暴走と破滅の敵基地攻撃⑤ 国土が戦場になる恐れ
仮に日本が「敵基地攻撃」に着手すれば、どのような事態が起こりうるのでしょうか。
攻撃は反撃招く
攻撃すれば反撃されるのが軍事の常識です。敵基地攻撃に踏み切る場合には、①相手が反撃不能になるまで徹底的に攻撃し壊滅状態に追い込む②ある程度の反撃(それに伴う日本の国土への被害)を許容する―といった選択が迫られます。
北朝鮮には中距離弾道ミサイル「ノドン」など、日本を射程圏内に収めたミサイルが無数に配備されていますが、ほとんどは移動式ランチャーから発射される可能性が高いとされています。その動きをすべて24時間態勢で監視し続けることは容易ではありません。
さらに、北朝鮮は2016年と19年、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射。潜水艦の動きを把握するのはより困難です。
これに対処しようと思えば、途方もない大軍拡で米軍なみの、攻撃力を整え、ミサイル基地にとどまらず、北朝鮮の全土や周辺海域を徹底的に攻撃し、文字通りの「焼け野原」にする以外にはありません。しかも、相手に反撃の余地を与えないためには、03年のイラク戦争のように、大量攻撃を短期間に行う必要があります。それでも、たえず移動するミサイルを一気に破壊することは不可能です。
柳沢協二・元内閣官房副長官補は都内での講演で、「100%たたくことができなければ、必ず報復される」と指摘。国土が戦場になり、日本が相手に行ったのと同様、全土が攻撃対象になり、民間人に多数の犠牲者が発生します。しかも、北朝鮮は核保有国です。敵基地攻撃の先に待っているのは破滅です。
さらに重大なのは、自衛隊の敵基地攻撃能力は、安保法制の下、米軍と一体化し、事実上、米軍の一部に組み込まれる危険がきわめて高いことです。
たとえば米中間で軍事的な危機が発生し、それが「存立危機事態」として認定された場合、日本が攻撃を受けていない場合でも、集団的自衛権の行使に踏み切り、相手の基地を攻撃する可能性は排除されていません。
北朝鮮が発表した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験の様子[2016年4月24日付の労働新聞電子版から]
防衛省が研究を進めている極超音速巡航ミサイル(2021年度概算要求資料から)
対処から対話へ
米国・ロシアの中距離核戦力(INF)全廃条約の失効(2019年8月)に伴い、北東アジアにおけるミサイル開発競争が新局面に入りました。
これに加え、日本を含む各国で、従来の弾道ミサイルとは全く異なる、低高度をマッハ5以上で飛行し、軌道も自在に変えられる「極超音速兵器」の研究・開発が進められています。中ロはすでに実戦配備を進めており、米国は23年の配備を目指しています。日本も「島しょ防衛用」と称して研究を進めていますが、現状ではいずれの国でも、「極超音速ミサイル防衛」網を確立するメドは立っていません。いったん戦端が開かれれば攻撃しあうしかない、危険な状況なのです。
では、どうすればいいのか。柳沢氏は「先にミサイルを撃とうとする側には、必ず動機がある。撃ち落とそうとするより、動機をなくすための外交努力の方が、はるかに合理的だ」と指摘します。
ミサイル「対処」から、ミサイルの危険をなくすための対話へ―。日本が取るべき道は敵基地攻撃ではなく、外交努力であり、「抑止力」のための軍拡から、軍縮への転換です。
(おわり)
(この連載は竹下岳、柳沢哲哉、斎藤和紀が担当しました)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年10月23日付掲載
北朝鮮には中距離弾道ミサイル「ノドン」など、日本を射程圏内に収めたミサイルが無数に配備。さらに潜水艦からの弾道ミサイルSLBMも配備。
とても攻撃拠点をピンポイントで狙えません。
相手国にミサイルを発射する動機をなくすための外交努力の方が、はるかに合理的でコストがかからない。
仮に日本が「敵基地攻撃」に着手すれば、どのような事態が起こりうるのでしょうか。
攻撃は反撃招く
攻撃すれば反撃されるのが軍事の常識です。敵基地攻撃に踏み切る場合には、①相手が反撃不能になるまで徹底的に攻撃し壊滅状態に追い込む②ある程度の反撃(それに伴う日本の国土への被害)を許容する―といった選択が迫られます。
北朝鮮には中距離弾道ミサイル「ノドン」など、日本を射程圏内に収めたミサイルが無数に配備されていますが、ほとんどは移動式ランチャーから発射される可能性が高いとされています。その動きをすべて24時間態勢で監視し続けることは容易ではありません。
さらに、北朝鮮は2016年と19年、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射。潜水艦の動きを把握するのはより困難です。
これに対処しようと思えば、途方もない大軍拡で米軍なみの、攻撃力を整え、ミサイル基地にとどまらず、北朝鮮の全土や周辺海域を徹底的に攻撃し、文字通りの「焼け野原」にする以外にはありません。しかも、相手に反撃の余地を与えないためには、03年のイラク戦争のように、大量攻撃を短期間に行う必要があります。それでも、たえず移動するミサイルを一気に破壊することは不可能です。
柳沢協二・元内閣官房副長官補は都内での講演で、「100%たたくことができなければ、必ず報復される」と指摘。国土が戦場になり、日本が相手に行ったのと同様、全土が攻撃対象になり、民間人に多数の犠牲者が発生します。しかも、北朝鮮は核保有国です。敵基地攻撃の先に待っているのは破滅です。
さらに重大なのは、自衛隊の敵基地攻撃能力は、安保法制の下、米軍と一体化し、事実上、米軍の一部に組み込まれる危険がきわめて高いことです。
たとえば米中間で軍事的な危機が発生し、それが「存立危機事態」として認定された場合、日本が攻撃を受けていない場合でも、集団的自衛権の行使に踏み切り、相手の基地を攻撃する可能性は排除されていません。
北朝鮮が発表した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射実験の様子[2016年4月24日付の労働新聞電子版から]
防衛省が研究を進めている極超音速巡航ミサイル(2021年度概算要求資料から)
対処から対話へ
米国・ロシアの中距離核戦力(INF)全廃条約の失効(2019年8月)に伴い、北東アジアにおけるミサイル開発競争が新局面に入りました。
これに加え、日本を含む各国で、従来の弾道ミサイルとは全く異なる、低高度をマッハ5以上で飛行し、軌道も自在に変えられる「極超音速兵器」の研究・開発が進められています。中ロはすでに実戦配備を進めており、米国は23年の配備を目指しています。日本も「島しょ防衛用」と称して研究を進めていますが、現状ではいずれの国でも、「極超音速ミサイル防衛」網を確立するメドは立っていません。いったん戦端が開かれれば攻撃しあうしかない、危険な状況なのです。
では、どうすればいいのか。柳沢氏は「先にミサイルを撃とうとする側には、必ず動機がある。撃ち落とそうとするより、動機をなくすための外交努力の方が、はるかに合理的だ」と指摘します。
ミサイル「対処」から、ミサイルの危険をなくすための対話へ―。日本が取るべき道は敵基地攻撃ではなく、外交努力であり、「抑止力」のための軍拡から、軍縮への転換です。
(おわり)
(この連載は竹下岳、柳沢哲哉、斎藤和紀が担当しました)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2020年10月23日付掲載
北朝鮮には中距離弾道ミサイル「ノドン」など、日本を射程圏内に収めたミサイルが無数に配備。さらに潜水艦からの弾道ミサイルSLBMも配備。
とても攻撃拠点をピンポイントで狙えません。
相手国にミサイルを発射する動機をなくすための外交努力の方が、はるかに合理的でコストがかからない。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます