グローバル経済の迷宮 海外工場の事件簿⑨ 人権侵害に国際的歯止め
人権侵害と表裏一体の低コスト労働が野放しであれば、それを利用しない企業は国際競争で不利になります。国際労働機関(ILO)が指摘しています。
「グローバル・サプライチェーン(多国籍企業の国際供給網)」のもとでは「下請け業者の間で激しい競争が生じる。賃金や労働条件、労働者の基本的人権の尊重に対して、切り下げの圧力が加わる」。
ときに、下請け業者は「労働法制に適合しない雇用形態」を用いて競争に勝とうとし、「極端な場合には強制労働や児童労働に頼る」。
「そのような行動は、労働法制や国際労働基準を順守する下請け業者に対して、不公平な競争を生み出す」(2016年の報告書)
ファーストリテイリング社の主張も、低賃金は「業界全体の課題」だというものです。個別企業の自発的な対応だけでは人権を守れないということです。
だからこそ、多国籍企業が牛耳る人権侵害の国際競争に対し、国際的に歯止めをかける試みが発展しています。消費者と労働者とNGOの共同の取り組みは国際機関をも動かす潮流になっています。
香港のユニクロ店舗の前でインドネシアの労働者と共に未払い賃金を支払うよう訴えるSACOMのキキ・ユェンさん(右端)=3月8日
企業の責任強調
国連人権理事会は11年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択しました。人権を尊重する企業の責任を強調した文書です。重要なのは、商品売買など「取引関係」に基づく「人権への負の影響」も責任の範囲内に含めたことです。
下請け業者の人権侵害にも発注元の多国籍企業が責任を負う、という原則を打ち立てたのです。
指導原則の策定に尽力したのはジョン・ラギー国連事務総長特別代表(当時)でした。ラギー氏はヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)などNGOの貢献を称えます。
「そうした団体は、私の任務の協議に積極的に参加してくれた」「(地域社会を代表する)参加者を選び出すのを助けてくれた」(『正しいビジネス』)
しかし、指導原則には、法的拘束力がありません。さらなる前進は不可欠です。HRWで衣料品産業を担当するインド在住の弁護士アルナ・カシアプさんはいいます。
「いま私たちが挑戦しているのは大企業に海外工場などのサプライチェーンを公表させる取り組みです。企業の責任を問う上で透明性の欠如が主な障害になっているからです」
ヒューマン・ライツ・ウオッチ女性の権利局上級顧問のアルナ・カシアプさん
途上国が後押し
国連は法的拘束力をもつ多国籍企業規制の条約づくりに着手しています。15年以降2回の政府間作業部会が開かれ、3回目が今年開催されます。多くの途上国とNGOが賛成の論陣を張っています。
ILOも16年の総会で多国籍企業のもとでの労働条件を正面から議題に乗せました。早期に政労使3者と専門家の会合を開き、今後の政策の方向性を明確にするよう求める報告書を採択しました。
交渉過程を注視してきた全労連の布施恵輔国際局長は話します。
「多国籍企業規制の基準づくりをILOに求めている最大勢力は欧米の労働組合です。印象的だったのは途上国の政府が反対しないことです。多国籍企業が好き勝手にふるまっているという思いがあるのです。途上国の政府の多くが明確に労働者側についています」
消費者の関心の高まりが変化の原動力の一つになっているとカシアプさんは話します。
「先進国の消費者は重要な力をもち、実際に労働者の状態を改善しています。好きなブランドの服がどんな状況でつくられているか。多くの人が気にかけ、企業に行動を求めるようになっています」
香港のNGO「SACOM」のキキ・ユェンさんはいいます。
「草の根運動を励まして政治の変化につなげたい。そうすれば労働者は単発の成果だけでなく、長期の利益を得るのです」
(おわり)(杉本恒如が担当しました)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年6月24日付掲載
「好きなブランドの服がどんな状況でつくられているか。多くの人が気にかけ、企業に行動を求めるようになっています」
海外工場の労働者が組織をつくり、声をあげることが基本ですが、先進国の消費者の側からの声も重要なんですね。
人権侵害と表裏一体の低コスト労働が野放しであれば、それを利用しない企業は国際競争で不利になります。国際労働機関(ILO)が指摘しています。
「グローバル・サプライチェーン(多国籍企業の国際供給網)」のもとでは「下請け業者の間で激しい競争が生じる。賃金や労働条件、労働者の基本的人権の尊重に対して、切り下げの圧力が加わる」。
ときに、下請け業者は「労働法制に適合しない雇用形態」を用いて競争に勝とうとし、「極端な場合には強制労働や児童労働に頼る」。
「そのような行動は、労働法制や国際労働基準を順守する下請け業者に対して、不公平な競争を生み出す」(2016年の報告書)
ファーストリテイリング社の主張も、低賃金は「業界全体の課題」だというものです。個別企業の自発的な対応だけでは人権を守れないということです。
だからこそ、多国籍企業が牛耳る人権侵害の国際競争に対し、国際的に歯止めをかける試みが発展しています。消費者と労働者とNGOの共同の取り組みは国際機関をも動かす潮流になっています。
香港のユニクロ店舗の前でインドネシアの労働者と共に未払い賃金を支払うよう訴えるSACOMのキキ・ユェンさん(右端)=3月8日
企業の責任強調
国連人権理事会は11年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を採択しました。人権を尊重する企業の責任を強調した文書です。重要なのは、商品売買など「取引関係」に基づく「人権への負の影響」も責任の範囲内に含めたことです。
下請け業者の人権侵害にも発注元の多国籍企業が責任を負う、という原則を打ち立てたのです。
指導原則の策定に尽力したのはジョン・ラギー国連事務総長特別代表(当時)でした。ラギー氏はヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)などNGOの貢献を称えます。
「そうした団体は、私の任務の協議に積極的に参加してくれた」「(地域社会を代表する)参加者を選び出すのを助けてくれた」(『正しいビジネス』)
しかし、指導原則には、法的拘束力がありません。さらなる前進は不可欠です。HRWで衣料品産業を担当するインド在住の弁護士アルナ・カシアプさんはいいます。
「いま私たちが挑戦しているのは大企業に海外工場などのサプライチェーンを公表させる取り組みです。企業の責任を問う上で透明性の欠如が主な障害になっているからです」
ヒューマン・ライツ・ウオッチ女性の権利局上級顧問のアルナ・カシアプさん
途上国が後押し
国連は法的拘束力をもつ多国籍企業規制の条約づくりに着手しています。15年以降2回の政府間作業部会が開かれ、3回目が今年開催されます。多くの途上国とNGOが賛成の論陣を張っています。
ILOも16年の総会で多国籍企業のもとでの労働条件を正面から議題に乗せました。早期に政労使3者と専門家の会合を開き、今後の政策の方向性を明確にするよう求める報告書を採択しました。
交渉過程を注視してきた全労連の布施恵輔国際局長は話します。
「多国籍企業規制の基準づくりをILOに求めている最大勢力は欧米の労働組合です。印象的だったのは途上国の政府が反対しないことです。多国籍企業が好き勝手にふるまっているという思いがあるのです。途上国の政府の多くが明確に労働者側についています」
消費者の関心の高まりが変化の原動力の一つになっているとカシアプさんは話します。
「先進国の消費者は重要な力をもち、実際に労働者の状態を改善しています。好きなブランドの服がどんな状況でつくられているか。多くの人が気にかけ、企業に行動を求めるようになっています」
香港のNGO「SACOM」のキキ・ユェンさんはいいます。
「草の根運動を励まして政治の変化につなげたい。そうすれば労働者は単発の成果だけでなく、長期の利益を得るのです」
(おわり)(杉本恒如が担当しました)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2017年6月24日付掲載
「好きなブランドの服がどんな状況でつくられているか。多くの人が気にかけ、企業に行動を求めるようになっています」
海外工場の労働者が組織をつくり、声をあげることが基本ですが、先進国の消費者の側からの声も重要なんですね。
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