「経労委報告」を読む① 不都合な真実を見ない
日本経済団体連合会(経団連)が22年春闘の財界側指針となる「経営労働政策特別委員会報告」を出しています。労働運動総合研究所(労働総研)の藤田実事務局長に分析してもらいました。
労働総研事務局長 藤田実さん
2022年春闘の本格的な展開を前にして、総資本として春闘に対峙(たいじ)する立場を明らかにする『経営労働政策特別委員会報告』(以下『経労委報告』)が出されました。
毎年の『経労委報告』の基調は、賃上げを抑え込むという観点と労働者を自由に使役したいという観点から、資本の要求を前面に出すものです。
しかし、今年の『経労委報告』は、世論の批判が強い事柄には第三者的に言及するものの、それをつくりだした自らの行動を省みることがないという特徴があります。一言で言えば、不都合な真実を見ようとしない、ということです。
格差拡大の責任
例えば、序文に「行き過ぎた資本主義がもたらした社会課題の一つとして、格差問題が挙げられる。無期雇用労働者と有期雇用労働者、大企業と中小企業、大都市圏と地方など、様々な局面で格差拡大が指摘されている」とのべています。
この文言は客観的に事実を述べているような表現になっていますが、格差を拡大させ、それを利用してきたのは経団連を構成する企業ではなかったのではないでしょうか。
例えば、経団連は、毎年のように派遣労働の規制緩和を要望していますが、その内容は「日雇い派遣の原則禁止の見直し」「グループ企業内派遣規制の廃止」「離職後1年以内の労働者派遣の禁止の撤廃」「労働契約申し込みみなし制度の撤廃」など弱い立場の派遣労働者を守る規制の撤廃です。
「同一労働同一賃金」に関しても、経団連は16年7月の提言で「日本型同一労働同一賃金」として、「職務内容や、仕事・役割・貢献度の発揮期待(人材活用の仕方)など、様々な要素を総合的に勘案し、自社にとって同一労働と評価される場合に、同じ賃金を払うこと」を基本的な考え方とすべきであると述べ、「同一労働同一賃金」の範囲を極めて狭い範囲に限定するように主張していました。
これにより、日本の「同一労働同一賃金」が適用される非正規労働者はごく少数に限定されることになりました。このように経団連は正規労働者と非正規労働者との格差是正には後ろ向きの姿勢を堅持し、格差拡大の原因をつくってきたことに目を向けようとしていません。
経団連会館前で「内部留保を労働者に還元せよ」と訴える全労連・国民春闘の人たち=1月13日、東京都千代田区
賃金の停滞続く
不都合な真実を見ようとしないのは、ほかにもあります。
賃金に関して言えば、労働生産性の国際比較をして日本の低さを論じながら、G7(主要7力国)各国の中で日本だけが賃金の停滞が続き、先進国クラブである経済協力開発機構(OECD)諸国でも低位にあることを見ようとしません。
また外国人労働者に関しても、「高度人材の受け入れ拡大を図る必要がある」とか地域経済の担い手である中小企業の人手不足に対応して、「外国人材の受け入れ拡大や定着に向けた取組が引き続き課題となっている」と述べながら、人権侵害的な扱いをされている技能実習生の実態には目を向けようとしていません。
技能実習生は、大企業やその下請け企業でも多く雇用されています。中国・新彊ウイグル自治区での強制労働によって生産された原材料を使用する企業が、世界の人権団体や市民から批判されているように、企業はサプライチェーン(下請け構造)に組み込まれている労働者の人権にも配慮する必要があります。
経団連は、「人権を尊重する経営」などと抽象的に述べるのではなく、技能実習生などの外国人労働者の実態に関して警鐘を鳴らすべきです。経団連は不都合な真実に目をつぶってはならないのです。
(つづく、5回連載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月17日付掲載
「同一労働同一賃金」に関しても、経団連は16年7月の提言で「日本型同一労働同一賃金」として、「職務内容や、仕事・役割・貢献度の発揮期待(人材活用の仕方)など、様々な要素を総合的に勘案し、自社にとって同一労働と評価される場合に、同じ賃金を払うこと」を基本的な考え方とすべきであると述べ、「同一労働同一賃金」の範囲を極めて狭い範囲に限定するように主張。
技能実習生は、大企業やその下請け企業でも多く雇用されています。中国・新彊ウイグル自治区での強制労働によって生産された原材料を使用する企業が、世界の人権団体や市民から批判されているように、企業はサプライチェーン(下請け構造)に組み込まれている労働者の人権にも配慮する必要がある。
日本経済団体連合会(経団連)が22年春闘の財界側指針となる「経営労働政策特別委員会報告」を出しています。労働運動総合研究所(労働総研)の藤田実事務局長に分析してもらいました。
労働総研事務局長 藤田実さん
2022年春闘の本格的な展開を前にして、総資本として春闘に対峙(たいじ)する立場を明らかにする『経営労働政策特別委員会報告』(以下『経労委報告』)が出されました。
毎年の『経労委報告』の基調は、賃上げを抑え込むという観点と労働者を自由に使役したいという観点から、資本の要求を前面に出すものです。
しかし、今年の『経労委報告』は、世論の批判が強い事柄には第三者的に言及するものの、それをつくりだした自らの行動を省みることがないという特徴があります。一言で言えば、不都合な真実を見ようとしない、ということです。
格差拡大の責任
例えば、序文に「行き過ぎた資本主義がもたらした社会課題の一つとして、格差問題が挙げられる。無期雇用労働者と有期雇用労働者、大企業と中小企業、大都市圏と地方など、様々な局面で格差拡大が指摘されている」とのべています。
この文言は客観的に事実を述べているような表現になっていますが、格差を拡大させ、それを利用してきたのは経団連を構成する企業ではなかったのではないでしょうか。
例えば、経団連は、毎年のように派遣労働の規制緩和を要望していますが、その内容は「日雇い派遣の原則禁止の見直し」「グループ企業内派遣規制の廃止」「離職後1年以内の労働者派遣の禁止の撤廃」「労働契約申し込みみなし制度の撤廃」など弱い立場の派遣労働者を守る規制の撤廃です。
「同一労働同一賃金」に関しても、経団連は16年7月の提言で「日本型同一労働同一賃金」として、「職務内容や、仕事・役割・貢献度の発揮期待(人材活用の仕方)など、様々な要素を総合的に勘案し、自社にとって同一労働と評価される場合に、同じ賃金を払うこと」を基本的な考え方とすべきであると述べ、「同一労働同一賃金」の範囲を極めて狭い範囲に限定するように主張していました。
これにより、日本の「同一労働同一賃金」が適用される非正規労働者はごく少数に限定されることになりました。このように経団連は正規労働者と非正規労働者との格差是正には後ろ向きの姿勢を堅持し、格差拡大の原因をつくってきたことに目を向けようとしていません。
経団連会館前で「内部留保を労働者に還元せよ」と訴える全労連・国民春闘の人たち=1月13日、東京都千代田区
賃金の停滞続く
不都合な真実を見ようとしないのは、ほかにもあります。
賃金に関して言えば、労働生産性の国際比較をして日本の低さを論じながら、G7(主要7力国)各国の中で日本だけが賃金の停滞が続き、先進国クラブである経済協力開発機構(OECD)諸国でも低位にあることを見ようとしません。
また外国人労働者に関しても、「高度人材の受け入れ拡大を図る必要がある」とか地域経済の担い手である中小企業の人手不足に対応して、「外国人材の受け入れ拡大や定着に向けた取組が引き続き課題となっている」と述べながら、人権侵害的な扱いをされている技能実習生の実態には目を向けようとしていません。
技能実習生は、大企業やその下請け企業でも多く雇用されています。中国・新彊ウイグル自治区での強制労働によって生産された原材料を使用する企業が、世界の人権団体や市民から批判されているように、企業はサプライチェーン(下請け構造)に組み込まれている労働者の人権にも配慮する必要があります。
経団連は、「人権を尊重する経営」などと抽象的に述べるのではなく、技能実習生などの外国人労働者の実態に関して警鐘を鳴らすべきです。経団連は不都合な真実に目をつぶってはならないのです。
(つづく、5回連載)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年2月17日付掲載
「同一労働同一賃金」に関しても、経団連は16年7月の提言で「日本型同一労働同一賃金」として、「職務内容や、仕事・役割・貢献度の発揮期待(人材活用の仕方)など、様々な要素を総合的に勘案し、自社にとって同一労働と評価される場合に、同じ賃金を払うこと」を基本的な考え方とすべきであると述べ、「同一労働同一賃金」の範囲を極めて狭い範囲に限定するように主張。
技能実習生は、大企業やその下請け企業でも多く雇用されています。中国・新彊ウイグル自治区での強制労働によって生産された原材料を使用する企業が、世界の人権団体や市民から批判されているように、企業はサプライチェーン(下請け構造)に組み込まれている労働者の人権にも配慮する必要がある。
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