴、後者を稲妻とよび、これら二つが雷の特徴で、どちらも怖がられる存在である。たとえば稲妻の温度は、2~3万度近くもあるし、付近への落雷による雷鳴なら地響きすら感じることがあるのだから、昔の人たちに畏敬の念を持ってあがめられたのも当然かもしれない。
さてその放電、雷雲の中だけで起こる場合と、雷雲と大地の間で起こる場合の二通りがあり、それぞれ雲放電、対地放電(落雷)と呼んでいる(写真)。どちらも紛れもなく雷(神鳴り)で、雲放電と対地放電の発生頻度は、統計的には5:1~10:1程度であるとされている。
ここまで読まれてきた読者は、「あれ中和と言ったのに、対地放電は、雲の電気が何と中和するのだろう?」と、不思議に思われなかったであろうか?
雲放電の場合、雲の中には正と負の電気の両方があるため、これらが一緒になるという説明でわかりやすいであろう。が、対地放電の場合どう考えたら良いのだろう?実は対地放電、正の電気が地面に運ばれる場合と、負の電気が運ばれる場合の二通りがある。そして大地は金属とほとんど同じで、正の電気が落ちてくれば負の電気が自然と集まって来て、うまい具合に中和されるのである。負の電気が落ちる場合、正の電気が集まってとの説明は同様である。そしてこれが我々に被害を及ぼす雷、すなわち落雷なのである。
(水曜掲載) 「しんぶん赤旗」日刊紙(2009年6月24日付)
②どこに落ちる?
雷の電気の通り道に近く、高い物に
雷からの被害を避けるには、落ちやすい場所や落ち方について知っていただくのが一番である。
その答えを一言で言うなら「高い物に落ちやすい!」という事になる。
前回、雷の負の電気は地上6~7キロメートル辺りにためられていると紹介した。そんなに高いところから見れば、地上の人、家、樹木等々はそれこそ点みたいに小さいため、それらを標的にして落雷して来るなんぞとはとても言えない。それでも「高い物に落ちやすい!」と断定したのにはそれだけの根拠がある。
少しくどくなるが以下に説明しよう。
落雷の開始は、雷雲内の電気の都合できまり、直径10~15キロメートルある電気分布の広がりの中で、一番たくさん電気の貯まっていそうな場所から開始する。ちなみに10~15キロメートルは、通常の雷雲のおおよその直径である。決して大地上の何かの影響を受けて、つまり必然的な根拠があって、放電が開始するわけでないことに注意していただきたい。
次に強調したいのは、開始した後の放電の進み方である。正負落雷の極性によって若干の違いはあるものの、実は進展と休止を繰り返しながら、大地に向かって下りてくるのが普通である。進展の時間は100万分の1秒、休止の時間は2万分の1秒が、それぞれの平均で雷雲から大地に至るまで、おおよそ100回程繰り返し、全時間にして10分の1秒程度というのが観測を通して知られている。ついでながら100万分の1秒の進展時間の間に、おおよそ数十メートルほども進むから、落ちてくる速さはとんでもなく速い。
さらに目に映る放電路と我々が呼んでいる雷の電気の通り道、落ちてくるときには直径が数メートルの円筒状で、専門外の方が信じておられるよりはるかに太い。ということは、その太い範囲に含まれるあらゆるものが標的の候補者になり得るということである。とはいえ、ずいぶんと地面に近づいてから、ようやく標的の候補者がはっきりしてくるというのが実情である。
磁石が鉄釘を引きつけるように、雷雲から落ちてくる直径数メートルの電気の棒が、地面のあらゆる尖ったものを引きつける。このとき、いくつかの標的の候補者のどれか一つが、雷雲から下りてくる電気の棒に引きつけられ、つながった瞬間、他の候補者はそれ以上引きつけられる事がない。私は面白がって、落雷の標的はいわば、完全小選挙区制と表現している。落ちてくる棒に少しでも近い、高い物が落雷を受けやすいと言えば理解していただけるであろうか?(水曜掲載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 (2009年7月1日付)
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