検証アベノミクス 異次元の金融緩和① 「日しずむ国に転落」
群馬大学名誉教授 山田博文さん
異次元金融緩和政策とは、アベノミクスの第1の矢を担って2013年4月以来、黒田東彦日銀総裁の下で実施されている量的・質的金融緩和政策です。国債を大量に買い入れて民間市場にジャブジャブのマネーを供給する量的緩和策と、株式なども買い入れる質的緩和策を組み合わせています。世界でもまれな異次元金融緩和政策の帰結をデータ(表)で検証します。
■データが証明する異次元金融緩和政策の帰結
日銀、財務省、JPX、野村総合研究所の各HP、IMF「World Economic Out1ook database」から作成。22年のGDPはIMF予測。
日本銀行本店=東京都中央区
官製バブル惹起
まず注目されるのは、この政策は日銀主導で株式の官製バブルを引き起こしたことです。日銀が株価指数に連動する上場投資信託(ETF)を36・9兆円も買い入れ、株式市場に大量の日銀マネーを供給し、株価をつり上げたからです。
中央銀行が民間企業の株を買うことは世界で禁じ手とされています。その効果は抜群で、日経平均株価は2・5倍、株式時価総額も2・3倍に増大しました。「バイ・マイ・アベノミクス」、「インベスト・イン・キシダ」と、二人の首相による世界の投資家へのトップセールスがニューヨークとロンドンで行われました。
「貯蓄から投資」を推進する政府と日銀に支えられ、株式の配当金や大企業の内部留保金も大幅に伸びました。日銀が株を買って資本金を供給してくれるので、経営が悪化しても会社は倒産しないし、株高を利用して株式の売買差益も入ってきます。海外投資家・金融機関・富裕層などの株式保有層は大もうけしました。
経団連などの財界は、「アベノミクスの推進により、力強い日本経済の復活を成し遂げた」と大歓迎です。でも、復活したのは大企業だけで、99%の企業と国民にとって、経営と生活はむしろ悪化しました。
政策こそが原因
政府はこの間の物価高を海外の戦争などのせいにしていますが、むしろ国内の異次元金融緩和政策に主要な原因があります。日銀が量的緩和策で過剰なマネーを供給し続けたので、この10年間で円は35・2%も安くなったからです。
円安とは円の対外購買力の減退です。エネルギー、資源、食料などの輸入物価は為替要因だけで35・2%も高騰することになり、国内物価の押し上げ要因として作用しています。すでに企業物価は過去最高の9・2%高騰しました。経済を動かすエネルギー価格の上昇は、すべての企業製品や公共料金を上昇させました。
深刻なのは6割以上を輸入に依存する食料品価格が高騰し、国民生活を直撃していることです。帝国データバンクによれば、国内105社の食品メーカーが実施分も含め年内に1万5257品目、平均13%の値上げをするようです。他方、円安は輸出で稼ぐ大企業に為替差益をプレゼントし、輸出を増大させます。トヨタの場合、1円の円安で約400億円の営業利益が発生するようです。
日本経済はアベノミクスの下で縮小しました。
国内だけに目を向けた自国通貨の表示では、国内総生産(GDP)は500・4兆円から556・9兆円へ11・2%増大し、「日本経済の復活」や「強い経済」の証とされます。でも、戦後、各国の経済指標は国際通貨のドルで表示され、比較されます。国際通貨基金(IMF)によれば、ドル表示の日本のGDPは6・27兆ドルから4・91兆ドルへ21・6%も縮小しましたが、世界経済は38・2%増大しました。その結果、世界経済に占める日本経済の割合も、8・3%から4・7%になりました。日本経済の脆弱(ぜいじゃく)化と円安の帰結です。世界各国の日本を見る目線は、「日いずる国」から「日しずむ国」に転落し、海外メディアは日本を取り上げなくなりました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年7月27日付掲載
まず注目されるのは、この政策は日銀主導で株式の官製バブルを引き起こしたことです。日銀が株価指数に連動する上場投資信託(ETF)を36・9兆円も買い入れ、株式市場に大量の日銀マネーを供給し、株価をつり上げた。
ドル表示の日本のGDPは6・27兆ドルから4・91兆ドルへ21・6%も縮小。
日本経済は世界から取り残されています。
群馬大学名誉教授 山田博文さん
異次元金融緩和政策とは、アベノミクスの第1の矢を担って2013年4月以来、黒田東彦日銀総裁の下で実施されている量的・質的金融緩和政策です。国債を大量に買い入れて民間市場にジャブジャブのマネーを供給する量的緩和策と、株式なども買い入れる質的緩和策を組み合わせています。世界でもまれな異次元金融緩和政策の帰結をデータ(表)で検証します。
■データが証明する異次元金融緩和政策の帰結
項目 | 2012年(A) | 2022年(B) | B/A |
日経平均株価 | 1万395円(12月終値) | 2万6393円(6月終値) | 2.5倍 |
株式時価総額 | 300.7兆円 | 700.3兆円 | 2.3倍 |
大企業内部留保 | 333.5兆円 | 466.8兆円(20年度) | 1.4倍 |
全産業株式配当金 | 17.3兆円 | 31.2兆円(20年度) | 1.8倍 |
円・ドル相場 | 79.7円(年平均) | 122.9円(上半期平均) | 35.2%円安 |
名目GDP(円・ドル) | 500.4兆円・6.27兆ドル | 556.9兆円・4.91兆ドル | 11.2%増・21.6%減 |
世界経済の申の割合 | 8.3% | 4.7% | 3.6ポイント縮小 |
日本銀行本店=東京都中央区
官製バブル惹起
まず注目されるのは、この政策は日銀主導で株式の官製バブルを引き起こしたことです。日銀が株価指数に連動する上場投資信託(ETF)を36・9兆円も買い入れ、株式市場に大量の日銀マネーを供給し、株価をつり上げたからです。
中央銀行が民間企業の株を買うことは世界で禁じ手とされています。その効果は抜群で、日経平均株価は2・5倍、株式時価総額も2・3倍に増大しました。「バイ・マイ・アベノミクス」、「インベスト・イン・キシダ」と、二人の首相による世界の投資家へのトップセールスがニューヨークとロンドンで行われました。
「貯蓄から投資」を推進する政府と日銀に支えられ、株式の配当金や大企業の内部留保金も大幅に伸びました。日銀が株を買って資本金を供給してくれるので、経営が悪化しても会社は倒産しないし、株高を利用して株式の売買差益も入ってきます。海外投資家・金融機関・富裕層などの株式保有層は大もうけしました。
経団連などの財界は、「アベノミクスの推進により、力強い日本経済の復活を成し遂げた」と大歓迎です。でも、復活したのは大企業だけで、99%の企業と国民にとって、経営と生活はむしろ悪化しました。
政策こそが原因
政府はこの間の物価高を海外の戦争などのせいにしていますが、むしろ国内の異次元金融緩和政策に主要な原因があります。日銀が量的緩和策で過剰なマネーを供給し続けたので、この10年間で円は35・2%も安くなったからです。
円安とは円の対外購買力の減退です。エネルギー、資源、食料などの輸入物価は為替要因だけで35・2%も高騰することになり、国内物価の押し上げ要因として作用しています。すでに企業物価は過去最高の9・2%高騰しました。経済を動かすエネルギー価格の上昇は、すべての企業製品や公共料金を上昇させました。
深刻なのは6割以上を輸入に依存する食料品価格が高騰し、国民生活を直撃していることです。帝国データバンクによれば、国内105社の食品メーカーが実施分も含め年内に1万5257品目、平均13%の値上げをするようです。他方、円安は輸出で稼ぐ大企業に為替差益をプレゼントし、輸出を増大させます。トヨタの場合、1円の円安で約400億円の営業利益が発生するようです。
日本経済はアベノミクスの下で縮小しました。
国内だけに目を向けた自国通貨の表示では、国内総生産(GDP)は500・4兆円から556・9兆円へ11・2%増大し、「日本経済の復活」や「強い経済」の証とされます。でも、戦後、各国の経済指標は国際通貨のドルで表示され、比較されます。国際通貨基金(IMF)によれば、ドル表示の日本のGDPは6・27兆ドルから4・91兆ドルへ21・6%も縮小しましたが、世界経済は38・2%増大しました。その結果、世界経済に占める日本経済の割合も、8・3%から4・7%になりました。日本経済の脆弱(ぜいじゃく)化と円安の帰結です。世界各国の日本を見る目線は、「日いずる国」から「日しずむ国」に転落し、海外メディアは日本を取り上げなくなりました。(つづく)
「しんぶん赤旗」日刊紙 2022年7月27日付掲載
まず注目されるのは、この政策は日銀主導で株式の官製バブルを引き起こしたことです。日銀が株価指数に連動する上場投資信託(ETF)を36・9兆円も買い入れ、株式市場に大量の日銀マネーを供給し、株価をつり上げた。
ドル表示の日本のGDPは6・27兆ドルから4・91兆ドルへ21・6%も縮小。
日本経済は世界から取り残されています。
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