検証 アベノミクス 異次元の金融緩和② 退くも、進も地獄
群馬大学名誉教授 山田博文さん
アベノミクスの異次元金融緩和政策によって累積された負の遺産が日本経済と国民の肩に降りかかってくるのは、むしろこれからの近未来になるようです。その負の遺産についてデータ(表)で検証しましょう。
異次元金融緩和政策が残した異次元の負の遺産
日銀、財務省、JPX、野村総合研究所の各HP、IMF「World Economic Outlook database」から作成。22年の政府債務はIMF予測、日銀の国債保有比は国債発行残高に対する日銀保有比、富裕層は純金融資産1億円以上の保有世帯
政府債務の重圧
日銀が国債を大量に買い入れる量的緩和策は、国債を発行する政府サイドにとって、ほぼ無制限に国債を増発できる政策でした。この間、普通国債発行残高は705兆円から1026兆円へ1・4倍に増大し、政府債務残高が国内総生産(GDP)の262・5%に達しました。日本は主要国の中で最悪の政府債務大国に転落しました。
政府債務の重圧はこの間、歳入面では消費税の増税圧力として作用し、消費税率は5%から10%へ引き上げられました。歳出面では社会保障関係費などの削減圧力となって、国民生活を悪化させています。
歴史を振り返ると、GDPの262・5%の政府債務の水準は、日銀の直接引き受けで軍事国債が増発された第2次世界大戦直後と同水準です。終戦後、この自国通貨建ての政府債務は、国民からの大収奪で解消されました。封鎖された国民の預金や不動産などには最高で90%の財産税がかけられ、物価は3年で100倍というハイパーインフレとなりました。
戦後の憲法下で、このような一般国民からの大収奪で政府債務を解消することはなんとしても回避しなければなりません。異次元金融緩和政策で巨万の資産を築いた大企業や富裕層に応能負担を求めるという選択肢が検討されるべきでしょう。
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答弁する黒田東彦日銀総裁=6月7日、参院財政金融委員会
第1の矢の結末
今、欧米は約40年ぶりのインフレ・物価高に襲われています。各国中央銀行は政策金利を引き上げ、金融引き締めにかじを切り、物価高を抑える「物価の番人」としての役割を発揮しています。でも、日銀は、異次元金融緩和の負の遺産を抱えているため、まったく身動きできません。物価は上がるがままに放置されています。
もし日銀が金利を1%引き上げると、国内の金利は連動して1%上昇します。他の条件を無視すれば、政府一般会計の8・2兆円の国債利払い費は、理論上最終的には国債発行残高1026兆円の1%に当たる10兆円ほど増え、18・2兆円になります。国の財政赤字体質からの脱却が求められています。
量的緩和策の大量国債買い入れで、541・8兆円を保有する日銀は、金利上昇に伴う国債価格の下落で、巨額の含み損を抱え込みます。「円」の信用が揺らぎ、円安が加速され、輸入物価が上昇し、国内物価も上がり、生活が破壊されます。
国債金利を0・25%に押さえ込もうとする日銀の指し値オペの結果、すでに日米の金利格差は3%ほどに拡大しています。何もしないでいたら、各国との金利格差はますます拡大し、世界の投資マネーは日本を捨てて高金利国へ逃避し、日本経済はさらに脆弱(ぜいじゃく)化していきます。まさに進むも地獄、退くも地獄、これがアベノミクスの「第1の矢」を担った異次元金融緩和政策の結末です。
しかも、異次元金融緩和政策は、かつての「1億総中流社会」日本にとって変わる「格差社会」をもたらしました。
日本の5400万世帯の約3割は、預貯金などの金融資産を持っていません。他方で、世帯数ではわずか2・4%にすぎない富裕層世帯(純金融資産1億円以上世帯)は、株式バブルを主導した異次元金融緩和政策のおかげで資産を1・8倍にし、145兆円も増やしました。「和をもって尊しとなす」日本社会は破壊されました。
(この項おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年7月28日付掲載
歴史を振り返ると、GDPの262・5%の政府債務の水準は、日銀の直接引き受けで軍事国債が増発された第2次世界大戦直後と同水準。
終戦後、この自国通貨建ての政府債務は、国民からの大収奪で解消。
戦後の憲法下で、このような一般国民からの大収奪で政府債務を解消することはなんとしても回避しなければなりません。異次元金融緩和政策で巨万の資産を築いた大企業や富裕層に応能負担を求めるという選択肢が検討されるべき。
他国の様に、日銀が金利を1%あげると、国内の金利は連動して1%上がる。それにともなって国債の利払いも増える。
541・8兆円を保有する日銀は、金利上昇に伴う国債価格の下落で、巨額の含み損を抱え込みます。「円」の信用が揺らぎ、円安が加速され、輸入物価が上昇し、国内物価も上がり、生活が破壊。
何もしないでいたら、各国との金利格差はますます拡大し、世界の投資マネーは日本を捨てて高金利国へ逃避し、日本経済はさらに脆弱(ぜいじゃく)化。まさに進むも地獄、退くも地獄、これがアベノミクスの「第1の矢」を担った異次元金融緩和政策の結末。
群馬大学名誉教授 山田博文さん
アベノミクスの異次元金融緩和政策によって累積された負の遺産が日本経済と国民の肩に降りかかってくるのは、むしろこれからの近未来になるようです。その負の遺産についてデータ(表)で検証しましょう。
異次元金融緩和政策が残した異次元の負の遺産
項目 | 2012年(A) | 2022年(B) | B/A |
政府債務残高(うち国債) 対GDP比 | 1131.5兆円(705.0兆円) 226.0% | 1462.2兆円(1026.4兆円) 262.5% | 1.29倍(1.4倍) 36.5ポイント増 |
日銀資産 国債保有額と保有比 | 158.3兆円 113.6兆円・16.1% | 732.0兆円(22年7月) 541.8兆円・52.7% | 4.6倍 36.6ポイント増 |
富裕層純金融資産 | 188兆円(2011年) | 333兆円(2019年) | 1.8倍(145兆円増) |
国民負担率 | 39.8% | 46.5% | 6.7ポイント増 |
政府債務の重圧
日銀が国債を大量に買い入れる量的緩和策は、国債を発行する政府サイドにとって、ほぼ無制限に国債を増発できる政策でした。この間、普通国債発行残高は705兆円から1026兆円へ1・4倍に増大し、政府債務残高が国内総生産(GDP)の262・5%に達しました。日本は主要国の中で最悪の政府債務大国に転落しました。
政府債務の重圧はこの間、歳入面では消費税の増税圧力として作用し、消費税率は5%から10%へ引き上げられました。歳出面では社会保障関係費などの削減圧力となって、国民生活を悪化させています。
歴史を振り返ると、GDPの262・5%の政府債務の水準は、日銀の直接引き受けで軍事国債が増発された第2次世界大戦直後と同水準です。終戦後、この自国通貨建ての政府債務は、国民からの大収奪で解消されました。封鎖された国民の預金や不動産などには最高で90%の財産税がかけられ、物価は3年で100倍というハイパーインフレとなりました。
戦後の憲法下で、このような一般国民からの大収奪で政府債務を解消することはなんとしても回避しなければなりません。異次元金融緩和政策で巨万の資産を築いた大企業や富裕層に応能負担を求めるという選択肢が検討されるべきでしょう。
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答弁する黒田東彦日銀総裁=6月7日、参院財政金融委員会
第1の矢の結末
今、欧米は約40年ぶりのインフレ・物価高に襲われています。各国中央銀行は政策金利を引き上げ、金融引き締めにかじを切り、物価高を抑える「物価の番人」としての役割を発揮しています。でも、日銀は、異次元金融緩和の負の遺産を抱えているため、まったく身動きできません。物価は上がるがままに放置されています。
もし日銀が金利を1%引き上げると、国内の金利は連動して1%上昇します。他の条件を無視すれば、政府一般会計の8・2兆円の国債利払い費は、理論上最終的には国債発行残高1026兆円の1%に当たる10兆円ほど増え、18・2兆円になります。国の財政赤字体質からの脱却が求められています。
量的緩和策の大量国債買い入れで、541・8兆円を保有する日銀は、金利上昇に伴う国債価格の下落で、巨額の含み損を抱え込みます。「円」の信用が揺らぎ、円安が加速され、輸入物価が上昇し、国内物価も上がり、生活が破壊されます。
国債金利を0・25%に押さえ込もうとする日銀の指し値オペの結果、すでに日米の金利格差は3%ほどに拡大しています。何もしないでいたら、各国との金利格差はますます拡大し、世界の投資マネーは日本を捨てて高金利国へ逃避し、日本経済はさらに脆弱(ぜいじゃく)化していきます。まさに進むも地獄、退くも地獄、これがアベノミクスの「第1の矢」を担った異次元金融緩和政策の結末です。
しかも、異次元金融緩和政策は、かつての「1億総中流社会」日本にとって変わる「格差社会」をもたらしました。
日本の5400万世帯の約3割は、預貯金などの金融資産を持っていません。他方で、世帯数ではわずか2・4%にすぎない富裕層世帯(純金融資産1億円以上世帯)は、株式バブルを主導した異次元金融緩和政策のおかげで資産を1・8倍にし、145兆円も増やしました。「和をもって尊しとなす」日本社会は破壊されました。
(この項おわり)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年7月28日付掲載
歴史を振り返ると、GDPの262・5%の政府債務の水準は、日銀の直接引き受けで軍事国債が増発された第2次世界大戦直後と同水準。
終戦後、この自国通貨建ての政府債務は、国民からの大収奪で解消。
戦後の憲法下で、このような一般国民からの大収奪で政府債務を解消することはなんとしても回避しなければなりません。異次元金融緩和政策で巨万の資産を築いた大企業や富裕層に応能負担を求めるという選択肢が検討されるべき。
他国の様に、日銀が金利を1%あげると、国内の金利は連動して1%上がる。それにともなって国債の利払いも増える。
541・8兆円を保有する日銀は、金利上昇に伴う国債価格の下落で、巨額の含み損を抱え込みます。「円」の信用が揺らぎ、円安が加速され、輸入物価が上昇し、国内物価も上がり、生活が破壊。
何もしないでいたら、各国との金利格差はますます拡大し、世界の投資マネーは日本を捨てて高金利国へ逃避し、日本経済はさらに脆弱(ぜいじゃく)化。まさに進むも地獄、退くも地獄、これがアベノミクスの「第1の矢」を担った異次元金融緩和政策の結末。
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