敵基地攻撃能力 国を滅ぼす
「結社の自由」侵害 看過できぬ
憲法学者・慶応大学名誉教授 小林節さんに聞く
日本を戦争への道に引き込む岸田文雄首相の敵基地攻撃能力の保有、大軍拡路線と、その中で起きている日本共産党への新たな反共キャンペーンについて、憲法学者で慶応大学名誉教授の小林節さんに聞きました。(日曜版・田中倫夫)
撮影:野間あきら
こばやし・せつ 1949年東京生まれ。77年慶応大学大学院法学研究科博士課程修了。ハーバード大ロースクール客員研究員等を経て、89年慶応大教授。2014年同名誉教授。21年全国革新懇代表世話人。『「人権」がわからない政治家たち』など著書多数。
私は、日米安保体制と自衛隊を是とする立場です。一貫して「専守防衛」を唱えています。
その私からみても、岸田内閣が閣議決定した「安保3文書」に書かれた、敵基地攻撃能力の保有に沿った大軍拡・大増税路線は、「国を滅ぼすものだ」、と厳しく批判しなければなりません。
ロシアのウクライナ侵略以降、国際的な緊張は激化しています。「専守防衛」の立場に立ち、本当に必要な防衛力の整備は進めなくてはいけないと考えています。しかし、いわゆる敵基地攻撃能力の保有や、防衛予算の2倍化などは、どう見ても「専守防衛」とはかけ離れています。
日本は第2次世界大戦で大きな失敗をし、日本国憲法という「宝」を得ました。「国の能力を奪われた屈辱」という人もいますが、私は国が成長できたのは憲法のおかげだと思います。その素晴らしいところは、「戦力不保持」「交戦権の否定」を定めた9条2項です。日本は外に出て戦争してはいけない。これはすごいことで、日本は世界でもユニークな国です。
安倍政権の戦争法を大本に「先制攻撃」も可能な大軍拡
安倍晋三元首相がつくった戦争法(安保法制)は、米軍にくっついて自衛隊がその「2軍」として世界に出ていけるようにしてしまった。この明確な憲法違反を前提に、敵基地攻撃能力の保有とか防衛費の倍増が進んでいることに、危機感をもたねばいけません。敵基地攻撃能力の保有を言いだしたのは安倍元首相です。
「安保3文書」「大軍拡」の大本は、第2次安倍内閣が強行した戦争法です。それを岸田首相は重装備で海外派兵できる形にして突き進もうとしています。日本が攻撃されてないのに、米国が起こした戦争に自衛隊がいっしょに行動することになりかねません。自民党の国防族の人は「安全でないと思ったら最初から撃つ」とも言っています。これは国連憲章で否定されている「先制攻撃」です。日本は報復を受け、「新しい敗戦」をすることにもなりかねません。とんでもない話です。
大軍拡まともに批判せず共産党攻撃に走るメディア
野党結束が必要な時に非難
この事態にストップをかけるために、野党は結束しなければならない。ところが、いま、岸田大軍拡の道を止めようと野党の中核でがんばっている日本共産党に、メディアなどのバッシングが強まっています。
「朝日」の社説(8日付)には驚きました。規約に反して、外部から党を攻撃した党員を日本共産党が除名処分にしたことを、“党勢は細るばかりだと思い知るべきだ”と最大限の言葉で非難しています。
この問題を考えるには、憲法21条1項が保障する「結社の自由」の意味を深く理解する必要があります。21条には集会、結社、言論、出版の自由が列挙され、「表現の自由」としてくくられ、保障するとしています。
「結社」とは人の集団のことで、犯罪を目的としない限り、どんな結社を作ろうが自由です。その結社の入会資格や内部規律(規約)もそれが犯罪でない限り各結社の自由です。その目的や規律が嫌いな人はその結社に入らないか、いったん入っても後にそれがいやになったら出る自由もあります。
結社は内部規律に関する自治権をもつ
すべての結社には内部規律に関する自治権があります。違反者には懲戒処分をすることができます。これは日本共産党に限ることではありません。日本共産党は戦前、人権が認められていなかった大日本帝国憲法のもとで人権と反戦を主張するとして弾圧され、非合法政党とされました。日本国憲法のもとで合法政党になってからも、他国の共産党からの干渉などで党が分裂したこともありました。そのような経験をしたため日本共産党の規律は厳格で、派閥は禁止されています。結社の自由です。
処分された党員が、「全党員による党首選」の意見を持つことは自由です。しかし、それを認めると必然的に派閥が生まれ、規約に反することは自明です。
処分された党員が“日米安保条約の堅持”“自衛隊合憲”という意見を持つことも自由です。しかし、日本共産党は綱領で、国民多数の合意での安保条約の廃棄をきめています。自衛隊についてもアジアが平和になるなど国際情勢が許し、主権者国民の多数が認めたら、解消するとしています。
それが正しくないと思うなら、まず規約通りに党内で意見を述べるべきです。それが通らなければ、自分の意見を「保留」することも、「結社の自由」を行使して離党することもできます。
日本共産党は規約で、党員がどの機関にも意見を出し、回答を求めることができると保障しています。にもかかわらず、除名となった党員は党内議論を行わずに、時間をかけて準備した出版という形で、いきなり党外から党への批判的な意見をぶつけてきた。これはルール違反です。他のどの組織であれ、除名を含む処分はありうると思います。
「第4の権力」がやるべきことか
「朝日」などメディアがこの件で日本共産党をバッシングしているのは、看過できません。新聞は「第4の権力」といわれるような社会的権力です。ある意味で人権を大切にしている「朝日」が、日本共産党の「結社の自由」を侵害する行為をしていると言わなければなりません。
多くのメディアは岸田政権の敵基地攻撃能力の保有や大軍拡路線にたいしてまともな批判をしていません。日本共産党を攻撃する前にもっとやることがあるのではないでしょうか。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年2月16日付、「しんぶん赤旗」日曜版 2023年2月19日掲載
見出しは、日刊紙と日曜版を合わせました。
小林節さんは、もともと自民党の憲法論議のためにサポートしていた人です。でも、安倍政権の改憲論議についていなくなって出ていった。
安保条約や自衛隊を認めている小林さんでさえ、岸田政権の敵基地攻撃能力はダメだと。
日本国憲法という「宝」を生かす政治こそ大事だと。
本当にそうだと思います。
「結社の自由」を深く理解する必要があると。入る自由も出る自由もあると。結社には内部規律があって違反者には懲戒処分ができる。これは日本共産党に限ることではない。
日本共産党ほど、内部で党内議論を自由にできるところはないと思います。
しかも、日本共産党は、党中央から地方、一党員にいたるまで、国民に対して統一した責任をはたす責務があります。
党外で、違う意見や主張を勝手に発表することは許されることではありません。
「結社の自由」侵害 看過できぬ
憲法学者・慶応大学名誉教授 小林節さんに聞く
日本を戦争への道に引き込む岸田文雄首相の敵基地攻撃能力の保有、大軍拡路線と、その中で起きている日本共産党への新たな反共キャンペーンについて、憲法学者で慶応大学名誉教授の小林節さんに聞きました。(日曜版・田中倫夫)
撮影:野間あきら
こばやし・せつ 1949年東京生まれ。77年慶応大学大学院法学研究科博士課程修了。ハーバード大ロースクール客員研究員等を経て、89年慶応大教授。2014年同名誉教授。21年全国革新懇代表世話人。『「人権」がわからない政治家たち』など著書多数。
私は、日米安保体制と自衛隊を是とする立場です。一貫して「専守防衛」を唱えています。
その私からみても、岸田内閣が閣議決定した「安保3文書」に書かれた、敵基地攻撃能力の保有に沿った大軍拡・大増税路線は、「国を滅ぼすものだ」、と厳しく批判しなければなりません。
ロシアのウクライナ侵略以降、国際的な緊張は激化しています。「専守防衛」の立場に立ち、本当に必要な防衛力の整備は進めなくてはいけないと考えています。しかし、いわゆる敵基地攻撃能力の保有や、防衛予算の2倍化などは、どう見ても「専守防衛」とはかけ離れています。
日本は第2次世界大戦で大きな失敗をし、日本国憲法という「宝」を得ました。「国の能力を奪われた屈辱」という人もいますが、私は国が成長できたのは憲法のおかげだと思います。その素晴らしいところは、「戦力不保持」「交戦権の否定」を定めた9条2項です。日本は外に出て戦争してはいけない。これはすごいことで、日本は世界でもユニークな国です。
安倍政権の戦争法を大本に「先制攻撃」も可能な大軍拡
安倍晋三元首相がつくった戦争法(安保法制)は、米軍にくっついて自衛隊がその「2軍」として世界に出ていけるようにしてしまった。この明確な憲法違反を前提に、敵基地攻撃能力の保有とか防衛費の倍増が進んでいることに、危機感をもたねばいけません。敵基地攻撃能力の保有を言いだしたのは安倍元首相です。
「安保3文書」「大軍拡」の大本は、第2次安倍内閣が強行した戦争法です。それを岸田首相は重装備で海外派兵できる形にして突き進もうとしています。日本が攻撃されてないのに、米国が起こした戦争に自衛隊がいっしょに行動することになりかねません。自民党の国防族の人は「安全でないと思ったら最初から撃つ」とも言っています。これは国連憲章で否定されている「先制攻撃」です。日本は報復を受け、「新しい敗戦」をすることにもなりかねません。とんでもない話です。
大軍拡まともに批判せず共産党攻撃に走るメディア
野党結束が必要な時に非難
この事態にストップをかけるために、野党は結束しなければならない。ところが、いま、岸田大軍拡の道を止めようと野党の中核でがんばっている日本共産党に、メディアなどのバッシングが強まっています。
「朝日」の社説(8日付)には驚きました。規約に反して、外部から党を攻撃した党員を日本共産党が除名処分にしたことを、“党勢は細るばかりだと思い知るべきだ”と最大限の言葉で非難しています。
この問題を考えるには、憲法21条1項が保障する「結社の自由」の意味を深く理解する必要があります。21条には集会、結社、言論、出版の自由が列挙され、「表現の自由」としてくくられ、保障するとしています。
「結社」とは人の集団のことで、犯罪を目的としない限り、どんな結社を作ろうが自由です。その結社の入会資格や内部規律(規約)もそれが犯罪でない限り各結社の自由です。その目的や規律が嫌いな人はその結社に入らないか、いったん入っても後にそれがいやになったら出る自由もあります。
結社は内部規律に関する自治権をもつ
すべての結社には内部規律に関する自治権があります。違反者には懲戒処分をすることができます。これは日本共産党に限ることではありません。日本共産党は戦前、人権が認められていなかった大日本帝国憲法のもとで人権と反戦を主張するとして弾圧され、非合法政党とされました。日本国憲法のもとで合法政党になってからも、他国の共産党からの干渉などで党が分裂したこともありました。そのような経験をしたため日本共産党の規律は厳格で、派閥は禁止されています。結社の自由です。
処分された党員が、「全党員による党首選」の意見を持つことは自由です。しかし、それを認めると必然的に派閥が生まれ、規約に反することは自明です。
処分された党員が“日米安保条約の堅持”“自衛隊合憲”という意見を持つことも自由です。しかし、日本共産党は綱領で、国民多数の合意での安保条約の廃棄をきめています。自衛隊についてもアジアが平和になるなど国際情勢が許し、主権者国民の多数が認めたら、解消するとしています。
それが正しくないと思うなら、まず規約通りに党内で意見を述べるべきです。それが通らなければ、自分の意見を「保留」することも、「結社の自由」を行使して離党することもできます。
日本共産党は規約で、党員がどの機関にも意見を出し、回答を求めることができると保障しています。にもかかわらず、除名となった党員は党内議論を行わずに、時間をかけて準備した出版という形で、いきなり党外から党への批判的な意見をぶつけてきた。これはルール違反です。他のどの組織であれ、除名を含む処分はありうると思います。
「第4の権力」がやるべきことか
「朝日」などメディアがこの件で日本共産党をバッシングしているのは、看過できません。新聞は「第4の権力」といわれるような社会的権力です。ある意味で人権を大切にしている「朝日」が、日本共産党の「結社の自由」を侵害する行為をしていると言わなければなりません。
多くのメディアは岸田政権の敵基地攻撃能力の保有や大軍拡路線にたいしてまともな批判をしていません。日本共産党を攻撃する前にもっとやることがあるのではないでしょうか。
「しんぶん赤旗」日刊紙 2023年2月16日付、「しんぶん赤旗」日曜版 2023年2月19日掲載
見出しは、日刊紙と日曜版を合わせました。
小林節さんは、もともと自民党の憲法論議のためにサポートしていた人です。でも、安倍政権の改憲論議についていなくなって出ていった。
安保条約や自衛隊を認めている小林さんでさえ、岸田政権の敵基地攻撃能力はダメだと。
日本国憲法という「宝」を生かす政治こそ大事だと。
本当にそうだと思います。
「結社の自由」を深く理解する必要があると。入る自由も出る自由もあると。結社には内部規律があって違反者には懲戒処分ができる。これは日本共産党に限ることではない。
日本共産党ほど、内部で党内議論を自由にできるところはないと思います。
しかも、日本共産党は、党中央から地方、一党員にいたるまで、国民に対して統一した責任をはたす責務があります。
党外で、違う意見や主張を勝手に発表することは許されることではありません。
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