この人に聞きたい 竹下景子 第1回 東日本大震災後の私たち 人には生きる底力
NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」でヒロインの亡き祖母・雅代として、“語り”を務める竹下景子さん。
6月16日からは舞台「続・まるは食堂」にも出演します。半世紀にわたる俳優人生を聞きました。
板倉三枝記者
NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(NHK総合/月曜~土曜8時ほか)
〈「おかえりモネ」は宮城県を舞台に、東日本大震災から3年たった2014年から現代までを描きます。気仙沼市の離島で育ち、登米(とめ)市で青春を送る百音(ももね=清原果耶)は、森林組合で働く中、未来を予測できる気象予報の世界に出合います〉
百音は島を出たものの最初は自分が何をしたいのかわからない。でも「誰かの役に立ちたい」という思いはある。それを不器用に一生懸命模索する姿が、祖母の雅代には本当にいとおしいんですね。
たけした・けいこ=1953年、愛知県生まれ。73年、NHK銀河テレビ小説「波の塔」で本格デビュー。テレビ、映画、舞台などへの出演のほか、文化・社会活動でも幅広く活躍
舞台「続・まるは食堂~なにごとの おわしますかは 知らねども~」(作・演出/佃典彦)は、6月16~20日=東京芸術劇場、配信は6月23~29日
撮影:野間あきら記者
〈家族を優しく包み込むような語りかけが印象的です。台本の雅代のせりふを読む時、イメージしている人がいるといいます〉
14年前に、ある旅番組でお会いした“寿ん子(すんこ)さん”という94歳のおばあちゃんです。当時、気仙沼大島でお土産物屋さんを営んでいました。
島の生き字引のような人で、島の女たちが遠洋漁業に出た男性をどういうふうに待っているとか、無事帰ってきた時のもてなし料理とか、台所に一緒に立ちながら教えてもらいました。私にとっては“気仙沼の母”のような存在です。
震災後、安否が知れず、ものすごく心配したのですが、ご無事で再会した時は抱き合って泣きました。でも、お住まいも何もかも無くされ、今は復興住宅で1人暮らしです。
東北の皆さんは震災で大変な思いをされました。それでも忍耐強く、根を張って生きている。生きる底力みたいなものを感じます。
立場はすぐ逆転
〈竹下さんは長年にわたって、さまざまな社会貢献活動に参加。東日本大震災では東北大学のプロジエクト「みちのく震録伝」で、被災体験をもとにした詩の朗読に取り組んできました〉
支援する側とされる側は二分できない。それを深く感じたのは、震災から何日かして、長男のいるロンドンに行った時です。
放射能のこともあり成田空港は母国に帰る外国の人でごった返していました。驚いたことに、ロンドンに着いたらホテルの新聞に「メルトダウン」の見出しが立っていました。日本ではまだ何も知らされていない頃です。世界地図が載っていて、何日後にどこまで放射能が流れるか、という情報までありました。それくらい報道は日本と違っていました。
ショックだったのは同じ新聞に「日本の子どもたちに支援の手を」という広告が、日本のかわいい子どもの写真とともに載っていたことです。すばやい行動に、ありがたくて涙が出ました。いま私たちは支援される側なんだな、と客観的に知らされた瞬間でした。
それまで国際支援といえば、アフリカの赤ちゃんや東南アジアの貧しい子どもが対象で、私たちは与える側でした。でもそんな立場はすぐ逆転するのだと身に染みて感じました。
コロナ禍の今こそ文化が必要
地球は借りもの
〈森と海が舞台の「おかえりモネ」は、豊かな自然も見どころ。自然界の“循環”が描かれます〉
「水を介して空と海と山はすべてつながっている」というせりふがあります。それは、私が脚本家の倉本聰先生に声をかけていただいて、お手伝いしている富良野自然塾の活動とも重なります。
元ゴルフ場を森に戻そうという事業で私は、環境教育プログラムのインストラクターを担当しました。水が命にとっていかに不可欠か。どんなにすばらしい偶然が重なって今の地球があるのか。46億年の地球の歩みを460メートルの道を歩きながらお話しします。
そうすると、ヒトというものが、いかにどうしようもない生き物かをいわざるを得ないわけです。自然界の生き物たちは、ゴミは出しませんからね。鳥も動物も魚も虫も、ウンチは微生物が食べてくれるし、その微生物をまた食べる生き物がいて…。霊長類のヒトという種だけが、水や大気を汚し、自らを傷つけ、ほかの生命を脅かしてきました。
放射能も大きな問題です。核廃棄物という処分できない物をどうしてこれからもつくり続けようとするのか。アメリカ先住民の言葉に「地球は子孫から借りているもの」とあります。自然に対して、私たちはもっと謙虚にならなければと思います。
新型コロナウイルスのパンデミックも、大きくとらえれば、自然の営みの一つなのかもわかりませんが、その中で、社会的に弱い立場の人が一番苦難を強いられているのがつらいですね。できることはきっとあるはず。思考をめぐらすときです。
〈コロナ禍では、文化芸術の分野も大きな打撃を受けました。俳優の次男・関ロアナンさんと共演する舞台「続・まるは食堂」は、ライブ公演と配信を併せてやります〉
昨年の緊急事態宣言の時、初日を迎えたばかりの公演が次の日から配信になりました。
元気づけられたのは「こういうときだからこそ演劇は力になる」というツイッターでした。食べるだけでは気持ちがやせ細ります。文化芸術が心に潤いをもたらすと信じています。(つづく)
「しんぶん赤旗」日曜版 2021年6月13日付掲載
東日本大震災・原発事故の直後、イギリスの新聞に「日本の子どもたちに支援の手を」という広告が、日本のかわいい子どもの写真とともに載っていたことです。
それまで国際支援といえば、アフリカの赤ちゃんや東南アジアの貧しい子どもが対象で、私たちは与える側でした。でも、そんな立場はすぐ逆転するのだと身に染みて感じました。
長年社会貢献活動をやってきた竹下さんだからこそ感ずること。
霊長類のヒトという種だけが、水や大気を汚し、自らを傷つけ、ほかの生命を脅かしてきました。
「地球は借り物」って思い。イルカの「まわるい地球はだれのもの」の歌詞にも出てきます。
「ひとは生まれた時から 自分の物なんで何もない
広い大地も豊かな海も みんな地球からかりている
ぼくの物なんて何もない 全部地球の恵みだから
大きな地球に抱かれて 今日もぼくは笑っている…♪♪」
コロナ禍のもと大事な事です。
NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」でヒロインの亡き祖母・雅代として、“語り”を務める竹下景子さん。
6月16日からは舞台「続・まるは食堂」にも出演します。半世紀にわたる俳優人生を聞きました。
板倉三枝記者
NHK連続テレビ小説「おかえりモネ」(NHK総合/月曜~土曜8時ほか)
〈「おかえりモネ」は宮城県を舞台に、東日本大震災から3年たった2014年から現代までを描きます。気仙沼市の離島で育ち、登米(とめ)市で青春を送る百音(ももね=清原果耶)は、森林組合で働く中、未来を予測できる気象予報の世界に出合います〉
百音は島を出たものの最初は自分が何をしたいのかわからない。でも「誰かの役に立ちたい」という思いはある。それを不器用に一生懸命模索する姿が、祖母の雅代には本当にいとおしいんですね。
たけした・けいこ=1953年、愛知県生まれ。73年、NHK銀河テレビ小説「波の塔」で本格デビュー。テレビ、映画、舞台などへの出演のほか、文化・社会活動でも幅広く活躍
舞台「続・まるは食堂~なにごとの おわしますかは 知らねども~」(作・演出/佃典彦)は、6月16~20日=東京芸術劇場、配信は6月23~29日
撮影:野間あきら記者
〈家族を優しく包み込むような語りかけが印象的です。台本の雅代のせりふを読む時、イメージしている人がいるといいます〉
14年前に、ある旅番組でお会いした“寿ん子(すんこ)さん”という94歳のおばあちゃんです。当時、気仙沼大島でお土産物屋さんを営んでいました。
島の生き字引のような人で、島の女たちが遠洋漁業に出た男性をどういうふうに待っているとか、無事帰ってきた時のもてなし料理とか、台所に一緒に立ちながら教えてもらいました。私にとっては“気仙沼の母”のような存在です。
震災後、安否が知れず、ものすごく心配したのですが、ご無事で再会した時は抱き合って泣きました。でも、お住まいも何もかも無くされ、今は復興住宅で1人暮らしです。
東北の皆さんは震災で大変な思いをされました。それでも忍耐強く、根を張って生きている。生きる底力みたいなものを感じます。
立場はすぐ逆転
〈竹下さんは長年にわたって、さまざまな社会貢献活動に参加。東日本大震災では東北大学のプロジエクト「みちのく震録伝」で、被災体験をもとにした詩の朗読に取り組んできました〉
支援する側とされる側は二分できない。それを深く感じたのは、震災から何日かして、長男のいるロンドンに行った時です。
放射能のこともあり成田空港は母国に帰る外国の人でごった返していました。驚いたことに、ロンドンに着いたらホテルの新聞に「メルトダウン」の見出しが立っていました。日本ではまだ何も知らされていない頃です。世界地図が載っていて、何日後にどこまで放射能が流れるか、という情報までありました。それくらい報道は日本と違っていました。
ショックだったのは同じ新聞に「日本の子どもたちに支援の手を」という広告が、日本のかわいい子どもの写真とともに載っていたことです。すばやい行動に、ありがたくて涙が出ました。いま私たちは支援される側なんだな、と客観的に知らされた瞬間でした。
それまで国際支援といえば、アフリカの赤ちゃんや東南アジアの貧しい子どもが対象で、私たちは与える側でした。でもそんな立場はすぐ逆転するのだと身に染みて感じました。
コロナ禍の今こそ文化が必要
地球は借りもの
〈森と海が舞台の「おかえりモネ」は、豊かな自然も見どころ。自然界の“循環”が描かれます〉
「水を介して空と海と山はすべてつながっている」というせりふがあります。それは、私が脚本家の倉本聰先生に声をかけていただいて、お手伝いしている富良野自然塾の活動とも重なります。
元ゴルフ場を森に戻そうという事業で私は、環境教育プログラムのインストラクターを担当しました。水が命にとっていかに不可欠か。どんなにすばらしい偶然が重なって今の地球があるのか。46億年の地球の歩みを460メートルの道を歩きながらお話しします。
そうすると、ヒトというものが、いかにどうしようもない生き物かをいわざるを得ないわけです。自然界の生き物たちは、ゴミは出しませんからね。鳥も動物も魚も虫も、ウンチは微生物が食べてくれるし、その微生物をまた食べる生き物がいて…。霊長類のヒトという種だけが、水や大気を汚し、自らを傷つけ、ほかの生命を脅かしてきました。
放射能も大きな問題です。核廃棄物という処分できない物をどうしてこれからもつくり続けようとするのか。アメリカ先住民の言葉に「地球は子孫から借りているもの」とあります。自然に対して、私たちはもっと謙虚にならなければと思います。
新型コロナウイルスのパンデミックも、大きくとらえれば、自然の営みの一つなのかもわかりませんが、その中で、社会的に弱い立場の人が一番苦難を強いられているのがつらいですね。できることはきっとあるはず。思考をめぐらすときです。
〈コロナ禍では、文化芸術の分野も大きな打撃を受けました。俳優の次男・関ロアナンさんと共演する舞台「続・まるは食堂」は、ライブ公演と配信を併せてやります〉
昨年の緊急事態宣言の時、初日を迎えたばかりの公演が次の日から配信になりました。
元気づけられたのは「こういうときだからこそ演劇は力になる」というツイッターでした。食べるだけでは気持ちがやせ細ります。文化芸術が心に潤いをもたらすと信じています。(つづく)
「しんぶん赤旗」日曜版 2021年6月13日付掲載
東日本大震災・原発事故の直後、イギリスの新聞に「日本の子どもたちに支援の手を」という広告が、日本のかわいい子どもの写真とともに載っていたことです。
それまで国際支援といえば、アフリカの赤ちゃんや東南アジアの貧しい子どもが対象で、私たちは与える側でした。でも、そんな立場はすぐ逆転するのだと身に染みて感じました。
長年社会貢献活動をやってきた竹下さんだからこそ感ずること。
霊長類のヒトという種だけが、水や大気を汚し、自らを傷つけ、ほかの生命を脅かしてきました。
「地球は借り物」って思い。イルカの「まわるい地球はだれのもの」の歌詞にも出てきます。
「ひとは生まれた時から 自分の物なんで何もない
広い大地も豊かな海も みんな地球からかりている
ぼくの物なんて何もない 全部地球の恵みだから
大きな地球に抱かれて 今日もぼくは笑っている…♪♪」
コロナ禍のもと大事な事です。
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